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イベントレポート

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2015年10月24日(土)13:30~15:00

佐藤 彰祐、福島 宙輝 /

八海山で学ぶ「日本酒のイロハ」

いまや「SAKE」と呼ばれ世界中で親しまれる日本酒だが、ただただ「おいしい!」という感想以外に味の特徴や個性を表現することができるだろうか? 本講座は、「吟醸」「大吟醸」「ひやおろし」など、何気なく使っている用語の意味合いも含め、日本酒の「イロハ」を学べる講座。鵠沼海岸の酒屋「へいわ」を営むお酒のプロ、佐藤彰祐氏と、慶應義塾大学で日本酒をテーマに認知科学を研究する福島宙輝氏をお迎えし、八海山のお酒を教材に大人の授業が始まった!

日本酒の種類はその製法によって決まる

鵠沼海岸にある酒屋「へいわ」三代目の佐藤氏と、慶應義塾大学で日本酒をテーマにした研究をしている福島氏を講師に、湘南エリアの無料地域情報誌「フジマニ」編集長の三浦氏を進行役に迎えて開催された日本酒入門セミナー。まずは佐藤氏に、日本酒の種類について説明していただいた。

「純米酒」「純米吟醸酒」「大吟醸酒」「本醸造酒」と、日本酒の呼称はいろいろあるが、その違いは製法にある。大きくは醸造用アルコールを添加しない「純米酒」と、添加した「醸造酒」に分けられ、それぞれ精米の歩合によって、「純米酒」「純米吟醸酒」「純米大吟醸酒」、「本醸造」「吟醸酒」「大吟醸酒」と区分されている。

「醸造酒は、純米酒に比べてランクが下、というイメージをもっている方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。醸造アルコールを入れることによって、味のキレを増したり、バランスをよくすることができます」

日本酒の原料となる酒米は、私たちがご飯として食べるものよりも値段が高い。精米も、ご飯になるお米は3%程度を削るのに対して、酒米は精米時に40~70%までを削ってしまう。

「米をどんどん削っていくと、中心に心白(しんぱく)という白い部分が出てくるのですが、これを傷つけないように精米するのがすごく難しい。精米機はすごく重要で、専門の仕事の人もいるくらいです。原価料に加え、こうした精米の手間がかかっていることが、日本酒の値段につながっているわけですね」

以前は辛口がブームだったが、最近は味わい、酸味、うまみにこだわるようになり、バラエティも豊かになっているという。「ちょうど今は、杜氏さんも世代交替している時期で、日本酒にとっては端境期。新しいムーブメントが起こっている時期だといえます」

続いて、福島氏が、日本酒の“味わい表現”について説明。

「味わったものを、どういうふうに言葉にしていくか、ということを研究しています。ワインのテイスティングではいろいろな言葉が使われていますが、日本酒にはそういった表現の歴史がないので、もしかすると今日考えた言葉が、スタンダードになっていくかもしれません」

味わいを表現するときは、「正解を求めないこと。とりあえず何か言ってみることも大切」だと福島氏。今回は、新潟県魚沼市の酒造「八海山」の日本酒3種類を試飲して、味わい表現に挑戦する。日本酒は、湘南T-SITEにある、八海山が手がけるコンセプトショップ「千年こうじや」からご提供いただいた。

日本酒を飲んで連想したのは「こたつ」「夜祭り」?

参加者は、「八海山特別本醸造」「八海山純米吟醸」、そして届いたばかりの新酒「八海山しぼりたて原酒 越後で候」をそれぞれ試飲し、その味わいについて、感じたままを書き留めていく。

「舌で感じたものを、頭で考えて言語化することで、お酒を覚えることができます。そうすると、お店でも『こういうお酒がほしい』と伝えられるので、お酒を自分で選べるようになります」と佐藤氏。

福島氏は、参加者の書いたコメントを見て回り、ピックアップした言葉をホワイトボードに記入していく。

「八海山特別本醸造」…淡い、コシが強い、こたつ・お正月、まろやか、炭
「八海山純米吟醸」…舌にぺっとり残る、フルーティ、爽やか、メロン、薄い、キレ、お寺巡り、リンゴの皮
「八海山しぼりたて原酒 越後で候」…バラの花、夜祭り、白いユリ、快晴の朝、口の中べっとり、とろろ

「こたつ・お正月…これの表現はヒットですね!『こういうときに飲みたい』という場面も、味わいを表す言葉になります。夜祭り、とか、お寺巡りもそうでしょうか。あとはフルーツや野菜に例えたり、合わせる料理を連想したりするのもわかりやすいと思います」と福島氏。

ワインに造詣の深い佐藤氏は、「よく酒屋さんが日本酒を説明するのに『辛口』という言い方をしますが、これは不誠実な説明だと思うんです。日本酒も、ワインと同じように、もっと細かい表現があっていい。お酒を買う側も、『ホタテを焼いて食べるので、それに合う日本酒を』とか『口の中でキレてなくなるようなものを』といった頼み方をしてもいいんじゃないかと思います」

福島氏は、「蔵のホームページに書いてある味のコメントも参考になる」と提案。「でも、どんなふうに作られたかとか、飲みやすいとか、そういうことは書いてあっても、案外、味のことは書かれていなかったりするんですよね。それが日本酒の面白さでもあり、悪いところでもある。消費者が語る言葉で変わっていくといいなと思います」

一緒に飲んで味わいを表現し合うことが楽しい

参加者は日本酒に興味がある人ばかりとあって、「これがおいしかった」「私はこれが好き」と、楽しそうに試飲を続けている。「八海山しぼりたて原酒 越後で候」は、10月から翌3月までの限定販売ということもあって人気だった。

「原酒、は、製造段階で水を加えていないので、とろっとした感じが口の中に残ります。最近人気の生酛(きもと)は、乳酸を添加せず、乳酸菌を自然に培養させた手間ひまのかかったお酒で、ミルキー、と表現してもいいような味わいが特徴です。生酛から、山卸(やまおろし)という蒸した米と麹と水をすりつぶす作業を廃したものが山廃(やまはい)。このように、今の日本酒は、技術の向上によって無駄なものを削ぎ落としていった結果でもあります」と佐藤氏。

福島氏は、『日本酒味わい事典』という著書から、「『メロンの香りがふくらむ』、といった、動詞を使うと、さらに表現の幅が広がります。今回のセミナーのように、他の人と同じお酒を飲み、表現し合うことで、言語が共通化し、日本酒を選ぶ力がついていきます。味わい表現に正解はありませんが、共通の言葉があるとみんなで理解しやすいですよね。『日本酒味わい事典』には、読んだ方が自分なりに使えるように、たくさんの表現を紹介していますので、参考にしていただければ嬉しいです」

最後は、「どういう飲み方がおいしいんですか?」「精米で出た粕はどうするんですか?」「日本酒は体にいいと聞きましたが本当ですか?」など、参加者から日本酒に関する素朴な疑問もあがり、日本酒談義に花を咲かせて、セミナーは終了。奥深い日本酒の世界の、まだほんの入り口ではあるが、その魅力をたっぷりと教えていただいた2時間となった。

講師紹介

佐藤 彰祐、福島 宙輝
佐藤 彰祐、福島 宙輝

佐藤 彰祐(さとう あきひろ)
鵠沼海岸で1968年より続く酒屋「へいわ」の三代目。
専門分野はワイン、アメリカンクラフトビール、日本酒と多岐に渡る。湘南エリアの無料地域情報誌フジマニとの合同企画として「湘南ワイン部」を2年前より主催。ワインを中心に日本酒やビールの会を開き、多くの方にお酒の楽しさを伝えている。

福島 宙輝(ふくしま ひろき)
慶應義塾大学 博士課程 助教(有期・研究奨励)
日本酒の味わい表現の分析を中心に味覚の言語表現の研究を行なっている。最新の研究は日本酒の表現にみられるオノマトペやイメージスキーマの分析など。2013年に人工知能学会研究会優秀賞、2014年には「日本酒味わい事典」にてグッドデザイン賞を受賞している。