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イベントレポート

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2015年3月6日(金)19:00~20:30

藤川 さき(ふじかわ さき) / 画家

日々と同期されるアート
~「自分の中に文明をつくる」~

毎日の生活で生まれた些細な関心や興味は制作の糧となり、それを自身で反芻することによって新しい作品は生まれる。大人になると忘れてしまうような、河原で拾った石の美しさも、通学路の隅でうごめいていた虫の大行列も、子供の頃は行けなかった電車を乗り継いで辿り着ける大都会も、生きていて感じることができる世の中の魅力をもっと大切にしようと思った時、自分の中で1つの小さな文明が出来上がる瞬間があった。セミナーでは、藤川氏の作品が生まれた背景や、登場するモチーフをご紹介いただきながら、現在考案中の砂絵パフォーマンスのミニ実演をしていただいた。
また、セミナー開催日当日まで展覧会を開催。藤川氏のこだわりや美意識を強く感じる作品を来場者にお楽しみいただいた。

朝から夜までアトリエで作品と向き合う日々

2年前に多摩美術大学を卒業し、アーティストとして活動を始めた藤川さき氏。このセミナーではまず「若手のアーティストというものがどういう生活をしているのか」、一般の人間には見えにくいその実像について本人の口から語っていただいた。

藤川氏の制作する作品は油絵(ペインティング)やアクリルガッシュ(水性アクリル絵の具の一種)で着色したドローイング(デッサン)など。大学を出たばかりの若いアーティストにとって最大の問題は「卒業すると制作する場がなくなること」。藤川氏の場合は地元の八王子にある教育研修施設「八王子セミナーハウス」に専用のアトリエを借りることでこれをクリアした。周囲は多摩丘陵の自然。「人があんまりいなくて猫や自然と触れている方が多い」といった環境で日々制作に勤しんでいる。10畳ほどのアトリエに並ぶのは水彩画用の作業テーブルや油絵のキャンバス。毎日、朝11時くらいに来て、夜の12時くらいまで、キャンバスに向き合っている。自分の展示が近づいたときは、部屋全体に新作用に白く下塗りを施したキャンバスがいくつも並ぶ。「絵を描いている人から見るとおそろしい光景」かもしれないが、これが藤川氏の制作スタイル。一枚一枚集中して描いていくのではなく、いくつかの作品を同時進行で描く。そうやって次の作品に取りかかって、前の作品を見返すと「客観的に見ることができる」。

「作品というのは、どこかで人の目が入らないと完成しない。その〈目〉を加えるには同時進行で進めるのがいいんです」

作品には「自分の中で起きたこと」が反映されている

描いた作品はイベントやギャラリーで展示販売する。2014年は台湾のホテルのフロアを貸し切って行なわれた『ヤングアート台北』、芝の増上寺で開かれた『タグボート・アートフェス』、青山のスパイラルホールが舞台の『スパイラル・インディペンデント・クリエーターズ・フェスティバル』などのアートフェスティバルや、銀座の『MASATAKA CONTEMPORARY』でのグループ展『PLANET JAM』などに参加した。照明などの展示環境が充実しているのはギャラリー。一方のイベントは「普段ギャラリーには足を運ばない人たちと会ったり話したりできる」。

「だからイベントには積極的に出すようにしていますし、誰か知り合いなどの展示があれば見に行って人と接することにしています」

この他、最近はイラストレーターとしても活動。雑誌『Hanako』では連載『歌舞伎事始。』の挿画を担当、テレビ番組『探訪!京都巡礼団2』では番組中に使用した紙芝居を制作している。こうしたイラストレーションは普段描いている絵と「全然違う」。

「展示してあるものは完成した作品を出してみてお客さまの反応を見る。これに対してイラストは、まず編集の方にラフを送ります。そして、いろんな方たちが見て直しが入って、それでOKが出たら、はい、始めてください、という感じ。私は下描きなどはしないで、勢いで始めるタイプだったので、最初はこれがすごく大変だなと思っていました」

しかし、こうしたやりとりを経ると、「あらためて設定を確認することができる」と気が付いた。それが今では油絵などの作品制作にも活かされるようになったという。

今回のセミナーが開催されたのは、d-laboでの展覧会『日々と同期されるアート』の最終日。ここではスタッフの相馬幸知氏と対談形式で展覧会の趣旨やいくつかの展示作品についての説明をお願いした。「日々と同期される」というタイトルはアーティストとしての藤川氏の姿勢を言葉にしたもの。

「私は自分で悩んだり考えたりしていることを種として作品をつくっているので、どうしても自分の中で起きたことが作品に色濃く出るんですね。今が生々しく出ている、それを表わすのに〈日々と同期〉という言葉がちょうどいいと感じられたんです」

「迷いながらも先に進む」、その希望を描く

この展示では油絵はほとんどが新作。いちばん大きな『欲望と正義のなれの果て』は「自分の中の葛藤を描いた」作品。若手アーティストとしてさまざまな人から「こうしたらいい」とアドバイスを受けていると、ときとしてそれが自分に向けられているようでいて実は「その人自身の欲望や正義なのではないか」と感じることがある。作品の主体は大きく描かれた2人の女の子や中央に配置されたアンモナイトだが、キャンバスにはそうした「欲望」や「願望」がモチーフとなったものたちが装飾品や小物として散りばめられている。底部にあるのは地層。そこには「どんな願望にも平等に時間は降り注ぎ、やがては朽ちてゆく」といったメッセージが込められている。太古の生物であるアンモナイトはその象徴だ。

同じく油絵の『種子から伸びる』は「種子からニョロニョロと伸びる蔦のように広がっていく自分の考え」をポジティブに描いたもの。『不安の種もばら撒いて見えない先に連れてって』は「種子から伸びる」から「もう少し成長した段階」。こうした絵は「いろいろと迷いながら見つけた打開策や、先に進む希望」といったものを描きたいという気持ちから生まれているという。

かたやドローイングは「出来上がるまでの時間が短い」のが特徴。スピード感や筆のストロークを重視し、「自分の感情が表に出る瞬間を大事にしている」。こうして生まれた作品が種となって油絵になることもある。さらにこの展覧会ではアクリル板と油絵の2層構造からなる「手の平サイズ」の小品も展示。2層構造とした狙いは、見る人に「感情のフィルター」を通して見てほしいから。同じ景色を見てもそのときの気持ち次第で風景は変わる。そういった感覚を作品にしたものだ。

後半は筆を用いての「サンドアート(砂絵)」の実演。『欲望と正義のなれの果て』の「別バージョン」を参加者のリクエストとともに制作。太陽と月から始まった砂絵は、雲、雨、日射し、植物、生き物、人、と画面が変わっていく。やがてはそれらすべてが朽ちて、また新しい何かが生まれる、という一連のストーリーがモニタ―を介して表現された。

「これからも右往左往しながら制作をつづけていく」という藤川氏。「夢」は『藤川さきの一生展』を開催することだという。

「いつの日か、迷った末の集大成として、自分が描いたものやテーマ、かかわってきた人たち、そういうものを一挙にまとめて大きな展覧会を開ければいいなと思っています」

講師紹介

藤川 さき(ふじかわ さき)
藤川 さき(ふじかわ さき)
画家
1990年東京都生まれ。2013年、多摩美術大学絵画学科油画専攻卒業。 身の回りの環境から生まれた興味や疑問をもとに、作品制作を行なう。 国内の展覧会や海外アートフェア等で作品を発表する他、イラストレーターとしても活動中。 主な作品展やメディア掲載に『PLANET JAM』(マサタカコンテンポラリー、2014年東京)、『ヤングアート台北』(2014年台北)、『コレクター山本冬彦が選ぶ若手作家展 』(ACC、2013年東京)、イラストレーション『歌舞伎事始。』(雑誌Hanako 1068~72号 挿絵)などがある。