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イベントレポート

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2015年5月31日(水)13:30~15:00

池ヶ谷 知宏(いけがや ともひろ) / goodbymarket代表・デザイナー

富士山を彩るデザイナーが語る漢字
~視点を変えることで、新しい意味を発見~

身近にあるものの視点を変換してみれば、新しい魅力が発見でき、日常がもっと楽しく素敵に彩られるかもしれない。
今回は、日常にあるものを改めて見直すきっかけとなるセミナーを開催。
講師に迎えたのは「goodbymarket」のデザイナー池ヶ谷知宏氏。
池ヶ谷氏は、静岡県民にとって日常風景の一部である「富士山」や、同じく日本人の日常の一つである「漢字」を新しい視点で見つめなおして商品やデザインを発信している。
これまでリリースした富士山モチーフのプロダクトデザインをご紹介いただくとともに、もう一つのライフワークでもある「漢字」をテーマとした新作を含む作品の展覧会「emoglyph展」も同時開催。
作品の解説やデザインを生み出す秘訣についてお話をうかがった。

富士登山の際に作ったTシャツが独立のきっかけに

静岡県静岡市清水区、富士山が見えない山間部で生まれ育った池ヶ谷氏は18才で上京。専門学校で建築を学ぶ傍ら音楽活動をしていた。
池ヶ谷氏は建築でCADデザインを扱っていたため、音楽活動に必要なツール(CDや印刷物、web、ノベルティ)のデザイン制作を自然と担当するようになる。
そうして静岡を離れて東京で活動していくうちに初めて地元の良さを実感した。郷愁に駆られてか、長期休暇などは必ずといっていいほど地元へ帰省。
地元のサッカークラブ「清水エスパルス」の動向が気になったり、日曜の夕方になるとテレビアニメ「ちびまる子ちゃん」を観ないと落ち着かなかったり、地元愛がどんどん強くなった。
募る地元愛が、富士山とデザインをじわじわと近づけていった。
幼い頃祖母からもらった、いかにもお土産らしいなんの変哲もないそのキーホルダーを見て、「視点を変えればまだ新しいものができるのではないか。」と漠然と思ったのだという。
ショップマネージャーとして、インテリアショップ勤務を経て、2008年転職のため静岡へ帰郷。
そして2010年に人生初の富士登山。これが転機となる。
富士山を登るにあたり、「せっかくだから自分がデザインした富士山グッズを作って持って行こう」と思ったそうだ。
Tシャツをつくるのはすぐに決まった。デザインをどうするか。
そんなとき、なにげなくTシャツをつまみ「このシワの感じは富士山に似てる」と発見。急いで青のマーカーで塗って作ったのだという。
そしてでき上がったのが「Fuji T」。後のブランド立ち上げのきっかけとなる商品だ。
登山当日、山頂でTシャツの裾をめくりTシャツの富士山とともに記念撮影。この時、周囲にいた人々から歓声が上がった。
「そのTシャツ何? って聞かれました。まさにこれが自分の目指していたコミュニケーションツールなんだ。やった! と思いました。」
以前から商品をコミュニケーションを発生させるツールにしたいと考えていた池ヶ谷氏。
狙いどおりのアイテムを創り出せたことを契機にwebサイトを立ち上げ、2011年、ブランドの設立に至る。

《池ヶ谷氏による富士山モチーフのデザイン》
・Fuji T(2010)
・handkerchie-fuji
・Mt.envelope
・Fuji Love Glove
・Post Card NOW
・case 3776
・Cloud File
・Fusen-Fuji
・Towel Fuji
・Organic Handkerchie-fuji
・Silk handkerchie-fuji
・Cloud Card

アイデアはバッティングセンターのようなもの

さまざまなアイデアを発信し続ける池ヶ谷氏。いったいどのようにしてアイデアを生み出しているのか聞いてみた。
「絶対に人には見せられないのですが、ポケットサイズの小さなメモ帳をいつも持ち歩き、気づいたことはすぐにメモをとるようにしています。」
泉のようにアイデアが湧いてくればよいが、必ずしもそうとは限らない。地道な積み重ねが最良のデザインへとつながっていく。
「ともかくずーっと考える。夢で見たこともメモに残す。古いメモを見返すと、同じことを書いていたりすることもあります。」
アイデアはバッティングセンターのようなものだと池ヶ谷氏は語る。打てなくてもボールは出続ける。空振りかもしれないし、ゴロかもしれない。
それと同じでアイデアも大小問わず出し続けるのが大事なのだ。池ヶ谷氏の場合、どういうときにアイデアが出てきたのか。
紺と赤の生地に白い滑り止めがついた軍手「Fuji Love Glove」という製品は、商品の出荷作業をしているときに、物をつかもうと曲げた自身の指を見て思いついたのだという。
思いついた瞬間にその場にあった黒の油性ペンで中指の関節に富士山を描いた。
「Fuji T」を生み出したときもしかりだが、消すことができない油性ペンで思いのまま描くというこの行動力が池ヶ谷氏のデザイナーとしての魅力の一つにもなっているのではないだろうか。
池ヶ谷氏にはアイデアを創造する素地のようなものを、幼少の頃に作っていたという。
「オモチャを買い与える家ではなく、兄妹でアイデアを出し合って遊んでいました。
段ボールでオモチャを手作りしてみたり、自然豊かな山奥でオリジナルな遊びを考えてみたり…。」アイデアを出しやすい環境が、池ヶ谷氏のデザイナーとしての視点を育てていった。
もちろん、立ち上げ当初から順風満帆だったわけではない。設立直後は資金繰りに苦労をしたり、作品展の集客に苦労したことも。
作品の魅力にマーケットも次第に気づき、商品が売れ始め、デザインの依頼も増えて「goodbymarket」は軌道に乗り始める。
「実は富士山が世界遺産に登録された後の2014年は、富士山モチーフのデザインをストップしていました。
きっと多くの会社が富士山グッズを増やすだろうと思ったので、それの流れを一度静観して見る必要があった。
でも結果、まだまだ自分がデザインしていく余地はあると思いました。」
2015年現在、池ヶ谷氏はユニークで粋な富士山モチーフのデザインを生み出し続けている。

漢字をリデザインする

始まりは5年以上前のこと。ハイヒールを履く女性のかかとの「絆創膏」を見て、「美」という漢字を絆創膏で切り貼りして作った事がきっかけだ。
男女問わず、外見や内面の美しさに至るまでに、様々な我慢、痛み、心の傷などを経ていることがあるかもしれない。
「美」という一文字を絆創膏で描くだけで、その文字に新たな感情が吹き込まれたような気がした。
それから漢字の成り立ちを追っていき、「もっといろいろ興じる余地が多分に残されているのではないか」と思い、漢字をテーマに作品を作りはじめたという。
“解剖”したり、“移植”したりすることで、漢字をリデザインし、新たな意味を作っていった。
最初はWEB上で発表し始め、2011年に最初の作品展を開くに至る。
「d-labo 静岡」では、2015年5月31日〜6月30日の間、4年ぶりとなる池ヶ谷氏の作品展「emoglyph(エモグリフ)」を開催した。
「emoglyph」は“emotion(=感情)”と“hieroglyph(=象形文字)”の造語で、「情形文字」といった意味合いを持たせている。
誰かに伝えたくなるエモーショナルな漢字作品だ。以下に今回の展示からその一部をご紹介する。

気持ちで乗り越える
よみかた:気持ちで乗り越える
意味:目の前に現れたのは本当に壁だろうか?もう一度よく見て欲しい。壁を形成している辛(つらい)という文字が、幸(しあわせ)に塗り替えられています。
その壁は気持ち次第で、壁にも踏み台にもなるわけです。
元の漢字:壁

イエス
よみかた:イエス
意味:あれも× これも× あの子も× あの人はもっと× 今の自分なんてもっともっと× 昨日も明日も× ×××バツバツバツバツ……
「脳」の中の「×」を「○」に変えて行こう!YES!!ポジティブな世界で素晴らしい人生を!
元の漢字:脳
解説:「ノー(のう)」を「イエス」に。頭の中にある「脳」の×の部分を○にすることで、ポジティブ思考を目指す自分への暗示に。

ゆめだるま
よみかた:ゆめだるま
意味:だるまさんは転ばない。いつか夢が叶い、この「夢」の空白部分に「目」を入れて完成する日が来ますように。

信用
よみかた:信用
意味:自動販売機や無人販売などは、他者を信用した販売スタイル。お金に対して「信用」は過保護にまとわりついてきます。これは「日本」という漢字です。
そのうちの2本に1000円札が使用されています。日本人は無防備な1000円札を決して盗みません(願望)。盗まれたとしたら、この漢字はある一文字に変わります。
元の漢字:日本
解説:スルガ銀行という銀行の施設での展示ということもあって生み出した作品。本物の紙幣を使用するため、万が一銀行側から許可が出なかった場合は「『信用』お蔵入り」というテーマで、切れ端だけ残そうと考えていたのだとか。

厄落とし
よみかた:厄落とし
意味:凶という漢字の元凶である×を切り離して、シュレッダーで粉砕してしまいましょう。残された箱は良い事を詰め込む為の空箱。どうぞお持ち帰りください。
解説:この作品は、見学者自身が「×」の部分が切り取れるようになっており、その部分をシュレッダーで粉砕できる作品参加型になっていた。
赤文字であるため、シュレッダーで粉砕すると紅白の紙吹雪が舞い、少しおめでたい気持ちになれるという仕掛けも。

講師紹介

池ヶ谷 知宏(いけがや ともひろ)
池ヶ谷 知宏(いけがや ともひろ)
goodbymarket代表・デザイナー
静岡県出身。音楽活動しながら都内で建築を学んだ後、ショップマネージャーとして都内インテリアショップの立ち上げや店舗運営に携わる。
その後、静岡県に戻り、プロダクトブランドに参加。2011年「goodbymarket」設立。プロダクトを通じて生まれるコミュニケーションに関心を抱き、コミュニケーションツールの創造と提案を試み続けている。富士山をテーマにしたプロダクト、漢字のリデザイン、ロゴやパッケージデザインなど多数手掛ける。