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イベントレポート

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2015年11月15日(日)10:30~12:00

金澤 木綿(かなざわ ゆう) / お茶の間コーディネーター

農園茶会@d-labo静岡
~d-labo静岡×第69回全国お茶まつり静岡大会 コラボレーションセミナー 第7弾~

「第69回全国お茶まつり静岡大会」のコラボレーションセミナー第7弾。
日本茶の奥深さやおもしろさを味わえる企画や、感性力を磨くための日本茶講座、コミュニケーション講座など、様々な場で活躍しているお茶の間コーディネーター・金澤木綿氏の呼びかけで、このセミナーは実現した。
お茶に魅せられて静岡に移住したという金澤氏は、「静岡は、どこへ行っても飲食店で出されるお茶のクオリティが高いです。それが、静岡へ来て驚いたことですね。」と話す。
金澤氏は、各地の茶農家とパートナーを組み、「お茶うけ屋」という農園茶の紹介サイトを運営している。今回は、その一環として「山水園(静岡本山茶)」の内野清己氏、「益井園(川根茶)」の益井悦郎氏、「高木茶園(奥八女星野茶)」の高木暁史氏の3名の茶師にもお越しいただいた。
お茶を深く楽しめるよう、呈茶(ていちゃ・客人をお茶でもてなすこと)を受けながら作り手の話をうかがう「農園茶会」。3つのテーブルに茶師が1名ずつ着き、参加者グループはそれぞれのテーブルで20分ずつ茶会を楽しんだ。参加者の中には、「全国お茶まつり 静岡大会」に合わせて県外・市外から足を運んだ人もいたようだ。
また、セミナーのために、それぞれのお茶に合わせたお菓子を提供してくれた、タルトクリエイター・新田有美氏の姿もあった。お茶の味を邪魔しない上品な味わいの一口タルトに舌鼓を打ちながら、お茶会は和やかに進んでいった。

静岡県静岡市 静岡本山茶「山水園」茶師・内野清己氏

静岡市の清流・藁科川を上った標高400mにある「山水園」。ここでは、先祖から700年受け継いできた茶の木とその製造方法で、静岡本山茶を作っている。畑仕事から加工、商品化まで、すべてを茶師・内野清己氏が担っている。これらを一貫して行なう人は稀だという。
「銘茶には、清香(せいこう)が必要とされます。清いお茶を作りなさいと、私の名前は“清己”と名付けられました。」
先祖代々から伝えられたことを、自分も後世へ伝え続けていきたいと語る。その活動のひとつとして、毎年、ゴールデンウィークと11月2週目の1週間に、農園を開放してお茶会や品評会を催しているのだとか。

セミナーで振舞ってくれたのは、「清香」。できる限りの愛情を注ぎ、一心二葉のみを手摘みするため、年に数キロしか生産できない逸品。茶葉一つひとつがたいへん美しく、「このお茶、美人でしょ?美人に仕上げてあげなきゃいけない」と語るほど、内野氏が子どものようにかわいがって仕上げたお茶だ。
煎茶は、1煎目は甘く、2煎目は渋く、3煎目は苦く、4煎目は淡くと、「甘・渋・苦・淡」で楽しむ。また、その度に適した淹れ方があるのだという。
まず、1煎目は、お湯を100cc急須に入れてから茶碗に注ぎ分け、次に急須に10gの茶葉を入れる。45~50℃に冷ましたお湯を急須に注ぎ、約1分蒸らし、茶碗に注ぎ分ける。
水色(すいしょく)が薄くきれいで、甘くふくよかな香りと旨味が楽しめる。

2煎目は、お茶の渋みとともに、お菓子の甘さも楽しむ。70℃くらいのお湯を注ぎ、20~30秒でつぎ分ける。

3煎目は、お茶らしいきりっとした苦味を味わうため、90℃くらいの熱めのお湯でさっと淹れる。
「本当に“美人なお茶”でした」「4煎淹れるという味わい方に、お茶の楽しみ方が広がった」など、生産者が直接淹れてくれたおいしいお茶に、参加者も非常に満足そうだった。

※清香の一口お菓子「白味噌のタルト」…発酵食品である白味噌と甘酒を使った、和風のタルト。お茶にバターは合わないので、生地のみに使用。お茶の味を邪魔しないさっぱりとした味に仕上げた。

静岡県川根本町 川根茶「益井園」茶師・益井悦郎氏

「大井川鉄道」で知られる大井川を上り、長野県よりにある静岡市・井川の手前にある奥大井の地域・川根本町。「益井園」の茶師・益井悦郎氏は、この地で1984年から川根茶を生産・製造・販売している。アメリカやアフリカでの農業体験から、農薬を使用しない独自の農法で、川根茶や紅茶、青茶(ウーロン茶)を製造。お茶作りには、茶摘みから製造・販売まで多くの人が必要とされるが、益井氏は一人ですべてを担っている。
また、栽培当時から紅茶も製造。過去生産されていた日本の紅茶は、海外産のものに敵わず、1980年代には製造も途絶えていた。「師と仰げる人もなく、一人ですべて生産していたため、緑茶と同じ品種の木(茶の木)から、製法を変えるだけで作れる紅茶を研究しました。」と益井氏は語る。

最初に振舞ってくれたのは、「No.12 紅茶 かほり せかんど」のホット。香駿という品種で、「平成26年度最高金賞受賞。味香は、固く、鋭い。醤油のような旨味、チョコレートの苦味、赤ワインのような渋み」とカタログに記載されている。緑茶でいうところの春に葉を摘む「一番茶」は、紅茶では「ファースト」。夏に葉を摘む「二番茶」は、「セカンド」というそうだ。

2番目にいただいたのは、「No.20 美醗香茶 黒 Noir」の水出し。つゆひかりなどの品種を使い、「身体にやさしい温の茶仕立て。香ばしさと、口中に広がる甘さが絶妙。水出しにもあう」とカタログに記載されている。青茶の一種で、水出しにすることでカフェインを減らすことができるという。(※カフェインは、80℃以上のお湯で淹れた際に抽出される。)

3番目にいただいたのは、「No.21 健康 粗挽き茶」。ヤブキタなどの品種を使い、釜炒りで少し発酵させた茶葉をそのままいただく。これは、静岡県立総合病院臨床医学研究センター部長・島田俊夫先生とコラボして開発した商品。年間100名の追跡調査では、毎食後にスプーン1杯ずつ(約2g)食べた際、個人差はあるが、脂質低下、糖尿病の症状低下、心不全の改善、便秘改善、貧血改善などの症状が見られ、その論文は学会でも発表された。
口の中に茶葉が残りにくいよう、食べやすさにもこだわった。

「国産紅茶は初めて」「粗挽き茶を口にするのは、初めは気がひけたが食べやすかった。健康にいいなら、続けて食べてみたい」など、参加者からお茶への興味が広がった声が聞かれた。

※No.12 紅茶 かほり せかんどの一口お菓子「2種のスイートポテトタルト」…富士宮で無農薬栽培の野菜を作っている「北山農園」の鳴門金時と、紫芋の2種のサツマイモを使用したタルト。蜂蜜や生クリームを使用し、サツマイモそのものの味を活かした。

福岡県八女市星野村 奥八女星野茶「高木茶園」茶師・高木暁史氏

「日本で最も美しい村」連合に加盟している福岡県八女市星野村は、「伝統本玉露」の生産量日本一として知られる。
リラックス効果があり、お茶の旨味のもとであるテアニンは、日光に当たると、渋みの原因となるカテキンへと変化してしまう。福岡県八女地域の「伝統本玉露」は、収穫前に20日間以上・95%以上の遮光を施しカテキンの生成を抑え、甘みと旨味が強いお茶へと仕上げる。
先祖から4代に渡り、「奥八女星野茶」の栽培を受け継いでいる茶農家「高木茶園」の茶師・高木暁史氏。昔ながらの、有機肥料や堆肥を使った土づくりに励み、必要最低限の農薬散布しか行なわない特別栽培で、栽培・製造・直販まで一貫して従事。ヨーロッパ輸出に向けた緑茶栽培にも取り組んでいる。
通常、茶の木は挿し木で株を増やすが、高木氏は、在来玉露を使い種から木を育てる。
種からであるために、成長の違いが大きく出て、茶園の風景は高木氏曰く「ジャングルのようなカオス状態」。「玉露の、がつんとくる旨味が好きではないとおっしゃる方もいるのですが、化学肥料を極力使わない方法で作ると、後味がよく、さわやかな玉露になるのです。」と高木氏は語る。

セミナーで振舞ってくれたのは、「伝統本玉露」の「すすり茶」(八女では「しずく茶」という)。ふた付きの湯のみに、4g程度の茶葉、茶葉がひたひたになる量の人肌温度(35~40℃)のお湯を注ぎ、ふたをずらしてすすり飲むお茶だ。

2煎目は、50℃程度のお湯を注ぎ、すぐいただく。かぶせ茶(玉露よりは遮光期間が短いが収穫前に1週間程度遮光する栽培方法)のような味わいを楽しめる。1煎目から味が変化し、自然が作り出す複雑な味のハーモニーが楽しめる。

3煎目は、60℃くらいの温度で淹れ、さわやかな味わいを楽しむ。温度を少しずつ変えることで、味の出方も変わってくる。
最後は、茶葉に好みの量のポン酢を垂らし、楊枝でいただく。出がらしを佃煮にする方法もあるが、「伝統本玉露」は葉が非常に柔らかく、苦味もあまりないため、サラダ感覚でいただけた。

「玉露は初めて飲んだが、甘い」「すごくおいしい」など、参加者からは感嘆する声が聞かれた。「日本一のお茶どころ・静岡の方に、福岡のお茶を飲んでいただけるか不安だったが、喜んでもらえてたいへん嬉しい」と高木氏は話された。

※すすり茶2煎目の一口お菓子「ベイクドチーズケーキタルト」…濃厚になりがちなベイクドチーズケーキだが、シンプルでなめらかな味わいを表現。玉露の旨味を邪魔せず、さっぱりといただけた。

文・河田 良子

講師紹介

金澤 木綿(かなざわ ゆう)
金澤 木綿(かなざわ ゆう)
お茶の間コーディネーター
25歳でお茶に目覚め、静岡県へ移住。紅茶、中国茶、および日本茶など、ジャンルを問わず世界のお茶に精通。「人」だけではなく、「自然」とのコミュニケーション力を磨く提案をしていることから、各地の茶農家とパートナーを組み、「お茶うけ屋」という農園茶の紹介サイトを運営している。

お茶うけ屋:http://ochaukeya.com