イベントレポート
2015年7月26日(土)13:30~15:00
伊藤 憲男(いとう としお) / 毛髪診断士
女性のイキイキ艶髪を手に入れる
~髪に優しいお手入れ方法~
近年、育毛をサポートする商品が続々と発売されている。しかし、実際のところ使われている成分やケア方法についてきちんと理解し、使用している人は少数ではないだろうか。そこで今回は、株式会社アデランス研究開発部に所属する毛髪診断士で、多岐にわたる研究開発プロジェクトリーダーである伊藤氏を講師に招き「髪に対する正しい知識」や「髪と健康との関係性」などについての話を伺う。健康な髪でいつまでも若々しく元気な女性でいるためにはどうすればいいか、プロならではの視点からわかりやすくアドバイスしていただいた。
髪についての基礎知識

髪は我々の体のひとつの臓器で、その組織は大きく毛幹と毛根に分けられる。
毛髪は細い繊維が集まっている構造で、縦に裂けやすいのが特徴。繊維を覆っているのがキューティクルでこれが剥がれると髪の繊維が露出し、枝毛などの原因となる。
加齢などとともに色素細胞が作られなくなると黒かった髪に白髪が混じってくるがその原因はわかってきているものの、予防などの対策は現在のところまだ発見されていない。
頭髪の成長速度は一日に約0.35mm、1カ月で約1cm、頭髪の数は約10万本、その寿命は約2~6年、直径は0.06mm~0.08mm、通常の抜け毛の本数は一日に100本、季節では特に秋に抜け毛が増加する。
では髪のダメージとなる要因はどんなことだろう?
まず、紫外線と乾燥。紫外線によりキューティクルが傷つき、乾燥によって髪の内部がもろくなるとキューティクルの隙間から内部の物質が流れ出してしまう。
これを防ぐには日傘や帽子、髪用の紫外線防止剤などで髪を保護することが効果的だ。
次にドライヤーやアイロンなどの熱によるダメージ。過剰な熱で髪が変形し、内部外部ともにダメージを受けてしまう。
とはいえ、シャンプー後に濡れた髪を乾かさずにいることも良くないため、ドライヤーは20㎝ほど離して使用する、1カ所に長時間かけすぎないようにすることが大切だ。
更に、ブラッシングのしすぎやシャンプー後にタオルでこすることもマイナス。摩擦により髪の表面が損傷し、枝毛や切れ毛の原因になりやすい。
髪がもつれて引っかかりやすいときには無理せず毛先から少しずつ梳かし、タオルドライはそっと押さえるようにすると良いだろう。
最後に塩分や塩素、薬剤によるダメージ。
海水に含まれる塩分やプールの塩素にはタンパク質を分解する力があるため、海水浴やプールで泳いだ後はトリートメントなど早めのケアを。
また、カラーやパーマの薬剤によるダメージ対策には同時施術を避け、1週間以上の間隔をあけるようにするのがおすすめだ。
「毛根から伸び始める髪は常に新しくまっさらな状態なんです。健康な髪でいるためにはまずこの状態を保つ努力をすること。そして髪は一旦痛むと元には戻りません。そのためダメージを受けたら早目にケア。傷んだ髪をそのままにしないことが大切です」
脱毛の悩みと「ヘアケア三原則」

髪の悩みの中でも特に多いのが脱毛。男性の脱毛の約7割、女性の脱毛の約半数を占めるのがAGAと呼ばれる男性型脱毛。
これは男性ホルモンの働きが影響することによる脱毛で遺伝による個人差が大きい。
男性は20代くらいから、女性は女性ホルモンの働きが低下する50代くらいから増加し、頭頂部を中心に髪が細くなって男性だと5年で約3割の髪が減少するとされる。
この他、円形脱毛症(これは皮膚科で治療が可能)、妊娠、出産に伴う分娩後脱毛、内分泌疾患に伴う脱毛、トリコチロマニア(脱毛狂:ストレスなどから自分で自分の髪を抜いてしまう)、抗がん剤治療など薬剤の副作用による脱毛がある。
これらの原因がわかっているもの以外にも、脱毛への注意は必要だ。
ひとつは、血行不足によって髪の材料となる血液中の栄養分が届かないことがあげられる。
次にストレス。ストレスは髪の成長をコントロールする神経に影響するという。
また、頭皮の過剰な脂や乾燥なども挙げられる。
「頭皮の皮脂や汗はベタつきの原因になり、これが分解されるとニオイの元に。
やがて酸化して頭皮の炎症に至ると痒み・フケ・抜け毛につながることもあります。つまり脱毛を防ぐには頭皮のケアがとても大切なのです」
さて、昔から脱毛にまつわる噂がいくつかあるが、果たしてそれは正しいのだろうか?
・昆布やワカメを食べると髪が増えるは本当?
「健康な髪にミネラルは必要ですが、それだけで髪は増えません。肉や魚に含まれるアミノ酸など他の栄養素も必要です」
・ヒゲなど体毛が濃いと薄毛になりやすい?
「体毛は男性ホルモンの影響を受けますが、必ずしも薄くなるとは限りません」
・薄毛は遺伝なのであきらめるしかない?
「確かに遺伝傾向は強いです。でも、絶対ではありません」
・白髪だと薄毛にならない?
「白髪と薄毛は要因が異なるので関連性はありません」
・頭皮ブラシで頭を叩いていると薄毛の予防になる?
「逆に毛根にダメージを与えることがあるので気を付けてください」
なるほど、噂と正しい知識とは少々異なるようだ。
髪のために心がけたいことを「ヘアケア三原則」としてアドバイスいただいた。
まず規則正しい生活とバランスの良い食事について。
「髪の毛も体の一部、体の健康なくして髪の健康はありません。偏った食生活では髪のための栄養も不足しがちになります」
次に、ストレスについて。
「ストレスは髪だけでなく肌や健康にも影響しますので、溜め込まないよう趣味を持つなど工夫してみましょう。」
最後に頭皮について。
「頭皮はいわば髪の大地。洗いすぎるのも良くありませんが汚れが残らないよう正しいシャンプーを実践しましょう」
脱毛への様々な対処法

脱毛への対処法として育毛・増毛・植毛・ウイッグなどがある。
育毛とは頭皮をケアすることが大切で、第一ステップはシャンプー。
「シャンプーは保湿効果が高く、刺激が少ないものが良いでしょう。自分の髪に合うタイプを選び泡立ちが良いとダメージが少なくなります。
トリートメントと同じブランドのもののほうが相乗効果を得やすいです」
シャンプーは一日一回2度洗いが基本。はじめにたっぷりのお湯で髪を良くすすぎ、よく泡立てて髪全体を洗う。
一旦すすいだ後は少なめのシャンプーを泡立てて頭皮をマッサージするように。
しっかりとすすぎ、トリートメントも充分にすすいだ後早目に頭皮を中心に乾かす。
次に育毛剤。使用感や香りなど自分に合うものを選び3~6カ月間は使用してみること。
朝と晩、頭皮が渇いているときにマッサージをしながら使用すると効果的だ。
「マッサージは手のひらで頭全体を押しながら小円を描くように行ないます。そして襟足からトップに向かって指の腹でらせんを描くように揉みこむ。1日5分を目安にして下さい」
育毛は今ある髪を大切にする方法であり、結果には個人差が出ることもある。
部分的に確実に増やすなら増毛法も。
結毛式増毛法は数本単位の毛束を自分の髪に結ぶ方法のため、色や量を自由に選べるメリットがあるが、一度に増やせる量に限度がある。
植毛とはヘアトランスプラント(植毛術)とも呼ばれ、髪のある頭皮を部分的に切り取り、細かく頭皮へ植える方法だ。
成功率が高く自分の髪で増やせるが、外科手術のため抵抗感がある人も。
確実に自由なヘアスタイルを求めるならウィッグ。オーダーメイドかレディメイドかヘアスタイルや髪の質感などが自分にあっているか、使うシーンを想像し納得するまでサンプルなどで確認することが大切だ。
「髪の悩みは人それぞれですが、最近は様々な解消方法があります。髪は長い友達。これからも自分の髪を大切にしてヘアスタイルを楽しんでください」
講師紹介

- 伊藤 憲男(いとう としお)
- 毛髪診断士
株式会社アデランス 研究開発部所属。内閣府認定公益社団法人日本毛髪科学協会認定資格「毛髪診断士」「認定講師」を取得。東京大学共同研究スカルプケアサイエンス担当。製品開発のかたわら、セミナー講師、雑誌・TVなどマスメディアにも出演。