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イベントレポート

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2015年3月14日(土) 10:30~13:00/14:00~16:30

金澤 木綿(かなざわ ゆう) / お茶の間創造プロデューサー

d-labo 農園茶会
~静岡茶 山と里~

茶畑の新芽が商品になるまでには、作り手の想いや長い歴史の中で育まれた価値観が移り込み、それがお茶の味としてにじみ出てくる。「季候・風土・茶師の技・飲み手の技など」それぞれはとても繊細で柔らかな違い。日本茶の小さな違いと共に「日本人のおもてなしの気持ち」や「ちょっとした季節感」などが感じられたら、私たちの日常は今よりも更に奥深さや穏やかさがひろがるのではないだろうか? 農家のお茶を実際に五感で味わって、お茶の世界へ一歩踏み出すキッカケとなった。
登壇される茶農家
山水園(本山茶)茶師:内野 清己
豊好園(清水茶)茶師:片平 次郎
ひらの園(掛川茶)茶師:平野 昇吾

茶どころ静岡ならではのバラエティに富んだお茶作り

昨年11月に続いて2回目となるd-labo農園茶会。今回は「山と里」をキーワードに、静岡の地勢が育んだバリエーション豊かなお茶を味わう会となった。進行役は農園茶の紹介に力を注いでいる金澤木綿氏。日本茶に魅せられて静岡に移住した同氏によると、「静岡の特殊性は県内ほぼどこに行ってもお茶を作っている」ことだという。
「静岡は国内茶葉生産量の約4割を占める日本一の生産地です。次が鹿児島なのですが、例えば鹿児島の場合は、県内の一定地域だけを茶畑用に開墾し、巨大な農園で大量生産を行なっています。ですから静岡のように“車で走っていると、必ずと言っていいほど茶畑が目に入る”ようなことはないのです」
また、静岡は「険しい山あいから東海道沿いの平野部まで、広範囲にわたって多様な産地があり、各地域によって個性の異なるお茶が作られている」のも特徴。今回は、その地域特性がわかるお茶を選んでいただいた。
お招きした茶師は、前回と同様に「栽培、加工、販売までを一貫して手がける」、いわば「茶作りの6次産業化を実践している」茶農家の方々。参加者は4~6名のグループに分かれ、それぞれ趣の異なる3つのテーブルを移動。前回よりも参加人数を絞り、各テーブルでお茶を味わう時間も拡大。よりアットホームな雰囲気の中でのお茶会となった。
「クラシックな“山のお茶”は透明感が持ち味」という金澤氏が、「その象徴ともいえる存在」と太鼓判を押すのは、静岡市・栃沢にある『山水園』のお茶。園主の内野清己氏に淹れていただいたのは、「ふじのくに山のお茶100選」にも選ばれた『霧の露』。かまぼこ型に切りそろえた“株仕立て”ではなく、枝が自由に伸びた“自然仕立て”の木から丁寧に手摘みした逸品だ。「赤ん坊をお風呂に入れる時のような」湯加減で淹れたお茶を、「ブランデーをなめるように」味わうと、まるで出汁のようなコクが口の中に広がる。
「お茶の味は“甘・渋・苦”。まず一煎目で甘みを、その後煎を重ねるに連れて、渋み、苦みを感じてもらえれば、茶葉の力を上手く引き出せたことになります」
実際に飲んでみると煎毎に驚くほど味が変化し、ひとつのお茶がこれほど違った表情を見せることに感嘆の声を漏らす参加者もいた。

茶祖の縁から品種茶の飲み比べまで~多様なるお茶の世界~

元々、静岡に茶作りが伝来したのは鎌倉時代。京都・東福寺の開祖でもある聖一国師(しょういちこくし)が、宋の国から持ち帰った種を植えたことが始まりとされる。その聖一国師の生家が残るのが、『山水園』のある栃沢の地だ。
「ご縁をいただいて、11年前から東福寺の境内に茶の木を植えているんですが、なかなか全ての木がすくすくとは育ってくれません。土が合わず根付かないんです。掘り返した土に堆肥を混ぜたりしても上手くいかない。結局は、栃沢の土を持っていくしかないと思って、先日も京都に行ってきました。2トン車に土を積んで片道5時間。現地での作業時間もあるので、家を出るのは朝の3時半です」
と笑顔で語る内野氏。その眼差しの奥には「茶作りのプロとして、何としても茶の木を立派に育て上げる」という自負と、「静岡の茶祖の故郷で、伝統を踏まえつつ新たな挑戦を続ける」ための確かな志が秘められていた。
静岡市・布沢で、同じ“山のお茶”を作る『豊好園』の片平次郎氏に振る舞っていただいたのは、普段あまり目にしない品種茶。
「実は、お茶には150以上の品種があるんです。ただ、最も一般的な『やぶきた』が市場の9割を独占してしまっている。これは『やぶきた』が優秀な品種であることと、問屋さんがブレンドの際に、個性ある品種茶が『やぶきた』の邪魔をすると考えるからなんです」
しかし、「1種類のみの栽培だと、当然ながら収穫も一斉に行う必要が生じる」。その点、早生から晩生までの多品種を育てれば「常にベストな芽を収穫できる」わけだ。
「それが可能なのも、問屋さんの都合に左右されない自販の強み。うちでは18種のお茶を栽培していますが、これだけの数の品種を飲み比べできるのは、全国でも『豊好園』だけだと思います」
そう話す片平氏が今日のために用意してくれたのは3品種。「やぶきた」に近いスタンダードな味の「おくひかり」、ほのかな渋さが爽やかな後味に変わる「やまかい」、飲んだ後に花の香りが鼻に抜ける「つゆひかり」だ。感覚を研ぎ澄ませて飲み比べてみると、三者三様にキャラクターの違いが感じられ、品種茶のおもしろみに触れることができた。
片平氏が目指すのは「茶の木が本来持っている味を引き出す茶作り。アミノ酸たっぷりの肥料に頼った旨味ではなく、木そのもののポテンシャルを生かすのが理想ですね」

ペットボトルではなく急須でお茶を淹れて飲むことの意味

“山のお茶”がクリアな普通煎茶なのに対し、“里のお茶”は深蒸しで濃い緑色が特徴だ。金澤氏によれば、「平野部は山あいに比べて日当たりが良く、茶葉が丈夫で肉厚なため深く蒸す必要がある」ことから開発された製法で、静岡では掛川市や牧之原市が産地として有名だ。今回は掛川市で明治28年から茶農家を営む『ひらの園』の5代目・平野昇吾氏が淹れた深蒸し茶を飲ませていただいた。
「普通煎茶の蒸し時間は約30~40秒。深蒸し茶は、その2~3倍の時間をかけて蒸し上げることで、やわらかな味になります」
まず1杯目は、普段の食事にも合う「一番摘み』。気取らずにゴクゴク飲めて、参加者からは「馴染みやすくて落ち着く」という感想も。続いて、おもてなし用の「松五郎極」。甘さが際立ち、少量でも充実感がある。ちなみに松五郎は『ひらの園』2代目当主の名。他に初代の名を冠した普通煎茶「五作」もあり、平野氏自身も「いつかは自分の名前がついたお茶ができればうれしい」そうだ。
そんな平野氏は「4年間の会社員生活の後、実家の茶農家に戻った」という経歴の持ち主。
「自製・自販の農家は、勤め人と違って1年中休みがありません。でも今は、日々の仕事がおもしろく楽しいので休む必要がないんです」
と目を輝かせる平野氏は、こうも語った。
「お茶を淹れるというのは、急須を中心にした空間を作るということ。これはペットボトルのお茶には決して担えない役割です」
その言葉のとおり、急須を囲んであたたかな空間が生まれた今回の農園茶会。金澤氏の目指す「お茶の潜在力を伝える場」としても、十分な成果が感じられる会となった。

講師紹介

金澤 木綿(かなざわ ゆう)
金澤 木綿(かなざわ ゆう)
お茶の間創造プロデューサー
25歳で日本茶に興味を持ち、東京から静岡へ移住。問屋・小売を学び2年間農業研修をしながら、業界全体の現場経験を積む。紅茶・中国茶、世界のお茶を学び、ティーセミナーを開催することで世界から見た日本茶という視点を身につける。日本全国各地の農園とパートナーを組み、“農園茶の認知と、お茶する時間の普及活動”の場として、お茶うけ屋を開始。お茶の間トレーナーとして日本の茶文化を活用したコミュニケーションセミナーや現代版茶道コーチングなどを行なう。
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