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イベントレポート

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2015年6月4日(木) 19:00~21:00

佐々木 博(ささき ひろし) / 株式会社創庵 代表取締役

3Dプリンタで変わるこれからの暮らし

3Dプリンタの普及は「欲しいものを買うのではなく、創る時代の到来」を予感させます。そうした、3Dプリンタの登場によって、どんな仕事や職業が生まれて、私たちの生活はどんな風に変わっていくのでしょうか?IT黎明期よりデジタルメディアの啓蒙者として活躍してきた佐々木氏とインターネットの歴史を振り返りながら、来たるべきFAB時代に向けた新しい働き方や暮らし方を、ワークショップを交えながら考えていきました。3Dプリンタを使った新しいビジネスがd-laboから生まれるかもしれません。3Dプリンタで変わるこれからの暮らしについて考える機会となりました。

「誰かの悩み」が未来をつくる

2年前のセミナーでは64人が暮らす「巨大シェアハウス」での生活を紹介してくださった佐々木博氏。今回は高橋祐人氏につづいて「3Dプリンタ」シリーズの第2弾を受け持っての登壇。テーマは「技術の進化は私たちに何をもたらすのか」。インターネットが一般に普及して約20年。その間にパソコンは1人に1台が当たり前となり、社会や人々の生活は大きく変わった。では、これから20年、30年先の未来はどうなっていくのか、どんな社会となるのか。このセミナーではパソコン講座やITの「先生」である佐々木氏に、3Dプリンタを軸に、来たるべき未来を予測していただいた。

冒頭、佐々木氏が見せてくれたのは今から110年ほど前にフランスで描かれた「100年後の未来」の絵。そこには110年前の人々が求めていた未来がある。絵に描かれているのは電気で動く機械が部屋を自動的に掃除してくれているといったシーン。これは1世紀を経た現在、「ルンバ」などのロボット掃除機によって現実化している。

「ただ、この絵を見ていて違和感がありませんか?」

佐々木氏の言葉通り、現代人の目から見ると滑稽に映るのは、掃除機についているのがモップだからだ。

「この頃はまだ空気でゴミを吸引するという発想がなかったんですね。こんなふうにその時にある技術やデザインだけで未来を予測すると、方向性は間違っていなくても、100年後の人に奇妙に映ってしまうんです」

「大切なことは、技術の未来を考えるだけでなく、新しい時代の価値観がどのように変化するか?を想像すること」 価値観は時代によって変化するもの。「その意味では、現代テクノロジーの<ルンバ>ですら、100年後の未来からみて滑稽かもしれまが、それがどうしてなのか?を考えてみることが大切です」。

同じ110年前の絵には、食材を入れた機械が勝手に料理を作ってくれている、といったものもある。これはまさしく3Dプリンタ(フードプリンタ)が実現しようとしていることだ。

ここでは、もうひとつの視点「誰のためのテクノロジーか?」ということを考えてみたい。

新しい技術やサービスが普及するとき、そこには必ず「誰かの悩み」が存在する。売れるモノを作りたければ「その人が何に悩んでいて、何を課題としているか」を発見しなければならない。売れる商品とは、その課題を解決してくれる商品に他ならない。3Dプリンタで作る料理の場合、技術的には可能だが、はたしてそれを求めている人はどれだけいるだろうか。「食事を作る手間をなくしたい」。という課題だけでは、まだ洞察が足りなくて、その奥にある食べることに対する課題や喜びを見出さなければ、普及する技術に至らない。未来を予測するときは、常にこの「プロブレム・ソリューション・フィット=課題と解決策の一致」を念頭に置くこと。そうすることで、普及する技術かどうか?が見えてくる。

3Dプリンタがあれば誰でも「クリエイティビティ=創造活動」が可能に

佐々木氏が目指しているのは「誰もが好きを大切にできる社会」。言い換えれば「誰もがhave toで働くのではなく、want toで暮らす持続可能な社会」。ITやテクノロジーが進化すれば、「朝起きてボタンを押せばすべてのものが自動的にできている」といった暮らしも夢ではない。ひょっとしたら家事はロボットや人間型のアンドロイドがやってくれるかもしれないし、その頃には人間以上の能力を持つAI(人工知能)が生まれている可能性もある。そのかわり「多くの職業は機械にとってかわられる」。アメリカの予想では今後10年?20年の間に総雇用の47パーセントの仕事は「コンピューターに自動化されるリスクが高い」と予測されている。テクノロジーの進化はこのように「こわい一面」をも備えている。それを踏まえて、「他人や社会の相対的な価値観ではなく、自分が本当に望む絶対的な価値観で未来を選択すること」。

「科学者のアラン・ケイは、未来を予測することはそれを発明することだ、と言っています。誰かの刷り込みではない本当の自分の欲求。それを望んでいるのかどうか自分に問いかけることで未来は変わるはずです」

将来的には「一家に1台が当たり前」になるという3Dプリンタ。家庭用プリンタが自分の物になったら生活はどう変わるのか。必要な物を必要なだけ作り、「所有よりも共有」を重んじる文化が3Dプリンタの普及とともに広がったら、どんな社会になるでしょうか?」

技術の普及とともに、変化する社会的な価値観がどのように変化するか?を3Dプリンタを通じて今は議論する時代。 「3Dプリンタなら試作も簡単。今までは限られた人のものだったクリエイティビティが誰でもできるようになるんですね。起業がしやすい時代も暗示してます。そうなると、暮らし方だけでなく、働き方の価値観も変わるタイミングかもしれません」

求められるのは「わくわくするようなビジョン」

評論家のアルビン・トフラーは1980年の段階ですでに「21世紀にはプロシューマー(生産する消費者)が出現する」と予測しているし、同時に「一般の人が自分のために製造する技術が飛躍的に進歩」し、「一般家庭でプラスチックが加工できる安価な機械が製造される」と述べていたという。

現時点で家庭用3Dプリンタのファブリケーションとして思いつくのはさまざまな生活雑貨の製造はもちろん、「お父さんが子どもにおもちゃを作る」、「お母さんがお菓子をつくる」といったシチュエーション。これが産業用となると、医療分野や建築、自動車製造などにおいて革命的なイノベーションが期待される。そこで生きるのは、実は技術よりも「人材」。どんなにテクノロジーが進んでも、いいアイディアを発想できる「人材」がいなければいい未来はやってこないからだ。

「いい人たちと何かをしたいと思ったら、まず、わくわくするような未来へのビジョンを持つこと。そしてそのビジョンを通じて「何を解決したいのか?」という〈コンセプト〉と、なぜそれを実現したいのか?という〈ストーリー〉と動機、そして、具体的にどうすればいいのかという解決策〈ソリューション〉の3つを打ち出すことですね」

とにかく最初は使ってみること。

「たとえば小さなボタンひとつでもいい。3Dプリンタで何かを作ると、それだけで成功体験になります」

佐々木氏の「夢」は「村づくり」。

「持続可能な社会を実現するために、ITやテクノロジーを活用して自給自足のできるコミュニティーをつくってみたい。多種多様な人たちが共生できるような地域にして、そこから情報を発信したいですね」

講師紹介

佐々木 博(ささき ひろし)
佐々木 博(ささき ひろし)
株式会社創庵 代表取締役
NHK教育テレビでパソコン・IT講座を12年歴任。IT黎明期よりデジタルメディアの啓蒙者として活躍。難しいテクノロジーをわかりやすく解説する語り口には定評がある。近年はITやデジタルメディアを活用した、自立支援や起業創業支援、まちづくり支援など、全国の企業や自治体のアドバイザーとして活躍。現在、原宿にある複合型のシェアコミュニティ「原宿THE SHARE」にて64人で共同生活をする傍ら、熊本を拠点にマルチハビテーション(多地域居住)に挑戦。インターネットを活用した、新しい時代の暮らし方、働き方を実践中。近著に「AR(拡張現実)で何が変わるのか? (技術評論社)」 川田 十夢・佐々木博共著、『日本的ソーシャルメディアの未来』濱野智史、佐々木博共著など、40冊近い著書監修書籍がある。