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イベントレポート

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2016年2月24日(水)19:30~21:00

菅原 敏、星野 概念 /

「菅原敏の職業図鑑」
第3回ゲスト:星野 概念氏(精神科医・ミュージシャン)

詩人の菅原敏さんが、毎月さまざまな分野のスペシャリストを招き、その仕事と日々の暮らしを紐解いていくトークイベント「菅原敏の職業図鑑」。第3回のゲストは、精神科医そしてミュージシャンとしても活躍する星野概念さん。前半では、ミュージシャンとしてメジャーデビューをしてから勤務医となるまでの道のりや、医者としての日々の仕事、執筆活動について語っていただいた。後半では、マークシート方式の性格診断・エゴグラムを体験していただきながら、「クリエイターとメンタルヘルス」について、過去の事例を参考にお話しいただいた。

ミュージシャンとしてさまざまな活動を展開

3回目を迎えた菅原敏氏の『職業図鑑』。今回ゲストにお招きしたのは精神科医、そしてミュージシャンという2つの顔を持つ星野概念氏。2時間のトークイベントでは、雑誌への寄稿やラジオ番組でのアシスタントパーソナリティーなどもしている星野氏に、ミュージシャンとしてのこれまでの活動や普段はなかなか知る機会のない精神科医の仕事について語っていただいた。

菅原氏が星野氏にまず尋ねたのは「どうして医学部に入ったか」。その鍵となるのは父親の存在。「父がアメリカのドラマの『ベン・ケーシー』のファンだったんですね。それで子供の頃からいつもそういう話をされていたんです」
『ベン・ケーシー』は医師が主人公の人気ドラマ。その「刷り込み」で医師を目指すことになったという。
「小学校の頃は相撲とか野球、中学ではバスケット、高校時代はCM制作などに興味を持っていましたけれど、生物の勉強が好きだったこともあって、常に医者というのは頭にありました」

同時に才能を持っていたのが音楽。大学時代はバンドを組み、3年のときにはインディーズのレーベルからアルバムを出した。それがメジャーでのデビューにつながった。当時は「朝6時までレコーディングして8時からは病院で実習」といったハードな日々。「ポップスを背負って立つ」という「自己洗脳」をして音楽活動に打ち込んでいたが、一方では「医者もちゃんとやりたい」と思っていた。現在の専門である精神科に興味を抱いたのは大学6年のとき。研修医を経て、総合病院に勤務する精神科医となった。

音楽は「メジャーでは全然売れなかった」こともありインディーズに復帰し、現在はユニット『JOYZ』、コーラスグループの『星野概念実験室』、タマ伸也氏とのユニット『THE肯定s』、『□□□(クチロロ)』のサポートギター、劇団『ままごと』との小豆島などでの活動等、幅広い活動を展開している。セミナーではライブ動画の一部を上映。過去の映像は本人いわく「恥ずかしくて心拍数が上がります」。
「メジャーで活動したときなんかは自意識過剰なところもありましたし、今振り返ると苦い思い出ですよね。でも人は記憶を編集するものなので、できればポジティブな記憶に編集しなおしたいですね」

精神科の診療室は「魔法の枠」

普段はお酒の席など星野氏の「夜の顔」しか知らないという菅原氏。一度訪ねた病院では「患者さんたちに必要とされている医師としての星野さんを見ることができた」という。

病院では若手の精神科医である星野氏の日常は「めちゃくちゃ働いています」。当直は「月に8回」という忙しさ。では精神科医という「職業」は、診療の現場でいったいどういうことをしているのだろうか。

「精神科医のいる場所」は、大きく分けて「町のお医者さん」であるクリニックと単科の精神病院、そして複数の科を持つ総合病院の3つ。入院施設のないクリニックでは医師は外来診療で患者を診る。診療は会話が中心。「患者さんと話をして、こういう生活をしましょう、とアドバイスしたり、こういう薬を飲みましょうと処方をする。これは入院施設のある病院の外来でも基本的には一緒です」

病院の場合、外来で診てそれが必要と判断された人は入院となる。医師はそうした入院患者の薬や環境を整えたり、家族と話をしたりする。これが総合病院になると、内科や外科など他の科の患者を併診する「コンサルテーション・リエゾン」も加わる。「精神科の患者さんじゃなくても手術後などに一時的に非日常的な妄想や幻聴に襲われたりする場合があります。そうしたときは精神科医が介入して、その人の入院生活をスムーズになるように併診をするんですね」

他に大きな仕事は救急への対応。患者の中には警察に保護されて措置入院となる人や、家族や周囲の判断により医療保護入院という形で病院へ来る人も少なくない。病状によっては精神福祉保険法に定められた隔離や拘束を行なわなければならない場合もある。「僕は診療の際はなるべくお話をすることに重点を置いて薬は〈最低限派〉なんですけれど、患者さんによってはどうしても薬が必要という人もいるんですね」
点滴をするにも本人が「嫌だ」と抜いてしまうような場合は「本当にすみません」と詫びながらベルトで拘束するしかない。ときには「ヤブ医者」と罵倒されることもある。そんなときでもプロの精神科医はけっして怒ったりはしない。「普段の僕は感情的になったりすることもあるけれど、医師として診察室という魔法の枠の中にいると不思議と冷静でいられるんです」

その人の物語を聞いて相手を知る

精神科の特徴は「他の科と違い採血検査などでの明確な検査結果が出ないところ」。医師は患者の病状を判断したり診療方針を決めるのに、まずその人と話をする。それは言うならばその人の「物語」を聞くことと同じだ。「本人や家族と話をして、その人がどういう人なのかという縦軸と、いまはどういう状態なのかという横軸、この2つを合わせて判断していかなきゃならないんです」

同じ鬱状態でも鬱病ならば抗鬱剤を処方するが、それが性格がもたらす抑鬱状態ならばなるべく薬は使わずに「考え方を変えてみたらいいのでは」といった話をする。「やりかたは先生によっても違うし、その限りじゃいかないというところが精神科の難しいところです。逆に言えば勉強のしがいがある科ですね」

セミナーはこのあと菅原氏が「くよくよ期」に呟いたというツイッターのツイートをいくつか朗読。参加者には、交流分析という理論に基づいてつくられたエゴグラム(性格診断をする心理検査)を体験していただいた。こうした心理検査の結果は必ずしも当たっているとは限らないが「診療の参考」にはなるという。

「精神医学は自分が好きな音楽とか映画とか本とかカルチャー的なものにすごくコミットできる学問だし、現場でもまったくモチベーションが下がらない」という星野氏。「夢」は「精神医学と文化をクロスオーバーさせていく試みが、結果、精神科医としてのアウトリーチ活動のようになればいいと思う」とのことだ。「心と向き合うというのは暮らしやすくなるということにつながる。活動を通して精神医学の敷居がちょっとでも下がればいいですね」

講師紹介

菅原 敏、星野 概念
菅原 敏、星野 概念

菅原 敏(すがわら びん)
詩人
アメリカの出版社PRE/POSTより、詩集『裸でベランダ/ウサギと女たち』で逆輸入デビュー。新聞や雑誌への寄稿・連載執筆のかたわら、スターバックスやビームスなど異業種とのコラボ、ラジオやTVでの朗読、デパートの館内放送ジャックなど、詩を広く表現する活動を続けている。Superflyへの作詞提供やメディアプロジェクト『詩人天気予報』、美術館でのインスタレーションなど、アートや音楽との接点も多い。

星野 概念(ほしの がいねん)
精神科医・ミュージシャン
総合病院に勤務する傍ら、雑誌やウェブで執筆活動も行なう。音楽活動は、ユニット『JOYZ』、コーラスグループ『星野概念実験室』、タマ伸也氏(ポカスカジャン)とのユニット『THE肯定s』、『□□□』のギターサポートなどさまざまな形で行なっている。