スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2015年6月28日(日)14:00~15:30

西澤 和夫(にしざわ かずお) / 草笛演奏家/オカリナ製作家

身近なものから豊かな心を育てる~野の楽器「草笛」~

自然豊かな二子玉川。私たちの身近にある「みどり」が、楽器になることをご存じですか?唇に当てた葉っぱに息を吹きかけることで、葉っぱが振動して音になる。もっとも単純なリード楽器で独特な音色を醸し出す「草笛(「柴笛」とも言う。)。その「草笛」の歴史や吹き方、音の出し方の体験を通じて、自然との共生、これからの生き方について参加者みんなで考え共有する時間となった。

1枚の葉が生み出す伸びやかな音色

「『草笛』という言葉は知っていても、実際にその音を、しかも曲として聞いたことがある人は意外と少ないと思います」という西澤氏の言葉から始まった今回のセミナー。まずは自己紹介代わりに『アンパンマンのマーチ』と唱歌『故郷』を披露。想像以上に伸びやかな音色が響き、参加者から驚きの声が漏れたところで、草笛の説明とルーツから。

「野にあるものを吹いて音を出すものは、すべて草笛と呼びます。葉、花びら、茎など、素材に制限はありません。葉を丸めてリコーダーのような形にして吹くものも草笛です。その中で、今日、皆さんに体験してもらうのは、1枚の葉に唇を当てて音を出す“柴笛”と呼ばれるものです」

柴笛にはカシやモチノキなどの広葉樹の葉が使われることが多いが、西澤氏は「自分に合った葉を長年にわたる経験から、現在は“とある公園の”シラカシの葉を口にフィットするようにカットして、フィルムケースに入れて持ち歩いている」という。

演奏用には、そうした葉を準備する一方、どこを歩いていても「目に入った葉は、ついつい吹いてみたくなる」のが草笛吹きの習性。

「葉は種類によっては勿論、季節によっても、硬さ、厚さ、弾力が違うので、例えば春は柔らかな音、夏は張りのある音という具合に、四季を感じられるのも楽しいですよ」

そんな草笛のルーツを辿っていくと、遠く中国・雲南地方の山岳民族に行き着くのだとか。

「山あいでの合図として主に用いたらしいですが、女性がプロポーズする際にも重要な役割を担っていたようです。それが後の唐の時代に宮廷音楽に取り入れられ、日本には九州から伝来。薩摩藩では武士のたしなみとして草笛が奨励されていたという話もあります」

いよいよ実際の草笛にチャレンジ!

「豊かな自然を残すためには、自然を楽しめる人が増えればいい」というコンセプトで企画された草笛講座。参加者は「幼い頃に少しだけ」という程度の、ほぼビギナーが大半。そんなメンバーのために、今回、練習用として用意していただいたのは、青々としたニセアカシアの葉。d-labo二子玉川から徒歩5分ほどの多摩川河川敷にある兵庫島公園で採集したものだ。5~6cmの楕円形をした葉は「柔らかく息で揺らしやすいので初心者向き」。練習中に破れたり萎れたりしたら、どんどん新しい葉に取り替えてOK。むしろ「葉が切れるのは息がきちんと当たっている証拠」なのだそう。

具体的なレクチャーの前には西澤氏からの、こんな一言が。

「ビギナーが1日で曲が演奏できるようになるのは99%無理です。なので、今日の目標はズバリ“音が出ること”。ここさえクリアできれば大丈夫。逆に言えば、ほとんどの人がこの段階で挫折してしまうので、がんばってください」

早速、約15分間の実践練習がスタート。「両手で葉の両端を持ち、上唇を葉の上の部分にかけるようにして当て、強く息を吹きかけます」という言葉に倣い、奮闘する参加者たち。すぐに音が出た人は「音が出た時に唇のどこが揺れたか覚えておくこと」、なかなかコツがつかめない人は「少し上唇をなめて葉を密着させて」などのアドバイスを受けつつ、徐々に上達していく姿が微笑ましい。

ポイントは、葉の「①持ち方、②当て方、③吹き方」の3つ。音が上手く出ないのは、②当て方が悪いのが最大の要因。「口の両端を引き締めて、唇は薄く開けるように」と励む参加者からは、「息を吹きすぎて顔の筋肉が痺れる」といった感想もちらほら。

ここで、「草笛は息を吐くだけなので、長時間やり過ぎると酸欠になりますから、たまに深呼吸をしてください」と西澤氏。一旦、休憩を兼ねて『星に願いを』や『ドレミのうた』など、見事な演奏で楽しませてくれる。「葉の表裏に関係なくコンスタントに音を出す」だけでも苦労している参加者からは、改めて惜しみない拍手と尊敬の眼差しが送られていた。

草笛を通して自然と親しむ

引き続き行われた後半では、「音が出たら、その音を伸ばすことを意識して」「“プー”から“ピー”へと音が変化したら1段階ステップアップ」など、各人のレベルに合わせた練習を実施。中には、早くも音階が出せるようになる参加者も現れ、会場のテンションは一気に上昇。「通常2~3週間の練習が必要」という、救急車のサイレンのような“ピーポー、ピーポー”という音に歓声が上がる場面もあった。

「音階は、ある日突然2~3音が出せるようになります。それにはまず、ひたすら基礎練習を繰り返すこと。最初の1週間で徹底的に基本を身に付けると、その後の伸びしろが違います。これは草笛に限らず、何事にも通じる原理でしょうね」

そのための自主トレとして、スーパーなどで売っているベビーリーフを使う方法を紹介。「破れたら、そのまま食べてしまえるので便利ですよ」とはユニークな提案。サラダ菜やホウレンソウなど、葉もの野菜なら何でも応用が利くところも実践向きだ。

ちなみに、音階の調節は口笛と同じように、「舌の位置を変え、口の中の空気の容量を変化させる」ことで行なうという。西澤氏が出すことができるのは2オクターブ。その名人技を『川の流れのように』で堪能させていただいた。

「この曲を聞いてもらうと皆さんサビの高音に感心されますが、柴笛で難しいのは小さな音、低い音、速い曲なんです。『川の流れ~』で言えば前半部分の方がマスターするのは大変ですね」

ほかにも『となりのトトロ』や『アメージング・グレース』といった数々のレパートリーで魅了してくれた西澤氏。「草笛を吹いて25年。単なる楽器として付き合うだけでなく、緑の色の多様さや匂いの違いなど、植物そのものに広く興味を持つようになりました」と語る様子は、さながら森に暮らす仙人のよう。

質疑応答では、合奏の難しさや、皮膚がかぶれる可能性のある植物について丁寧に解説いただき、最後は「草笛が自然とのコミュニケーションのきっかけになってくれたらうれしいですね」と目を細めていた。

講師紹介

西澤 和夫(にしざわ かずお)
西澤 和夫(にしざわ かずお)
草笛演奏家/オカリナ製作家
東京都日野市在住。草笛歴25年。たった1枚の葉っぱを美しい音色の楽器に変えてしまう草笛演奏者。 元々は野の遊びである草笛(柴笛)を音楽性豊かに様々な場面で伝える活動をしている。 また、オカリナ製作者としても活動している。