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イベントレポート

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2015年12月19日(土)13:30~15:30

青山敦研究室 / 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス

Shonan Brain Fair 2015
~脳情報研究のポスター発表会~

近年、人間の脳を外側から計測する様々な手法が登場し、計測した情報から謎のベールに包まれた脳のメカニズムに迫ることが可能になってきた。慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス青山敦研究室では、最先端の手法を用いて人間の五感や情動、記憶などに関する未知の脳機能を明らかにし、脳情報通信や医療などへの応用を目指す研究を行なっている。当イベントでは、ポスター形式で最新の研究を紹介するとともに、3Dプリントした脳などの展示を行なった

マクロな視点で脳を見る脳情報学の最先端

ものを見て、それが何かを認識する。匂いを嗅いで、心地いいと感じたり不快に感じたりする。経験したことを記憶する———。日々、私たちが、特に意識せず行なっているこうした情報処理は、脳の働きによるものである。しかし、それがどのような仕組みで行なわれているのか、ということについては、まだほとんど解明されていない。

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの青山敦研究室は、そんな、未知なる脳の機能を明らかにするべく、さまざまなアプローチで研究を行なっている。今回は、その研究成果をまとめたポスターをd-labo内に展示。青山氏と、研究室の学生数十人が同席し、会場を訪れた人に補足説明するという形式で、発表会が開催された。

「脳の研究、というと、これまでは神経細胞を調べるような、ミクロな視点で行なわれていましたが、脳情報学、脳情報科学と呼ばれる我々の研究では、人間の脳波を計測、解析して、その機能を“マクロな視点”から明らかにしようとしています」

脳研究のなかでも新しい分野である脳情報学は、大型の脳機能計測装置が開発されたことで活性化した。従来の装置では、脳波による電気をとらえて計測していたが(EEG=脳波計測法)、新型の装置では電気の発生により生じる微弱な磁界を計測する(MEG=脳磁界計測法)。さらに、健康診断などで馴染みのあるMRI(磁気共鳴画像法)も用い、さまざまな手法を組み合わせることで、脳の機能を解き明かしていこうというのである。

研究の柱は、「視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚といった五感が、脳の中でどのように統合されているのか」ということ。

「たとえば、視覚について。人間の目には、1か所“盲点”という、物理的に見えない点があります。しかし、私たちが見る風景には、欠けている部分はない。これは、脳が外から入力した視覚情報を補完している、ということ。さらに、五感を通して入力される情報を同時に処理する多感覚統合を、脳がどのように行なっているのかを研究しています」

脳波を見ればすべてがわかる時代に!?

ポスターでは、青山研究室で行なわれたユニークな実験の結果が紹介されていた。驚いたのは、脳情報の解読(神経デコーディング)。実験協力者にさまざまな写真を見せ、1秒間脳を計測して得られたデータを解析することで、今度は「脳の活動から“どんな写真を見たか”を解読する」という実験だ。つまり、人が何を見たか、ということが、言葉を介さなくても、脳波などから読み取ることができるというのである。画像では70%以上の識別ができ、文字情報でも実験は成功した。

また、「快」「不快」という心の動き(情動)についても、神経デコーディングにより判別することができるという。見て、きれいだな、楽しそうだな、という画像と、嫌な気持ちになるような画像、特に何も感じないような画像を実験協力者に見せ、脳波を測定。全体では80%、「不快」なものについては90~100%の高確率で、どんな脳波が出たかで、何を見たかを判別することができた。嗅覚でも同様の実験を行なっている。

「精度を高めていけば、たとえば、病気や事故などで意思表示ができなくなってしまった人の脳の活動から、考えを読み取ることもできるようになるのではと考えています。映画『マトリックス』や『インセプション』のような、SFの世界が現実に近づいてきていますね」

「頭の中で奏でた音楽をそのまま出力」すべく、低音と高音を想起したときの脳活動を計測した実験も興味深い。ほぼ100%の確率で音程の判別に成功したとのことで、これが発展すると、思い浮かべたメロディーがその場で自動的に演奏される、ということも夢ではなくなるわけだ。

この日、会場には、こうした脳波の活用を体感できるアイテムも用意されていた。ひとつは、「脳波で動かすピンポンゲーム」。モニターに写し出されているのは、エアホッケーのようなピンポンゲーム。右がコンピュータ、左が人間で、額に脳波を読み取る機械を付け、脳波でラケットを動かすのである。

「上!」「下!」などと頭の中でイメージしたところで、なかなかラケットは動かない。ところがまったく無関係の食べ物のことや明日の予定のことなどを思い浮かべた瞬間に、ググッと(勝手に)動いたりする。もちろん、一定の脳波を自在に出すことは難しいので、思いどおりにはいかず、あっという間にコンピュータに敗退してしまうわけだが、手を動かすことなく、念じただけで何かを動かす、というのは、超能力者になったような気分である。

もうひとつのアイテムは、「猫耳」。一見、ただのパーティグッズのようだが、実は、付けた人の脳波を読み取り、緊張(集中)状態なら耳が立ち、リラックスしていれば耳がペタンと倒れるという脳波トイ。話をしているとピョコピョコ動くのが面白い。

「人間の脳と、コンピュータや機械を接続して、脳波で何かを動かすというのは、ブレインコンピュータインターフェイス(BCI)、ブレインマシンインターフェイス(BMI)というシステムで、デバイスとの連携もどんどん進化しています。
すでに脳波で義手をコントロールする技術が存在するように、脳のメカニズムの理解が進めば、世の中の役に立つさまざまな技術が次々と出てくると思います。」

分野を横断した総合的な視点が脳研究を変える

「今の脳研究は、マクロなレベルとミクロなレベルの研究に大きなギャップがある。それをどう埋めていくのかが、これからの命題」と語る青山氏。学生たちにも、単純な「文系・理系」「物理・化学・生物学」という分け方はもはや通用せず、分野を横断する学際的な姿勢が必要だ、と話しているという。

「遡りますが、レオナルド・ダ・ヴィンチの時代はそうだったんですよね。彼は芸術家であり、医師であり、科学者でもあった。それが時とともに、学問として分解されていったわけですが、今また、原点回帰しているのではないかと思います。ひとつの分野にとらわれることなく、総合的に考えていくことが大切になっている時代なのではないでしょうか」

青山研究室の学生たちも、さまざまなジャンルに興味があり、幅広い個性をもっている。「音楽に興味がある」という女子学生は、「実験を考える人、機械を作る人、解析をする人…。それぞれ興味のある分野が違うので、相談したり、互いにフィードバックしながら研究を進めています」と語る。「脳が、どういう仕組みで動き、感じているのかを研究することは、人間の本質を知ることにもつながる」と話す男子学生は、自身の脳をスキャンして3Dプリンターで出力したものを展示していた。実際に彼の脳(の3Dプリント)を持ってみる。両手に収まるほどのこの塊に、無限の可能性が秘められている。そう思うと、不思議な感動が湧き起こってくるのだった。

講師紹介

青山敦研究室
青山敦研究室
慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
同大学環境情報学部の青山敦専任講師(博士(理学))と学生26名からなる2013年4月にできた新しい研究室であり、「脳」を共通のテーマに皆で協力し合って研究を進めている。
研究室ホームページ:http://brain.sfc.keio.ac.jp/