スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2015年6月13日(土)13:30~15:00

満藤 直樹(まんどう なおき) / 株式会社ベック 代表取締役社長

静岡生まれの手作りビール ~自社ブランドの起ち上げまで~

静岡市にほれ込み、ついにはクラフトビールで自社ブランドを起ち上げた。 元々は会社員として静岡県に赴任した大阪出身の満藤直樹氏は、2001年に静岡の飲食店経営に転身。2008年よりビア・バー「GROW STOCK」をはじめ海外・国内のクラフトビールが楽しめる店舗を展開。2014年6月には静岡市初の手作りビール醸造所を開設。自社ブランドビール「AOI BEER」の生産、販売を開始している。何が彼を魅了し、奮い立たせているのか、情熱的に前進し続ける満藤氏のビールへの思いと夢についての話を伺った。

手作りビール醸造所ができるまで「満藤氏を魅了したもの」

静岡市に赴任し、この地の穏やかな気候とコンパクトで住みやすい街並み、マナーが良くておっとりした県民性に惹かれた満藤氏。

縁あって飲食店経営者となると持ち前の好奇心旺盛な気質から「普通のビールだけではつまらない」と世界約40か国のビールを提供することに。

ところが店の主要客層は20代前半の女性客。「飛ぶように売れて…」とはいかず、自分で味わうことも多かった。

そうこうするうちビールが大好きに。海外ビールと日本のビールとの味の違いを知り、特にドイツのヴァイツェンタイプのビールが満藤氏のお気に入り。

ところが静岡市にこのビールを楽しめる店がなく、それならば! と2008年に「GROWSTOCK」をオープン。

ここでは常時ベルギーやドイツ、アメリカなどから取り寄せた100種類以上のボトルビールと8種類の生ビールが楽しめる。

そこから満藤氏のビールへの愛情と興味がますます加速していく。海外ビールだけでなく、国内のクラフトビールも嗜むようになった。

国内のクラフトビールはここ10年ほどでどんどんと進化しており、個性的なものも増えている。

文字どおりビールに「ハマって」いくと「もっとこんなビールがないだろうか」「この味を改善できないだろうか」と意欲と情熱が湧き上がってきた。

そんな中、香港で満藤氏は感動的なフランスの白ビールに出会う。日本に帰国して早速輸入代理店を探したが国内で取扱いがなく、個人輸入なども条件が難しそうで断念するしかなかった。また当時、静岡県東部と西部にはクラフトビールを製造する会社があるものの、愛してやまない静岡市、つまり静岡県中部には一軒もない。

この二つの理由が満藤氏に「自分でビール醸造所を作ろう!」と決意させることとなった。

決意したものの、悩みはお金と人。満藤氏自身、ビールを飲む達人ではあるがビールを作る達人ではない。一流のビールの作り手を探さなければならない。

熱意が伝わり、ほどなく満藤氏は救世主と出会う。当時、熊本在住だったビール職人が静岡に来てくれることになったのだ。

アメリカ・イギリス・ドイツ・ベルギーなど、世界各国のビアコンペティションにおいて数多くの金賞を受賞した実績を持つ高浩一氏が、満藤氏の熱意に応じる形で来静。

これで一流の作り手を確保するという問題は一件落着。

残るはお金、資金の問題だ。ところがこの問題は解決することなく、とりあえずスタートすることとなった。

中でも苦労した点は醸造の設備。ドイツ製やアメリカ製のものが理想的だが資金的に苦しい。そのため1/3の価格の中国製のものを仕入れてみた。

しかし、冷却用の装置が2カ月で故障。中国に問い合わせるもらちが明かず、日本製の部品で対処することに。

加えてこの機械の糖度計が正確でなく、想像したものとは違うビールが出来上がってしまった。が、このビールを捨ててしまっては会社が潰れてしまう。

事情を話してお客さまへ半額で提供し難を逃れた。「有難いことにうちのお客さまは成長過程を含めて温かく見守ってくれる方々ばかりなんです」とは満藤氏。

思わず応援したくなってしまうのは満藤氏の情熱と人柄ゆえだろう。

ビールについてのあれこれ

ビールは大きく「ラガー」と「エール」の2種類に分けられる。ではその違いとは?

一般的にビールは大麦を発芽させて乾燥させた麦芽を砕いて麦汁を作り、煮沸してホップを加え発酵タンクに入れた後、イースト(酵母)を加えて熟成させて作られる。

「ラガー」と「エール」の違いは「酵母」と「発酵温度」による。

「ラガー」は低温(10℃前後)で長時間かけて発酵させるのが特徴。昔は冬の間氷を入れた洞窟で貯蔵しながらゆっくりと醸造、春になり発酵を終えると美しい色と味わいのビールになっていたという。

19世紀以降、冷蔵庫が発明され大量生産が可能になると近代ビールとして世界中に広まった。代表的なのはピルスナー。日本のビールも大半がこのタイプになる。

一方、「エール」は常温(20℃前後)で短期間に発酵させる。麦芽からくる甘みと香ばしさ、泡が少ないのが特徴だ。

代表選手はイギリスのペールエールや苦みの強さで有名なインディアン・ペールエール。そして満藤氏の手がけるビールもこのタイプだ。

こちらのビールは通常10℃前後で提供されることが多いが、それはキンキンに冷やしてしまうとせっかくの味わいが消えてしまうため。

食事と一緒にのんびりと飲んでも最後まで美味しさを楽しめるのが醍醐味なのだ。

古い歴史をもつ「エール」。現在も数多くの種類があり、色、香りも様々。

「ぜひ色々と試して自分のお気に入りを見つけてもらえたら嬉しいです」と満藤氏は語る。奥深いビールの世界にどんどんと引き込まれていきそうだ。

目標は「うなぎパイ」

静岡には様々な特産品がある。満藤氏が手掛けたのはみかんやお茶などのフレーバービール。

たとえば「はるみ」「スルガエレガント」と呼ばれるブランドみかんを使用したものや茶葉を使用したビールでこれらの人気は上々。

香りと味わいを引き出すためには色々と工夫がいる。みかんは果汁と皮を分ける必要があり、茶葉はきちんと無菌管理されたものを選ばなければならない。

時にはスタッフに交じって常連客がボランティアでみかんの皮むきを手伝うこともあったそう。

みかんの次に計画しているのは桃。静岡市には知る人ぞ知る伝統の桃の産地があり、その桃を使ったフレッシュなビール作りが進行中だ。

さらには菊芋を使用した機能性のあるビール。糖質の吸収を抑えて腸内環境を整えるイヌリンという成分に着目し、専門家にも相談しながら研究中だ。

「1日1パイント(473ml)のビールを飲むと癌や痴呆予防のためプラスに働くと言われています。どんなものでも飲みすぎは良くないかもしれませんが、飲めば飲むほど健康になるビールを目指しています」

さらに、話題性だけでなくおいしさにも徹底的にこだわっていきたいとのこと。

「目標はうなぎパイなんです。浜松のお菓子ですが、全国誰でも知っている。静岡といえばAOI BEER、そう言ってもらえるように頑張っています」

講演後、参加者の方からの質問を受け付けた。

「白ビール、黒ビールなどと呼ばれるのは何の違いからですか?」

満藤氏「ビールの色は焙煎された大麦の色で決まります。使用量や異なる種類を組み合わせる際の比率などで様々な特徴が生まれます。一般的に白ビールは小麦を原料としています」

「桃を使ったビールというと、ちょっと甘そうなイメージなのですがどんな感じになる予定ですか?」

満藤氏「糖度を調整してアルコール度数を決めていきます。桃の持つ特長を最大限に引き出すよう調整しますので楽しみにしていて下さい」

そしていよいよ試飲タイム。今回は樽入りのペールエールを満藤氏自らがサーブし、参加者へ。

その香しい芳香とコクのある旨みに「今まで飲んだビールの中で一番おいしい!」と感激する声も聞かれた。

現在は樽のみでの提供だが、近いうちに瓶や缶に詰める設備を整えるとのこと。そうなればもっと多くの方が味わえるようになる。満藤氏の快進撃はまだまだ続きそうだ。

講師紹介

満藤 直樹(まんどう なおき)
満藤 直樹(まんどう なおき)
株式会社ベック 代表取締役社長
大阪府岸和田市出身。転勤で赴任した静岡の地が大好きになり、2001年に飲食店経営に転身。2014年6月、静岡市初の手作りビール醸造所を開設。自社ブランドビール「AOI BEER」の生産・販売を開始。ビア・バー「GROW STOCK」、国産クラフトビールが楽しめる「AOI BEER STAND」、自社ブランドビールを扱う「BEER JUNKIE MOTEL」などの店舗を展開中。