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イベントレポート

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2015年8月29日(土)13:30~15:00

鈴木 まゆ(すずき まゆ) / 清照由苑、清水茶壱番会

d-labo静岡×第69回全国お茶まつり静岡大会コラボレーションセミナー第2弾
身近に楽しむお抹茶の魅力 ~守り続けてきた景観を守り、継承する~

静岡市清水区両河内興津川上流。この地は、興津川と朝晩の寒暖差が生む深い山霧が直射日光を遮り、空気を浄化。口当たりがさわやかで香り豊かなお茶を育んでくれる。
お茶離れや後継者不足もあり、茶農家は年々減りつつある。「家に急須がない」と語る子どもも増えているとか。創業以来100年間先祖代々受け継がれてきた、昔ながらの製法で茶園を営む鈴木まゆ氏。茶道への造詣も深く、清水の地で初めて抹茶製造の道を開拓した。「お茶のよさをもっと広めていきたい」。そんな想いから鈴木氏はさまざまな活動へ参加している。今回のセミナーでは、抹茶製造に踏み出したきっかけやお茶の話などについてうかがった。
お茶やお抹茶などをいただきながらのセミナーだったため、会場内はお茶の優しい香りに包まれ、ほっと落ち着いた雰囲気に。参加者も終始リラックスした表情を浮かべていた。

運命に導かれるようにお茶の道へと歩み始める

静岡市清水区両河内の茶農家に生まれた鈴木氏。農繁期であるゴールデンウィークには、親戚一同が集まり、茶摘みをするのが恒例。茶工場の機械が動く音を子守唄代わりに眠りについていたという。
「大学卒業後の就職先は病院の医療事務。病院の仕事をしていた時は、毎日が慌ただしく過ぎ、自分の時間がほとんど取れませんでした。自分の人生はこのままでいいのだろうかと思い始めていた時、父を病気で亡くしました」。
人生は一度きりしかない。そう痛感し、転職を決意。以前から興味を持っていた洋服販売員の仕事を得た。そして以前から気になっていたお花を学びたいと思い知人に相談ところ、お花も学べる茶道を勧められ、埼玉県川越市にある師範の元まで週1回通い始める。
「いざ茶道の世界へ飛び込んでみると、使われている抹茶はほとんどが京都産のものでした。静岡にはたくさん茶畑があるのに、なぜ抹茶は作っていないのだろう」。そんな素朴な疑問を抱いたのが就農へのきっかけとなった。
「一期一会」の世界で知られる茶道。亭主と客人とのただ一度の出会いのために、床の間を掛け軸や季節にあった活け花で飾り、空間を作る。茶道の精神を学ぶうち「自分で抹茶を作る」というところから始めるのが、究極のおもてなしになるのではと考えるようになる。「あの千利休でさえ、茶畑の雑草を取り、茶葉を摘み、抹茶を加工するという作業には携わっていなかったと思います」と鈴木氏は話す。
理想とするおもてなしを叶えるため、実家の元馬屋を自分たちで片付け、壁紙を貼り、改築し茶室をあつらえた。屋号の「清照由苑」には家族の名前の漢字も入れつつ、清く豊かで美しいという意味合いを持たせた。ロゴマークは自ら筆を執り、静岡に縁がある「葵」(静岡は徳川家のゆかりの地として知られる)や、実家でも栽培している「ワサビの葉」をモチーフに盛り込んだ。商品にならないお茶を使って「お茶染め体験」もできるようにした。

抹茶製造を模索。メディアにも取り上げられ弾みがつく

「煎茶も抹茶も、お茶はお茶。実家のお茶の木から抹茶ができるのではないか。素人だったから最初はそんな軽い気持ちで考えていました」と振り返る。当時、地元で抹茶製造に取り組む農家はなく、母親と父親と一緒に古い文献を当たるなどして手探りで製造を開始した。
煎茶は、摘みたての茶葉を蒸して揉み、乾燥させたもの。抹茶は、摘みたての茶葉を蒸して乾燥し、蔵で保存(この際にアミノ酸などの旨み成分が増していく)、でき上がった碾茶を石臼で挽いたもの。「ツバキ科のチャノキ」が原材料なのはどちらも同じ。2種には、製造方法と栽培方法に違いがある。
茶葉は日光を浴びると、葉の中の渋み成分であるカテキンが増加する。だからこそ、抹茶用の茶葉には渋みを抑えるために、太陽の光を遮断する黒いネットをかぶせるのだという。こうすることで旨み成分であるテアニンが増え、まろやかな甘みのおいしい抹茶ができる。朝夕霧が立つ両河内は、山霧が天然のよしず代わりに。もともとおいしい抹茶を作るに適した環境にあったのだ。
「初めて作った抹茶は、泡立ちが悪く口の中でざらつきが残り、とても抹茶として飲めるものではなかったんですよ」。泡立ちがよくクリーミーな、高品質の抹茶が生まれるまで、試行錯誤しながら実に4年の年月を費やした。
製品がうまくいったら、次は商品名やパッケージに取りかかる。お茶の木はツバキ科であるため、秋には白い小さなツバキに似た花が咲く。お茶の木の花が風にそよそよと揺れるさまは、まるで白い衣をまとった人が優雅に舞っているようだった。そのことから「白拍子」と名付け、パッケージも見合うものを考案した。「白拍子」は、発売から半年にして「しずおか葵プレミアム」の認証を受ける。これは、地域資源を活かした静岡市ならではの商品・製品に認められる静岡市のブランド。また、「清照由苑」は「オクシズツーリズム・ビジネスカレッジ」において最優秀賞を受賞。こうした活躍が地元や東京のテレビ局をはじめとする各メディアの目にも留まり、百貨店との取引が実現するなど拡販にも弾みがつく。

お茶の効能を知り、リラックスした時間を楽しむ方法

セミナーの後半は、お茶や抹茶をいただきながらお茶のさまざまな楽しみ方についてお話をいただいた。鈴木氏は抹茶を点てている間も笑みを絶やすことがなく、「もてなし」を体現する姿勢が印象的だった。
お茶は古くは薬として使われていたという。二日酔いで苦しんでいた時の将軍・源実朝に、中国で茶を学んだ僧・栄西が茶を献じたところ、回復したという記載が「吾妻鏡」に記されている。
「先人が種を植え、茶畑を広げたのは、人々が健康であればという願いを込めたのではないかと思っています。今回のセミナーを通して、少しでも抹茶やお茶に関心を持ち『お茶が飲みたくなった』と思ってもらえれば幸いです」と締めくくった。

■生茶葉のハーブティー
今回、セミナーでご用意いただいたのは農薬を使用していない朝摘みの生の茶葉(「清照由苑」ではできる限り自然に近いものを提供したいとの想いから、農薬は極力使用しない。使う場合でも自然由来に近いものを使用している)。これは生の茶葉にお湯を注ぎ、ハーブティーのようにして楽しむ。最初ほんのり優しい苦味があり、あとから口の中で香りがふわっと立つ。新しいお茶の楽しみ方だ。

■抹茶
お湯に溶け出さずに茶殻に残ってしまう水不溶性成分も摂取できる。たとえば、抗がん・血糖上昇抑制効果が期待できる[食物繊維]、三大栄養素のひとつで体の様々な部分を構成する[タンパク質]、抗酸化・脂質過酸化抑制・抗がん・抗糖尿・血行促進・免疫機能改善効果が期待できる[ビタミンE]、抗酸化・抗がん・免疫機能増強効果が期待できる[カロテン]などが含まれている。
セミナーでは、口や手が付いた大きな抹茶碗(注ぎ碗)に数人分の抹茶を点て、まわし注ぐことで均一な味へと仕上げる方法を伝授してくれた。この方法は自宅でも応用できる。抹茶を点て、コーヒーカップなどに注ぎ分けると来客に喜ばれるとのこと。暑い季節は、抹茶に氷を入れて「冷抹茶」にするのもよい。

■ほうじ茶
煎茶や番茶・茎茶を窯で炒り、香ばしい香りを出したお茶。リラックス効果のある[ピラジン]や、抗菌・抗酸化作用・虫歯予防・口臭の原因菌の繁殖抑制効果のある[ポリフェノール]を多く含み、カフェインも少ないので、夜寝る前に1杯飲むとよい。

■お茶の佃煮
お茶の生葉をゆでて3回煮こぼす(お茶の出がらしでも代用可)。あれば刻んだフキを入れ、醤油・砂糖・酒で味付けし、仕上げにみりんを入れる。好みで出汁を入れてもよい。お茶のほろ苦さと、調味料の味わいが絶妙にマッチし、ご飯が何杯でもいただける佃煮だ。

※2015年11月14日(土)~11月15日(日)には「第69回全国お茶まつり静岡大会」が開催される。d-labo 静岡では、11月14日(土)12:30~13:30に「清水茶壱番会」による無料呈茶会を開催する。

講師紹介

鈴木 まゆ(すずき まゆ)
鈴木 まゆ(すずき まゆ)
清照由苑、清水茶壱番会
静岡市清水区出身。大学で栄養士免許を取得。卒業後は病院受付・医療事務や洋服販売員を経て、家業の茶園を継ぐ。今まで清水にはなかった抹茶を開発し、「静岡市ブランド認証 しずおか葵プレミアム」の認証を受ける。古い馬屋を改築した茶室を自らの手で作り、オリジナルの抹茶と和菓子、お茶染めなどの体験を通してお茶と土地の魅力を伝えている。百貨店の催事イベントへの出張講座なども実施。また「清水茶壱番会」の「地元茶でもてなす会」への参加のほか、「女性農業次世代リーダー育成塾」、「農業女子プロジェクト」などにも参加。シルクストールやランチョマットなどのお茶染め体験は、お茶の状態・その日の天気次第で風合いが異なり、老若男女問わず人気を集めている。