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イベントレポート

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2015年7月4日(土)14:00~16:00

キム・スンヨン、SUGEE /

『映像』と『音』の旅~都市で世界を感じよう~

世界中を旅し 「チベットチベット」など数々の作品を世に送り出してきてきたキム・スンヨン氏と、旅の中からいくつもの曲やアルバムを生み出してきたSUGEE氏の「旅心」や「自由」を感じさせる映像とお話を楽しんだ。

留学のはずが世界一周?!

海外渡航の自由化から約50年が経過し、海外旅行のスタイルは多様化の一途を辿っている。昔ながらの物見遊山的な団体ツアーばかりでなく、例えばメジャーリーグでプレーする日本人選手の応援であったり、発展途上国でのボランティア活動であったりと、個々人のテーマが明確な旅行が増えている。また、書店の店頭には世界の絶景を集めた本が並び、TVを付ければ魅力的なクルーズ船の様子が紹介されるなど、旅心は刺激されるばかりだ。

とはいえ、無尽蔵に時間や予算がある人ならともかく、日々忙しく生活していると、ちょっとした週末旅行でさえもままならないのが現実。そこで今回のセミナーでは、2人の“旅の達人”をお迎えして、つかの間の“ディープな旅”を疑似体験させていただいた。

キム・スンヨン氏は、学生時代からアルバイトをしては2~3か月の旅を繰り返す、筋金入りのバックパッカーだった。――と聞くと「あぁ、そういう人いるよね」となるが、彼が平凡なバックパッカーと違うのは、在日コリアン三世だということ。日本で生まれ育ち韓国語もほとんど話すことのできないキム氏にとって、「自分が何人であるか?」というアイデンティティーは確かなものではなかったという。

「祖父母や両親から『民族の誇りを大切に!』と強く言われてきたことに、かえって反発を覚えていました。当時は、いわゆる通名も使っていましたし、自分が在日コリアンであることが重荷になっていたんです」

そんなモヤモヤとした思いを抱えながら、鍼灸接骨師になるための学校に通っていた彼は、「上海の中医薬科大学の鍼灸科に留学する」と両親に宣言。その費用200万円を手に、留学ではなく、なんと世界一周の旅に出発してしまう。

スタートは1997年。今でこそ、スマートフォン片手の海外旅行が当たり前になっているが、当時はバックパッカーが高額なデジタルデバイスを携えていること自体が珍しかった。だが、キム氏はビデオカメラを持って旅に出た。そして、そのことが彼の後の人生を大きく左右することになったのだ。

まさかの映画監督デビューへ

2年3か月に渡る旅の途中で、チベット問題に出会ったキム氏。「この問題は決して歴史の教科書に載っている過去の出来事ではなく、紛うことなき現実だ」と痛感した彼は、「その実情を伝えなければならない」という使命感に駆られ、ビデオを回し続けた。やがて、ダライ・ラマ14世への同行取材が実現。それらの映像をベースにした『Tibet Tibet』で映画監督としてデビューすることになる。

ここで、オレゴン国際映画映像祭最高賞に輝いた『Tibet Tibet』を上映。韓国からインドへと至るアジア横断の旅を追体験しているような85分間。政治的な問題を扱いながら、決して声高に主張を述べることなく、一人の青年の物理的および心理的な旅の足跡を追ったロードムービードキュメンタリーだ。

作品に介在するのは、やはり在日コリアンとしての視座。「日本人だとか韓国人だとかにとらわれず、世界市民として生きていこうと思っていた私にとって、民族性を守るために命を賭するチベット人の姿は、最初は共感しにくいものでした」というキム氏。ところが、「自分と同じような年齢のチベット人がひどい迫害や拷問を受けている事実」を追ううちに、改めて自らの民族性について考え、最終的には、その呪縛から解放されていく。チベット人とインド人が一緒に生活する北インドの街・ダラムサラでの日常に、日本の在日社会のあり方を重ねる件などは、民族性について幼い頃から自覚的であることを余儀なくされてきたキム氏ならではのアプローチだろう。

アジアのルーツを辿る新たな旅

上映後は、もう一人の講師であるSUGEE氏を交え、作品や旅について語っていただいた。

d-labo二子玉川にさりげなく配された植物たちのプロデュースをするSUGEE氏も、学生時代から旅に明け暮れてきた生粋の旅人。「キムさんの作品のなかで『Tibet Tibet』が一番好き」で、とくに「ダライ・ラマ14世の言葉に深く感銘を受ける」のだと話す。

「過酷な山越えの末に亡命を果たした若いチベット人僧侶と、ダライ・ラマ14世が初めて面会するシーンがいいんです。死ぬ思いでインドまでたどり着いた彼らに対して、観念的な説教ではなく、実に具体的な生活上のアドバイスをする。――あぁ、なんて体温の通った言葉だろうと思って、グッときてしまいます」

実際に10日間行動を共にしたことのあるキム氏は、ダライ・ラマ14世を「まるでクジラのような人」だと表現する。

「圧倒的な存在感がありますね。1つの宗教や国の指導者という枠を越えた、世界的な賢者と言うべき存在だと思います」

同じ旅人として共鳴する二人。実は現在、新作映画について興味深い計画が進行中だ。タイトルは『OCEAN to SUMMIT ガンジス~ヒマラヤ』。フジロックフェスティバルにも出演するミュージシャンSUGEE氏念願のSOUND JOURNEYだ。

「インドのコルカタを出発し、SUGEEさんが現地のミュージシャンとセッションを重ねながらガンジス川を遡り、最後はヒマラヤまで旅する様子をロードムービーにしようと考えています。彼が旅先の人達に溶け込んでいく姿、そしてミュージシャン同士の魂の交流をカメラに収めることができたらいいですね」(キム氏)

「ガンジス川はもちろん、長江やメコン川など、アジアのほとんどの川はヒマラヤを源流としています。それは多分、我々にとって必要不可欠な水だけでなく、アジアの心そのものも、ヒマラヤに源があるということなのではないか? そんな思いから生まれた旅です。ぜひ、実現させたいですね」(SUGEE氏)

最後はSUGEE氏がジャンベ(西アフリカの打楽器)を使った即興演奏を披露。伸びやかなボーカルと力強いリズムに包まれていると、二子玉川の高層ビルにいることを忘れ、どこか遠い国に来たかのような気分。たっぷりと旅の気分を堪能した参加者からは熱い拍手が送られ、2時間のセミナーは終了を迎えた。

講師紹介

キム・スンヨン、SUGEE
キム・スンヨン、SUGEE

キム・スンヨン(写真左)
ドキュメンタリー映画監督、バックパッカー。
滋賀県出身の在日コリアン三世。韓国語は話せない。バックパッカーの経験から海外を扱ったドキュメンタリーを多く制作。2011年より伊豆大島に移住。現在は大島と東京を高速艇で行き来して上映、講演、メディアへの出演活動を行なっている。主な作品「Tibet Tibet」(2005年再編集版)オレゴン国際映画映像祭2007年最高賞、「雲南Colorfree」(2007)、「ククル~UAやんばるLIVE~」(2009)、「呼ばれていく国インド」(2012)「桂由美マザー オブ ザ ブライド」(2014)

SUGEE(スギ) (写真右)
群馬県館林市生まれ。90年代後期より、沖縄、東南アジア、中南米、キューバ、西アフリカ等を旅し、各地の祭礼音楽との交流の中から、唄と打楽器という独自のスタイルを確立。また、各地のシャーマニズムで扱われる薬効を持った植物に深くインスピレーションを受け、帰国後は植物を使った空間コーディネーターとしての活動も開始。現在、アーティストとして国内外で活動中。都市における癒しと喜びを人々に提供することをライフワークとしている。2014年7月アルバム「DRAGON PLANET」をリリース。