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2015年9月17日(木)19:00~21:00

石川 善樹(いしかわ よしき) / 予防医学研究者・医学博士、(株)Campus for H 共同創業者

22世紀の『健康』はどうなっているのか!?
~人工知能が描く未来~

わたしたち社会人は、疲れ果ててベッドに入るのが、もはや当たり前だと思っている。なぜ、これほどテクノロジーが発達したのに、満ち足りた幸せな気分で眠りにつくことができないのか?今回は、予防医学研究者の石川氏をお招きし、専門であるダイエットを入り口に、人工知能がどのように私たちの生活を豊かにしてくれるのか、最新の研究を分かりやすくご紹介いただいた。

「朝わくわくした状態で目が覚めて、夜満ち足りた状態で眠る」

予防医学の研究者である石川善樹氏。予防医学とは、一般の医学が「病気になる前に早めに対処しましょう」というものであるのに対し、「ヘルス(health)を目指している」。名詞である「ヘルス」の動詞形は「ヒール(heal)」。その語源は「完全に調和されている状態」を意味するという。
「つまり予防医学というのは〈完全に調和された状態〉から逸脱するのを予防するものなんですね」
この「ヘルス」という言葉を最初に日本に紹介したのは福沢諭吉。福沢はその編著『華英通語』の中でヘルスを「精神的に満ち満ちたもの」と考え「精神」と訳している。この観点から21世紀に生きる日本人がどれだけ精神的に満ち足りているかを考えると、そこには疑問符がつく。確かに戦後、日本人の暮らしは右肩上がりで豊かになり、平均寿命は1978年に世界一位を達成して以来、現在に至るまでそれを維持しつづけている。だが「幸福度」や「人生満足度」となると横ばいのまま。最近では、健康でいられる「健康寿命」という概念も認知されるようになり、そこから逆に「元気でいられないのなら長生きしてもしょうがない」などという言葉まで聞かれるようになった。しかし、世の中には病気を抱えていたり、介護を必要としていても幸せに暮らしていたりする人は存在する。今は定年退職を迎えてもそこから20年、30年と人生がつづく時代。「完全に調和された状態」というのは、噛み砕いて言うと「朝わくわくした気持ちで目が覚めて、夜は満ち足りた状態で眠ること」。「これからの予防医学はそこを研究しないといけない」と石川。そこで今回のセミナーでは自身が専門としている「ダイエット」を例に「22世紀の健康はどうなっているか」について考えてみた。

2000年間進歩のなかったダイエット法

22世紀というと80年以上も先。そのときにまず予想されるのは「今とは常識が変わっている」ことだ。たとえば喫煙。最近では害毒の塊のような扱いを受けている煙草だが、20世紀の初頭は「健康にいい」とされていた。
「当時はお医者さんが広告に出て、煙草は吸うとすっとして健康にいい、などと言っていたんですね。それを予防医学の研究者たちが健康に悪いことを発見したんです」
運動もまた然り。「運動は健康にいい」は現代の常識。明治までの日本人にそんな常識はなかったという。こんなふうに常識というものは新たな発見や研究によって変わっていく。同じような視点で人々の生活を見ていくと、日本に限らず20世紀とそれ以前では大きく変化したことがある。それは人類の大半が農村ではなく都市部で暮らすようになったこと。人類にとっては長い歴史の中で初の体験。予防医学もこれを無視することはできない。
「都市という環境の中でどうやってベースとなる衣食住を整えていったら、朝わくわくした気持ちで目が覚める生活になるのか、ここを予防医学は考えなくてはなりません」
時代によって変わる常識。その一方でまったく変わらない常識もある。それが石川氏の専門である「ダイエット」だ。人類史の中で最初にダイエット法を考えたのは古代ローマのガレノス。1人の市民に対し20人の奴隷がいたというローマ帝国では肥満に悩む人々が大勢いた。そこでガレノスが提唱したのは「運動」と「風呂で汗を流すこと」と「栄養のいいものを食べる」こと。これを知った瞬間、石川氏は「愕然とした」という。
「ことダイエットに関しては、人類は2000年間なんにも進歩していないんです」
世のダイエット法には流行があったりするが、それはあくまでもマイナーチェンジであって、基本は変わらない。そしていまだに多くの人がダイエットに取り組んでは失敗している。この事実が石川氏を研究へと向かわせた。
「2000年間失敗しつづけているということは、何か根本的なところで間違えているのだろう。これは研究に値すると思ったんです」

「大きな努力」の前に「小さな習慣」をつける

ダイエットとは「痩せる」という「大きな努力」をして「キープする」という「小さな習慣」をつづけること。ところが大勢の人が一度は痩せることができても、リバウンドして太ってしまうという現実がある。人間は痩せると筋力が衰えて基礎代謝が悪くなり、かえって太りやすくなる。そこで石川氏が考えたのは「大きな努力」をする前に「小さな習慣」を身に付けること。いままでのダイエットは体重を減らすことを優先していたのに対し、先に数か月かけて食生活などを変えることで「体重を減らす権利」を獲得し、そのうえで初めて減量に挑む。ここで大事なのは「新しい習慣は既存の習慣に紐付けて身に付けること」。人間はまったく新しいことを始めようとしてもなかなか習慣化できないが、「いままで通っていた英会話教室のあとにジムにも行く」といった毎日の習慣にプラスする形ならば取り入れやすい。その新しい習慣が自分にとって「わくわくする」ものであったら効果はなお期待できる。実際、雑誌の特集で石川氏の考案したダイエット法を3人の女性に体験してもらったところ、3人ともダイエットに成功したという。
ダイエットで大事なのは運動と食事。とくに食事は味覚を変えることでダイエットにつながる。人がおいしいと感じるものには「脂と糖」と「うま味」の2種類がある。言うまでもなく前者は肥満や病気のもとだ。これを鰹だしや昆布だしのような「うま味」中心のものに移行すれば、おいしく、そして健康的な食生活が送れる。そのために必要なのは料理のイノベーション。世界中にある食材と料理の数を眺めてみると、実は「料理というのは意外と開発されていない」という。
「パスタを例にすると、パスタにかけるパルメザンチーズは同じ成分を持つ茶葉に変えることができます。こんなふうに素材を『脂や糖』中心から『うま味』に変えていけばまだまだ料理の種類は増えるはずです」
無数にある素材を組み合わせて答を出す。こういう仕事が得意なのはやはり人工知能だ。
「人と機械がタッグを組んで生活をクリエイティブにしていく。おそらく22世紀はそういう時代になるんじゃないでしょうか」
石川氏の「夢」は「世の中の人がお互いもっと優しくなること」。
「今の時代は人が人を評価しすぎている。まあいいじゃないか、と言いあえる世の中になったらいいなと思います」

講師紹介

石川 善樹(いしかわ よしき)
石川 善樹(いしかわ よしき)
予防医学研究者・医学博士、(株)Campus for H 共同創業者
広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、計算創造学、ヘルスコミュニケーション、データ解析等。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。著書に『最後のダイエット』『友だちの数で寿命はきまる』(マガジンハウス)などがある。