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イベントレポート

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2015年7月30日 19:00~21:00

羽田 昭裕(はだ あきひろ) / 日本ユニシス総合技術研究所 所長

知識を生み出すミーティングへ!
~新しいコミュニケーション像と人工知能の立ち位置~

地方自治体等で知識を生み出す仕組みとして住民参加型のミーティングを活用する事例が増えている。しかし、中身を見ると今ひとつ議論が盛り上がらないまま多数派の意見に押し流されて全体の意見が決まってしまうことも多い。その解決策として柔軟な思考を持つ人の参加が挙げられる。これにより議論が活発になり、議論の流れを良い方向へと導いて行ける可能性が出て来る。ただし、その反面、まとまっていた議論を乱してしまい参加者の感情的対立を招くリスクを持っている。しかし、もしもこの柔軟な思考を持つ人が人間ではなく、感情のしがらみのない人工知能だったらどうでしょうか?参加者の相互理解をサポートしながら、議論の活性化を促してくれるかもしれないと、羽田氏は語る。議論の中に人工知能を入れることで、どのような知識が出てきて議論が変わっていくのか。遠くない未来の新しいコミュニケーションについて考える機会となった。

ハリウッドでは人工知能が物語を創っている

もしも人工知能(AI: Artificial Intelligence)が企業や団体のミーティング(会議)に参加するようになったらどうなるか。コンピュータ技術が進歩した現在、すでにそれは夢物語ではなくなってきている。今回のセミナーは「2年後の実用化を目指す」という日本ユニシスの羽田昭裕氏が講師。人と人との関係に人工知能が加わった「新しいコミュニケーション像」や、そもそも人工知能とは何なのか、その歴史や開発の経緯を含めてお話しいただいた。

最近は映画やドラマの世界でもお馴染みとなっている人工知能。物語に出てくる人工知能は人間そっくりの声や雰囲気で喋ったり、科学者の頭脳がインストールされていたりと、非常に優れた能力を持っている。もちろん、現状の人工知能の能力はまだそこまでには至っていない。

「人工知能には『強い人工知能』と『弱い人工知能』があります。『強い人工知能』が人間のようにさまざまなことができるとしたら、『弱い人工知能』はある程度パターンが決まっているゲームや翻訳など、ひとつのことしかできません」

とはいえ、すでに人工知能はチェスや将棋では人間を打ち負かしたり、翻訳でも高い能力を発揮している。ハリウッドの世界では新作映画を企画する際に「ドラマティカ」と呼ばれる映画のプロットやストーリーを創り出すソフトウェアが使用されていたりもする。

「今のところシナリオ生成ソフトウェアが創れるのはパターンに沿ったおおまかなストーリーですが、これが進歩したらどうなるんだろうとハリウッドの人たちは考えているはずです」

『考える』人工知能を発展させたベイズ統計学

人工知能は、文字どおり人工的な知能だが、人間の頭の中には「思う」と「考える」という2つのものがある。「思う」とは「心の中にひとつのイメージを持ってそれを維持していく」もの。「考える」は「比較してどれがいいかを選択する」もの。今の人工知能が得手とするのは後者。実際、現在のコンピュータは「0か1かの二進法」で成り立っている。そのおおもとの方法を生み出したのがドイツの哲学者であるライブニッツだ。ニュートンと同時代に生きたライブニッツは哲学者であると同時に数学者でもあり、「『考える』ことは、すべて二者択一の選択肢に分解できる」とし、その計算法まで編み出した。さすがに300年も昔だけに実現はしなかったというが、その構想の中には今でいう計算機のようなものまであったという。それが形になったのが20世紀。「最初のコンピュータ」と言われているのは1946年にエッカート博士が作った「エニアック(ENIAC)」。その後、それを改良したノイマン型コンピュータが登場し、科学の世界に第一次人工知能ブームが訪れる。第二次ブームが起きたのは1980年代。このときは多くの開発者や研究者が、ライブニッツ的な着想をもとに人間が考える多様な選択と判断をコンピュータに埋め込むことで人工知能が発達するのではないかという着想で、それに挑んだ。しかし、「人間の考えていることのすべてを書ききるなどということはとてもじゃないけどできない」。

「で、第二次ブームは去ったんですね。それがやはりできるのではないかと気が付いたのが2000年代でした」

採用されたのは18世紀の数学者であるトーマス・ベイズが生み出したベイズ統計学。このベイズの定理が画期的だったのは「結果から原因を探る」という点。

「コンピュータが『考える』というのは、ルール(選択肢)に従って計算すると結果が出てくるということです。それまでの人工知能は原因から結果、という着想をもとに原因のルールをすべて記述しようとして行き詰まったんですね。それがベイズ統計学だと、逆に結果をもとにひとつの定理でひたすら計算をするだけで原因となるルールを学習できる。非常にコンピュータに向いている定理なんです」

ベイズの定理を採用されたコンピュータ=人工知能は、たとえ最初は答がはずれても単純な計算を幾度も繰り返すことで「勝手にいろんなものを学習する」ようになった。現在人々が手にしているコンピュータは、すべてこうした機能を持っていると思っていい。

「人間では言いにくいことも発言できる」のが人工知能

では、人工知能を会議に導入するのはなぜか。ひとつの流れとなったのは1986年に起きたスペースシャトル『チャレンジャー号』の爆発事故。7名の乗組員が犠牲となったこの事故で、NASAは事故調査のための委員会にあえて外部の人間である理論物理学者のリチャード・ファインマン博士を招いた。内部の人間ばかりでは言いにくいことも外部の人間なら言えるし、当事者では気付きにくいことも第三者なら気が付いたりする。事実、事故の原因となったOリングの不具合はファインマン博士の指摘で公となった。羽田氏が人工知能に期待するのはこのファインマン博士の役割。会議の議論に人工知能を参加させることで、他の参加者に気付きや刺激を与えたり、ひいては理解や発想につなげようというのがこの取り組みだ。

「そのために注目しているのは『モデ脳(モデルを作成できる脳力)』。人間が頭で考えるときの、構造化や抽象化、具体化して図に纏める力です。表された図(モデル)は将棋の棋譜にあたるようなものです。そこを手がかりにコモンセンスに近づけそうだと考えています。」

たとえば「サルも木から落ちる」という言葉がある。ここでは「サル」と「木から落ちる」という概念を、「たまにそうなる」という関係でつないで場面を「構造化」し、それを「達人もたまには失敗する」と「抽象化」して考える。さらに現実にそういう場面を見たり思い浮かべたりするのが「具体化」。会議の場などで人は常にこうしたことを会話や脳内で積み重ねている。人工知能も会議に加わるのであれば、こうした『モデ脳』が求められる。そのうえで整理をしたり、類推をしたり、枠を外したりして選択肢を提供し、「知識を生み出す=発想が豊かになるミーティング」をつくりだす。現時点では「幼児向け教材の仲間外れ探しなどをさせても人工知能の正答率は65パーセント程度」。まだまだといったところではあるが、「人間と違ってバイアスがかからないぶん、ドキッとするようなことも発言してくれます」。発言の方法は、ディスプレー表示による「視覚」に訴えたもの。人工知能は参加者の音声や頻出する言葉を認識し、「意味ネットワーク」というシステムを使ってそこに関連した発言を行なう。テストでは「人工知能を参加させた会議では普通の会議より多くのアイディアが出た」という結果が出ている。将来的に描いている完成形は会議を促進させる「ファシリテーターとしての人工知能」だという。

羽田氏の「夢」は「さりげない人工知能」。

「コンピュータと人間のいい距離感を生んでくれる、そんな人工知能を作りたいですね」

講師紹介

羽田 昭裕(はだ あきひろ)
羽田 昭裕(はだ あきひろ)
日本ユニシス総合技術研究所 所長
1984年、日本ユニバック(現日本ユニシス)入社。
2007年に日本ユニシス総合技術研究所先端技術部長、2011年より現職。
ユニシス研究会サポート委員長、国立情報学研究所客員教授を兼任。