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イベントレポート

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2015年9月6日(日)13:30~15:00

中村 誠(なかむら まこと) /

新しいピアノ練習法
音色奏法入門 ~楽譜に色を塗りながら音楽を感じよう~

「情緒豊かに弾けない」「表現力を身に付けるには?」
音楽を心から愛する中村先生が「音楽的に気持ちを伝えるピアノの弾き方」について画期的な方法を紹介する。和音の特徴を一つひとつ、それぞれ色のイメージに当てはめてみよう。そして音をカラーにたとえて色を塗ってみる。
すると、作曲家の気持ちがすんなりと理解できるようになってくる。
自分が演奏するときには個性あふれる色彩豊かな表現が自然にあふれ出てくる。
楽譜に色を塗っていくことで演奏者も指導者ももっともっとピアノが好きになるはず!

個々の色のイメージと音の響きとの関係

現在は演奏家としてだけではなく、ヴォイストレーナーや作曲家として活躍中の中村先生。
本格的に音楽の勉強を始めたのは高校生になってからだという。
「最初の頃は、楽譜は読めないし楽器も弾けない、歌も音程を外してしまうし…。
でも、音楽が好きだったんですね」参加者のほぼ全員がポップスや歌謡曲を含めて音楽を聴いたり歌を歌うのが好き、ピアノやギターなどの楽器を習っている人は7割強、ということで今回は先生が電子ピアノを弾き、それに合わせて参加者もラララ~と声を合わせ歌いながらのセミナーとなった。マイクなしで語り、歌う先生の声量はさすがに素晴らしい。音楽教諭として生徒たちに音楽を教えるとき、最初は旋律をコード名で説明していた。ところが、和音は抽象的でわかりにくい。
「子供は正直で、つまらないとまったく授業に関心を持ってくれません。コード名がダメならと和音ごとに番号を付けてみたのですがこちらも不評。そうだ、色で表現したらどうかな、と考えたのが発端です」
世界は色であふれている。木々の緑、色とりどりの花。音も明るい南の島の雰囲気の音楽は暖色系をイメージさせるし、ロシアの重厚な音楽は薄ら寒い寒色系を思わせる。
和音を色で表現したらイメージしやすいのではないか。
「やってみると好評でした。ほとんどの生徒たちは音と色のイメージを正しく認識しましたし、授業もまじめに熱心に聞いてくれるのです」
先生自身、音を色にたとえてイメージすると、作曲家がどんな意図でこの曲を作ったのか、演者にどのように演奏してもらいたいのか、また、聴き手にどんなふうに聴いてもらいたいのかが鮮明に理解できるようになってきたという。演奏家の中には初見で見事に演奏を披露する人もいるが、作曲家がわずか数小節つくるのに、何時間も費やすということは稀ではない。
そうやって生み出された個々の作曲家が意図する瞬間瞬間の音色や質感などの変化は言ってみれば生演奏の生命線。
その生命線を活かすテクニックを習得するためにはそれ相応の練習が必要となる。
しかし、現実にはそれほどの時間的余裕はない。演奏の音楽的な細かい部分の表現にまでなかなか神経が行き届かないのが通常だろう。
「そんな音楽指導者、学び手のために編み出されたのが「音色奏法」です。
この方法をひとことで表すならば、音楽の中に無数にある和音の特徴を一つひとつ色のイメージを伴って聴いたり表現したりする練習方法と言えます」

個々の色のイメージvs音の響きとの関係

「最初にこの曲を聞いてください」と演奏されたのが中村先生作曲の「想い出のワルツ」。未発表の作品だ。
「出だしは夢のある感じ、色でいうと白でしょうか。次に広がった感じ、色でいうと黄色かな。続いて怖い感じ、これは黒っぽい暗い色。最後に安心できる雰囲気で終わります。
これは緑色といったイメージですね」
色彩には暖色と寒色があるといわれる。暖色系とは文字どおり暖かさのある色、ふくらみを感じさせる色のことで、赤・オレンジ・黄色など。音楽でいうとレガートで甘く優しく演奏する部分、クレッシェンドでクライマックスに向かう部分などがこれにあたる。対して寒色系とは冷たく感じられる色、しぼむ感じの色で、水色・青紫など。
音楽ならば透き通ったピアノで演奏するアルペッジョやコラールのように荘厳で厳粛なフレーズが相当する。
色彩心理学に基づいて、個々の色の一般的な性格と対応する音楽表現についてまとめると以下のようになる。

青…快眠効果があり、気持ちを落ち着かせる色。響きとしても「静かな落ち着いた雰囲気」がぴったりくる。
緑…自然や調和といった表現がふさわしい色。音楽でも穏やかでのびやかな雰囲気が当てはまる。
黄…コミュニケーション・カラーとも言われ、明るく開放的。音楽では光を感じさせる響きの表現と結び付けられる。
橙…勇気がわいてくる色。気持ちが軽くなる響きのイメージがあり、世俗的な喜び、カジュアルな雰囲気のイメージもある。
赤…自己主張の強い色で情熱的な響きがぴったりの色。
桃色…幸福感のある愛らしい色。音楽的にはたとえばリストの「愛の夢」などが連想される。
茶…落ち着いた地味な感じの色だが、荒々しいイメージもあり、音楽でいうと重厚感のある響きなどが似合う。
白…いろいろな可能性を秘め、無限性を感じさせる色。たとえば「白と黒とで」いうドビュッシーの作品名に使用されている。
黒…暗く重たい雰囲気であると同時に威厳も感じられ、重厚で厳粛な響きを連想させてくれる。

これらは一般的な色の性格についての解釈であって、もちろん色彩に対する感覚には個人差がある。
それは音楽を聴いたときの感受の仕方にも違いがあるのと同じで、特にきまりや正解があるわけではない。
「私が提案する音色奏法でも、これら以外の色合いも含め、一人ひとりが感じたイメージにそって自由に希望するカラーを塗ってかまわないのです」

クラシックもポップスもジャズも原点は同じ

後半は音楽を聴きながら自分が感じた色を塗ってみる実践練習が行なわれた。
教材の楽譜にはいくつかの小節ごとに空欄の○が記載されていて、そこに自分が感じた色を色鉛筆で塗っていく。
色を無視して単調に弾いた場合と色を思い浮かべながら弾いた場合の違いも明解で面白い。
「コラール」(シューマン)、「教会で」(グルリット)、「牧歌」(ブルグミュラー)、「新しいお人形」(チャイコフスキー)など、音と色の特徴がわかりやすい曲を例に解説していく。
「旋律を奥深いものにするために和音以外の音を使います。これを和声外音といい、この音がくっついた場合のカラーをイメージすることも大切です」
そして実際に和声外音を聞いて確認していく。
「この和声外音という概念をバッハはすでに理解していました。クラシックは歴史の古い音楽ジャンルですが、色を塗って作曲家がどんな音楽を作りたいのかな、と考えてみるとシューマンもシューベルトも現在のポップスも全部つながるんです」
曲の盛り上げ方、クライマックス、終わり方、色を塗ってみると確かに同じパターンが浮かび上がってくる。
クラシックだけではなく童謡「山のワルツ」(湯山 昭)を歌いながら色を塗る。子供のための易しい曲でも、色によって作曲家の思いが明白になる。最後は美空ひばりの「川の流れのように」をみんなで合唱。
中村先生の弾くピアノバージョンとCDのカラオケ風バージョンで楽しみ終了。
トーク終了後は希望者へピアノレッスンも提供され、充実した時間となった。
「ピアノであれば指練習などの、音楽の基礎レッスンももちろん大切です。
でも、それだけでは苦行になってしまう。音楽って楽しむものですよね。
音を聴いて色を塗る、そんなに難しいことではありません。
でもこれによって曲のイメージが明白になり、心のこもった深みのある演奏につながっていくと思います」

文・土屋 茉莉

講師紹介

中村 誠(なかむら まこと)
中村 誠(なかむら まこと)

武蔵野音楽大学ピアノ科卒業後、声楽は山田実氏、作曲を須磨洋朔氏の元で学ぶ。34年にわたり現静岡サレジオ小学校、中学校、高等学校の音楽専科教員を務めた。1982年から10年間、静岡合唱団副指揮者。武蔵野音楽教育研究会会員。