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イベントレポート

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2015年5月24日(日) 14:00~16:10

明石 優(あかし ゆう) / 靴磨き職人/絵描き

20年履ける靴に育てる
~20年後の自分を思い描く~

誰もが靴を履きます。ときには道具になり、武器になり、楽器になり、鎧になり、宝石になり、自分を映す鏡になる靴たち。人それぞれの生活、価値観の中で、靴は磨く必要があるものと考えている方は、まだ少ないように感じます。大切な靴を長く履き続けるため、そのお手入れを自分の手で出来たらとても素敵ではないでしょうか? 本セミナーで、靴のメンテナンス方法を学び、靴、そして「もの」を育てることの大切さをセミナー参加者で一緒に考えました。

靴は大切なパートナーと心得よ!

「靴は決して消耗品ではなく、大切なパートナー」と語る明石氏。確かに、自分に合う靴となかなか出会えないのも、パートナー探しに似ているし、運良く自分にぴったりな相手が見つかったら、その相手との「20年後を思い描く」のも自然な流れというわけだ。

「財布や携帯電話を忘れて出かける人はいても、靴を履き忘れて外出する人はいません。それほどまでに“当たり前な存在”である靴を、正しく手入れすることは、物を大事にする、ひいては人や時間や思いを大事にすることのきっかけになると思っています」

そんな明石氏が“靴磨き”という職業に出会ったのは学生時代。自転車で日本一周の旅に挑戦中のことだったという。

「名古屋で『靴磨き日本一周中』という看板を下げたピザ配達用のバイクが目に止まったのが始まりでした。その時は、バイクの主に会うことはなかったのですが、香川で偶然そのバイクと再会。声をかけてみたら自分と同年代の若者で、彼は靴磨きをしながら日本中を旅していたんです」

その若者との意気投合が契機となって、自身も靴磨き職人としてのキャリアをスタートさせた明石氏。その魅力を次のように話す。

「道具一式さえあれば、いつでもどこでも商売が始められます。日々の食費くらいは賄えて、旅先の人とコミュニケーションが取れるなんて素晴らしいですよ。それに、靴を預かっている間、その人との時間を共有できるというのもおもしろいと思いましたね」

その旅の後、“日本一の靴磨き店”と称される『Brift H』の創設メンバーとなった明石氏だが、現在は独立し、主に靴のメンテナンス方法を広める講師として活躍中だ。

「南青山の店では、『日本の足元に革命を!』というスローガンの下に、いろいろな靴をそれこそピカピカに磨きあげていました。でも、通勤電車の中で見かけるサラリーマンやOLの靴は、とても手入れが行き届いているとは言えないものばかり。もっと、たくさんの人に靴のケアについて知ってもらいたい! 誰もが正しく靴をケアすることができれば、それこそが真に“革命的”なことだ! そんなことを考えて、現在の活動を始めました」

セミナー前半は、靴磨きの起源から、これからの季節に避けて通れないカビ問題までをレクチャーいただき、早々に実技編へ。靴を“磨く”ではなく“育てる”と表現する明石氏の、卓越したテクニックと、靴への惜しみない愛情を存分に堪能させていただいた。

靴のメンテナンスは化粧に通ず!?

「靴をテーブルに乗せるという行為自体が珍しいかもしれませんね」という言葉から始まった実技編。多くの参加者が、それぞれの靴のbefore/afterを確認すべく写真をパチリ。今回教えていただく「最もクラシックで丁寧な方法」を習得しようと気合い充分だ。

「靴のメンテナンス手順は、おおまかに言って、①汚れを取る、②栄養を与える、③ワックスで磨く、の3ステップです。これは、①洗顔、②化粧水や乳液での保湿、③ファンデーションなどのメイクアップ、という女性の化粧に例えると理解しやすいと思います」

まずは磨く前の準備から。靴紐や中敷きなど、外せるものは全て外し、靴の中のケアからスタート。独特な方法で布を指に巻き付け、靴の中面に貯まったホコリや汚れを取り除いていく。使う布は着古したTシャツなどでOK。

次に、馬のたてがみのブラシを使ってホコリを落とすプロセス。シワの部分はシワに沿って、ブラシを横に動かす感覚で靴全体にブラシをかける。靴本体と靴底を縫い合わせている『コバ』の部分もしっかりとブラッシングしたら、汚れ落としクリームが登場。布に少量のクリームを取り、汚れや古いクリームを拭き取るようなイメージでクレンジングしていく。この時、一番クリームの染みにくい、かかと部分から始めるのがポイントだ。

ここまでで、①洗顔(汚れ落とし)の段階は終了。すっかり素顔になった靴に栄養クリームを塗っていく。各靴に合わせて色を調合したクリームを指に取り、「かかと部分から、今度は円を描くように」薄く延ばしていく。指を使うことにより「体温と摩擦で、よりクリームが浸透」し、乾燥していた靴がしっとりと柔らかさを取り戻していくのがわかる。

続いて猪豚の毛のブラシで靴全体をマッサージ。しっかりと栄養を行き渡らせたら、余分なクリームを落とすための乾拭きをして一段落。日々のベーシックケアなら、この②保湿(栄養)までで充分。慣れてしまえば、一連のケアは10分程でできるようになるという。

靴を通して丁寧に生きる方法について考える

最後は、いよいよ③メイク(磨き)の段階。

下地作りとしてワックスを指で取り、つま先とかかとに付けてから、“鏡面磨き”と呼ばれるプロの技にチャレンジする。

「水とワックスを使い、靴の表面にロウの薄い幕を作るイメージで磨きます。その際、指に巻いた布にシワが寄っていると、うまく光らないので気をつけてください。また、磨く時は、ガラスをキュッキュッと音を出して拭く要領で、少し圧力をかけましょう」

アドバイスを受け熱心に靴を磨く参加者たち。悩ましいのは水とワックスの分量配分だ。

「水はあくまで潤滑剤なので、滴るようではNG。目安としては、磨いている布の先が白くなっていれば大丈夫。逆に黒くなっているのは、ワックスを塗っているつもりで拭き取ってしまっているので注意が必要です」

手をかけた分だけ輝きを増すことに魅了され、エンドレス靴磨きの様相を呈してきたところで明石氏が一言。

「ワックスを重ねた分だけ光るのは厚化粧と同じ。パーティー用なのか、お悔やみの席に履いていくのか、TPOに合わせて光り方のバランスを取るのも大切です。雨に濡れたりした場合以外は、ワックスをかけるのは1~2カ月に一度で充分。まずは基礎的なケアを習慣づけてほしいですね」

メンテナンスを経て靴がピカピカになると同時に、靴をケアする参加者の目が輝きに満ちていく様子が印象的だった2時間強。プロの技を直々に伝授いただき、「靴というアイテムを通して、丁寧に生きる方法について考える」時間を共有した参加者は一様に満足そうな表情。「物があふれている時代だからこそ、足元を見つめ直し、経済や環境を意識した暮らしを実践する人が増えてくれれば嬉しい」という明石氏の思いが伝わるセミナーとなった。

講師紹介

明石 優(あかし ゆう)
明石 優(あかし ゆう)
靴磨き職人/絵描き
茨城県出身。2006年から靴磨きを始める。2008年、シューズラウンジ 『Brift H』 が南青山にオープン。また百貨店、アパレルブランドのイベントなどで靴磨きパフォーマンスを経験し、現在は、日本には数少ない靴磨き講師として、自由大学や熊谷NEWLANDなどで活躍。靴のケアをより身近にしてもらいたい想いから代々木公園にて「aozora shoeshine school」も開講中。いまの時代だからこそ靴磨きの大切さと奥深さを伝え、靴の手入れが歯磨きくらい当たり前の文化へと発展させることを目標としている。