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イベントレポート

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2015年8月2日(日)13:00~15:00

金子 和、福田 徹 /

住育学校
~住まい方について考えよう!~

欧米の小学校では住まいの事を学ぶ授業があるそうだ。しかし日本では住まいについて学ぶ機会は多くない。住育学校は多くの人に住育の大切さを知ってほしいとの思いからスタートした。住まいに関して学ぶことで、自分や家族にとっての快適な住まいとは何かを考え、より良い住まいの選択ができる力を身に付けることができる。
本講座では、住まいについてのさまざまな選択肢のメリット、デメリットを学び、自分にぴったりな住まいやリスクヘッジについて一緒に考えていく。

Aさんの選択に見る、住まい方とお金のこと

「住育学校」とは、一般社団法人住まい教育推進協会が開催する「消費者が自分の住まいについて選択ができる力を養うための学びの場」のこと。通常は全5回のカリキュラムで、「住まい方について」「住育とは」「100年持つ素材」「100年持つ家づくり」「お金の話と間取りの話」について、住育コンシェルジュによる各2時間程度の講義を受ける。今回のセミナーは、言ってみればそのダイジェスト版だ。

まず、湘南地区で不動産販売に携わる福田氏が、「住まい方とお金について」をテーマに、Aさんという架空の男性を主人公にしたストーリーを紹介する。

Aさんは、祖父の代に建てられた築100年の古民家で、大家族に囲まれて育った。都内の大学へ進学し、ひとり暮らしをすることになったところから、ストーリーは始まる。

「最初に、皆さんにひとつの数字を示します。『8,232』。なんの数字だと思いますか? 実は、Aさんの生涯にかかる住宅の費用です。Aさんが、大学生になってから70歳までを、賃貸住宅に住み続けた場合、8,232万円かかります」

内訳はこうだ。大学生になったAさんは、まず都内のワンルームマンションで5年間ひとり暮らしをする。その後、社会人になってシェアハウスで2年間暮らし、25歳で結婚。1LDKの賃貸マンションに5年間、30歳で子供が生まれてからは2LDKに2年間、3LDK2階建て住宅に3年間暮らした。35歳の時点で、これまで払った賃料の総額(引っ越し費用は除く)は1,932万円。

「このまま、あと35年間を賃貸住宅に暮らしたとして計算していくと、18歳から70歳までにかかった賃料は8,232万円になります。家賃は毎月払うものなので、あまり気にしたことがないかもしれませんが、生涯に払う金額は…と考えていくと、その数字の大きさに驚きませんか?」

ここで、セミナー参加者も、自分の今の年齢から70歳まで賃貸住宅に住んだ場合の金額を計算してみることに。

「その金額を、マイホームを取得した場合の金額と比べてみましょう。たとえば4,000万円の物件を頭金500万円、借入金3,500万円で購入。一般的な金利で35年間をかけて返済すると仮定して、月々の支払いは11万円。総支払額は4,581万円になります。さて、賃貸と持ち家、どちらがお得という金額が出ましたか?」

計算の結果は、やはり「持ち家の方が得」。この計算では、修繕費は加算していないが、家賃を払い続けるのと、ローンを払い続けるのでは、結果、家賃の方が高くつくことがわかった。

Aさんも、35歳で、マイホームの取得を決意する。次の選択は、「マンション」か「戸建」か。立地条件、セキュリティ、間取り、管理費、庭の有る無しなど、それぞれにメリット・デメリットがあるので、ライフスタイルや好みに合わせて選ばなくてはならない。福田氏はここで興味深いエピソードを披露。

「住宅購入は、実はほとんどが“衝動買い”です。都内在住の方で、湘南地区で戸建を探しているというお客さまがよくいるのですが、一週間くらい音沙汰がないなぁ、と思っていたら、マンションを買っていた、なんてことことがよくあります。『モデルルームを見に行ったら気に入ってしまって、そのまま契約してしまった』と。逆に、5年、7年と長い間、土地や家を探し続けている人もいますが、こうなるとなかなか買えない。たくさん見れば見るほど、本当にこの家が一番かわからなくなって、決断できなくなるんです。住宅購入は“ご縁”。ちょっと恋愛に似ていますね(笑)」

Aさんは結局、築80年の古民家と出会い、物件を3,500万円で購入し、1,000万円をかけてリフォーム、という選択をする。

「賃貸、持ち家、マンション、戸建と、さまざまな選択があるなかで、いかに自分に合った暮らしを選ぶか。それを考えるのが、『住育』の目的です」

自然の力を活かして建てられた古民家の魅力

第二部は、金子氏による、「土地と資産価値」についての講義。

「住まいを探すときには、まずその土地のことをよく調べておくことが大切です。そのときに役立つのが、地名や、古地図。たとえば“藤沢”という地名は、川のよどみ(淵)ができている場所、ということで、淵沢から藤沢となった、という説があります。地名に沼、沢、溝などの漢字が付くところは、水に関係する場所が多いですね」

住む土地が決まったら、次は家である。金子氏は、「日本の建物は30年経つと、資産価値はゼロになる」と言う。そんななか、注目を集めているのが、古民家だ。

「壊して当たり前のような古屋(ふるや)を買って、リフォームするという方法があります。実は、古民家というのは、暑い夏を快適に過ごせるようにさまざまな工夫がされているなど、日本の気候にあった建物になっているのです。今回は、うちの工務店が施工した鎌倉の古民家のリフォームの写真をお見せします」

スクリーンに映し出されたのは、トタンで囲まれた廃墟のような民家。中庭も草木が生い茂っていて、リフォームくらいで住めるようになるとは思えないほどの荒れようだ。しかし、屋根や壁をはがしていくと、太い丸太のハリや柱が現れて、力強さがあることに気づく。補強すべきところは補強し、日本古来の家づくりの知恵と工夫を活かした、古民家再生が行なわれていく様子を、写真で見せていただく。

「建材は、神奈川県産、国産のものを使います。日本の高温多湿の環境の中で育った木だからこそ、建材になっても長持ちするんです。壁は、夏は涼しく冬は暖かくと調湿作用に優れる漆喰を採用。漆喰は、珊瑚などの化石が蓄積した石灰石を消石灰にしたものを原料にしていますが、時間が経てば経つほど強度が増すんです。ほかにも、いぶし瓦という、群馬県で今や二人しか職人さんがいない、伝統的な瓦を使いました。この瓦は雨の日に含んだ水分を、晴れた日にミスト状に放出してくれるのです」

荒れ果てた古い家屋は古民家再生のプロ職人達の手により見事に再生。自然豊かな鎌倉の風景にじっくりと馴染む、おしゃれで落ち着いた住まいとなった。

昔の家は、自然の力を活かしながら建てられている、と金子氏。自然素材を使った家で育つことは、小さな子供にとっても、大人にとっても、よい影響を与えるはずだと説く。

「昔の素材のよいところのひとつに、劣化せず、味わいが出てくる、ということがあります。その味わいは、時間でしかつくれないもの。そのことが、家への愛着をわかせ、大事に受け継いでいこうという気持ちを呼び覚まします。壊して新しいものをつくる、という発想ではなく、古民家を貴重な資源として再生利用することも、考えていかなければならないと思います」

家族と一緒に住まいをつくっていく喜び

核家族化が進む現代においては、住まいに関する知恵が、親から子へ受け継がれる機会がなくなっている、と金子氏は警鐘を鳴らす。大家族で暮らしていた時代は、日常のなかで、子供たちは家を修繕したり、手入れしたりする様子を見て育ったし、手伝いもした。しかし、新しくて便利で安価なものがもてはやされる今、住まいに関する知識は、意識して教育しなければ伝えられないものになってしまった。だからこそ「住育」が必要になってくるのだ、と金子氏は言う。

「家族と一緒になって住まいをつくっていけたら面白いと思うんです。子供たちが、もっと住まいに興味をもって、たくさんの知識と経験を得てくれたら、と思っています」

住まい方、暮らし方は、何を大切にして、どう生きるかにも通じる。お金のこと、資産のこと、日本古来の住まいの知恵のこと、伝統建築のこと…。多くのことに気づかされたセミナーとなった。

講師紹介

金子 和、福田 徹
金子 和、福田 徹

金子 和(かねこ かず)
住育コンシェルジュ
一般社団法人住まい教育推進協会 住育学校横浜金沢校代表
先祖代々大工の家系で育つも、別分野のモノつくりの仕事を経験。ある時古民家と出会い、先人の知恵や当時の技術の高さに感銘を受ける。現在は「人と環境のために考えた家づくり」を行ないながら未来の子どもたちのための住育活動を行なっている。

福田 徹(ふくだ とおる)
株式会社SHONAN・デザインシステム代表
海のそばに暮らしたいとの思いから湘南に移住して20年。2003年に株式会社SHONAN・デザインシステムを創業し、湘南エリアでコーポラティブハウ スの住まいづくりを提案、実践している。2013年にはNPO法人すまいるを設立し空家問題にも取り組んでいる。趣味はサーフィン、自転車、空家探し