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イベントレポート

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2015年9月26日(土)14:00~16:00

小林 啓倫(こばやし あきひと) / 経営コンサルタント

社会を変えるドローンの世界 ~ドローン・ビジネスの可能性~

最近大きな注目を集めるドローン(小型無人飛行機)。首相官邸への侵入事件や、イベントでの墜落事件などで、ネガティブな印象を持つ方が多い。しかしドローンには、「空の産業革命」をもたらすほどの力があると期待されている。実際にビジネスの世界では、ドローンによる配送や測量などで活用が始まっています。ドローンの普及が進めば、社会のあり方自体が変わるだろうと予想する専門家も少なくない。今回のセミナーでは、「ドローンとは何か、なぜドローンと呼ばれるのか」という基本的な解説から始め、いま急速に進みつつあるドローンのビジネス活用について紹介していただいた。

ドローンとは「空中を飛ぶロボット」

この7月、『ドローン・ビジネスの衝撃 小型無人飛行機が切り開く新たなマーケット』を上梓した小林啓倫氏。3回目の登壇となる今回のセミナーでは、その「ドローン・ビジネス」についてお話しいただいた。
ドローンとは「小型無人飛行機」の総称。その用途は軍事用から玩具用までさまざま。大きなものでは人間が乗るものと変わらないサイズのものもあるが、多くの人が「ドローン」と聞いてイメージするのは「両手で抱えられるくらいのサイズのもの」。実際、世界最小のドローンは手の平サイズで1万円のお手軽な値段で買える。最近ではマイナスイメージが強いのも事実。4月に起きた首相官邸への侵入や長野の善光寺境内での落下事故など「犯罪まではいかなくても社会で問題視されている」のもドローンだ。
「今日はそんな厄介者のドローンになぜ注目しなければならないのか、というお話を実例を紹介しながらしたいと思います」
まずはドローンの定義から。日本ではこのセミナーの直前の9月4日に航空改正法が成立し、初めてドローンの定義ができた。それは「構造上人が乗ることができず、遠隔操作または自動操縦により飛行させることができるもの」といったもの。ではそれ以前からあったラジコンヘリコプターとドローンはどこが違うのか。いちばん大きな違いは「ドローンは自分で考えて飛ぶ」という点。シングルローターのラジコンヘリは「操縦するのに才能やセンスが必要」だが、その多くが4つのプロペラをつけた「マルチコプター」であるドローンはシングルローターに比べてホバリングの性能が良く自律性能に優れているため指定されたコースなどを飛んで帰って来ることができる。言うなれば、ドローンとは「AI(人工知能)を搭載した空中を飛ぶロボット」。それが小型化、低価格化で誰の手にも入りやすくなったことで社会にインパクトを与えているのが現状だ。ちなみに「ドローン」の意味は「雄の蜂」。これは第二次世界大戦中、イギリスが自国で開発した無人飛行機を「クイーンビー=女王蜂」と呼んだことに因んで、アメリカが自分たちの作った無人機に「ドローン=雄の蜂」と名付けたことに由来する。それが今では軍事用に限らず小型無人機全体を表わす名称として用いられている。

優れた「自律性能」と「群制御」でビジネス化が可能

最近のドローンの特徴はなんといってもその著しい進化だ。とりわけここ数年で革新的に高くなってきているのが「自律性能」。なかでも自分の周囲に何があるのかを把握して衝突を避ける“Sense & Avoid”(センス&アヴォイド)の機能が向上している。今現在、ドローンでいちばん危険なのは人や物がプロペラと接触することだが、この機能が発達すれば市街地や森林地帯など障害物の多いところでもドローンを飛ばすことが可能になる。それだけでなく現在のドローンは積載量や航続距離の改善など飛行性能自体もアップしている。そして、もっとも注目したいのが大量のドローンを同時に飛行させる「群制御」だ。実験レベルではすでに20~30機のドローンを同時に飛ばすことに成功している。最終的な目標は「1人のオペレーターが50機のドローンを制御すること」。AIを駆使すれば、人間は「あっちに行け」といった程度の「大きなところを操作するだけ」。あとはドローン自身がそれぞれ衝突もせずに最適に飛行してくれる。ヨーロッパのドローン研究で先端を走っているチューリッヒ工科大学の実験映像を見ると、それぞれにロープを引いた3機のドローンがぶつかることもなく飛び回り、人間の渡れる吊り橋を作ってみせている。こうした技術は災害救助などの場面で役立つに違いないし、ビジネスでもいろいろな使い方が可能だ。そのひとつがスペインのドローンメーカーが立ち上げた「レンジャー・ドローン・プロジェクト」。これは静粛性のある固定翼のドローンを用いて「アフリカでのサイの密猟の摘発をする」というもの。密猟者たちを発見するとドローンはセントラルサーバーに情報を送り、それに応じて当局が担当官を派遣する。こうしたことが可能となったのはむろんドローン自体の性能がそれに耐えるところまで進化したという面もあるが、それ以上にその裏側にある「システム」が優れているからだという。
「例えばAmazonはドローンでの配送を本気で実現させようと取り組んでいます。飛んでいる複数のドローンはその場の天候などの情報をお互いに共有しあって飛行をコントロールする。障害物の少ない平原地帯などでは十分実現可能な計画だと思います」
こんなふうに「蜂」ではなく「蜂の群れ」を制御できるのもAIによって「システム」が構築できるから。世界のトップ企業はAmazonのように「複数のドローンを組み合わせてトータルとしての成果を挙げる」ことを目指しているという。

ドローンがもたらす社会へのインパクト

日本ではコマツの事例を紹介。コマツはもともと持っていた「スマートコンストラクション(半自動化による施工)」技術に欠かせない施工現場の3次元データの作成をドローンによって時間短縮化したことでこのサービスを「売れる」ものへと変えた。ここでコマツが注目したのは採用したドローンの飛行性能ではなく搭載しているカメラとデータの処理能力。それまで人力でやっていた作業がドローンによって補完され効率化する。こうした活用例は今後増えていくことが予想される。
ではドローンが交通インフラとして普及したくさん飛ぶようになったら何が必要か。その答が「コントロール=航空管制」だ。これは日本が立ち遅れている分野。一方のアメリカではNASAやFAA(連邦航空局)主導のもとにシステム化が進んでおり、2022年までには開発されるとも言われている。
ドローンが普及した社会。それは「空を最大限に活用する社会」であり、「ロボットが新しい解決策を可能にする社会」であり、「多様な生活が可能になる社会」だ。実際、空撮やパイプラインの監視など、すでにドローン・ビジネスは形になっている。ドローンはまた、離島や自分では動けない人への医薬品、生活嗜好品の配送など、人々の生活を支えるといった面でも活躍が期待されている。
小林氏の本業はコンサルタント。「夢」は「ドローンという技術を使って驚きを持って迎えられるようなサービスをつくること」。
「それを本業の中でできればと思います」

講師紹介

小林 啓倫(こばやし あきひと)
小林 啓倫(こばやし あきひと)
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にて経営学修士号を取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業を経て、2005年から国内コンサルティングファームに勤務する。著者に『ドローン・ビジネスの衝撃』(朝日新聞出版)『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ)、訳書に『3Dプリンターが創る未来』(日経BP)など多数。個人ブログ「POLAR BEARBLOG」は2011年度のアルファブロガー・アワードを受賞している