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イベントレポート

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2015年6月28日(日)13:30~15:30

野田 三千代(のだ みちよ) / 海藻おしば協会会長

海の森からの贈り物「海藻おしば」
〜海の森のお話と海藻おしばのワークショップ〜

海にも森があるということを知っているだろうか。そして、その海が警告を発しているということも。海藻が創り出す「海の森」は、海はもちろん、地球環境にとってとても重要な役割を果たしている。今回は、各地で展示会や講座を開催し、海藻の美しさを通して海の環境啓発活動を長年続けている野田三千代氏をお招きし、美しい海の森の映像や、数多くの「海藻のおしば」作品をご紹介いただきながら海の森についてのお話をうかがった。また、講座の後は、野田氏自ら伊豆の海辺で採取した海藻を使い、海藻おしばのポストカードを作るワークショップも同時開催された。会場は海の香りに包まれ、参加者は海藻の名前を一つひとつ確認し、光に透かすなど色を見極めながら、思い思いにアートを楽しんだ。

海藻は日本では1500種類、世界では1万種類

「海藻おしば」とは、海藻の押し葉(=標本)のこと。1823年に日本へ来航した医師・博物学者のシーボルトが作成したものが 我が国最初の海藻押し葉と言われている。野田氏は、筑波大学下田臨海実験センターで海藻の生理生態学の研究補助をしていた際、標本となっていた海藻の状態があまりにも汚かったため、もっと美しく保存したいという思いのもと従来の標本を改良する形で「海藻おしば」を創出した。

まるで水彩絵の具のような美しい色合いを描き出す海藻たち…。野田氏は海藻おしばを従来の標本としての役割以外に、アートとしての価値を見出した第一人者だ。

まずは、会場の参加者から知っている海藻の名前を挙げてもらった。「ワカメ、コンブ、ヒジキ、テングサ、アオサ」といった知られた名前から「ホンダワラ、トサカノリ」といった名前も挙がった。大抵の人は3〜4種類言えれば良いほうだ。

海に生息している海藻の種類は、日本では1500種類ほど、世界では1万種類にもなる。

海藻は、アオサなどの「緑藻(りょくそう)」、ワカメなどの「褐藻(かっそう)」、トサカノリなどの「紅藻(こうそう)」に分かれ、深さによって太陽光の届き方が異なるため、色が変わってくる。三杯酢などでいただく「モズク」などは、「藻につく」から「もずく」となったと言われている。

同じモズクでも沖縄で養殖されている「太もずく」と、今、朝のドラマで注目を浴びている能登半島で採れる天然の「絹もずく」とでは、味も食感も全く異なる。

また、もともとは漁船や網に絡まるため漁師からは邪見にされていた「アカク」が、最近では免疫力に非常に優れた海藻として脚光を浴び始めている。

低カロリーでミネラルや食物繊維が豊富な、ちょっとした健康食品としか思われていない海藻だが、どんなふうに生えているのか想像したことはあるだろうか。

海藻たちは、海の中でとても美しい森を生み出し、私たちを魅了してくれる世界を創っているのである。

伊豆の海は、世界に誇れる美しい海

雨が降り、その水は川へ流れ、そして海へと運ばれていく。水はそうして循環し、ともに巡る栄養分から生まれた海藻は、海底で森を形成し、美しくたゆたっている。

海藻はほとんどが一年草で、秋に芽生えて冬に大きく成長し、春に胞子を放出、そして夏前には消えていく。

生息する種類は、水温が低いところと高いところ、海の深いところと低いところなど、場所によって異なる。

特に伊豆の海は、日本の中でも海藻の種類がもっとも多い場所の一つで、豊かな海を構成している。

その要因は、(1)伊豆半島の地形が変化に富んでおり、ぎざぎざした形を織りなしている、(2)水温が一年を通して1.5度違う、(3)海水の透明度が高いため、海底の海藻まで日光が届きやすい、(4)肥沃な大地から水が流れ込んでいる、という4点にある。

そういった環境であるため、海藻の調査・研究がよくなされている土地である。

1854年、ペリーが下田に入港した際、植物採集家・ライトが同船しており、下田湾の海藻を採取。

30種類が新種として報告された(その中の一つ「オオバモク」の学名には、黒船のキャプテン・リンゴルドの名前がついている)伊豆には、日本が世界に誇れるほどの美しい海の世界が広がっている。伊豆に住む野田氏は、海辺に打ち上げられた海藻を冷凍保存して保管。

それを「海藻おしば」のワークショップで使用している。私たちの糧となり、アートとしても楽しませてくれる海藻。

実は海藻は地球にとって非常に重要な役割を果たしているのだが、その働きを知っているだろうか。

海の森を大切に。地球環境のことを一人ひとりが考えよう

私たちの呼吸に必要な酸素は、地上に生える木ではなく、実は「海の森」、つまり海藻が光合成を通じて排出している酸素の方が多い。

とどまることなく、常に海中をゆらゆらとたゆたっている海藻は、光合成を通じて二酸化炭素を減らし酸素を作り出すだけでなく、海のゴミを受け止めそのゴミを食べるためのバクテリアを生み出している。バクテリアを食べる小エビがいて、それをまた食べる小魚がいて大魚がいてと、海の食物連鎖へとつながっていく。また、大きな魚から身を守るための小魚たちの隠れ場所になったり、卵を産み、育つまでの住処となる「海のゆりかご」としての役割も果たす。

しかしその海の森が、今、危機にさらされている。地球温暖化による水温の上昇、無理な埋め立てによる海の汚濁…。

この30年で海水温度は1.2度も上がっているという。海の生き物にとって、温度が1度上がるということは人間にとって4〜5度上がるということに相当する。

汚れた海は太陽の光を遮り、光合成ができずに海の森はどんどん消えていっている。海の生き物の住処が奪われ、酸素が減り、さらなる地球温暖化へと悪循環を招く。

木が伐採され森がなくなるということも、地球環境へ悪影響を及ぼすことは知っての通りだ。しかし、海の森のことも知ってほしいと野田氏は訴える。

私たち一つひとつの行動が地球や海にとってどんな影響を及ぼすか、しっかりと考えていくことが重要だ。

ワークショップを通じて海藻と友達になって、そして海をもっと大事にして欲しい。野田氏は海のことを熱意を持って語ってくれた。

講師紹介

野田 三千代(のだ みちよ)
野田 三千代(のだ みちよ)
海藻おしば協会会長
(現)静岡県工業技術研究所デザイン室を経て、筑波大学下田臨海実験センターで海藻の生理生態学の研究補助へ就く。そのかたわら、従来の海藻標本を改良した「海藻おしば」を創出。全国で海藻おしば展と海藻おしば講座を開催し、海藻の美しさを通して海の環境啓発活動を長年続けている。環境大臣特別賞、日本の自然保護協会沼田眞賞を受賞。著者多数。サイエンスコミニュケーションの研究家として専門家からの評価も高く、指導者育成にも力を入れている。