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イベントレポート

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2015年7月9日(木)19:00~21:00
2015年7月16日(木)19:00~21:00

神野 紗希(こうの さき) / 俳人

季節と暮らす、言葉と暮らす 女性のための俳句入門「短夜句会」<第2回・第3回>

同じ毎日の繰り返し、ありきたりの日々。そんなふうに思っていた日常も、俳句と出会うと、かけがえのない一回きりの瞬間の積み重ねであることに気づく。今日は月がやけに赤い、ポプラの葉が色づきはじめた、会社の後輩が柑橘系の夏らしい香水をつけていた...。ビルの谷間にも、季節は確実に巡ってくる。明日は何が起きるのか、明後日はどんな世界と出会えるのか。忙しく過ぎてゆく毎日の中に埋もれていた、自分だけの特別な瞬間を、一句に詠んでみる。五七五のリズムにのせた、世界でいちばん短い詩、俳句。夏の短夜のひと時、言葉を紡ぎ読み解く楽しさを、と一緒に味わった。

2回目:短夜句会
   ・作品を持ち寄り、感想を伝え合う、句会を体験

3回目: 俳句を贈る
   ・mini句会&懇親会

句会で楽しいのは最後の合評

神野紗希氏による「俳句入門」の第2回、第3回は参加者それぞれが句を持ち寄っての「短夜句会」。まずはほとんどが句会は初めてという参加者に向けて、講師から「句会の進め方」について説明していただいた。

日本には「結社」と呼ばれる俳人のグループが角川学芸出版の『俳句年鑑』に掲載されているだけでも約1,000あると言われている。

「結社は小さなところで30人ほど。大きいと1,500人から3,000人。この人たちが何をやって俳句を楽しんでいるかというと、こうやって集まって句会をやっているんですね」

句会は俳人にとって「初めて読者に出会ってアドバイスをもらう場」。進行手順はだいたい以下の5段階となっている。

①投句 参加者は無記名で自分の句を短冊に書いて提出。全員分の短冊が集まったところでシャッフルし、均等に配布する。
②清記 配られた短冊を、筆跡で誰の句かわからないように別の人が清記用紙に書き写す。ここで大切なのは写し間違えないこと。誤字があってもそのまま書き写す。
③選句 すべての句の中から自分の句以外の気に入った句を選ぶ。今回のセミナーでは四句を選び、うち三句を「並選」、一句を「特撰」に。何句を選ぶかは句会によって違う。
④披講 選んだ句を各自が口頭で発表。このときまず自分のファーストネームか俳号を用いて「○○選」と言い、選んだ句を〈1番〉、〈15番〉など、ついている番号を言ったあとに詠みあげる。特選の句は最後に持ってくる。ここまで済めば句会はひととおり終了。
⑤合評 それぞれの句について、選んだ感想や気に入った点などを語りあう。その句について合評が終わった時点で初めて「これはどなたの句ですか」と作者が誰か明かされる。
句会の特徴は、最後の最後までそれが誰の詠んだ句がわからないところ。自分の句がどんな評価を受けるのか、「俳句を出すときはみんなドキドキしている」という。いちばん楽しいのはやはり最後の「合評」。なぜこの句を選んだのか。いったいどこがおもしろかったのか。この合評では「好き放題に言いあってかまわない」。批判も褒め言葉も、すべては作者ではなく俳句に向けられたものだ。

「何か言われても自分が嫌われているわけではありません。みなさんも俳句をやっているとだんだん神経が太くなっていくと思います」

「炭酸水」に託した夏のイメージ

今回の合評は選んだ人の感想の他、講師からの「こうすれはもっとよくなる」というアドバイス付き。2回の句会では、神野氏が決めた「キャベツ」、「短夜」という夏の季語を使って一句ずつ、他に自分が気に入った夏の季語を選んで一句。二句ずつの俳句を参加者全員に提出してもらった。

選句までが済んだところで講師を司会に披講。選ばれた句を「1点」として数えて、どの句が何点だったかを計算。ここではいちばん点数の高いものを最後にまわし、2番目に点をとった句から順々に合評していった。1回目の句会で次点の「5点句」として発表されたのは次の二句。

  男って単純キャベツざくざく切る

  キャベツ切る音も母に近づきぬ

先の一句は実は「紗希=講師」その人の作。選者からは「擬音のイメージが何かいい」、「音の流れがいい」と「ざくざく」という表現を評価された。後の一句は作者いわく「料理上手な母に近づきたい」という思いから作られた作品。「自分と母親の味が似てくるというのはよくあるけれど、音が近づくというのは新しい発見。素晴らしい発想ですね」と神野氏。アドバイスとしては、「しいて言うなら〈母に〉ではなく〈母へ〉とした方が、広がりが出ていいかもしれません」。 

8点という最高点を獲得したのは以下の句。

 炭酸水泡の向こうに見える夏

 はじける泡と炭酸水の透明感は「まさに夏」。一方で、いずれ抜けてしまう炭酸が「夏が持っている儚いイメージとぴったり」。神野氏からも「とても美しい句。8点文句なしですね」と高い評価を得た。

読者に考えさせるのが「俳句」

一週間を置いて開かれた2回目の句会では「風鈴」という季語を使った句が最高点に。

 風鈴は空のかけらよ手紙書く

次点は「宿題」の「短夜」が入った句。

 短夜や友と語らい子にもどる

句会の前には俳句の基本的な表記法をクイズ形式で紹介。紙媒体で俳句を表記するときは五七五を一行で、間に一字空けなどは設けずに記すのが原則。理由は「俳句によっては句またがりの句もあるから」だ。ただし、色紙や短冊などに書く際は「改行してもいい」。

ちなみに俳句と同じ五七五の詩型をもつ表現には川柳がある。俳句と川柳の違いはというと、よく「俳句には季語を用いるけれど川柳には用いない」という説明がされるが、俳句の中には季語を使わないものがあるし、逆に川柳にも季語を含むものがあったりする。両者の違いはむしろ「わかりやすさ」だ。

「川柳の魅力はぱっと見ておもしろさや作者の狙いがすぐわかるところです。俳句はというと、間に〈切れ〉という空白があることで、どこか読者に問いかけているものがある。十七音しかない俳句というのは無口な子どもに似ている。何でここで〈切れ〉があるのかと読者に考えさせるのが俳句なんですね」

「嬉しい」や「楽しい」といった感情も、そのまま書かずに状況を通して表現する。複雑なことを表現したいときは、むしろ個別な細かな出来事を表現する方が伝わりやすい。これが今までの俳人たちが培ってきたエッセンスであり、上質な俳句の「コツ」だという。

俳人としての神野氏の「夢」は「いい俳句を少しでも作ること」。そして「古くさい」という俳句のイメージを変えることだ。

「人の心にぐさっと刺さる素敵な俳句はたくさんあるのに、それが今の世の中では見えるところにディスプレイされていない。こんないい句があるんだな、ということを発信できる機会がもっとあればと思っています」

講師紹介

神野 紗希(こうの さき)
神野 紗希(こうの さき)
俳人
1983年、愛媛県松山市生まれ。高校時代、俳句甲子園をきっかけに俳句をはじめ、その後NHK・BSの句会番組「俳句王国」の司会、Eテレの初心者向け俳句講座「俳句さく咲く!」選者を務めた。俳句を詠んだり文章を書いたりする傍ら、句会や講座を通して俳句の魅力を伝えている。句集に『星の地図』(マルコボ.com)、『光まみれの蜂』(角川書店)、共著に『これからはじめる俳句川柳 いちばんやさしい入門書』(池田書店)などがある。現在、明治大学兼任講師。