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イベントレポート

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2015年4月18日(土) 14:00~15:30

古田 琢也(ふるた たくや) / アートディレクター・田舎プロデューサー

大好きな仲間と、大好きなマチの未来をつくろう

「地方創生」、「地域活性化」なんて言葉が紙面を飾る中、大切な故郷や思い出の場所を守るために行動をしている人ってどのくらいいるのだろう...。「東京」と 「鳥取」の2拠点で活動しながら、大好きな仲間と大好きな町の未来を自分達の手でつくるべく、ゼロから仲間と共に実践にうつしている人がいる。楽しい事はつくればいい!!思いついたらやってみよう!!特別じゃない古田氏に仲間や、地域を巻き込み、始めたリアルな地方創生を語っていただいた。

東京での挫折と故郷・鳥取への想い

「日本一都会の東京と、日本一田舎の鳥取を拠点に活動している」古田氏。東京ではフリーランスのアートディレクター、グラフィックデザイナーとしてブランディングや販売戦略を手がけ、鳥取では「トリクミ(現在は株式会社トリクミ)」という団体を立ち上げて地域活性化プロジェクトなどを行なっている。そのユニークな活動がメディアからも注目を集めている、話題の人だ。

なぜ、東京と鳥取を行き来しているのか。そこには夢と挫折の物語があった。

鳥取出身の古田氏は、高校卒業後、デザインの仕事で一旗揚げるべく上京。デザイナーとして就職するも、自身のスキル不足や満足できない事を環境のせいにし「このままじゃダメだ、このままじゃ有名になれない、もっと上を目指して働きたい」と、あてもないままに会社を辞めてしまう。その後、師匠と呼べる人と出会い、花開く日を夢見て日々働くが、高いレベルの仕事を必死でこなすうちに「プライドをバッキバキに折られて」、何のために、誰のためにデザインしているのだろうと悶々とするように。その頃、機会があって、久々に鳥取に帰省することになった。

「高校時代、野球をして自転車で川に行って遊んで…という最高に楽しい毎日を共有したある友人と5~6年ぶりに再会したんですが、『お前は東京にいるからいいよな。俺たちなんて、どうせ鳥取だし…鳥取なんてつまらないし…』と、言われてしまい、そんな事を言われると思っていなかった自分は、それがすごく辛くて、切なかった。僕自身も悶々としていたときでしたが、友人の言葉を聞いて気づいたんです。自分は『漠然と東京で有名になりたい』と思っていたけれど、本当は、ただ鳥取の仲間たちに褒められたい、すごいじゃんって言ってほしかっただけだと」

自分だけが成功したって、仲間が喜んでくれなければ意味がない。自分の活動を通して仲間を鳥取を盛り上げたい。そして仲間と一緒に何かをやりたい。この町に楽しいことがないなら、昔みたいに、みんなでつくればいいじゃないか――。こうして、地域の活性化を目指す団体「トリクミ」が誕生したのである。

地元の日本酒を紹介するイベントや、地元食材を使ったお土産開発は、地元の新聞やテレビで取りあげられ、大いに注目を集めた。順風満帆な滑り出し、と思われたが、その後、県から依頼された老舗温泉街のPR事業で、イベントを企画したにもかかわらず「参加者0」という大失敗をしてしまう。

「最初が上手くいったこともあって、いい気になっていたんですが、ここでやっと、『そもそも地域活性化ってなんだろう』と。イベントで集客して、ちやほやされて、自分たちだけで地域を盛りあげていますって喜んでいて、そんなことが活性化なのか。田舎をミニ東京にしても意味がなく、それを地域の人たちは本当に求めているのか。何をもって地域を盛り上げているっていえるのだろうか?もっと地域に根付いて、地域の人を巻き込んで、一緒にやることが大事なんじゃないか、ということを考えるようになったんです」

ここから、本当の「トリクミ」が始まったのである。

経済が回る仕組みを、自分たちの目線でつくる

「トリクミ」が拠点とする鳥取県八頭町隼地域は、全国で人口が最も少ない鳥取県の東南部に位置する小さな町で、人口750人程、コンビニ0店舗、電車は1時間に1本。そんな場所で八頭町の農業団体から、「空き家になっているプレハブ小屋を使って何かできないか」という相談があった。

「農業を若い世代に伝えていく場所にしたい、ということで、県や町からの補助金も出ることになったんです。『これ、失敗したらもう鳥取に帰れないな』という思いでしたね(笑)。この場所で目指したのは、地域に密着したコミュニティスペース&地域の台所のような飲食スペース。
生産して食材を提供する人がいて、それを消費する人がちゃんといるという小さくてもいいから地域で経済の輪が回っていくような仕組みをつくっていきたいと考えていました。そんな時メンバーのうち2人が、『本格的にその場所で飲食店をやりたい。地域を盛り上げたいから仕事を辞めて八頭に帰ってくる』と言い出したんです。正直、絶対無理だ!と思いました。人生、棒に振ってしまうんじゃないかと。もちろん、メンバーの親も大反対。でもそのおかげで余計に腹をくくりました!絶対うまくいかせてやると。」

こうして、カフェ「HOME8823」(ホームハヤブサ)がオープンすることに。内装などはメンバーや仲間、地域の方々とみんなで行なった。話を聞きつけた同級生たちも遠くから参加してくれて、まるで同窓会のようなアットホームな雰囲気のなかで、お店は少しずつ作りあげられていった。

「地産地消をテーマにした飲食店のほか、野菜の直売コーナーも設けました。実際にオープンしてみると、地域の人たちがたくさん顔を出してくれて、コミュニティスペースとしても機能するようになりました。スペースを貸し切って、着付け教室や誕生日会をすることもあります」

田舎で、小さい規模でもいいから、経済の輪がもう一度回る仕組みがつくれないか?そしてその小さな輪を沢山つくり大きな輪にしていけないか?中央や行政からのトップダウンではなく、この町に関わる若者や住んでいる方々が自分たちの目線でつくることに意味がある。「HOME8823」の成功は、その後の“古田流まちづくり”を考えるうえでの重要なモデルケースとなった。

“古田流まちづくり”で笑顔あふれる未来を描く

“古田流まちづくり”には、大きく5つのポイントがある。

① 町の宝探し
「町に眠っている宝=町の魅力を、フラットな目線で見つけて、定義する。僕は『田舎の暮らし』=『いなカルチャー』、『田舎の遊び』=『田舎エンターテインメント』と呼んで発信していますが、重要なのは、『この町にしかない、この町にしかできない』ということ。何か必ず、そんな宝があるはずです」

② 地域のグランドデザインを描く
「3年後、5年後、10年後に、この地域がどうなっていくとよいのか。まちの未来も考えて、まちの誰もがわかる言葉で、ワクワクして『俺もやりたい!』と言ってもらえるような、目指すべきビジョンを設定します。そしてお金の流れをしっかり考えることも大切」

③ 旗(大義名分)を掲げる
「応援してくれる人って、必ずいるんです。応援者に知ってもらい、輪に入ってもらうために、『なぜこれをやりたいのか』『やることで誰が、どうハッピーになるのか』という、大義名分を掲げます」

④ 巻き込むクリエイティブ
「自分たちが起点となって、とにかくいろんな人を巻き込む仕掛けをつくります。地域、行政、仲間、県外の人々、メディア…多くの人が入り込める“余白”をつくり、“自分事化”してもらう。いろんな立場の人をごちゃまぜにかき回すことで、活動は盛り上がり、自然に笑顔が生まれていきます」

⑤ まずやってみる
「でも結局は、とりあえず思いついたら全部やる。やってダメだったら、そこからまた考える。これがすべてだとおもいます(笑)」

最後には、会場からも、「農業をやっているが人を集めるにはどうしたらよいか」「自分も発信したいことがあるがどのように始めたらよいのか」など、活発な質問が飛んだ。セミナーに参加者にとっても、自分の住む町の、故郷の、仲間の未来に、想いを馳せるきっかけになったようだ。

古田氏の夢は、「八頭の子どもたちに、カッコいい大人の姿を見せたい。この町に生まれてよかった、と思えるような未来をつくりたい」。
自由な発想と行動力で、笑顔の輪を広げていく古田氏。その“トリクミ”に、これからも目が離せない。

講師紹介

古田 琢也(ふるた たくや)
古田 琢也(ふるた たくや)
アートディレクター・田舎プロデューサー
広告制作会社に勤めた後、2013年より独立しフリーランスのアートディクターとして活動。同年、アートディレクターとして株式会社ツクルバとパートナー シップを結び、シェアオフィス「FLAG」や北九州「fabbit」などのLOGOやサイン計画などを手がける。アートディレクター/グラフィックデザイナーとして、ブランディングや販売戦略を軸に、CI・VI・マス広告・WEBなど様々なクリエイティブを実践。また、地元鳥取の仲間と「トリクミ」という 団体を結成し、地域活性化プロジェクトやまち作り、地域に根ざしたデザイン、なども積極的に行なう。2014年鳥取にコミュニティスペース & 地産地消カフェ「HOME8823」をOPENさせる。 NHK Eテレのドキュメンタリー番組「U29 人生デザイン」にとり上げられるなどメディアでも注目されている若者の一人。