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イベントレポート

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2015年12月23日(水)14:00~15:30

石毛 敦(いしげ あつし) / 医学博士・横浜薬科大学薬学部長

葛根湯(かっこんとう)を正しく学ぼう!
〜風邪のひきはじめの対処法〜

風邪をひいた時は、どのように対処しているだろうか?市販の風邪薬を飲んでいるという方も多いと思うが、最近では「風邪のひきはじめには葛根湯を飲んでいる」と答える方も多くいる。では、"風邪のひきはじめ"とはいつのことを言うのだろう?たとえば、「今日風邪をひいたようだ」という方の場合、3日前は風邪のひきはじめとは言わないのだろうか?
『風邪のひきはじめに飲む葛根湯』が広く知られるようになってきたが、具体的にはどのタイミングでどのように飲むのが効果的なのか。本講座では実際に葛根湯を配り、その中に含まれる生薬の成分や、効能、香り、飲み方などについて解説。身近な漢方である「葛根湯」について学んだ。

葛根湯が有効なのは、正確にはどのタイミング?

「午前10時くらいに『風邪をひいたな』と思い、13時ごろにクリニックや薬局に行き、『葛根湯をください』と言った患者さんがいました。さて、この患者さんに葛根湯を出していいでしょうか?」

冒頭、石毛氏から問いかけられた問題である。実はこれは、石毛氏が学部長を務める、日本で唯一の漢方薬学科を擁する横浜薬科大学の、昨年度の試験問題なのだという。

「できる子なら、この1問に対して、A4の解答用紙4~5枚の答えを書くくらいの大切な問題です。さて、皆さんはどう考えますか?」

「葛根湯を出していい」と思った参加者は3名だけ。ほとんどは「出してはダメ」に挙手した結果を見て、石毛氏は、「ではこの患者さんが風邪をひいたのが3日前だったらどうですか?」と再度出題。今度も、ほとんどの参加者が「出してはダメ」だと判断した。

「風邪のひきはじめに葛根湯、という言葉がTVで蔓延していますが、あれは非常に困ったものだと(笑)。『いつ、だれに、どうやって飲ませたらいいか』が決まっているのが漢方薬なんです。今日はぜひ、そのことを知っていただきたい」

ここで、参加者に葛根湯の見本が配られた。

「葛根湯は、7種類の生薬からでき上がっています。最初に、紙の上に葛根湯を広げて、7種類に分けてみてください。シナモンの香りがしませんか?葛根湯は、とても香りのいい漢方薬なんです」

白い紙の上に広げてみると、なるほど、確かに色や形が異なる成分が混ざり合っている。石毛氏にひとつひとつ解説していただきながら、分類し、セロハンテープで紙の上に留めていく。
・麻黄(まおう)…緑色で、ストローのような形状。交感神経を刺激する成分エフェドリンが入っている。
・桂皮(けいひ)…茶色がかった枝のよう。シナモン、ニッキのこと。噛むと甘みと辛みがある。
・大棗(たいそう)…ナツメの実。柔らかく、噛むと干しぶどうのような甘みがある。
・生姜(しょうきょう)…ショウガを干したもの。辛みが強い。
・甘草(かんぞう)…黄色く、齧ると甘くなる。生薬としてよりは、甘味料として使用する場合が多い。
・芍薬(しゃくやく)…白っぽく、食べるとホクホク。筋肉の痛みをとる働きがある。
・ 葛根…葛の根っこ。黒っぽい。肩こりを治す。

麻黄と桂皮は、体を温め、発汗させる。大棗、生姜、甘草は、胃腸を守る。芍薬と葛根は、筋肉の痛みをとるという、それぞれの働きがある。つまり、この7つの生薬からなる葛根湯は、「身体をよく温める処方構成になっており、肩こりや筋肉の痛みをとりながら、お腹を守って、食事がとれるようにする」漢方薬だということになる。

熱が出ない風邪、汗が出る風邪に葛根湯はNG?

では、葛根湯は、具体的にはどんな風邪の症状に効果があるのか。石毛氏は参加者に、風邪をひいたときにどうなるかを聞いていった。

「熱がある」「鼻水」「頭痛」「咳」「喉の痛み」「悪寒」「肩こり」「のぼせ」「鼻がつまる」「吐き気」「食欲がない」「身体がだるい」…。次々と挙がる症状を、石毛氏はホワイトボードに書き留めていく。

「さまざまな症状がありますが、まずは大きく「熱あり」「熱なし」の2つに分けて考えます。熱が出ているとき、人間の身体は、何をしていると思いますか?」

ある参加者が、「免疫を上げている」と答え、石毛氏は感心しながら、「一発で正解を出されてドギマギしました(笑)。そう、ウイルスをやっつける一次免疫を上げるためには、熱が必要です。体温が37度~38.0度くらいになると、免疫は約5倍上がると言われています。最初の産熱は、とても大事なんですね」

2000年前の漢方に関する書物でも、「葛根湯は、熱を一生懸命つくっているときの症状(悪寒、頭痛、身体痛、発熱等)を呈しているときに使いなさい」と書いてあるそうで、「熱が出そうだな、でもまだ汗は出ていないな、というタイミングで飲むのが葛根湯。麻黄と桂皮の効果で身体がポカポカ温まってきて、早く熱を上げてウイルスを殺してくれます。初めから汗が出ている人に飲ませると、汗が出過ぎてしまい、よくありません。そういう人には、麻黄を除いた桂枝湯(けいしとう)がおすすめ。お腹を守りながら身体を温め、適度に発汗させる漢方です」

熱が出たからといって、解熱剤の入った総合感冒薬を飲むと、熱は下がるが、ウイルスが死なず、風邪が長引くこともあるので注意だ。風邪をひいたらまずは身体を休めてほしい。風邪薬は風邪の症状を緩和する薬であることに注意。

「風邪の時、あまり熱は出ないが、なんとなくだるいのが長く続く、という人にも、漢方は効果的です。寒気がひどく、のども痛い。だるくて横になっていたいタイプですね。こういう人には、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)が効果的です」

現在、日本で保険が適用される漢方が148種類。風邪のときに処方される薬でも20~30種類ある。

「これだけ種類があると、セルフメディケーションはできない。漢方のわかるお医者さんや薬剤師さんがいて、適正な薬をもらうことができたらいいと思いませんか?私は、患者さんの症状に合わせて、漢方薬をきちっと出せる専門家を育てるべく、日々学生を教えています」

子供にもおすすめ!オブラートの正しい使い方

最後に、「漢方は苦い、と思っている方に、オブラートの正しい使い方をお教えしましょう」と、参加者たちにフィルム状のオブラートと、薬代わりの砂糖、水が入った小さなコップが配られた。最初に、オブラートを円錐状にして先端を折り、砂糖を入れて、口の部分も舐めて閉じる。

「この包みを、そのまま口の中に入れると。舌にくっついて、薬が溶け出してきてしまい、不快な思いをします。これは、ポイッと、コップの中の水に浮かべてください」

「そのまま、水と一緒にぐっと飲んでみてください」

半信半疑で飲んでみると、ゼリー状になったオブラートが、口の中にくっつくことなくスルリと喉を通って行った。薬代わりに入れた砂糖の味もまったくしない。目からウロコの飲み方に、会場から驚きの声が上がった。「オブラートを正しく使えば、お子さんでも漢方薬を飲めるようになります」と石毛氏。

「葛根湯は、身体を温める薬ですので、冷たい水で飲むのではなく、温かいお湯で飲んでください。少しショウガを入れると、非常によく効きます」

今回は、90分という短い時間で、漢方の奥深い世界のほんの入口を学んだだけであったが、多くの知識を得ることができた。参加者にとっては、自分の身体と向き合うきっかけにもなったに違いない。

講師紹介

石毛 敦(いしげ あつし)
石毛 敦(いしげ あつし)
医学博士・横浜薬科大学薬学部長
昭和55年昭和薬科大学大学院修士課程修了。その後ツムラ中央研究所部長、慶應義塾大学医学部東洋医学講座専任講師、静岡県立大学薬学部客員教授などを歴任し、平成26年3月より現職。学生時代は漢方の効果を信じられないでいたが、大学卒業後、ひとりの医師との出会いにより漢方に対する考え方が180度変化。この医師の臨床を目の当たりにし、漢方研究の道に進むことを決意。そして新薬にはない漢方の効果を次々と発見し、漢方の世界にのめり込んでいった。今では漢方が大好きな医学博士として、日々学生を指導している。