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イベントレポート

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2015年10月21日(水)19:00~21:00

河内 牧栄(かわうち まきえい) / ネイチャーガイド・カメラマン

オーロラの下で暮らす
~極北アラスカの自然に抱かれて~

アラスカ州、フェアバンクス在住でネイチャーガイド&カメラマンとして活躍する河内牧栄氏に、北極海沿岸に生息するホッキョクグマの生態や、アラスカの魅せる神秘な世界をご紹介いただいた。また、最新の撮り下ろしオーロラムービーも披露。原野での暮らしの工夫やその面白さなども併せて紹介していただき、極北のアラスカの世界を体験する機会となった。

アラスカの自然と暮らしに魅せられ「永住権」を取得

普段はアラスカでオーロラ観賞や北極圏ツアーなどのネイチャーガイドをしている河内牧栄氏。冒頭で見せてくれたのは、セミナー開催日の1週間ほど前に撮影したオーロラの映像。夜空に舞う幻想的な光のカーテンは、極北アラスカならではの光景だ。河内氏はアラスカ北極圏で政府が認可する正式なライセンスを持っている唯一の日本人ガイドでもある。

面積は日本の4倍、アメリカでいちばん大きな州であるアラスカは言わずと知れた自然の宝庫だ。そこに暮らすのはアメリカクロクマや陸の王者グリズリー(ハイイログマ)、ホッキョクグマ(シロクマ)、ヘラジカ、氷河期時代の生き残りであるジャコウウシなどの野生動物。最高峰である標高6,190メートルのデナリ(マッキンリー)山に代表される山々もあれば、森林限界を越えたツンドラや、トウヒや白樺がなす広大なタイガの森もある。アウトドア好きにはたまらなく魅力的な土地だ。もともと「北への旅が好きだった」という河内氏が初めてこのアラスカを訪れたのは1997年。カヌーで川を下り、その自然に魅了された。2003年には永住権を取得してアラスカに移住。以後、主に日本人の旅行者を案内するネイチャーガイドとして現地で活動している。
「僕が今家族と住んでいるのは、アラスカ第二の都市であるフェアバンクスの郊外。町から45キロほど離れた森の中で暮らしています」

買ったのは、ガスも電気も水道も通っていない、そればかりか「傾いている」ログキャビン。永久凍土の上に家を建てるアラスカでは、傾くのは当たり前のこと。傾斜はジャッキで家を持ち上げて「40センチの嵩上げ」。電気は発電機でまかない、水道は「フェアバンクスとの中間にある井戸に汲みに行く」生活。少し離れた場所にオーロラ観察用の山小屋を建てるにも「まずはスコップで道から造成しました」。トイレやシャワーは今でこそ家の中にあるものの、はじめは、トイレは外にある「アウトハウス」で済まし、シャワーも「長い間外のテントで、プロパンガスのストーブをつけながら、バケツのお湯をポンプで汲み上げて浴びていました」。

美しいツンドラの景色、野生動物との出会い

自然の中での暮らし。こうした日常の中でもっとも大切なのは燃料である薪の確保だ。アラスカ内陸は、夏にはときとして摂氏40度を記録するような猛暑にも見舞われる一方、真冬はマイナス50度にもなる酷寒の地だからだ。
「だから、春も夏も秋も冬も、暇さえあれば木を切って薪を割っています」

子どもの通学もひと苦労。スクールバスは家までは来ないため、最寄りの停車場所まで毎朝夕送り迎えをしなければならない。天気が悪いとバスが遅れるため、往復1時間半かけて学校まで送ることもあるという。

厳しい自然の中での生活にも恵みはある。春は白樺の汲み上げる水を採取して「シラカバシロップ」を作る。夏の終わりになると、ブルーベリーやコケモモなどのベリー類でジャム作りができる。作物も植えればトマトやキャベツ、ズッキーニなどが育つ。川に網を入れれば大きな鮭が獲れ、イクラの醤油漬けやスモークサーモンを作ることができる。先住民の友人を訪ねると、クジラやカリブーの肉を分けてもらえたりもする。もちろん、ここはアメリカ。町のストアに行けば「米も味噌も手に入ります」。

河内氏がガイドの仕事をしているのはフェアバンクスから北極海にかけての北極圏。そこを通る道は「ほとんどが砂利道のハイウェイが1本だけ」。北極海までの800キロほどはアメリカ最北のブルックス山脈を越えて行く。苛酷なようだが、緑に覆われた夏のツンドラの景色は穏やかだ。7月には花が咲き、秋にもなればヒメカンバやブルーベリー、ウラシマツツジ、キョクチヤナギなどが美しく紅葉する。そして緯度が高いために、夏はほとんど日が沈まないのがアラスカだ。
「8月なんかは、お日様はなかなか沈まないで地平線の上を転がっていきます。オーロラがきれいに見えるのは天気の安定している2月や3月、それに8月、9月でしょうか。天候次第ですが、だいたい3日滞在すれば1回はオーロラを見られると言われています」

こうした土地を巡っていると、当然ながら野生動物にもよく出会う。カナダとの国境に近い北極海沿岸のカクトビック村には村人たちが解体したクジラ肉の残りを求めて数十頭のホッキョクグマがやって来る。ツアーではこれをボートから間近で観察することができる。

むろん、「ベアカントリー」と呼ばれる土地だから「熊にはいつも気を遣っています」。実際には人が襲われるような事故は日本の方が多いかもしれないが、長く暮らしているとやはり思わぬ場所で熊と出会ったりすることがある。
「一度、お客さまと原野を歩いているときにグリズリーに寄って来られたことがあります。あのときは唐辛子入りの熊除けスプレーを持って熊と睨み合うことになりました」

結局、そのときは風向きが変わり、目の前にいるのが人間だとわかった熊の方が慌てて逃げ出してくれた。「熊も人間が嫌」なのだ。

最大級のオーロラが見せてくれた地球の神秘

河内氏のツアーは少人数でアラスカの自然を楽しむのが特長。少ないときは2、3人、多くても5、6人。平均5泊6日のツアーは大人気だ。セミナー後半では今年の3月18日に撮影した「僕がこれまで見た中でも3本の指に入る大きさのオーロラ」の映像を14分間に渡って上映。今年は「オーロラの当たり年」。活発に動くオーロラは地球の神秘そのものだ。
「オーロラは不思議で、最初に見たときは、へぇ~あれがオーロラかって感じだったんですけど、見れば見るほど感動するようになりました」

オーロラのおもしろいところは肉眼とカメラを通すものでは色が違って見えること。いちばん多く見られるのは緑だが、赤やピンクに見えることもある。ほとんどの旅行者は写真撮影が目的。三脚は必携で、バッテリーの消耗が早いため、予備のバッテリーを余分に持ってくると安心だ。

若い頃に河内氏が憧れたのは旅好きで知られる椎名誠やカヌー旅行を世に広めた野田知佑といった作家たち。「この人たちがいなければアラスカには来ていなかった」と語る河内氏の「夢」は、「僕のところにやって来る日本の若者たちに、こんな暮らしもあるんだなと感じてもらうこと」だという。
「僕は自分が憧れていた人たちのような大きな存在にはなれないけれど、ネクタイを締めるだけが仕事じゃないんだよ、ということを若い人や子どもたちに伝えることができればいいなと思っています」

講師紹介

河内 牧栄(かわうち まきえい)
河内 牧栄(かわうち まきえい)
ネイチャーガイド・カメラマン
1966年岐阜県生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。アラスカ州フェアバンクス在住。カヤックで旅したブルックス山脈に魅せられて2003年アラスカへ移住。2009年フェアバンクス郊外に土地を手に入れ、森を開墾し母屋を造りながら、ゲスト用オーロラ観察キャビンを自力で完成させる。極北アラスカを専門にガイドする会社「ネイチャーイメージ」を運営。国立北極圏野生生物保護区では日本人ただ一人の公認ホッキョクグマ観察ガイド。2015年2月には初の写真集「SKYSCAPE PHOTOBOOKオーロラ」(誠文堂新光社)が出版された。2016年4月、誠文堂新光社より、アラスカでの暮らしや旅をつづった『愉快痛快アラスカ暮らし~オーロラの下で高いびき』を出版予定。