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イベントレポート

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2015年10月25日(日)10:30~13:00(上映会編)、14:30~15:30(上映 Live in d-labo shonan)

長沼 里奈、Peach /

映画をつくろう!
第2回:上映会編+上映 Live in d-labo shonan

時に感動を、時に喜び、怒り、悲しみを。さまざまな感情を私たちに呼び起こしてくれる存在、それが「映画」。夢研究所d-labo湘南での今回のセミナーは、「映画作り」。脚本、絵コンテ、カメラワークなど、映画作りの世界は分からないことばかり。本セミナーでは、映画作りのノウハウをレクチャーし、実際に作品作りをしていただいたのち、上映会まで行なう。参加者の皆さまに、映画監督になっていただく全2回のセミナーだ。
第1回では脚本作りについて学び、第2回となる今回は、いよいよ各自が撮影してきた映像を編集、作品として仕上げ、上映する。
その後、今回の講師を務めていただいた長沼里奈氏の作品『re:design myself』を特別上映。あわせて、メイキング映像を交えた長沼氏のトークショーや、主題歌を手がけた函館在住のシンガーソングライターpeach 氏によるライブも実施。一日限りのスペシャルなひとときを楽しんでいただいた。

「撮り直しましょう!」とd-labo内で急遽撮影も

北海道・札幌を拠点に活動する映画作家、長沼氏を講師に迎えて、映画を作り、上映することを目指した全2回の講座。「映像作品と記録映像の違い」「映画はどうやって作られるのか」「映像編集アプリの使い方」「脚本、絵コンテの作り方」などについて学んだ前回を受け、第2回となる今回は、各自が撮影してきた映像を“作品”にするための仕上げに入る。

「今日は皆さんが頑張って撮影してきた素材を“作品”にするために、編集、仕上げをします。編集は、基本的には脚本どおりに進めますが、ときにはラストシーンを最初に持ってくる、など、思いきった変更をすることもあります。大切なのは、何を見せたいのか、何を伝えたいのかをしっかりと考えること。そして、出来上がったものに対して、『自分の作品だ』と胸を張って言えること。このふたつを念頭に置いて、作品を仕上げてください」

「仕事が終わらなくて焦る気持ち」を映像にした参加者は、音楽をどうしたらよいか、長沼氏に相談。長沼氏は、映像を何度も繰り返し見ながら、「焦りや緊張感を出したいなら、音は入れたほうがいいですね」「もっと映像の切り替えを早くしたほうが緊張感が伝わる」「この絵はカットして、コーヒーを差し入れする人の手を入れるのは? ここで物語の流れが変わることが、観る人に伝わりやすくなります」と、次々とアイディアを出していく。

いろいろと検討した結果、効果的な1カットを入れるために、撮影をし直すことに。d-labo内のカウンターで、急遽撮影開始。「監督、お願いします」という長沼氏の言葉を受けて、参加者が監督らしく、カメラマン(d-laboスタッフ)やアシスタント(長沼氏)に指示を出す。何度か撮り直して、監督が「OKです!」。早速、新しい画像を使って編集の続きに取りかかる。

別の参加者は、「風景と、溶けていく氷」の映像を組み合わせた作品について、「全体的に単調な感じがして」と相談。長沼氏は映像を見ながら、「リズム、呼吸を意識すること」を提案した。「風景はゆったり、氷のシーンは簡潔に、と、リズムを作るといいと思います。音楽が入るなら、映像の切り替えのタイミングを合わせるのもいい。風景のシーンの前に画面を一瞬黒くするのも手です。私も、編集のときには何度も何度も見て、自分の呼吸に合わせて『ここ!』という呼吸で手を入れていきます。そのリズムは、監督にしかわからないものなんですよね」

湘南T-SITE内の「Apple Authorized Reseller」から出張していただいたスタッフは、アプリ「iMovie」の操作をサポート。プロのアドバイスを受けて、それぞれの作品はどんどん完成度を高めていった。

出来上がった4作品を上映。完成度の高さに驚く

いよいよ、上映会の開催時間となった。

「前回もお話しましたが、映像作品作りは、上映する、というところまでがひとつのパッケージだと私は思っています。みんなに見てもらって、感想や批評をいただき、傷つきながらも(笑)ブラッシュアップしていくことが大切です。今日も、まず上映前に監督から挨拶と、作品解説をしていただいて、上映後にひとりずつ感想を言っていくようにしましょう」

以下、力作を上映順に紹介。

タイトル:『理不尽』
監督の言葉:「仕事のうえでの焦りと安らぎを表現したいと思いました」
内容:カタカタと忙しくキーボードを叩くシーンと、コチコチと時計が進むシーンが交互に登場する。指はすごいスピードで仕事をこなしているが、時間は無情にも過ぎていく。と、画面右側からコーヒーの入った紙コップが。ひと息入れようとその紙コップを手に取った瞬間、今度は画面左側からバサッと書類の束が。書類を手に取る主人公。画面は切り替わり、紙コップがクルクルと回転するシーンに。最後、床に落ちた紙コップはグシャッと靴で踏みつぶされる。
観客の感想:「画面の切り替えのスピードがよかった」「コップが落ちるところがわかりにくかった」「選曲がすごくよかった」

タイトル:『溶けていく時間』
監督の言葉:「大きな時間の流れを風景で、個人の時間の流れを氷が溶けてゆく様子で表現しました」
内容:全編モノクローム映像。ブラインドの隙間からもれる光、駅のホームに入ってくる電車、バスロータリー、交差点、猫、エスカレーターを降りる人の姿といった、風景を写した映像と、透明なグラスの中に入った氷が溶けていく様子を早送りにした映像とが交互に登場する。最後には、氷が溶けた水が入ったままのコップが黒い布の上に落ち、水がこぼれてゆく様子をスローモーションで映し出す。
観客の感想:「光と影のコントラストがきれい」「ちょっと抽象的すぎて難しかった」「難しいモノクロを、一枚一枚きれいな、強さのある絵で仕上げていると思いました」

タイトル:『僕はピーターパン』
監督の言葉:「人間とぬいぐるみの関係をテーマに作りました」
内容:主人公は20代の働く女性。仕事が終わって、部屋に帰ると、小さなクマのぬいぐるみ「ノア」が待っている。主人公は、ノアに自分の気持ちを語りかけ、「ノアがいてくれればいい」と依存している。別れた彼のものと思われる歯ブラシを捨てようとするが、捨てられない。もどかしい日々が続いたあと、主人公は、変わることを決意。ノアをお風呂に入れてきれいにする。仕事もうまくいき、彼の歯ブラシもゴミ箱へ。最後にはエンドロールも。
観客の感想:「ストーリーがうまくまとまっている」「ホントの映画みたい」「このぬいぐるみが彼女にとって特別な理由を知りたくなった」

タイトル:『bubble』
監督の言葉:「キャッチコピーは、『この想いよ、とどけ』。嬉しさや、幸せな気持ちを伝えたいと思いました」
内容:小さな女の子がシャボン玉を吹いている。小さなシャボン玉は、風に乗って街へ。ショーウィンドウの前、公園、歩道橋の上…。最後は、パパのところへ。シャボン玉に気づいて振り返ったパパが、女の子を抱きしめる、『bubble meets happy』の文字とともに、終了。全編に軽快な音楽が流れている。主演女優(監督の愛娘)、共演者(パパ)も上映会に同席。
観客の感想:「心が温まる映像でした」「テンポがいい」「伝えたいことがテーマに沿ってシンプルに表現されていた」

4作品とも、長沼氏が「こんなにレベルが高いとは思わなかった」と舌を巻くほどの出来映えで、上映会は大いに盛り上がり、2回にわたって行なわれた長沼氏の映画講座は終了。「使うのは、大きなカメラでも、iPhoneでも変わらない。映画を作っていくのに必要なのは、機材や技術ではなく、伝える力なんだということが、わかっていただけてよかったと思います」

映像と歌のコラボレーションに酔いしれる

1時間後には、長沼氏の最新作『re:design myself』の特別上映会が開催された。小樽商科大学の図書館のリニューアルに際し、エントランスに設置された120インチのモニターに流す映像を作ってほしい、という依頼で制作された作品で、同大学の学生たちと一緒に作品作りに挑戦したのだという。1分ほどの短い映像が7本入っており、登場人物は女の子一人。「“少女”と“女”の狭間で揺れ動く感情を見せていく作品です」と長沼氏。多くの観客を前に、d-laboでの特別上映が始まった。

―女がいる
少女と女のはざまで
自分にひそむ二面性によろこびとおそれをもつー

少女が小走りで階段を駆け下りる。黄色い花をむしり取るように摘む。古い列車の中を何度も振り返りながら走り抜ける。花束を抱えて駅のホームを歩く。無数のリボンの雨の中をさまよう。あどけない少女の表情に、大人っぽさが交錯して、観る者をはっとさせる。明確なストーリーがあるわけではない。いつまでも観ていたくなる、美しく幻想的な映像のオムニバスに、観客は引き込まれていた。

全編に流れる音楽は、函館を拠点に活動するシンガーソングライター、Peach氏によるもの。ため息のような、もの悲しくも力強い歌声が、長沼氏の世界観にぴったりと合っていた。今回は、d-labo湘南で、生演奏とともにその歌声を披露。『re:design myself』の主題歌である『まゆ』を含む6曲を歌っていただいた。

長沼氏によると、『re:design myself』は、Peach氏の曲ありきでプロットを書いたのだという。Peach氏は、「監督とは長いお付き合いですが、ある日突然電話がかかってきて、『曲使わせてもらってもいい?というか、実はもう映像できちゃってるんだけどね』と(笑)」

最後の曲、『まゆ』では、Peach氏の歌声と、長沼氏の映像がコラボ。会場には、うっとりするような贅沢な時間が流れた。

Live終了後、学生たちが苦労して作ってくれたという『re:design myself』のメイキング映像を流しながら、「こうして、いろいろな場所で上映会を開くことも、監督としての仕事。できるだけ多くの人に観てもらえれば、作品も幸せですし、スタッフも嬉しいと思います」と長沼氏。映像作品の素晴らしさを、さまざまな視点から体験できた、貴重な機会となった。

講師紹介

長沼 里奈、Peach
長沼 里奈、Peach

長沼 里奈(ながぬま りな)(写真左)
映画作家
高校卒業後、映画制作だけでなく「作品世界の体感」をコンセプトに、映画上映とライブやパフォーマンスなどを組み合わせた独特な上映スタイルで、道内外で活動している。『丹青な庭』(2002)は、撮影当時20歳で、現場スタッフにプロを迎えて制作し、「AsianCinema&Culture Festival2002」(南仏・リヨン)にて招待上映された。その他、CM やTV ドラマ、ミュージックビデオ、クラシックコンサートの映像演出、大学での講師・ワークショップなど、幅広い映像制作活動の中で様々な表現者とコラボレートしながら、「映画表現」を追求している。HP

Peach(写真右)
シンガーソングライター
函館・札幌を中心にピアノ弾き語りの活動を続けるシンガーソングライター。深いため息のような歌声と湿度を帯びたメロディに圧倒される。自身が今までに書いた曲は100 曲を超える。 函館のイベント「SWING MEN」で注目を集め、函館・あうん堂「アコースティックナイト」に定期的に出演。長沼里奈監督の『re:designmyself』(2013)では5 本の短編で構成された全編に異なる楽曲を提供し作品を彩っている。長沼作品への楽曲提供は『まぶしい嘘』(2007)に続き2 作目である。これまで制作したCD に「体温」と「Toy Flower」がある。HP