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イベントレポート

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2015年6月25日(木)19:00~21:00

石井 陽青(いしい ようせい) / アンティーク・ディーラー

美しくも楽しいアンティークの世界へようこそ
~プロが教えるアンティークの見方~

時を越えて人々を魅了し続けるアンティーク。しかし、「アンティークとは何なのか?」、「どうやって本物を見分ければよいのか?」など意外に知らないことが多いアンティークの世界。今回は、世界各地で買い付けを行なっている、アンティーク・ディーラーの石井氏をお招きし、アンティークの基礎知識や見方・買い方を、さまざまな実物を披露いただきながら、解説いただいた。また、世界各国のアンティークマーケットや偽物事情についてもご紹介いただいた。古代エジプトのミイラが嵌めていた指輪から古代ローマの光り輝く硝子器、そして19世紀のカメオまで、貴重なお宝に触れながら、アンティークの世界を旅してみた。

WTOが定めている「アンティークの定義」

アンティーク・ディーラーとして1年に6回はイギリスのアンティークフェアなどに出かけているという石井陽青氏。このセミナーでは一般には意外と知られていない「アンティークの定義」からお話しいただいた。

「アンティークとは100年以上前の物を指します。この定義のもとは1934年に施行されたアメリカの通商関税法。歴史の浅いアメリカは、教育や文化を発展させるために外国から古い美術品を集めたかったんですね。だから関税を廃止したんです」

現代ではそれが日本を含むWTO内でもルール化されているという。

「だから僕が世界のいろんなところで買って来ても100年以上前の物なら関税はかからないというわけです」

アンティーク同様、よく耳にする言葉が「ヴィンテージ」。こちらは元々「ワイン用語」。ワインには「当たり年」というものがある。「ヴィンテージ」とは「特定の年につくられた価値のあるワイン」のこと。それがワイン以外の楽器などにも使われるようになり、やがて年数にこだわらない「古くて価値のある物」全般を指す言葉となった。

石井氏がよくイギリスへと足を運ぶ理由は、「イギリスに世界中のいい物が集まっているから」だ。大英帝国が栄えていた19世紀のビクトリア時代、イギリスには世界のさまざまな物品や美術品が流れこんだ。1851年にはロンドンで万博が開催。1852年にフランスのパリに世界初の百貨店がオープンすると、イギリスにもハロッズなどの百貨店が次々とできてゆく。百貨店の開業は、それまで富裕層だけの物だったジュエリーや銀食器を中産階級の物としていった。こうしたことから、現在でもアンティークの買い付けといえばまずはイギリス、という図式が成り立っている。

「僕が通っているのはマーケットで有名なポートベローや、ニューアークのアンティークフェア。行くときは早朝の人のいない時間を選ぶことが多いですね」

人通りの少ない早朝は、実は「強盗や盗難に遭いやすい危険な時間帯」だ。実際、高額の現金や宝飾品を抱えて歩いているディーラーは犯罪者に狙われやすい。それでも行くのは「うぶだしが見たいから」。「うぶだし」とは初めて売りに出る品のこと。ディーラーにとって掘り出し物に出会うことは喜びだ。

アンティークのいい点は「その時代の人と同じ時間が共有できる」ところ

アンティークの買い付けというと思い浮かぶのが「オークション」。こちらもイギリスは本場だ。同国には「世界最古の現存するオークション会社」である『サザビーズ』や、「世界最古の現存する美術品のオークション会社」である『クリスティーズ』をはじめ、数百ものオークション会社がある。ただしオークションには買手と売り手の双方に落札値の25パーセントもの手数料がかかるため、それを嫌う持ち主が石井氏たちのような小売業者に直接売ってくれるケースも多いという。

アンティークの魅力は「その時代の人と同じ時間が共有できること」だ。人間の寿命は100年がせいぜいだが、2000年前につくられた古代ローマのコインに触れることはできる。同じコインを2000年前のローマ人が持っていた。そんなふうに思いを馳せると何とも言えない気持ちになってくる。

「その気になればナポレオンの頃の銀食器でお茶を飲むこともできる。これってすごいことだなと思うんです」

今回のセミナーでは持参していただいた金貨や銀貨、ジュエリーなどを回覧。本物の輝きを見ながら、金、銀、プラチナ、ダイアモンド、真珠など、いくつかの代表的な素材の歴史を辿ってみた。

金の歴史は数千年。エジプトのカイロにある美術館には「金でできた歯のブリッジ」が展示してあるという。初めて金貨が登場したのは紀元前6世紀。現在のトルコ西部に位置するリュディア王国で発行されたものが世界最古の金貨として知られている。その後、古代ローマなどでは金貨に皇帝の顔を彫ることが常となり、金貨は権威の象徴ともなっていく。もっとも金貨は大変高額だったため「市場に出回ることはほとんどなかったともいう。

毒殺を防いでくれた銀食器、真珠市場は日本の養殖真珠が席巻

貴重だった金。やがてその金に「新大陸の発見」という歴史上の転換点が訪れる。

ハイチ島やインカ帝国に金があるとわかると、征服者であったスペイン人はそれを大量にヨーロッパへと持ち帰った。その後、19世紀になるとカリフォルニアでゴールドラッシュが起こる。これにより金の産出量は18世紀の10倍に。オーストラリアでも金は発見され、このことに端を発した人口増が流刑地だったオーストラリアを国家へと変えてゆく。1886年には南アフリカにおいても金が発見される。1908年には金の産出量はゴールドラッシュが起こる1848年以前の100倍となったという。

「だからアンティークの世界ではゴールドラッシュ以前の金貨や金を使った宝飾品は貴重で価値の高いものとされています」

銀の歴史で注目したいのがイギリスのコーンウォール。8世紀頃にここで銀が発見されるとペニー硬貨がつくられた。「ペニー」という名は今でも通貨の単位として用いられている。また銀が王侯貴族などの間で食器として用いられている理由は「暗殺防止に役立ったから」。銀には抗菌効果があるだけでなく、硫黄化合物やヒ素化合物などを入れると変色するという特徴がある。政敵の多い権力者にはありがたい素材だったことがわかる。

プラチナは発見こそ古代エジプト時代と古いものの、ジュエリーに使用されるようになったのは高温度の酸素バーナーで溶かすことができるようになった19世紀末。ダイアモンドはインドが最初の産地。ヨーロッパには長い間小さなものや薄いものしか入ってこなかったが、1725年にブラジルで鉱脈が見つかるとブリリアントカット(最もスタンダードな58面体のカット)のような体積のあるカットが広まるようになった。

真珠は長らく天然真珠が市場の中心。しかし20世紀になって日本のミキモトによる養殖の球形(真円)真珠の販売が始まると天然真珠の価格は暴落、天然真珠漁は崩壊する。

「100年前の日本人が真珠産業を築いたんです。これは尊敬に値しますね」

石井氏の「夢」は「もっとアンティークの勉強をして自分の幅を広げること」だ。

あとは仕事を通じて人と出会うこと。きれいな物を一緒に愛でる、その喜びを大勢の人と分かちあいたいですね」  

講師紹介

石井 陽青(いしい ようせい)
アンティーク・ディーラー
1976年埼玉県生まれ。10代からアンティークの買い付けでアフリカ、ヨーロッパ、中東、アジアを旅する。2000年にアンティークモール銀座に店舗をオープン。日本各地の百貨店のイベントに出店、主催、講演を行なう。2005年に西洋美術協会へ参加。2010年英国の美術骨董協会(LAPADA)の会員となる。2012年3月帝国ホテルプラザ東京に「銀座アンティーク・アイ」をオープン。現在は、朝日カルチャーセンターや東急セミナーBEなどで講師も務めている。著書に『アンティーク・ディーラー 世界の宝を扱う知られざるビジネス』(朝日新聞出版)がある。
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