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イベントレポート

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2015年11月24日(火)19:30~21:00

菅原 敏、松村 宗亮 /  

「菅原敏の職業図鑑」第1回 ゲスト:松村宗亮(茶人)

WEBメディア「roomie」にて連載中の「菅原敏の職業図鑑」のスピンオフ・イベントが、月に一度d-laboでスタート。詩人の菅原敏さんが、毎回さまざまな分野のスペシャリストを招き、その仕事と生き方を紐解いていく。第1回のゲストは、横浜・関内にある茶室「SHUHALLY(シュハリ)」の庵主、松村宗亮さん。裏千家茶道准教授の資格をもち、多方面で活躍する若手茶人のひとりである松村さんに、普段あまり垣間みることのない茶人の仕事、そしてその想いについてなど、WEBの記事とはまたひと味違ったことをお話しいただいた。

《WEB連載中》菅原敏の職業図鑑

人々の頭に浮かぶ「?」に答える『菅原敏の職業図鑑』

d-laboで、月に一度開催している『夜の読書館』の館長を務めている詩人の菅原敏氏。今回のセミナーはWEBメディア『roomie』上で、さまざまなスペシャリストを紹介している『菅原敏の職業図鑑』の「リアル版」。日頃から「一緒に仕事をしたりお酒を飲んだりしている仲」である茶人の松村宗亮氏をお招きし、普段はなかなか知る機会が少ない茶人の日常や仕事の舞台裏についてトークセッション形式で語っていただいた。

3年前までは会社員。2013年の詩集出版を機に本格的に詩人として活動を始めた菅原氏。『職業図鑑』の連載を始めたきっかけは、「詩人」という自分の肩書きにあったという。
「人に詩人ですと言うと、たいていの人の頭に〈?〉マークが浮かぶのが見えるんですね。詩人というけれど、この人はどうやって暮らしているんだろうと思っていることがわかるんです」

あらためてまわりを見回してみると、自分と同じような変わった職業の友人や知人が多いことに気が付いた。「茶人」である松村氏もそのひとり。そこでスタートしたのが人々の頭に浮かぶ「?」に答える『菅原敏の職業図鑑』だった。松村氏は、女性の多いお茶の世界では珍しい男性の茶人で、しかも40歳というまだ「若手」といえる存在。初めて会う人には「どうしてお茶を始められたのですか」と尋ねられることが非常に多いという。このセミナーでも、まずは松村氏がお茶の世界に入った動機についてお伺いした。

松村氏は「横浜生まれの横浜育ち」。横浜という土地柄もあって幼稚園はインターナショナルスクール。子どもの頃から外国文化に触れる機会が多かった。大学ではヨーロッパ哲学を専攻。学ぶからにはやはり現地に行こうと学生時代は1年間休学してヨーロッパへ渡航。そこでいちばん感じたのは「日本の文化を知らない自分」だったという。
「外国に行くと、聞かれるのは日本のことばかりなんですね。ところがこちらは逆に外国にかぶれているものだから、日本の文化について語ることができないんです」

伝統文化である「お茶」に現代的なものを取りこむ

「これはまずい」と痛感した松村氏が帰国後に始めたのが茶道や華道、書道などの伝統文化。なかでもお茶は「書や花を取り入れることもある。他にも食事や焼物、服、文学など生活にまつわるものがすべて関わってくるし、何よりも哲学をやっていた自分にとっては〈人の生き方〉というものも含まれているような感じがしておもしろいと思ったんですね」。大学卒業後は大学院で経営学まで勉強した身でもあったが、気持ちは「お茶」に向いていた。「俺、お茶をやる」と家族に宣言。京都の裏千家学園に入学し、3年間の勉強を経て「茶人」となった。現在は横浜の関内で茶室『SHUHALLY(シュハリ)』を運営。庵主として訪れる人をもてなしながら、海外での茶会やミュージシャンと組んでのライブパフォーマンス、企業とのコラボレーションなど、「伝統文化であるお茶がもともと持っている哲学や思想に現代的な素材や表現方法を取りこんだ活動」を展開している。セミナーではヒューマンビートボックスと合わせてのライブ動画を上映。口や鼻からの発音だけでスクラッチ音などを再現するヒューマンビートボックスとのコラボレーションは、「茶室」という空間からヒントを得たものだ。
「お茶室というのはおもしろくて、狭いだけに畳の上を歩く音や炭がパチパチと爆ぜる音、シューシューと釜が吹く音など、普段聞き逃している音が聞こえておもしろいんですね。ああいった音を拡大して聞かせることができたらと思って、友人で日本文化を学んでいるアメリカ人のビートボクサーと組んでステージに上がってみたんです」

もちろん、こうした新しい取り組みには「お茶とはこうあるべきだ」といった考えを持つ人々から「辛口」の意見も返ってくる。「それはそれでまったく正しい」と松村氏。しかし、茶の歴史を辿ってみれば、かの千利休も生きている当時は「その時代の価値観からすると、すごくアバンギャルドなことをやっていた」。
「利休さんがやっていたことは、今で言うコンセプトアートに近いと思うんですね。そういうスタンスは刺激になりますね」

「お茶」のおもてなしとは

こうしたユニークな活動をつづけている松村氏だけに、その茶室にもいろいろな人が訪れている。F1レーサーのルイス・ハミルトン氏が来たときは「必勝を祈願」しての茶会を。「子どもの頃から好きだった」という北野武氏には、茶でもてなしたあとに書を書いてもらった。月に一度は書道や能の稽古にも勤しむ。能はお茶と並んで戦国時代の武将たちの間で盛んだった文化。実はお茶には「シークレットテーマ」というものがあり、能の演目などを題材に、料理のメニューや道具の取り合わせを決めたりすることもあるという。
「能はやっているとお茶にも広がりが出てくると知り、それで始めたものです」

セミナーの後半は菅原氏の詩の朗読を挟んでのワークショップ。松村氏には持参した茶箱の中の茶道具を用いて「一服」たてていただいた。このときのお手前で重要なのは「袱紗(ふくさ)と言われている布で道具を清めること」。
「お客さまの目の前で、あらためて心をこめて動作をすることによって、道具を清めると同時に自分の気持ちや空間自体も清めるんです」

茶会とは、亭主の呼吸やリズムといったものが「お客さまとシンクロしていく」もの。
「お茶は亭主が一方的にたてるものではなく、その時間そのものを相互につくっていく、それこそがお茶のおもてなしです」

実演のあとは「何でも清められる袱紗」の畳み方に参加者全員でチャレンジ。最後は質疑応答。「これまでいちばん感動したお茶は?」という質問を受けての返答は「たくさんあります」。
「とくに嬉しいのは自分でやるのは初めてという生徒さんが正客として呼んでくださるお茶会。たどたどしくもあるのですが、道具組みなどから、ああ、あのときのことを思い出してくれているんだとか、心が通いあうんですね。そういう方のお茶事は感動します」

茶人としての「夢」は「世界平和」。
「お茶の時間というのは見知らぬ同士でもすぐ仲良くなれる平和な時間です。いろんな人とお茶をすることで究極の平和につなげていきたいですね」

講師紹介

菅原 敏、松村 宗亮
菅原 敏、松村 宗亮
 
菅原 敏(すがわら びん)
詩人。
アメリカの出版社PRE/POSTより、詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』で逆輸入デビュー。新聞や雑誌への寄稿・連載執筆のかたわら、スターバックスやビームスなど異業種とのコラボ、ラジオやTVでの朗読、デパートの館内放送ジャックなど、詩を広く表現する活動を続けている。Superflyへの作詞提供や、メディアプロジェクト『詩人天気予報』、美術館でのインスタレーションなど、アートや音楽との接点も多い。

松村 宗亮(まつむら そうりょう)
茶人。
SHUHALLY代表。伝統を重んじながらも“茶の湯をもっと自由に!もっと楽しく!”というコンセプトによる活動が共感を呼び、全国の百貨店やギャラリーまた海外からも招かれ多数の茶会を開催。伝統文化によるチャリティイベントを主催するなど、日本文化の新たな伝統の開拓・発信に努め幅広く活動中。