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イベントレポート

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2015年10月21日(水)13:30~14:30

野秋 和弘(のあき かずひろ) / スルガ銀行 カスタマーサポート本部 部長

第5回 プロと楽しむお街ゼミな~る 知って得するマネー講座
「大切な財産の守り方」

静岡市・呉服町商店街の、専門店の知識を活かしたミニ講座「第5回お街ゼミな~る」。2015年9月25日に行なわれた「大切な財産の継承について」セミナーの第2回として、今回は「大切な財産の守り方」をテーマに開催した。前回同様、講師はスルガ銀行カスタマーサポート本部部長・野秋和弘。日頃から遺言書作成のサポートや相続手続きの代行を行なっているとのことで、具体例を踏まえての解説だったため、身近な問題として聞くことができた。

相続のことになると、仲のよかった家族が揉めることも

「死と相続は、誰もがいつか必ず直面する問題。しかし、自分が相続人の立場にならないとなかなか現実問題として捉えにくいものだと思います。次の世代になるべく迷惑をかけたくないのなら、遺言書は非常に重要です」。
「相続」は誰かが亡くなった時に発生する。法律用語では、亡くなった方を「被相続人」、相続する人を「相続人」という。財産は相続の手続きを経てから受け継ぐことになっており、死亡した時点では被相続人が所有していた財産は「相続人全員の共有状態」となっている。
遺言書がない場合、財産を相続するには「分割協議書(※1)」が必要になり、どの財産を誰が受け継ぐかを相続人全員で決めなければならない。誰が相続人になるかは「民法」で決められている(=法定相続人)。

<法定相続人とは>
被相続人の配偶者と、第一順位である直系卑属(=子。子が死亡している場合は孫)。
第一順位がいない場合は第二順位にある直系尊属(=父母。父母が死亡している場合は祖父母)。
第二順位もいない場合は第三順位である兄弟姉妹(兄弟姉妹もすでに死亡していればその子)が相続人となる。

<法定相続分とは>
法定相続分とは、遺言書がない場合に、民法で規定された各法定相続人が譲り受けることのできる遺産相続の割合のこと。たとえば、配偶者と子どもが相続人となる場合、相続財産を「1」として配偶者が1/2を受取り、残り1/2を子ども(非嫡出子を含む ※2)で分割する。
法定相続は、公平なようで、家族間で争いの種になってしまうことも多い。

<相続の身近なケース>
◯事例1 夫婦二人で苦労して築きあげた財産を残して夫が死亡したが、遺言書を残していなかった。夫の両親はすでに亡くなっており、夫には兄が2人いた。長兄は「相続しない」と言ったが、次兄の妻が「法定相続」を持ち出した。結局、法定相続どおりわけることになってしまった。

遺言書がなければ後々親族間でトラブルになることがある。遺言書も書けばいいというわけではなく、残される家族・親族全員のことを考えて作成しなければならない。遺言書があったにも関わらず、トラブルとなったのが次の事例だ。

◯事例2 遺言書を残しておいた夫。妻は後妻で、先妻との間に実子が3人いた。後妻と実子3人は養子縁組はしていなかった。遺言書には「全財産を妻に」と記し、死亡。しかし、後妻も死亡した。この場合、財産は先妻の子どもへ渡らず、後妻の両親や兄弟、甥姪が相続することになる。財産には先祖代々の土地も含まれていたが、後妻を想う遺言が原因で、他人に渡ることになり、実子へは何も残せなかった。

また、兄妹仲がよいからと遺言書を残さず、トラブルになってしまった事例もある。

◯事例3 父が死亡。すでに母も亡くなっており、兄妹4人で財産を相続することになった。兄妹仲は非常によく、もめ事は起きないだろうと遺言書を残さなかった。長男は優秀だったため海外の大学へ行かせるなどお金をかけ、長女には自宅を建てる際に資金援助をした。次男と次女にはあまりお金を使っていないが、生前の援助に差があったとしても、民法上の相続財産は全員平等。父は長男には跡継ぎとして自宅を相続してほしいと思っていた。しかし、次男の妻が法定相続分を現金でほしいと主張。それに長女と次女も同調した結果、遺産分割協議は紛糾。法定相続どおりとなったため、自宅を売ってお金に変えることになってしまった。

※1 遺産分割協議書…相続発生時に遺言書がない場合、相続人全員で遺産分割の「協議」を行なうが、この協議の内容を記したもののこと

※2 非嫡出子の法定相続分について…嫡出子と非嫡出子の相続分は同等。民法に記載されていた、嫡出子を優遇する内容は違憲だという最高裁判決がくだり、平成25年にこの規定が削除された。

自分の意思を伝える「遺言書」

これらの事例を踏まえると、遺言書は被相続人の意思を伝えるために非常に重要である。また、遺言書の有無によって相続手続きの流れが異なってくる。

<遺言書がない場合>
遺言書がない場合は、次のような煩雑な手続きが必要となる。
1. 戸籍(出生から死亡までの連続したもの)を揃え、遺産を調べて、相続人の確定と相続分の確認を行なう。戸籍を調べているうちに、予想もしなかった相続人(たとえば先妻と子どもがいたなど)が出てくることもある。遺産については、どこの銀行や証券会社に資産を預けていたかなど、すべてを正確に把握するのは難しい。
2. 「遺産分割協議書」の作成。相続人全員の参加と合意、協力が必要で、全員の実印と印鑑証明も必要。前例にも出てきたとおり、法定相続分ではフェアでない場合(たとえば長年介護をしたなど)があるため、寄与分(※3)・特別受益(※4)などの制度が存在するが、全員が納得する合意に至るのは困難。
3. 遺産分割協議が不成立となると、家庭裁判所へ「調停」申立、これも不成立となると「審判」、そして「上級審」へとなる。相続税の申告期限(10か月以内)までにまとまらないと、配偶者控除(※5)や小規模宅地(※6)など相続税軽減のための控除が使えなくなってしまう。

<遺言書がある場合>
遺言書は法定相続より優先するとされ、面倒な手続きが少なくなり、すぐに相続財産をわけることができる。
・法定相続人以外にも財産を残すことができる。たとえば介護してくれた嫁、よく遊びに来てくれた孫、お世話になった人、母校・公益法人
・慈善団体への寄付などがあげられる。法定相続分とはことなった具体的な配分ができる
・ただし、被相続人の兄弟姉妹(甥姪)以外の相続人に対して、一定割合の財産を相続できる権利「遺留分」がある。遺言書により遺産をもらえないとされた相続人は、遺留分減額請求権の行使でもって遺留分の財産を手にいれることができる
・遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」がある。「自筆証書遺言」の作成には「遺言の全文・日付・氏名を自署」と「捺印」が必要で、遺言者の死亡後、家庭裁判所の検認手続き(※7)が必要となる。「公正証書遺言」の作成には「証人2人以上の立ち会いにより公証人が公正証書として作成」することが必要であり、費用がかかるが、すぐに相続手続きに入れる。

<遺言書作成の留意点>
・心身ともに健康なうちに作成しておく(必要であればいつでも書き直しができる)
・未解決事項は片づけておく(未登録の不動産、名義借りの預金や株式、分筆すべき土地など)
・トラブルの種を残さない(遺留分を考慮しておく、相続人が先に死亡した場合などにも備え予備的遺言も記しておく)
・自分の気持ちを書く(わけ方についての考え方・気持ち。うらみつらみは書かない)
・税金面も考える
・必要な人以外には口外しない
・葬儀の仕方、連絡すべき親族・知人等は別途「エンディングノート(※8)」などに記しておく
・遺言執行者(※9)の指定

※3 寄与分…相続人間の公平を図るための制度。民法に「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護そのほかの方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」をした場合、財産にその寄与分を加えたものを相続財産とみなすと記載されている。なお、寄与分の算出には家庭裁判所への請求が必要

※4 特別受益…相続人間の公平を図るための制度。民法に「被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」場合、財産にその贈与分を加えたものを相続財産とみなすと記載されている

※5 配偶者控除…その年の12月31日の時点で以下の4つの要件すべてに該当する人は、一定金額の所得控除が受けられる。「(1)民法の規定による配偶者であること(内縁関係は該当しない)」、「(2)納税者と生計を一にしていること」、「(3)年間の合計所得金額が38万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)」、「(4)青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと」

※6 小規模宅地…「個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額」する制度

※7 家庭裁判所の検認手続き…遺言書の存在と内容を家庭裁判所が確認すること

※8 エンディングノート…もしもの時のために伝えておきたいことをまとめたノートのこと。法的拘束力はないため注意が必要

※9 遺言執行者…遺言書どおりに相続の手続きをする人のこと。執行者の指定がない場合は、執行者の選任を家庭裁判所へ申し出る必要がある

大切な家族のために少しでも相続の負担を減らそう

家長が死亡した場合、さまざまな名義変更の手続きが必要になるが、相続には期限が決められているものもあり、死亡から3か月以内に相続放棄や限定承認(※10)の手続き、4か月以内に準確定申告(※11)、10か月以内に相続税の申告・納税、そして忘れた頃に税務調査(※12)が入ることもあるため、残された家族の負担は非常に大きい。
相続財産の額が相続税の基礎控除額以下の場合は申告不要。また、相続税の負担を減らすために、特例の適用(※13)や暦年贈与(※14)、相続時精算課税制度(※15)などの方法があるが税法改正や評価額(宅地に面する道路の評価額である路線価や株価)の変更等に留意する必要があるので、各分野の専門家に確認をした方がよい。
さまざまな手続きがあるため、大切な家族のために今のうちにできることから少しずつやっておいて欲しい。
最後に相続・遺言のポイントについて述べた。「まずは自分の資産・負債状況の把握から始めてください。自分の不動産はいくらなのか、売ればどれくらいになるのか、預貯金や株式がいくらくらいあるのかを財産目録を作成し、戸籍も揃えておくといいですね。そして誰に何を配分するか不公平にならないように考えておく必要があります」。
相続税がかかるかどうか、一度試算しておくことや、納税資金をどこから捻出するか、必要に応じて節税対策も講じておいた方がいいと話す。
「できれば相続・遺言について相談できる人を作っておくのがいいですね。相続税は複雑な要素があるので、弁護士や税理士にお願いするのがベストです。しかしお金もかかる話ですので、ぜひスルガ銀行などの金融機関にまずは相談することも選択肢にあげておいてください 」。日頃からなじみのある金融機関であれば、気軽に相談できそうだ。
スルガ銀行では「遺言信託」の取扱いがある。これは一部の銀行でしか取扱いがないサービスで、公正証書遺言の作成の手伝いから保管、遺言の執行まで責任をもって行なってくれる。ぜひ最寄りのスルガ銀行へ相談してみて欲しい。

※10 相続放棄や限定承認…負債(借金など)を相続した場合、それを放棄することができる。また負債を弁済したうえで余りが出れば相続する「限定承認」という方法もある

※11 準確定申告…被確定申告をしている場合は、1/1からの死亡した日までの相続人の所得税や消費税を申告する必要がある

※12 税務調査…行政機関が納税者の申告内容に誤りがないか確認し、是正を行なう調査。相続においては、被相続人の財産がすべて申告されているかの調査が行なわれる

※13 相続税における特例の適用について…配偶者の税額軽減、小規模宅地等の評価減など特例の要件を満たす場合は、申告をすれば相続税の控除・軽減が受けられる

※14 暦年贈与…1年間に贈与を受けた財産の合計額をもとに贈与税額を計算すること。たとえば生前贈与ならば、毎年110万円までは贈与税がかからない

※15 相続時精算課税制度…暦年贈与との併用不可。60歳以上の人が自分の相続人である20歳以上の子や孫に対して贈与した場合に、受けた人が相続時精算課税を選択すれば、2,500万円までは贈与税が課税されず、贈与者が死亡した時に相続税の対象になる。2,500万円を超えた分は一律20%の贈与税となる

■今回ご紹介した事例はあくまでも一例であり、全てのケースにおいてこのような結果になるとは限りません。

文・河田良子

講師紹介

野秋 和弘(のあき かずひろ)
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