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イベントレポート

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2015年11月14日(土)14:30~16:00

石原 健士(いしはら たけし) / 株式会社小柳津清一商店

お茶で描く夢~お茶のバリエーション~

私たちの生活に欠かせない「お茶」。

意識しなくても口にしていることも多いこの嗜好品は、平安時代に中国から持ち込まれ、独自の伝統を育んできた。近年、その伝統は、最先端の技術と融合して新たな文化を形成しつつある。

今回は、回転寿司やレストランへの営業、海外販売といった特別販売業務を受け持つかたわら、お茶を活用した商品や製造する設備などの研究と開発を行なっている石原氏を講師に迎えた。お茶を活用した商品づくりやお茶の複合商業施設の設立、お茶業界の継承者の育成など夢に向かってチャレンジしている「今」について、お話を伺った。
d-labo静岡×第69回全国お茶まつり静岡大会コラボレーションセミナー第6弾!

6度の大臣賞受賞。自由な発想で生まれる珠玉の商品

今回のセミナーは、d-labo静岡×第69回全国お茶まつり静岡大会のコラボレーションセミナー第6弾として開催された。講師は、株式会社小柳津清一商店の石原健士氏。株式会社小柳津清一商店といえば、静岡県で製茶問屋を営むお茶メーカーとして有名だが、一方で、直営する「お茶とお菓子とカフェの店・雅正庵」の名前も良く知られている。

リーフティの消費量が減少する昨今、従来の製茶問屋としての仕事のみならず、アイディア溢れる新規開拓への挑戦にも、石原氏は意欲的だ。

冒頭から、「今日お話しする内容は半分くらい企業秘密なんですよ。」と石原氏。3年連続で最高金賞を受賞した、モンドセレクション授賞式の写真からスタートした。

「1998年、1999年、2000年と、私が開発したお茶が緑茶部門で賞をいただきました。2000年は創立50周年の記念の年でもあり、忘れがたい年です。」

この時、石原氏が開発したのは、深蒸し煎茶「山の恵」。3年連続最高金賞受賞というのは、世界初の快挙だった。
「茶どころ静岡の中でも、良質な茶葉が採れる産地として有名な本山地方で栽培されたお茶を、甘みを含むまろやかな味と深い香りが特長の深蒸し茶に仕上げました。さらに、静岡県産の良質な抹茶をブレンド。」
山のお茶の濃厚な深い味に抹茶独特の甘みと旨み、また、味だけでなく、鮮やかで美しい水色(すいしょく)にもこだわっている。
かねてより、静岡山間部のお茶は高級で良質とされてきた。その中で、いま最も値段が高いのは、本山で採れる茶葉。次に、天竜・森・春野の茶葉。そして、川根で採れる茶葉と続く。
とはいえ、15年前と比べて生産量は約半分。値段は6~7割と下がり、かつて1,500円/100gだったお茶が、今では1,000円/100gほどになっているのだとか。

「お茶離れが進む中、新商品の企画には余念がありません。皆様にお味見していただきたいお茶があります。」と提供されたのが「熟成白葉茶入り煎茶」。白葉茶とは、太陽の光を99.99%遮光して作られた茶葉のこと。太陽光を浴びた茶葉とは、風合いから異なる。

「美味・健康・安全・安心で高品質なお茶をできるだけ多くの人に提供したい」というのが株式会社小柳津清一商店のモットーだが、特徴のあるお茶のひとつとして「モーツアルトのお茶」を販売している。
「お茶を飲むとホッとしますよね。モーツアルトの音楽も、自然界のリズムに限りなく近い1/fゆらぎが含まれ、リラックス効果が高いとされています。このふたつを融合させたら、すごいお茶ができると思ったのです。」

生物の成長を促すという実験結果が発表された、「モーツアルト効果」を知っている人もいるのではないだろうか。

商品開発のために選んだ茶園は、標高634mに位置する、通称“天空の茶園”。摘採の約1か月前から、24時間モーツアルトの音楽を響かせて茶葉に聴かせる。その結果、朝夕の寒暖差と山霧による旨味と、余韻のある香味が楽しめるお茶が誕生した。
「ちなみに、異なるテイストの“ショパンのお茶”も好評です。」
美しい旋律が染み込んだお茶を、その音色とともに楽しむのも、また一興だろう。

地味だけど楽しい!お茶の基礎実験

石原氏の仕事のひとつに「お茶の基礎実験」がある。たとえば、保管方法の違いによって抹茶の色がどう変わるか、また、火入れの方法によって味と色がどのように変わるかなどを調査する仕事だ。

「弊社の商品に、“茶蘇(ちゃそ)”という抹茶フィナンシェがあります。この茶蘇を、色鮮やかかつ美味しく仕上げるために色々と調べました。それから、代表的な商品である“鞠福(まりふく)”という生クリーム大福。この商品の生クリームに最も合う抹茶を見出す際にも貢献できました。」
抹茶フィナンシェ「茶蘇」はふじのくに新商品セレクション2012金賞に、生クリーム大福「鞠福」はモンドセレクション金賞に選ばれている。
また、近年では「丸ごと栄養が取れる、ごみが出ない、レジ横での売れ行きが好調」との理由から、回転寿司店でティーバックに代わり、粉末茶が使用されるようになっている。
「弊社でも提供させていただいていますが、その際に、煎茶・ほうじ茶・玄米茶の粉末茶を様々な配合でブレンドし、回転寿司のネタにはどの配合の粉末茶が適切なのか、研究を行ないました。」
たとえば、マグロには煎茶が、甘海老にはほうじ茶が合うそうだ。あえて粉末の大きさを変えて、味に微妙な変化を付けることもあるのだとか。 また、昨今の粉末茶の普及を受けて、粉末茶の状態でもできるマイクロ波による殺菌方法を編み出した。
「まだ内緒ではありますが、特許出願しましたので特別に公表しました」
柔軟な考え方でお茶商品の開発に取り組む姿勢が評価され、異業種の企業から、企画の提案が持ち込まれることもある。それが、ペットボトルのお茶「京、とま郎茶」。京都府旅館ホテル生活衛生同業組合の有志による、京都を訪れる修学旅行生を対象とした商品だが、この開発に参加した。
「京都を訪れる修学旅行生の数は、年間100万人。ちょっと目線を変えることで、まだまだ潜在的なお客さまを見つけられる気がします。」

人とのつながりを大切に。新たな分野への挑戦

既存の考え方にとらわれず、豊富なアイディアを携えて幅広く活動する石原氏。では、最近の活動は?

「今は紅茶に注目しています…というより、ハマっています。ところが、開発にあたり、どうしてもクリアできなくて困っている点がひとつあるのです。2種類の紅茶を飲んで、皆さまの感想を教えていただけますか?」

そう言って提供された紅茶は、ペットボトルの「本山紅茶」。5年前から、静岡県は発酵茶に力を入れており、この「本山紅茶」もふじのくに山のお茶100選に選ばれている。

「本山で採れる茶葉を使った和紅茶です。とても高級な茶葉を使っているのですが、香料を入れないと物足りないのです。なんとか無香料で、かつ美味しいものを作りたいのですが…。」

さらにまったく違う分野である、ペットフードを企画中とのこと。
「浜名湖産の牡蠣とお茶を融合した商品を開発中です。」
イギリスのドキュメンタリーでは、ペットの鬱がクローズアップされており、その原因は①長い時間の留守番、②飼い主の機嫌の悪さ、③家庭の雰囲気が暗い、④室内での飼育によるものだという。

「お茶に含まれるテアニンが、記憶のメカニズムに影響する脳のパートに強力に働きかけ、ボケ防止と鬱に効果的だという結果が出ています。さらに、牡蠣に含まれる亜鉛が脳の働きを活発にするとのことで、これらをうまく配合して来年春頃販売できればと考えています。再来年には、しつけに活用できるペットフードも販売できる予定です。」

未来に向かって邁進している石原氏。その原動力と行動力のもととは?

「モンドセレクションの受賞をきっかけに、常々“大切だなあ”と感じているのは、人とのつながりです。2011年の授賞式で「萩の月」の田中社長と知り合い、大きな刺激を受けました。ペットフードに取り組むことになったのも、同級生との縁からです。相手の言うことを受け止め、受け止めたことを伝えたうえで現状を説明する、あからさまに否定しないでまず相手の気持ちを受け取る、そこから第一歩が始まると実感しています。」

最後に、石原氏個人の夢と目標を伺った。
「会社ではなく個人の夢として“お茶の複合施設を作りたい”という希望があります。ここへ来れば欲しいお茶が手に入り、お茶に対する疑問が解消できるという場所。海外からのお客様も大歓迎。観光バスのコースになっているような。また、我々のようなお茶屋も協力して情報共有できるような、そんな場所が作れたらと思います」

文・土屋 茉莉

講師紹介

石原 健士(いしはら たけし)
石原 健士(いしはら たけし)
株式会社小柳津清一商店
有機栽培茶の栽培と製造を手掛け、有機栽培茶の供給と商品販売を開始する。ISO9001を管理責任者として取得。茶師として作り出した仕上げ茶が1998年、1999年、2000年3年連続農林水産大臣賞受賞。またモンドセレクションでは緑茶としては世界初となる最高金賞を受賞。FSSC22000を管理責任者として取得する。