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2015年3月19日(木)19:00~21:00

宮澤 崇史(みやざわ たかし) / bravo代表、元プロレーサー(自転車ロード競技)、湘南ベルマーレサイクルロードチーム監督兼任

『ヨーロッパの自転車選手のレース生活』

ヨーロッパではサッカーに次ぐ人気を誇るロードレース。日本でも、ここ数年で知名度が飛躍的に上がっている。スポーツ専門チャンネルでは海外のレースをみることもできるが、プロロードレーサーの生活を想像することは難しい。私生活ではトレーニングはもちろん、家族や友人との時間がある。その私生活の中で、チームとトレーニングスケジュールを相談し、狙ったレースに体調を合わせていく。プロチームとしては一番下のカテゴリーであるコンチネンタルチームの厳しさや、世界のトッププロチームの動きについての経験談を交えながら、ヨーロッパのプロロードレーサーとして活躍されてきた宮澤崇史氏にお話しいただいた。

自転車に乗る前に、まずは「家さがし」を

2014年に現役を引退するまで、イタリアを拠点にヨーロッパで「自転車選手のレース生活」を送っていた宮澤崇史氏。ロードレースのトップ選手たちが普段どのような暮らしをしているか。「トレーニングの情報ならネット上にいくらでも転がっている」ことを踏まえ、d-laboセミナーでは「選手の日常生活にフォーカスした話」をテーマとしていただいた。

当り前のことだが、ロードバイクの本場である「ヨーロッパでのレース生活」のスタートは「チームとの契約」から始まる。

「前年にチームと契約を交わしたら、まず住む家をさがします。移動を考えて空港へのアクセスがよく、家のまわりに練習に適した環境があることも重要です」

ヨーロッパでレースに参戦するということは、海外に移住するということ。大手企業の駐在員なら会社がすべてお膳立てしてくれるかもしれないが、自転車選手の場合はかなりの部分を自分で考えなければならない。

「住む家が決まったら、キッチン用品や布団、テレビなどの家具も用意しなければならないし、インターネットの契約や携帯電話、車も必要となります」

監督やチームメイトとの連絡は「今はすべてメール」。選手に義務づけられているADAMS(ドーピング防止管理システム)やレースのスケジュール、トレーニングのメニューなどもインターネットがなければ確認できない。トレーニング場所もインターネットのマップで下調べをする。そして生活圏の広いヨーロッパでは「車は必需品」。練習はトレーナーと待ち合わせをして行なうことが多いので、携帯電話も手放せない。こうした生活は「日本にいるのと差がない」。逆に言えば、給与振込用の銀行口座やクレジットカードなど、日本での生活に必要なものは現地でも持っていなければ、生活に支障をきたしてしまうということだ。プロロードレーサーというと苛酷な練習ばかりしているといったイメージだが、実際のところはサドルに跨がる以前に、このような現地で暮らすための諸々を整えておかないと、落ち着いてレース生活を送ることはできないそうだ。

「プロ選手としてヨーロッパに根付く」ための条件

「それと、場所選びで大事なのが〈食〉です。僕がイタリアを選んだのは、気質が合って言葉も喋りやすいからですが、食べ物が安くて美味しいというのも大きな理由でした」

最初に住んだのはミラノの近くのベルガモ。それから最後に住んだトスカーナまで、いくつかの町や村に暮らした。町のメルカート(市場)でもスーパーマーケットでも美味しい肉や魚が手に入る。ヨーロッパは町から一歩離れれば、たいていは田舎。生活の土台をつくったら、見るからに「走るのによさそう」な環境の中でひたすらトレーニングを積み、レースという「戦いの場」に臨む。

「よくプロ選手のツイッターなんかを読むと、楽しそうに生活しているように見えますが、トレーナーからは守らねばならない細かい練習メニューが届くし、体脂肪のチェックなども月に一度はある。選手というのはそのためにすごくセルフケアに気を遣っています。だからこそ、毎日の生活の中でリラックスできる時間を持たなければいけないんです」

町を散歩する。チームメイトとワイングラス片手にパーティーを開く。レースが終われば「ご褒美のピッツァ」を食べに行く。ときには旅をし、人と出会う。そうしたもののすべてが「心のコンディション」をよくすることになり、レースにつながっていくという。

「いちばん大切なのは地域の人とのふれあい。誰か一人でも自分を応援してくれる人がいるというだけで、モチベーションが上がります」

よい結果を出すには、言うまでもなく語学力も必要だ。同じチームでもほとんどのチームメイトは「ばらばらに住んでいる」。それがいざ本番では協力しあって「レースをつくっていく」。そのためには「独りよがりではいけないし、チームメイトを笑わせるくらいの語学力」はほしい。

「人とのつながりの中でリスペクトを獲得していくには、言葉やボキャブラリーが必要です」

「どんなトレーニングをするか」、よりも先に「いろんな人と友達になって自分の生活を豊かにすること」。これが宮澤氏が自らの体験で得た「プロ選手としてヨーロッパに根付く」ために「本当に必要なこと」だ。

セミナー後半は講師を囲んでの交流会

ロードバイク好きの間では憧れの存在である宮澤氏。セミナーの後半は質疑応答の時間。そして宮澤氏を囲んでワインを飲みながらの交流会となった。質問内容はざまざま。「23歳のときに生体肝移植で母親に肝臓の一部を提供してから復帰するまでの話」や「自転車チームの予算」、「今年挑戦するというトライアスロンについて」、「ジュニア時代、世界で戦えると思った瞬間は?」など、興味深い質問がつづいた。前例のない生体肝移植後の「復帰」は「単純にまた自転車に乗ってレースがしたい」という気持ちで実現。自転車のチームは「世界のトップチームでも最高で年間18億円、安いと7億円くらいの予算で回している。だからホテルの部屋も二人部屋になる」と、スポンサーに頼らざるを得ない自転車チームの苦しい懐事情を披露。トライアスロンは「ぶっつけ本番になるかもしれないけれど、完走を目標に元気でゴールしたい」。ジュニア時代のヨーロッパ遠征の話では「残り6キロくらいのところまで先頭集団で走れたことで、もしかしたら自分は世界で戦えるかもしれないと思えた」という飛躍のきっかけとなるエピソードを開陳してくれた。

昨年末から監督に就任した「レモネード・ベルマーレ」では「若い選手の育成が第一」という。

「単に日本一を目指すだけではなく、強くなりたいという子を育てたいですね。強くなるには、チームが勝つには自分が何をすべきかを理解することが必要。チームの子たちにはまずそうした選手になってほしいです」

現役時代は「世界チャンピオンになりたいとしか考えていなかった」という宮澤氏。引退した現在は「いろいろな人と交流して自転車界を発展させていくのが夢」だという。

「単純にウィキペディアに書いてある宮澤崇史ではない、みなさんと一緒に自転車を通して楽しい世界というものをつくりあげていく、そういう自分でいたいと思います」

講師紹介

宮澤 崇史(みやざわ たかし)
宮澤 崇史(みやざわ たかし)
bravo代表、元プロレーサー(自転車ロード競技)、湘南ベルマーレサイクルロードチーム監督兼任
1978年長野県生まれ。高校卒業後イタリアに渡り、自転車ロードレーサーとして活動を開始。病気の母に肝臓を移植し一旦は選手生命を絶たれるも その後オリンピック出場、日本チャンピオン、アジアチャンピオン等実績を重ね、34歳でカテゴリの最も高いプロチームに在籍。プロチーム在籍中にリーダージャージ(個人総合時間賞)・ポイントジャージ(スプリントポイント賞)に日本人選手として唯一袖を通した。18年間の海外レース活動を経て、2014年に引退。

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