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イベントレポート

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2015年7月26日(日)11:00~12:30 / 14:00~15:30

斎木 健一(さいき けんいち)< / 千葉県立中央博物館 学芸員

スマホ・デジカメで図鑑を楽しむ

「スマホやデジカメで虫や花を撮影し、家に帰ってから図鑑で名前を調べる。」この組み合わせは、自然と親しくなるための最高のツール。今回はデジカメと図鑑を使いこなすためのコツを伝授いただいた。

カメラは生き物観察に最適なツール

書店や図書館には多種多様な図鑑が並んでいるのに、いざ、身近な生き物のことを調べようと思うと、その生き物の名前にたどり着くことができない。そんな経験をすると、なんだか面倒になり、せっかく興味がわいた生き物との距離が縮まらずに終わってしまう。それでは、あまりにもったいない。そこで、1000冊以上を所有する図鑑コレクターでもある斎木氏に、身近な生き物と親しくなるための、適切なスマホやデジカメの撮影術と、図鑑の調べ方について教えていただいた。

「はじめに皆さんに知っていただきたいのは、カメラは生き物観察の入門に最適なツールだということです」

1つめの理由は、「カメラのレンズを通すと恐怖心が薄れる」こと。確かに、苦手意識がある人は、そのままでは、なかなか昆虫などに近寄ろうとしない。しかし、一旦カメラを手に取ると、どうやって細部までリアルに撮れるかに集中して、どんどんと被写体に近づいていく。「その証拠に…」と画面に映し出された少年がカメラを構えているのは、虫かごの中のヘビ。それなりの大きさ、かなりの至近距離だが、怖がっている様子は微塵もない。聞けば斎木氏の息子さんだという。

2つめの理由は、「後から図鑑で調べられる」こと。人の記憶はあやふやで、「図鑑に『この虫は、足の付け根が〇〇色なのが特徴』と書いてあっても、目の前で見ている時はそこまで意識していない」ことがほとんど。その場で何回でも気軽に撮影できるスマホやデジカメは、非常に便利だ。

「実際、最近の図鑑は『あえて、生きた昆虫をそのままの姿で撮影した』写真を掲載するものが多く、初心者が調べやすくなっています。昔ながらの『標本的写真』(例えばセミやチョウの羽を広げて撮影したもの)を使った図鑑は、その虫の特徴がすべてわかるようになっていて、上級者向けといえるでしょう」

基本をおさえた“名前のわかる撮影法

博物館学芸員である斎木氏のもとには「この植物は何ですか?」という問い合わせのメールが送られてくることもあるという。しかし、添付された写真がピンぼけだったり、肝心な部分が写っていないことも多く、調べようがないことも。そこでまずは、「自分の使っているカメラに慣れる」ことからレクチャーはスタートした。

デジカメの場合、「AUTO」ではなく、ある程度自分好みに調節が利く「P(プログラム)」モードにすること。シャッターを半押しして、きちんとピントを合わせること。スマホの場合は、画面上でピントを合わせたい箇所にタッチして、四角い枠が表示されたことを確認してから撮影ボタンを押すこと。また、高級な機種や古い型のカメラは、チューリップのイラストが目印の「マクロ撮影」モードにすることなど、基本をおさえていく。どうしてもピントが合わないときは「被写体に寄りすぎている可能性が高いので、1歩下がってみると、たいていは解決できる」という。

次は、白い紙の上に昆虫の模型を置いて、明るさの調整。カメラは白を「白い色」だとは判断せず、「光が多い」と認識して、「全体として中間の光量」にしようと、被写体を暗く写してしまう。そこで「EVシフト(露出補正)」によって、被写体がちょうどよく写るようにコントロールを行う。今回、デジカメの場合は「+1.3~2.0」。反対に背景が暗く被写体が白っぽくとんでしまう場合は「-」に調整することで、「一番撮りたいものがきちんと写った」写真になる。スマホの場合は、ピント合わせの四角い枠の横にある太陽マークを上下させればOKだ。

そして、いよいよ実物撮影へ。今回は、本物の植物と昆虫を用意していただいたが、「より種類の特定が難しい」植物をメインに、「名前のわかる撮り方」について学んでいく。

後から見ても大きさがわかるように、被写体に自分の指を添えて撮る。葉は種類を特定する上でヒントになりやすいので、ギザギザの有無や、茎から左右対称に生えているか、互い違いに生えているかなどを細かく写す。できれば、葉の表裏両方の写真がある方がベター。1枚で撮りきろうとせずに、花、葉、根のパートと分けて撮影する…などなど。普段、植物を撮るときには考えたこともないようなポイントに、参加者一同、納得の表情だ。

「雑草」が「オニノゲシ」になる瞬間

今回、撮影した植物を調べるのに使うのは、インターネット上に公開されている『野草・雑草検索図鑑』。斎木氏自身が手がけたもので、「校庭や公園で目にする植物の8割ほどを網羅」しているという。試しに、目の前にある、いかにも道端で見かける雑草然とした草について調べてみる。

花が咲いているものは花から調べるのが絞り込みやすいので、最初に「花の色」をクリックし、「黄色」を選択。少し対象範囲が狭まったところで、「花の形」をクリックすると「4弁」「5弁」といった花びらの数のほか、「単穗」「複穗無柄」など聞き慣れない単語が並ぶ。しかし、それぞれに単純化されたイラストが表示されているので、用語がわからなくても大丈夫。「多弁」を選択し、さらに「葉の形」から「ヘラ状深裂」を選ぶと、9つの植物にまで絞り込むことができる。あとは、その写真と実物を見比べて、名前を特定するだけ。目の前にある「雑草」が「オニノゲシ」の仲間であることが判明すると、急に愛着がわいてくるから不思議なものだ。

ほかにも、数種類の植物を検索。また、『葉と花で見分ける野草』(近田文弘監修/小学館)、『形とくらしの雑草図鑑』(岩瀬徹著/全国農村教育協会)など、使いやすい書籍の図鑑も紹介して、植物の撮影は終了。その後は、逃げる可能性のある昆虫の野外撮影のポイントを教わったり、ミヤマカミキリや、コフキコガネなどの生きた昆虫を撮影し、参加した子どもも大人も大興奮。膨大なコレクションの中から持参いただいた図鑑の数々を見ながら楽しい時間を過ごした後、斎木氏は次のような言葉でセミナーを締めくくった。

「校庭に生えている草がなんだかわかると、近所にも同じ草がたくさん生えていることに気づきます。すると次第に、今度は、標高の高い場所に行くと、近所のものとは違う種類の草が生えていることにも気づくようになるんです。ただ漫然と『山は緑が多いなぁ』ではなく、自分の生活圏とは異なる植生だと認識することができる。つまり“自然の質”の違いがわかるんです。私の夢は、そんな自然の質がわかる子どもが、もっともっと増えてくれることですね」

講師紹介

斎木 健一(さいき けんいち)<
斎木 健一(さいき けんいち)<
千葉県立中央博物館 学芸員
神奈川県横浜市生まれ。友人と野草や樹木の検索サイトを製作・運営中。男の子三人を連れて山で虫を採り川で魚を捕り、浜で野鳥を観察しているうちに図鑑で調べやすい生き物写真の撮り方を考えるようになる。
野草雑草検索図鑑(スマホ/PC用)http://chiba-muse.jp/wf2014/
野草雑草検索図鑑(PC用)http://chiba-muse.jp/yasou2010/
樹木検索図鑑 http://www.chiba-museum.jp/jyumoku2014/kensaku/