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イベントレポート

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2016年1月19日(火)10:30~13:00

渡部 有紀子(わたべ ゆきこ) / 俳句結社「天為」同人 俳人協会会員

はじめての俳句
~おさんぽ俳句体験教室~

寒い寒いと家に閉じこもっていないだろうか?俳句で使われる旧暦では、立春はもうすぐ。自然の中には、すでに冬を終えて、春を迎える準備を始めた動植物がいっぱいだ。このセミナーでは、終わりゆく冬と、これから迎える春を探しに、一緒にお散歩へ。そこで見つけた季節を十七音の俳句にし、世界でいちばん短い自分だけの詩を紡いだ。

見えるもの、音、感触、色…。大切なのは“探す”こと

d-labo湘南初となる俳句教室は、前日に関東地方でも大雪が降り、まるで冷蔵庫の中にいるような冬らしい寒さの中での開催となった。講師の渡部氏は、東大総長、文部大臣などを務めた有馬朗人氏が主宰する俳句結社「天為」の同人。昨年には、d-labo湘南があるFujisawaサスティナブル・スマートタウンの集会所でも初心者向けの俳句講座を実施し、話題を呼んだ。

「私たちは、正岡子規の流れをくむ伝統俳句で、“写生”ということを大切にしています。心の中で感じたことではなく、目に見えるものを詠む。今日は、それを意識していただきたいと思います」

今回は、d-labo湘南から徒歩5分ほどのところにある長久保公園へ“吟行”(和歌や俳句の題材を求めて出かけること)し、そこで詠んだ俳句を、d-laboに戻ってから披露・鑑賞するところまで行なう。吟行に出る前に、渡部氏から俳句の詠み方についてご説明いただいた。

「キーワードは“探す”こと。たとえば季節の言葉なら、冬空、空っ風といった“天”のもの、水仙、葉牡丹、椿、氷といった、植物や動物、池などにある“地”のもの。“人”に目を向ければ、ショール、コート、マフラーなど着ているもの、あるいは懐手といった仕草も、季節の言葉です。小寒、体感、寒中など時候の言葉も使います」

目に見えるもの、手に触れるもの、耳に聞こえるものを探す。色、形、向き、数など、誰にでもわかる特徴を探す。それが吟行のポイントだ。

また、俳句にはいろいろなルール、アレンジがあるが、今回は特に、
・ 季語をひとつだけ入れる
・ 十七音(五七五)
・ 切れ字(や・かな・けり)はひとつ
・ 旧仮名遣い
・ 三段切(五、七、五でそれぞれ言葉が切れてしまう詠み方)は避ける
・ 文語文法を使う(見える→見ゆ、白い→白し、など)
という約束事を守って、俳句を作ることとした。

真冬の公園で探す「冬らしさ」と「春の予感」

長久保公園は、正式には「長久保公園都市緑化植物園」といい、園内では一年をとおして、さまざまな植物が目を楽しませてくれる。この日も、ちょうどバラの木を植えているところだった。

「冬バラ、冬薔薇(ふゆそうび)も季語になります。今はまだ花が咲いていませんが、『冬木のトゲ』『花なきバラのトゲが〜』などと詠んでもいいですね」

公園の中央にある池の前に集まり、その周辺で季語を探すことに。参加者たちはどこかに季節を感じさせるものはないかと、キョロキョロ。

「ここから見えるものでいうと、目の前の池から『冬の水』『寒の水』。もしここに鯉がいれば、『寒鯉(かんごい)』も使えます。色や形、向きにも注目してください。たとえばこの、女神をイメージした銀色のモニュメント。どんな形をしていますか? ぐにゃぐにゃ? それならたとえば『こんがらがってモニュメント』などどうでしょう。あるいはあちらの柳。どの方向に向いていますか? 下向きですよね。『下向く冬の柳かな』とも詠めます」

「季語はどこに入れるのがいいですか?」という質問に、渡部氏は「どこに入れてもいいですが、一番簡単なのは、切れ字の『や』を使って最初に入れてしまうこと。『冬空や~』といった感じですね」

参加者たちは、画板と、句を書き付けるための短冊を手に、公園内に散らばった。題材を探しながら歩いていると、ただプラプラと散歩をしているときとは違って、たくさんのものが目に入ってくる。普段なら気がつかずに通り過ぎてしまうような、地面に落ちた椿の花や、桜の木の堅い蕾にも、足を止めて「何か詠めるかな」と考えてしまうから面白い。

「皆さん、だんだん、俳人の頭になってきたのではありませんか? 今日は頑張って、三句は詠みましょう」

冬だけでなく、春を予感させる言葉もこの時期の季語になる。「早梅」「山茶花」「レンギョウ」「ロウバイ」といった、植物の名前は取り入れやすい。

30分ほどの吟行で、参加者たちも数句詠めたようだ。「冷えましたね」「思いのほかいろんな花がありましたね」などとおしゃべりしながら、再び徒歩でd-laboへと戻った。

レベルの高さに盛り上がる鑑賞会

いよいよ、自分の句を披露する時間に。まずは、全員が短冊に書いた自信作を無記名で提出し(投句)、それを集めた渡部氏が、参加者全員にランダムに振り分けていく。これで、誰の句が誰の手元にいったかはわからなくなった。

各人は、自分の手元にきた短冊の句を、一字一句、間違えないように、清記用紙に書き写していく(この際、主宰者から順に1、2、3…と用紙に番号をふる。つまり、一人ひとりの清記用紙に番号=清記番号がつくことになる)。写し終わったら、短冊は結び文のようにクルリと巻いて折る。

「誤字、脱字があっても、直さずそのまま写してください。ここでは親切心はいりません(笑)」。

清記用紙が書き上がったら、回収してまとめてコピーをとり、すべての句を一覧にして、再度全員に配る。目をとおして、自分の句の写し間違いを発見したら、それを清記した人に間違いを指摘し、修正を全員で共有する。

「すべての句のなかから、お好きな句を、1人三句選んで、互選用紙に書き写してください。この時、その句の清記番号も一緒に書いてください。選ぶのは、他の人の句です。自分の句は選びません。俳句に大切なのは自惚れですが、せっかくの句会ですから、自分以外の人の句を選んであげてください」

皆、真剣に、悩みながら選んでいる。

「投句する時は、俳優さん、女優さんになったような、自分が主人公だというつもりで。そして選句の時には、照明係になって、『オレが照らしてやらなきゃこの句は浮かび上がらない』という気持ちで、スポットライトを当ててあげてください」

選句が終わったら、参加者は順番に「○○選」と名前を名のってから、選んだ句を読み上げていく。読まれた句が自分のものであったら、読み終えた後ですかさず「○○!」と名のりをあげる。そして、自分の句を選んだ人の名前を、その句の下にメモしておく。

さらに、その句を清記した人は、詠んだ人が名のった後で、すかさず「いただき、1点」と言う。これがなかなか難しい。自分の句が読まれたわけではないので、思わず緊張がとけてしまうのだが、「清記者としての役目もしなくてはなりません」と渡部氏。

次々と句が読み上げられていく。選ばれて名のるときは、皆嬉しそうで、誇らしげだ。最後に、渡部氏が「責任選句」として、参加者よりも多めに句を読み上げつつ、講評を加えてくださった。

渡部氏から「本選」として選ばれた句は以下の六句。

雉鳩の翼をたたむ冬将軍
木もれ日のきらきらそよぎ春を待つ
くるくると枯れ葉追いかけ走る子よ
小寒や走り根堅く張つており
寒風に陽だまりさがす母子かな
強風に一つ残れる花梨の実

「今日は『はじめての俳句』としながら、皆さんレベルが高くて驚きました。私たちが日頃目にしているもの、日々の生活を、十七音の中にあぶり出していくことが俳句の醍醐味だと思います。同じ時間、同じ場所で吟行しても、目に留まるものは人それぞれであり、そこには、一人ひとりの普段の生活が反映されているのです。そして、そういう俳句をこうして互いに詠み合うことは、自分自身を紹介する挨拶にもなるんですよ」

参加者からの「どうやって勉強すればよいか」という質問に、「本もよいですが、句会に参加するのが一番」と渡部氏。「俳句は、子育て中でも介護中でも続けられ、一年中楽しめます。句会は、交流、社交を楽しむ場所でもありますから」

「俳句を詠むことで教えてもらったことを、次の人へと伝えて、恩返ししていきたい」。渡部氏はそう夢を語った。

講師紹介

渡部 有紀子(わたべ ゆきこ)
渡部 有紀子(わたべ ゆきこ)
俳句結社「天為」同人 俳人協会会員
昭和54年生まれ。結婚後、何か始めたいと思っていた時に、義父の勧めで俳句を始める。平成27年7月~10月SST集会所にて初心者向け俳句教室実施。現在は、神奈川県内で2つの句会を指導中。平成26年 文學の森主催 新人コンクール「第5回北斗賞」佳作、「天為」平成26年作品コンクール評論の部入選(「我が子を俳句に詠む方法―天為同人の作品から―」)