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イベントレポート

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2016年1月26日(火)19:00~21:00

鳥光 宏(とりみつ ひろし) / 駿台予備学校 古文科講師

お母さんが家庭教師~明日に架ける橋~

教育界では、子どもを教えるのは教師の役目、というのが当然のようになっている。そして、それに追随するかのように、「私には子どもを教えられませんよ」と、多くのお母さんが口にするのも当たり前のようになってしまっている。しかし、もしお母さんがまるで家庭教師のようにポイントを押さえながら、たくさんのことを語り、勉強を教えられたら、どれだけ子どもに対するコミュニケーションの時間が増え、そして尊敬されるお母さんが増えるだろうか。
今回は、約30年間教壇に立ち、東大・京大をはじめとして、国公立大学医学部などへ数十万人を合格に導いてきた駿台カリスマ講師をお招きし、お母さん(お父さん)が「わが子の家庭教師」になるためのセミナーを開催した。

知識を教える前にメンタリティを整える

今年で10年目を迎えたd-laboミッドタウンでのセミナー。その第1回は駿台予備校のカリスマ古文科講師である鳥光宏氏が登壇。冒頭では、セミナーのサブタイトルであるサイモン&ガーファンクルの名曲『明日に架ける橋』が静かに流れ出し、講義が始まった。

「『お母さんが家庭教師』というのは、言い換えれば、『親から子への〈智〉の架け橋』ということだと思ったのです。それで、そうした『親の想い⇒架け橋』とイメージの重なるこの曲名をセミナーのサブタイトルに拝借させていただきました」
「お母さんが家庭教師」と聞くと、まるで母親が子どもの横について勉強を一から十まで教え込むように感じるかもしれないが、鳥光氏の言っている意味は違う。世の親は子どもの学力を上げるのに塾や予備校に通わせればそれでいいと思いがちだ。けれども実は、子どもには「知識の前にメンタリティを整える」ことが必要だという。そして、それを手助けしてやることこそが「家庭教師」たる「お母さん(親)」の一番の務めだというのである。

「たとえば、親が他人の前で、『うちの子は駄目なんですよ。どうも私に似て頭が悪いのかしらねえ』、などと何気なしに言ったとします。しかし、それは必ずどこからか子どもの耳にも入ってくるものなのです。ですから、こういう言葉を繰り返し言っていると、子どもは精神的に本当に駄目になるし、成績も悪くなります」という鳥光氏の言葉に「あるある!」と、うなずく参加者の姿も。

鳥光氏が例として挙げたのが、水野勝博士が水の結晶に語りかけたり音楽を聴かせたりすることで、それがどう反応するかを研究し、有名になった「ハートブレイク・ホテルの法則」だ。その研究の結果で紹介されているのは、モーツァルトなどの音楽をゆったりかけていると結晶の状態はよくなり、エルビス・プレスリーの『ハートブレイク・ホテル』のような失恋した悲しさを歌い上げる曲をかけると結晶は二つに割れてしまうというのだ。そう考えれば、人間の身体の多くが水からできているのだから、先ほど述べた子どもへの言葉も同じような結果になるというのは納得できる。
「言葉には魂があります。駄目だと言うよりも褒めてあげた方が心地良い魂が伝わるに決まっています。それと、勉強しなさい、と言うだけでは子どもの心には響きません。私も教師をやっていてそう思うのですが、子どもは論理的に体験を交えて話してあげたり、教師や親から疑問を投げかけてみると子どもの思考回路が回り始め、話も聞いてくれるものなのです」

応用力は基礎力という「種」から伸びる

こうした場面で何よりも大切なのは「伝えたいという想い」だという。それを鳥光氏が最初に実感したのは小学校5年生のときだった。
「担任の先生に頼まれて、授業についていけないクラスメイトに勉強を教えてあげたんですね。最初はなかなか理解してくれなかったのですが、毎日やっているうちにだんだん自分の伝え方も上達し、それに伴うように相手の理解度も上がっていったのです。小学生の自分が人にうまく物事を伝えられたというその実感が嬉しかったんですよ」

最初に志したのは医学の道。新聞奨学生で学費をためて琉球大学の医学部に入学。当時、「心療内科」という新しい診療科ができてゆく過渡期であり、現代病と言われるこの分野に興味を持ち始めていた。そうした中で、精神科医だった指導教官に心療内科・思春期内科に深く関わる現場をのぞかせてもらったり、講演・セミナーを聴講させてもらったりしているうちに、ふと疑問がわいたというのだ。
「学校に行くのが嫌だという子たちを理解するには教育の現場に立たなければ本当のことが見えてくるはずはない」と、教員免許を取ることを決意した。琉球大学では理系だったわけだが、今度は法政大学に学士編入し、興味のあった日本文学を専攻した。そして、国語科の教員免許を取得し、卒業。後に高校の国語教師として3年間教壇に立ち、現在は予備校講師・セミナー講師・作家として活躍している。

高校教諭時代は進学クラスを担当。そのときに発見したのが「応用力」の付け方だった。英語や数学の教師たちが「難しい宿題をたくさんやらせれば応用力がつく」と考え、毎日大量に宿題のプリントを生徒に配布する。しかし、教師はプリント作成に追われ、生徒はプリントの洪水に飲み込まれ、肝心の授業はといえば、「答えあわせで精一杯」というような状況を目の当たりにした。そこで、自分は一切宿題を出さないという宣言を生徒にしたというのだ。授業中は応用に繋がるような根底の力を養う授業を行ない、生徒にも「宿題を出さないかわりに、授業中に集中しよう!」とお願いした。その結果、模擬試験の結果では国語の成績がほかの科目より断然伸びたというのである。
「『基礎力』という種のようなものがあって、それさえあれば、どのような方向・形にでも伸びていける、それが本物の応用力というものなのだと思うのです」 そう語る鳥光氏の言葉からは経験に基づく強い確信と熱意が伝わってきた。

「基礎力を身につける」、もちろん、そこには自主性が不可欠だ。家庭では「子どもが自分で気がつく」ようにすることが大事であり、そのためには親にもまた「いろいろなことを考えて、それを子どもに投げかける」といった姿勢がほしい。投げれば子どもは必ず反応する。そのコミュニケーションの繰り返しがやがて基礎力につながってくる。
最近、取り沙汰されているのが若者の国語力の低下だ。実際、センター試験の成績を見ても国語の平均点は低くなっている。理由のひとつは、受験生たちが英語や数学に比べて国語に割く時間が少ないことが挙げられる。
「だけど、単語の数なんかは英単語が大学受験だと2,000語覚えなきゃいけないのに対して、古文などは300語か、多くて400語も覚えれば十分なわけです。だったら、これを覚えないで点数が取れないというのはもったいない話ですよね」

言葉は記号、古文は最重要語・文法法則を理解していれば正解が得られる

古文を教えるとき、鳥光氏が学生たちによく言うのは「言葉の科学」。
「言葉とは記号です。たとえば〈有機的〉という抽象的な言葉が出てきたら、それをもっと分かりやすい具体的な言葉で言い換えたらどうだろう、と考えてみたらいい。『現代の都市社会は無機的であり、かつての有機的な村社会がしのばれる』などと書かれている文章があったら、〈有機的→(人と人との心の)つながり〉という言葉に置き換えてみれば具体的で分かりやすくなる。結局のところ、大学受験とはこの記号処理能力を問うているだけのことなのです」

もうひとつ「日本古典の真髄は花鳥風月を愛でることにある」というのだ。そのため、古来、日本人は手紙の書き出しにも季節の挨拶を前口上として置いたわけである。実はこれは『源氏物語』などの古典文学を読むうえでもこの思考が生きてくるという。「古文の問題も最初の部分は花鳥風月の紹介。だから、そこはサクッと読み流していいのです。本当に言いたいことはそのあとに出てくるものなのです」

こうしたパターンを知ったうえで、本気で取り組めば、実際には100個くらいの「最重要語」の意味を押さえておけば、そこそこ古文を読むことができ、センター試験の問題も点がとれてしまうのだという。そこで、今回は過去にセンター試験に出された『松しま日記』の問題に参加者全員で挑戦。文中にある「やさしき心」という語の解釈を五択の中から選んでみた。
解答は「熱心で、殊勝な心」。現代文に慣れた目には意外に感じる答えだが美意延年、鳥光氏の「やさし」という語の語源的な解説から「なるほど!」と納得。「こうした古文の『最重要語』は1日に5つくらいきちんと語源も理解しながら覚えれば、1か月位で受験の必修語はある程度覚えられてしまうのです」と、鳥光氏は言う。

同じように、今年のセンター試験で出題された『今昔物語』について語ってくれた。「深い信仰心に燃える貧しき者を仏が幸せへと導いてくれる」といった仏教説話特有のストーリー展開は、およそパターン化されている。だから、そうした「本質」を理解していれば、たとえ全文が読み解けなくても正解には辿り着けてしまうというわけなのだ。家庭でも子どもにこうした勉強のコツを伝えるだけで効果があるはずだ。

家が経済的に豊かでなかったため、自身も学生時代はアルバイトで塾講師をつづけて学費や生活費をまかなっていた鳥光氏。そうした経験が教えてくれたのは「人は何らかの強い思いがあれば、何かしらの形でその『想い』へとつながっていく」という。
そこで、鳥光氏自身の「夢」について伺うと、「この10年ほど関心を持って歩いている東南アジアの国々で教育の殿堂と呼ばれるような場を作ること。自分が学んできた医学と教育、それを具体的な形にしてゆきたいと思っています」と語ってくれた。鳥光氏の夢に、満場の拍手が送られた。

講師紹介

鳥光 宏(とりみつ ひろし)
鳥光 宏(とりみつ ひろし)
駿台予備学校 古文科講師
1959年、東京都生まれ。琉球大学医学部卒業。心療内科に深く共感し、「医学と学校教育の架け橋になろう」と思い、法政大学文学部で国語教職免許を取得し卒業。現在、駿台予備校の人気講師として教壇に立つ。また、衛星放送講座の講義でも日本全国に熱烈なファンが多い。
著書に『鳥光宏の楽々古典文法』(文英堂)、『入試にでる古文単語が面白いほど記憶できる本』(上下巻・中経出版)、『「古文」で身につく、ほんものの日本語』(PHP新書)、『見て覚える 読んで解ける 古文単語330』(文英堂)、『9割受かる東大合格勉強法』(中経出版)がある。
オフィシャルサイト:http://torimitsuhiroshi.com/