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イベントレポート

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2015年9月25日(金)13:30~14:30

野秋 和弘(のあき かずひろ) / スルガ銀行 カスタマーサポート本部

第5回 プロと楽しむお街ゼミな~る
知って得するマネー講座「大切な財産の継承について」

大切に築き上げてきた財産や、先祖から引き継いできた財産。いつかは考えなければならない「相続」について、先送りにしてしまっている人も多いのではないだろうか。今回は、想いが詰まった遺産をスムーズに引き継げるよう、当社カスタマーサポート本部部長・野秋和弘がお話しした。相続についての基本的な手続きと流れから、相続対策、遺言書、遺産分割協議書、相続税までと難しい内容ではあったが、具体例を踏まえた明快な解説に、相続について考えていただく良いきっかけとなったのではないだろうか。

相続問題のうち約75パーセントが一般家庭

相続問題の当事者というのは、テレビのニュースやドラマで観るような資産家だけというわけではない。平成25年の家庭裁判所の調停成立件数は8,951件だが、そのうち約75%にあたる6,721件が遺産価格5千万円以下。実は「自宅だけが唯一の財産」というどこにでもある普通の一般家庭の方が深刻な問題に発展するケースが多い。しかもこの相続トラブルは年々増加の傾向にあるのだという。
まず、相続は死亡によって開始する。死亡の後、遺族は通夜、葬儀、初七日、形見分け、四十九日の法要を執り仕切る必要があり、その合間を縫って香典返しの準備などで慌ただしく時間が過ぎていく。相続に期限はないが、相続放棄などの手続きには期限が設けられている。相続放棄や限定承認(※1)の手続きは3か月以内、準確定申告(※2)は4か月以内、相続税の申告は10か月以内となっている。
「身内の死に直面した遺族は悲しむ時間がないほど忙しくなります。相続にもさまざまな手続きがあるので、いまのうちにできることは始めておいてください」と話す。相続手続を円滑に行なうためには「遺言書の有無」が非常に重要になってくる。

■「遺言書」がある場合の相続手続
「遺言」では遺言者が遺産の具体的な分割方法を指定し、法定相続人(※3)以外にも世話になった人(たとえば看病をしてくれた人、子どもの配偶者など)に財産を遺贈するなど、本人の考えで遺産配分ができる。遺産範囲についても遺言書に記しておくので「法定相続人は誰か」「遺産がどこにどれだけあるか」を遺族が調べる手間を軽減できる。相続人全員の協議による遺産分割協議書(※4)を作成する必要がなく、「遺言書」をもって銀行や証券会社、法務局などで相続の手続きができる。

■「遺言書」がない場合の相続手続
「法定相続人は誰か」「遺産がどこにどれだけあるか」を調べることから始まる。そして相続人全員で遺産分割協議をまとめる必要がある。意見がまとまらない場合、親族同士で何年も争うこともあり家族関係が壊れることも珍しくない。解決しない場合は、家庭裁判所へ調停を依頼するが、それでもまとまらなければ裁判所に審判してもらうことになるので、時間と労力を使うことに。なお、遺産分割協議がまとまらない間は、金融資産や不動産の相続手続を進めることはできない。

遺言書がない場合(あるいは遺言書の内容に不備がある場合)は、相続人全員による「遺産分割協議」が必要だ。話し合いがまとまったら、「遺産分割協議書」を作成する必要がある。「遺産分割協議書」には、(1)相続人全員の合意内容を明確にするため、(2)正確な記録を残すことでのちの無用なトラブルを起きないようにするため、(3)不動産や預貯金、株式などの名義変更手続のため、(4)相続税の申告書に添付するため、といった目的がある。作成のポイントは次のとおりだ。

1. 決まった書式はないので手書きでもワープロでも可能だが、トラブル防止のため相続人の住所や氏名はそれぞれ自署した方がよい
2. 不動産は登記簿謄本に記載されているとおりに正確に記載する。誤りがあると法務局での名義変更手続が受け付けられない可能性がある
3. 預貯金、株式等の遺産や債務は漏れなく記載し、財産を特定できるようにする
4. 万が一新たな遺産が判明した場合に備え、記載のない財産は誰が取得するかも明記しておく
5. 代償分割(※5)の場合、代償金額と支払期日を明記しておく
6. 葬儀費用や税理士報酬などを誰が負担するかも明記しておく
7. 相続人全員の署名と実印の押印が必要。1通だけでもよいが、相続人同士の平等を考え、人数分作成する場合も多い


※1 相続放棄や限定承認…相続にはプラスの要素ばかりではなく、負債(借金など)を相続することもある。その場合、相続自体を放棄する選択もできる。また負債を弁済したうえで余りが出れば相続するといった「限定承認」するという手続きもある。
※2 準確定申告…被相続人の所得税や消費税の申告
※3 法定相続人…配偶者と第一順位直系卑属(子。子が死亡している場合は孫)。第一順位がいない場合は父母、祖父母などの直系尊属が第二順位。第二順位もいなければ兄弟姉妹。兄弟姉妹もすでに死亡していればその子が相続人となる。
※4 遺産分割協議…相続発生時には、遺産の内容に沿って遺産が「分割」され、相続される。遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割の「協議」を行なわなければならない。
※5 代償分割…ある相続人が遺産を取得する代わりに別の相続人に金銭を支払う

残された家族が困らないように、自分の気持ちを残しておこう

「相続対策」は「相続税対策」だけではない。揉め事を未然に防ぎ、円滑・円満な相続をさせることも「相続対策」だ。前述したとおり、自分の気持ちを伝える「遺言書」はたいへん有効な手段の一つと考えられる。遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」が主に使われている。

■自筆証書遺言…全文、日付および氏名を自署し押印する。遺言者の死亡後、家庭裁判所の検認手続き(遺言書の存在と内容を家庭裁判所が確認すること。遺言書の保管者や発見者等が家庭裁判所に申立てる)が必要となる。いつでもどこでも誰にも知られず作成でき、作成時の費用がほとんどかからないので気軽に手をつけられる。しかし、形式の不備があったり不明瞭な内容になりがちで、無効になる可能性や、偽造・変造・隠蔽の心配もある。

■公正証書遺言…公証役場で2名以上の証人立会いのもとに遺言内容を公証人に口述し、公証人が遺言書を作成する。内容が明確で証拠力が高く、偽造・変造・紛失の心配もないため、無効になる恐れがほとんどない。しかし、2名以上の証人(利害関係者以外)の立会いが必要であり、作成にも費用がかかる。

「遺言書」は何度でも書き換えることが可能だ。「公正証書遺言」は費用もかかるが、残される遺族には揉め事を減らす要因になるので、家族関係や遺産内容によって使い分けたい。
なお、近年「エンディングノート」を書く人が増えている。これは、自分にもしものことがあった時のために伝えておきたいことをまとめたノートのこと。「終活」の第一歩とも言われている。「エンディングノートには法的拘束力は一切ありませんが、遺言書との併用をぜひおすすめしたいですね」親戚・友人リスト(葬式に呼んで欲しい人がわかる)、財産(預貯金、株式、不動産、借入金)、保険・私的年金(生命保険、損害・障害保険の加入内容、個人年金、企業年金)、形見分け遺品の整理(形見分け、遺産の整理、個別対応リスト)あたりは特に記載しておいた方がよい点だという。遺された家族が相続や遺産分割で少しでも困らないよう、「遺言書」や「エンディングノート」を積極的に活用して欲しい。

税制改正で相続税の負担増に。節税対策も考えよ

平成27年1月に税制改正があり、相続税の基礎控除や相続税率構造、小規模宅地等の減額、未成年者・障害者控除の見直し、贈与税の成立構造の見直し、相続時の精算課税制度の適用要件見直しなどが行なわれた。「たとえば法定相続人が4人の場合、改定前は9,000万円までは税金がかからなかったのが、改定後は5,400万円までと大きく変わりました」とのこと。相続税の負担を減らすためには(1)相続財産を減らす、(2)賃貸物件などを建てて財産評価を下げる、(3)非課税制度を利用する、などが挙げられる。
「よく節税対策としてアパートを建てたりしますが、人口減少の時代ですから十分に検討した方がよいと私は思います」
節税対策は次の内容が考えられるが、上の方から優先的に検討して欲しい。

1. 財産の生前贈与…毎年110万円までの贈与には贈与税がかからない。3人に贈与すれば年間330万円まで財産を減らすことができる。
2. 教育資金の贈与、結婚子育て資金の贈与…金融機関などを通じて直系尊属から30歳未満の子・孫などに教育資金を一括で贈与した場合、1,500万円まで贈与税が非課税になる(ただし、時限立法のため期限に注意。また金融機関などを通さないと適用外)。
3. 生命保険の利用…相続人が受け取れる生命保険には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠がある。煩雑な相続手続や遺産分割協議が必要ないので、早く現金化できる。
4. 非上場株式についての贈与税納税猶予制度…非上場中小企業のオーナー経営者が後継者に自社株を贈与する場合、一定の条件を満たせば贈与税の納税が猶予される制度がある。適用を受けるための条件や猶予される贈与税の計算はたいへん煩雑なため、税理士等専門家に任せる必要がある。
5. 住宅取得等資金贈与…直系尊属から住宅取得のための資金贈与を受け、その贈与年の翌3月15日までに住居用建物の取得、新築し移住した時には一定額の贈与が非課税になる。贈与年、住宅等の種類によって非課税枠が変わる。
6. 相続時精算課税制度…60歳以上の人が自分の相続人である20歳以上の子や孫に対して贈与した場合に、贈与を受けた人が相続時精算課税を選択すれば、2,500万円までは贈与税が課税されず、贈与者が死亡した時に相続税の対象になる。2,500万円を超えた分は一律20%の贈与税となる。いったん相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与(※6)に戻ることができないので、十分な検討が必要(「値上がり確実な財産の場合なら利用価値があるかもしれません」と話す)。

相続は身内の問題であり、他者が関わることが難しいデリケートな問題を含有している。「相続は百人百様。家族の分だけ相続が変わってきます。煩雑な内容なので、専門家に相談するのがベストです」弁護士や税理士、司法書士などの専門家を味方につけられれば最良だが、費用がかかりハードルも高い。その場合、身近な銀行も相談相手の候補に加えてはいかがだろうか。「遺言信託」などの取組みを行なっている銀行もあるので、ぜひベストパートナーを見つけて欲しい。「相続問題の火種を少しでも事前に減らしておき、円満な家族関係を将来にわたって維持していくことが私たちの最大の願いです」と締めくくった。

※個別の税務取扱い等については、税理士や所轄国税局、税務署等に確認を


※6 暦年贈与…1年間に贈与を受けた財産の合計額をもとに贈与税額を計算すること。たとえば生前に贈与していた分など

講師紹介

野秋 和弘(のあき かずひろ)
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