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イベントレポート

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2015年4月14日(火) 19:00~21:00

近藤 大博(こんどう もとひろ) / 元『中央公論』編集長

あなたも名文家になれるII
―雑誌編集者の裏ワザ―

日本語力・文章力向上には近道はないが、王道はある。それを習得すれば、誰でも名文家になれる。今回は、数々の名作を世に送り出してきた、雑誌の名門『中央公論』の往年の編集長が、楽しいワークショップ(実践学習)をもとに、文章力向上のコツを伝授してくれる、2回シリーズのセミナーを開催。
第2回は「雑誌編集者の裏ワザ」。出版社で実際に行なっている新人教育・文章指導を体験した。

もっとも大切なのは「誰に読んでもらうのかを考えて書く」こと

前回は、主に小説作品や巨匠と呼ばれる作家たちの文章を題材として「文章作法の基礎の基礎」を学んだ本セミナー。2回目となる今回は焦点を「論文」に当てて文章の書き方を追求してみた。近藤大博氏は、中央公論社退社後も、依頼されて出版社で新人教育を担当してきたとのこと。まずは「論文とは何か」。ここでは昭和期に評論家として活躍した清水幾太郎氏の言葉を用いて説明していただいた。

「清水さんは論文を知的散文とおっしゃっていました。内容、形式が知的であるような文章を論文と言うのだと。散文の散は散歩の散。平仄(ひょうそく)、韻、字数、音節数などの制限がない。言ってみれば、普通の文章ということですね」

普通の文章でもっとも大切なのは「誰に読んでもらうのかを考えて書くこと」だ。次に参考にしたのは作家である重松清氏が雑誌『編集会議』誌上で語った「ライター文章道五箇条」。重松氏は、文章は人に読んでもらう以上は「オモテナシ」であり、「自分を表現」するよりは「何かを伝えたい」という意識を強く持った方がよいと言っている。また、仲間以外の人にも通じる言葉で話すことが大切だとも訴えている。

「人間というのはついつい仲間だけに通じるテクニカル・ターム(業界用語)で文章を書いたり、会話をしたりする傾向がある。そういうのはやめましょうということです」

論文を書く際に「最低条件」として入れておかねばならないのは、よく言われる「だれが=Who」「なにを=What」「いつ=When」などからなる「5W1H」。ただし、「新聞記事の真似はやめた方がいい」。スペースに限りのある新聞記事では、「5W1H」を文頭に置く。文章はこんなふうに最初から謎解きになっていたのではおもしろくない。これが総合雑誌になると「おもしろおかしくするための工夫がされている」。そこで求められるのは、「論争性」や「記録性」、「資料性」、「演劇性」、「未来性」など。これを世に出して意味があるのか。商品としてドラマや夢があるのか。そういった点が吟味されたうえで、雑誌論文は発表されている。

覚えておきたい論文作成の心得<

次は近藤氏自らが作成した9項目からなる「論文作成心得 基礎の基礎」。ひとつめの「『が』は親の仇でござる」は、主に「接続助詞」の「が」を指す。例えば、「春になりましたが、元気です」というと「雰囲気は伝わるけれど論理的ではない」。こういう「が」を徹底的に排除すると文章は「意想外に論理的になる」という。そして「文章は滅私奉公」。文章は口頭説明をせずに、意志・意図を伝えるもの。よって、あらゆる手段は読み手のためにある。

気を付けたいのは、「独自性はスターになってから」。

「出版社には作家志望で入ってくる人もいます。そういう人は、俺はこういうふうに見てもらいたいと色気みたいなものを出してしまう。すると難解な文章になる。スターでない人間がスターきどりで書いても誰も読んではくれません。最初は誤読されないようにわかりやすく書くことです」

何かを引用するときは「虎の威を借りろ」。信用されたければ、なるべく権威あるものを引用するといい。文章で大切なタイトルについては、「良いタイトルがつくのは良い文章」であり、「良い文章には良いタイトルがつく」と説いている。論旨明解な文章というのはタイトルをつけるのも容易。魅力的な文章には総じて魅力的なタイトルがついているものだ。
逆に言うと、その「タイトル」は「決めてから取材せよ」。これは「タイトルを決められるくらい事前準備をしていると取材が容易となる」という意味。ただ、最初に決めたものにこだわりすぎると新聞の偏向報道のようなものになりかねないので注意したい。

もうひとつ、裏技は「目次は丸写しから」。

「別に剽窃(ひょうせつ)とかをコピペしろと言っているんじゃありません。目次作成に行き詰まったら、似たような研究テーマの論文に自分のものを当てはめてみるんです。そうすると自らの論文の長所や短所、あるいは不足が判明します」

資料は「3冊あれば世界がわかる」。同じテーマであるなら、入門書と中級書と専門書の3種類を読めば研究状況がだいたい把握できる。もし論争になっているテーマなら「反対」と「賛成」、それにその論争自体を整理する書物を読むと理解が深まる。

論文は「推理・犯罪小説」、「優れた論文」は「優れた手記」

他にも文章についてはさまざまな人がさまざまな場で、「短文から始める」、「誰かの真似をしよう」、「主語述語を明確に」、「常に辞書を引く」、「あるがままに書くことはやめる」、「設計図を書く」、「体言止めに注意」といったポイントを提言している。

「たとえば起承転結。これは漢詩からきた考え方。ひとつの詩の思いを提起してある情景を描き、この状況から一転違う部分を書いて結ぶ。論文だったら、問題提起したら、違うことをパッとやってひとつの結論を出す、と思えばいいでしょう」

意識したいのは「現状から現状へ」。環境汚染問題の論文なら「汚染の現状」を問題提起したうえで発生源を辿り、解消法を検討し、解決策の具体的提言=現状へともってゆく。自分は何を問題提起したいのか、船でいえば竜骨となるその筋道を考える。そういう意味で論文は「推理小説」であり「犯罪小説」でもある。おもしろいのは知的で論理的な文章である論文であっても、ベースに切実な体験や思いがあれば、それは「優れた手記」となる点。実際、「優れた論文は優れた手記である」ことが多いともいう。「理論的考察」や「実証」も不可欠。近藤氏が「おすすめしたい」のは、哲学者の山内志朗氏が著書の中で言っている「必ず要約できるように頭を整理しておこう」ということ。

「要約できないなら着手すべきではないと思います」

講義の合間はテキストを使用してのワークショップ。今回は四コマ漫画の要約や文章のタイトル付けに挑戦してみた。

「編集者は作家という天才に仕えるもの。私自身はけっして名文家ではありません」と話す近藤氏。2回に渡るセミナーは、「もう一度、総合雑誌の編集長になりたいですね」という編集者らしい「夢」を聞いて終了した。

講師紹介

近藤 大博(こんどう もとひろ)
近藤 大博(こんどう もとひろ)
元『中央公論』編集長
1945年生まれ。東京大学文学部卒業。1968年中央公論入社、1985年『中央公論』編集長、1990年中央公論退社。米国ミシガン大学客員教授、米紙「アトランタ・ジャーナル」客員論説員、『外交フォーラム』編集長、日本大学大学院総合社会情報研究科教授などを歴任。現在、日本大学大学院・早稲田大学政経学術院非常勤講師、日本国際情報学会会長、松下政経塾評議員。