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イベントレポート

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2015年8月6日(木)19:00~20:00

中野 耕志(なかの こうじ) / 写真家

旅する飛行機写真

飛行機写真の楽しみは、飛行機そのものを記録としてカメラに収めるだけに留まりません。飛行機と一緒に美しい自然風景や街の風景などを写し込むと魅力的な写真になるものです。北海道の雪景色から沖縄の珊瑚礁まで、表情豊かな日本の四季を追い求めながら旅をするのはとても楽しいもの。今回のセミナーでは写真家 中野耕志氏をお招きして、日本はもちろん世界各国を旅して撮りためた飛行機写真を流しながら、飛行機写真の魅力をお話しいただきました。

現場では「ほとんど一発勝負」

航空写真家としての中野耕志氏のテーマは「Jetscape~飛行機の飛ぶ風景」。日本や世界の各地で「四季折々の風景と絡めて飛行機を撮る」ことをライフワークとしている。このセミナーでは、これまでに国内外の各地で撮影した写真や動画を紹介。「旅をしたような気分になっていただければ」という講師の願いどおり、参加者の目はモニターに釘づけ。旅心をくすぐってくれる時間となった。

まずは早朝に赤く染まった空の下、離陸していく飛行機を正面から捉えた動画。舞台は伊丹空港。この空港の特徴は、大都市圏の空港だけあって背景に街のビル群が入るところ。昼に撮るといまひとつしまりのない景色も、早朝時は非常にドラマチックに見える。

成田空港では菜の花畑や満開の桜、紅葉などと絡めて撮影。背の低い菜の花を魚眼レンズで下からあおったアングルは「カメラを地面すれすれにして撮る」。桜と絡めた写真は一見簡単そうだが、「開花期間中、思いどおりの絵で撮影できるのは1日くらいしかない」という。滑走路の向きや桜に日の当たる時間、そして上空を飛行機が飛んでくれるかどうかなど、風景と飛行機を絡めることは実は思った以上に難しかったりする。実際、「何年も通ってやっと撮れた」といった写真も多いという。

富山空港では残雪の立山連峰を背景に離陸する飛行機を撮影。中野氏いわく「離陸の写真は着陸より難しい」。

「飛行機は重さによってどこで上がるかが変わります。山を背景にした場合では、低過ぎると機体が山にかぶってしまう。それと地方の空港だと便数が少ないので、ほとんど一発勝負みたいになってしまいますね」

雪景色から珊瑚礁の海まで、表情豊かな日本の景色

十勝岳連峰をバックにした旭川空港の写真は「一週間いてヌケのいい日は1日だけ」といった悪条件の中で撮影。撮りたかったのは西日を浴びる山々と飛行機。こういう一瞬の撮影機会を捉えるには、もちろんあらかじめ「どこでどう撮るか」を考えて、航空無線なども聞きながら撮影場所を微調整していく。最後は「うまく来てくれと念じながらの撮影」。飛行機の離着陸は風向きによって動きが変わるし、どんなに細かく撮り方を決めていてもそのとおりにいくとは限らない。月を背景に飛行機を入れ込むときのフレーミングなどは位置や距離を綿密に計算する。撮影時は秒10コマで連写。それでも「ちゃんと月に入ってくれるのは2、3コマ」だという。

「いい飛行機写真を撮るには現場にいることが何よりも大事。これと絡めるといいのではないかという発見もありますし、その場で気付くことはけっこうあります」

沖縄の那覇空港では手前に小舟を置いて撮影。下地島では美しい海と絡めるために「特殊撮影装置」を使って水中から撮ってみた。装置の正体は「宮古島のホームセンターで買ったプラスチック水槽」。こうしたことを思いつくのも現場に足を運んだからこそだ。

最近は飛行機写真がブーム。どこの空港や基地に行ってもカメラをかまえている人がたくさんいる。日本のいいところは「南北に長く、亜寒帯から亜熱帯までさまざま景色があり、四季もある」点。冬の北海道では吹雪と飛行機を、沖縄では珊瑚礁の海と飛行機を絡めて撮ることができる。こういうことが可能な国は「世界でも稀」だ。

「いちばんいいのは飛行機を見ていても怒られないところです。国によっては逮捕されたり監禁されたりします。日本ほど安全に飛行機を見られる国はありません」

海外に目を向けると、比較的自由に飛行機の写真が撮れるのはヨーロッパ。なかでもイギリス、オランダ、ドイツ、スイス、オーストリアなどは撮りやすいという。

「イギリスでいちばんフレンドリーで撮りやすいのはマンチェスター空港。ロンドンのヒースロー空港の近くにも着陸する飛行機を撮影できる名所があります。オランダは航空趣味に非常に理解が深い国。アムステルダムのスキポール空港では運河やチューリップ畑を前景にしたきれいな写真が撮れます」

風光明媚な写真が撮りたければオーストリアがお勧め。この国では美しい山々を背景にしたショットを収めることができる。

意外と難しい「夕日と飛行機の絡み」

アメリカの空港ではラスベガスのマッカラン空港とアンカレッジのテッド・スティーブンス空港の写真を紹介。砂漠にカジノホテルが乱立するラスベガスの風景はここならではのもの。滑走路にたむろしているボーイング737は「半分軍用機」。秘密基地として有名なグルーム・レイク空軍基地(エリア51)へ職員を運ぶ役目を担っているという。一方のテッド・スティーブンス・アンカレッジ空港は貨物機の多い空港。「貴重な3発機」であるMD11やプロペラ機のDC6などを今も見ることができる。まわりの山々が美しいのはむろん、「アラスカのように緯度の高い地域は空気がきれいだし、日中も太陽高度が低いのでいい写真が撮れる」という。

20代でプロデビューしたときは風景写真家。現在は野鳥や軍用機などの写真もライフワークとしている中野氏。旅客機を撮影するときは「カメラが2台とレンズ3本が基本セット」。レンズは500ミリの単体望遠レンズと70?200ミリ、24?70ミリのズームレンズ。それにレンズの焦点距離を倍に伸ばしてくれるテレコンバーターを携行している。「いちばんよく使う」のは200ミリや400ミリといった画角。飛行機の撮影ではやはり望遠レンズが活躍する機会が多い。「最近のデジタルカメラは非常に性能がいい」ので動画や夜景もよく撮る。ただし横着は禁物。同じ夜景の写真でも美しい作品にしたければ「手持ちで高感度で撮るよりは、三脚を使って絞り込んで露光時間を長くした方がいい」。とはいえ、それが可能なのは飛行機が停止しているときのみだ。また意外と難しいのは夕日との絡み。というのも日本の空港の大半は滑走路が東西ではなく南北に向いているからだ。

「例外は熊本空港や岡山空港、広島空港など。でも、雲に邪魔されたりしてなかなか撮れないんですね。去年やっと熊本空港で夕日の写真を撮ることができました」

最後の映像は冒頭と同じく伊丹空港。夜の着陸シーンは無数の光が美しい。中野氏の「夢」はこうした美しい“Jetsccape”を「生涯現役」で撮りつづけること。

「写真家は定年もないし、体が動く限りはいろんなところにガンガン行きたいと思います」

講師紹介

中野 耕志(なかの こうじ)
中野 耕志(なかの こうじ)
写真家
1972年生まれ。飛行機や野鳥の撮影を得意とし、雑誌や広告などに作品を発表する。「Jetscape~飛行機の飛ぶ風景」と「Birdscape~鳥のいる風景」を2大テーマに、国内外を飛び回る。近刊に「デジタルカメラによる野鳥の撮影テクニック」(誠文堂新光社)、「デジタルカメラ飛行機撮影術」(アストロアーツ)がある。
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