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イベントレポート

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2015年9月13日(日)14:00~16:00

井庭 崇(いば たかし / 慶應義塾大学 総合政策学部 准教授。政策・メディア博士。

伝える力を学ぼう!
~敬老の日に贈る感謝のメッセージカード~

「ありがとう」や「ごめんなさい」自分の気持ちを上手く人に伝えることはできるだろうか?
本講座ではお子さまに「伝える力」を学んでいただく。
「ありがとう」の言葉だけではなく、「何が楽しかったのか」、「どんなことが心に残っているのか」など、より深い気持ちを考え、おじいちゃん、おばあちゃんへ感謝のメッセージカードを作ろう!今年の敬老の日はおじいちゃん、おばあちゃんへ特別なプレゼントを贈ってみよう。

6枚のカードと1枚のシートを使ってじっくりと考える

慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパスで研究、教育活動に取り組む井庭氏。「創造社会の実現を支援するパターン・ランゲージの制作」をテーマに、さまざまな活動を行なっている。今回のセミナーでは、近著である『プレゼンテーション・パターン—創造を誘発する表現のヒント』をベースに、小学生たちに、「伝える力を学ぶ」機会を設けていただいた。

「今日は、手紙や文章を書くとき、あるいは、人前で話すときに、どうすればよりわかりやすく、効果的に伝えることができるのか、を学んでほしいと思います。今回は、敬老の日が近いということで、おじいちゃん、おばあちゃんにメッセージカードを作りますが、いつもと違うことがふたつあります。ひとつ目は、準備をしてから書く、ということ。ふたつ目は、ヒントを使ってよりよく書く、ことです」

テーブルには、著書『プレゼンテーション・パターン』から、特に今回のセミナーに有効な要素としてピックアップした、6枚のカードが用意されている。このカードをテキスト代わりにして、敬老の日のお手紙作りがスタートした。

【カード1:いちばん伝えたいこと~いちばん大切なことはなんだろう?】
「伝えたいことをいろいろ話してしまうと、聞いている人は、『何の話をしているのかな…』と混乱してしまいます。いちばん伝えたいことは何なのかをはっきりさせて、それをしっかり伝えるようにします」

ここで井庭氏は、「おじいちゃん・おばあちゃんにいちばん伝えたいことを考えるためのシート」を使うことを提案。A3の紙に、5つの質問が書いてあり、それにひとつずつ答えを書いていくことで、「いちばん伝えたいこと」を明らかにしていこう、というわけだ。

「おじいちゃん・おばあちゃんといつも一緒にどんなことをしているの?」「おじいちゃん・おばあちゃんの好きなところはどんなところ?」という、ふだんのことに関する質問から、一番の思い出は何かという質問、さらに「おじいちゃん・おばあちゃんにこれからどんなふうに過ごしてほしい?」「これからどんなことを一緒にしたい?」という、これからのことに関する質問に、参加した小学生たちはひとつひとつ真剣に答えていく。

「やさしいところが好き」「一緒に遊んでくれるところ」「夏休みに旅行に行ったのが楽しかった」「おいしいものを一緒に食べたい」「いつまでも元気でいてほしい」…。おじいちゃん・おばあちゃんと、自分自身の関係性や思い出を振り返り、自覚することで、子どもたちのなかで「伝えたいこと」のイメージがどんどんはっきりしていくのがわかる。

「“伝える”ためにいちばん重要なのは、この最初の作業です」と井庭氏。「いきなり文章を書いたり、話を始めたりすると、あれもこれも、となってしまいがち。事前に、いちばん伝えたいことをはっきりさせておけば、それを核にして、話を構成していくことができます」

子どもたちはじっくりと時間をかけて、「いちばん伝えたいこと」を絞り込んでいった。

相手のことを考えながらストーリーを組み立てていく

「いちばん伝えたいこと」がはっきりしたら、次のステップは「どのように伝えるか」。

【カード2:聞いている人へのプレゼント~どうしたら喜んでくれるだろう?】
「相手のことを考えずに自分の思いを伝えるだけだと、相手が喜ぶものにはなりません。プレゼンは、人へのプレゼントだと考え、どういうプレゼントだと、相手が喜ぶかを考えます」

【カード3:どうなってほしいのか~聞いた人がどうなると、成功なの?】
「聞いている相手が、プレゼンを聞いた後にどうなってほしいのかを考えていないと、何をどうやって伝えるかが決まりません。おじいちゃん・おばあちゃんが、皆さんの手紙を読んでわーっと喜ぶのか、ジーンとするのか、思い出がよみがえるのか…。どんなことが起こるのかをイメージしてみてください」

一方的に“伝える”だけでなく、相手の反応を想像しながら、表現をする。そのことの大切さ、難しさに思い当たることがある大人(保護者)たちは、井庭氏の説明に深くうなずいていた。

書く内容が決まったところで、ようやく、紙にメッセージの下書きに進む。

【カード4:話のながれ~伝わりやすい順番をつくる】
「伝えるべきことをただ並べただけでは、つながりがわかりづらくて、何の話だかがよくわからなくなってしまいます。相手が理解しやすいように伝える順番を考えて、話の流れを作ります。お話のようにつながっていると、理解しやすくなります」

【カード5:ちょうどいい量~多すぎても、少なすぎても、わかりにくい】
「書くことが多すぎると、何が重要かがわかりにくく、逆に、少なすぎると、言いたいことが十分に伝わりません。説明を、多すぎず、少なすぎない量に調節します。多すぎるときは、なくてもよい説明を省いたり、いきなり出てくる話には、前置きをしたりします」

ふだんから手紙を書き慣れている女子は、どんどん筆が進み“多すぎ”傾向に、逆に男子は、ピタッと手が止まり“少なすぎ”傾向に陥りがちのようで、それぞれに苦心して下書きを進めていた。

「手紙だけでなく、作文、読書感想文を書くとき、人前で発表をするときなどにも、重要なポイントです。このときにも、カード2の“相手へのプレゼント”であることや、カード3の“どうなってほしいか考える”ことを意識し続けてくださいね」

子どもだけでなく大人にも必要な“伝える力”

あちこち直したり足したり削ったりして、一生懸命仕上げた下書きを、新しい紙に清書したら、最後の仕上げに取りかかる。

【カード6:すてきな仕上げ~最後の工夫で、全体を輝かせる】
「完成したけれど、なんとなくつまらなくて、相手がわくわくしないような気がするときは、内容は変えずに、かざりや伝え方の工夫を考えます。“いちばん伝えたいこと”が、はっきりと輝くためにはどうすればよいかを考えてみましょう」

好きな色の台紙を選んで、メッセージカードを貼り付けたら、クレヨンやカラーペンで絵を描いたり、リボンやモールで飾り付けしたり。静かに紙に向き合っていたときとは打って変わって、子どもたちは楽しそうに仕上げをしていた。

最後は、完成したカードを手に記念撮影。保護者からは、「毎年、敬老の日には手紙を書かせているけれど、いつも『ありがとう』とか『元気でね』ばかり。でも今年はまったく違うものになった。きっと喜ぶと思います」「私たち大人にもとても勉強になった」という声が。子どもたちも満足そうな、いい顔をしていた。

今回のセミナーで学んだことは、「何かを表現するときに必要なコツ」だと井庭氏。子どもたちに“伝える力”がつくことを願っている。

講師紹介

井庭 崇(いば たかし
井庭 崇(いば たかし
慶應義塾大学 総合政策学部 准教授。政策・メディア博士。
マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院 Center for Collective Intelligence客員研究員等を経て現職。編著書・共著書に『パターン・ランゲージ–創造的な未来をつくるための言語』『プレゼンテーション・パターン –創造を誘発する表現のヒント』(2013年度グッドデザイン賞受賞)がある。
2012年にNHK Eテレ「スーパープレゼンテーション」で解説を担当。