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イベントレポート

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2015年4月26日(日) 14:00~16:00

五味 仁,五味 洋子 / 発酵兄妹

こうじ・発酵のちからを学ぶ

「こうじ」はコウジカビという発酵微生物を繁殖させたもの。"食べられるカビ"なんです。コウジカビは、繁殖するために菌糸の先端からさまざまな酵素を生産し、米や麦のデンプンやタンパク質を分解して旨味や甘味をつくり出します。しょうゆ、みそ、みりん、酢、日本酒、焼酎など、普段の生活のなかに溶け込む日本の発酵食品を支えている「こうじ」。身近にありすぎて、実は知っているようで知らない「こうじ」や「発酵」について学んでいきました。

発酵は目に見えない菌の暮らし

その場での楽しみや学びにとどまらず、参加者同士の交流にも力を入れているd-labo二子玉川。この日はセミナー参加者15名の自己紹介からスタート。名前(ニックネームOK)&出身地と、今回のテーマに合わせて好きな発酵食品を一つずつ。みそ、納豆、パンなど、それぞれ思い入れのある食品と、それにまつわる逸話を披露。参加者同士の思わぬ共通項が見つかるなど、いつも以上に和やかな雰囲気でセミナーは始まった。
講師は、山梨県甲府市でみそ・麹づくりをしながら、発酵文化の普及にも力を入れている「発酵兄妹」こと、五味仁氏と洋子氏。様々な場所に赴き、みそづくりなどのワークショップを開催しているお2人。中でも、歌とダンスでみそづくりが学べる『てまえみそのうた』は子どもたちに大好評。「食を楽しく伝える活動」として2014年グッドデザイン賞にも輝いた。
そんな『てまえみそのうた』や、発酵食品が出来る仕組みをアニメで紹介する『発酵のうた』を織り交ぜながら、まずは洋子氏に発酵についてお話しいただいた。
「発酵とは何か? 難しい化学式抜きに一言で言えば“目に見えない菌の暮らし”です」
発酵は食品成分を微生物が分解した状態。しかし「『発酵』と『腐敗』の違いは、その微生物の働きが、人にとってプラスであるかマイナスであるかという点だけ」。牛乳が『腐敗菌』により痛んでしまうのか、『乳酸菌』によりヨーグルトになるのか、線引きをするのは人の都合だ。
「発酵微生物には、『カビ』、『酵母菌』、『細菌』の3種類があり、それぞれ単独や組み合わせで食品に働きかけて発酵食品を作ります。特に、みそ、しょうゆ、日本酒などは、『コウジカビ』、『酵母菌』、『乳酸菌』など3種類すべてが関わっていて、その生成過程はまるで菌のバトンリレーを見ているようです」
洋子氏が「これだけは覚えて帰ってほしいポイント」としてあげたのは次の3つ。発酵のすごいところは①食品がおいしくなる、②保存がきく、③栄養価が高くなる点。みそを例に取れば、「煮た大豆を放っておけば腐るだけですが、発酵によって香りや味に深みが出て、保存もきくようになります。また、アミノ酸などが生成され、消化吸収に適した組成になり栄養的にも優れたものになります」

こうじは日本の国菌

ここで本日の3曲目。今年4月に発売されたばかりの絵本『おうちでかんたん こうじづくり』にも収録されている『こうじのうた』を鑑賞。こうじを両替屋になぞらえ、分解により旨味・甘味が増す仕組みを表現しているのがおもしろい。こうじは「蒸した米、麦、豆などに麹菌をつけて発酵させたもの」で、なんと日本の「国菌」に指定されているのだとか。
「こうじは消化酵素の宝庫と言われ、その数実に100以上。『アミラーゼ』はデンプンを糖に変えて甘味を、『プロテアーゼ』はタンパク質をアミノ酸に変えて旨味を引き出しています」。
ということで、その甘味を体感すべく五味家特製の甘酒を試飲することに。甘酒は米麹または酒粕から作られるが、五味家のものは当然米麹から。味わった参加者からは「砂糖を一切加えていないのが信じられない」という感想が聞かれるほどで、食生活法・食事療法の一種とされるマクロビ料理に砂糖代わりに使われるのも納得だ。
甘酒休憩の後は仁氏にバトンタッチして、実際の米こうじ作りを解説していただいた。
「米を洗って水に浸す工程を含めて4日間。一番のポイントになるのは温度管理です」
1日目は精米と浸漬。使うのは「うるち米で、あまり粘り気のないもの」がベター。2日目は水切りをして、大きい圧力鍋で一度に250kgの米を蒸す。蒸しあがったら冷却、種付け、引き込みと続くが、「こうじづくりはここからが勝負」というほど神経を使う作業だ。
「菌は高温で死滅してしまうので、80℃程ある米の温度を40℃以下に冷ましてから、種こうじを撒きます。次に、種こうじを混ぜた米を、こうじ室(むろ)の床(とこ)と呼ばれる水槽のようなものに入れます。この間の温度は32℃。まんべんなく菌を行き渡らせるために丁寧な手作業が必要です」
その後は、米を手でほぐして品温を下げる「切り返し」と品温確認。3日目はそれに加えて、こうじの塊をほぐして菌の繁殖を促す「手入れ」を2度。そして4日目にいよいよ完成(出こうじ)、「熱の上昇を抑え、常温で出荷するために乾燥させて出来上がり」だ。
「種付けから2日目の夜までは温度が下がらないように見守ります。3日目の朝からはこうじ自体が熱を持ち始めるので、外気に当てて人の体温くらいの温度に冷ますことが大切。3時間おきに様子を見なければならず、こうじづくりの最中は常に神経を張っています」

「しょうゆ麦麹」を作る

座学の後は、「しょうゆ麦麹」作りを体験。
「しょうゆ麦麹は、麦こうじをしょうゆで発酵熟成させた調味料で、塩こうじとは違ってそのまま食べられるのが特徴です。卵かけご飯や、納豆のタレ代わり、刻んだショウガと合わせて生姜焼きのタレとしても使えます」
作り方はいたってシンプル。乾燥麦こうじ150gに約100ccの水を加え、混ぜ合わせたところにしょうゆをヒタヒタになるまで注ぐ。今回使うのは、東京で唯一のしょうゆ蔵元・近藤醸造の「キッコーゴ醤油」。麦こうじがしょうゆを吸ったらその分だけしょうゆを追加。器に今日の日付を書いたラベルを貼ったら仕込みは完了。後は自宅に持ち帰り、必ず1日1回混ぜ合わせること。室温において1週間程で完成。こうじの芯がなくなり甘味が出てきたら冷蔵庫に移して保存するという流れだ。
そして最後にd-labo二子玉川からの宿題を発表。しょうゆ麦麹を仕込んだ本日から完成までの約1週間。その成長の様子と、出来上がったしょうゆ麦麹をどのような料理で楽しんだのかを報告すること。まるで夏休み恒例のアサガオの観察日記のようだが、その記録は発酵兄妹の手元にもフィードバックされる。
「わからないことや新しいアイディアなど、何でもいいので書いてください。もし文章が苦手なら、山梨に直接来てもらってもいいですし(笑)」(洋子氏)
「…というのは冗談ですが、現在、蔵の近くにワークショップスペースを建設する計画が進行中です。今秋までには完成させる予定なので、ぜひそこに遊びに来てください」(仁氏)
伸びやかにそのフィールドを広げ続ける発酵兄妹に、ますます目が離せなくなりそうだ。

講師紹介

五味 仁,五味 洋子
五味 仁,五味 洋子
発酵兄妹
五味 仁(ごみ ひとし)写真左

五味醤油六代目(発酵兄妹)

東京農業大学で醸造と経営を学ぶ。卒業後、タイの醤油メーカーに勤めた後、明治元年創業の実家の五味醤油に戻る。現在は、みそとみそづくり用のこうじの販売、みそづくり教室をさまざまな場所で開催している。

五味 洋子(ごみ ようこ)写真右

五味醤油(発酵兄妹)
東京農業大学醸造科学科卒業。2009年、ライフスタイル提案会社に就職。社員食堂の立ち上げや新規事業部で商品企画を担当。2013年、味噌屋の娘に生まれた使命を果たすべく帰郷を決意。「心地よく暮らすこと」が人生のテーマ。 

五味醤油 HP