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イベントレポート

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2016年3月3日(木)19:00~20:30

矢野 大介(やの だいすけ) / Rapha Japan代表

ロードサイクリングというスポーツのために
~感情と体験をつなぐRaphaの哲学とビジョン~

一人でも多くの人がロードバイクを始め、一人でも多くの人がロードサイクリングに行き、一人でも多くの人がロードレースを観戦してほしいという願いを抱き続ける、イギリス・ロンドン発のハイエンドサイクリングウェアブランドRapha(ラファ)。そして自転車業界の内外を問わず、多くの企業のブランディングスタイルに影響を及ぼしているRapha Racing。その創立者であり現CEOサイモン・モットラム氏の起業エピソードから、オリジナルビジネスプランの一部も含めた貴重な資料を交えつつ、何を考え、なぜRaphaというブランドを立ち上げたのかをRapha Japan代表の矢野大介氏にご紹介いただいた。

「世界でもっとも過酷でもっとも美しいスポーツ」

本社はロンドン。他に北米、アジア、オセアニア、ヨーロッパ各地に拠点を持つサイクリングブランド「Rapha(ラファ)」。このセミナーでは、Rapha Japan代表の矢野大介氏をゲストに迎え、2004年の創立以来、世界中のサイクリストから注目を集めてきた「Rapha」について、その目指すところについて語っていただいた。
「Rapha」といえば、ウェアやグッズの販売だけでなく、ライドイベントなども積極的に開催しているブランドとして知られている。セミナーの冒頭で矢野氏が見せてくれたのは「Raphaのブランドを象徴する映像」。アメリカの未舗装路をただひた走るサイクリストたちの姿は「見た方が自分をすぐにそのなかに置き換えることのできる」臨場感に溢れたものだ。訴えているのはウェアやロゴではなく、CEOのサイモン・モットラム氏をはじめとする「Rapha」のスタッフたちが「世界でもっとも過酷でもっとも美しいスポーツ」と捉えているサイクリングというスポーツそのものの魅力だ。
ウェブサイトなどを見てもわかるが、ブランドとしての「Rapha」の特徴はこうした映像や写真などのコンテンツに力を注いでいるところ。その背景には「GLORY THROUGH SUFFRING=苦痛の先にある栄光」というサイクリングに対する経営者の思いがある。
「サイモンが『Rapha』を立ち上げる際に掲げたのは、サイクリングを世界でもっともポピュラーなスポーツにするという目標でした」
“GLORY THROUGH SUFFRING”という言葉にはその思いが込められている。起業を決意したとき、モットラム氏はこのタイトルのページを冒頭に入れたビジネスプランを手に200人に及ぶ投資家のもとを訪ねたという。だが言葉だけではなかなか思いは伝わらない。そこで役立ったのが映像だった。言葉にしにくい「感動」を表現するには、映像ほど伝えやすいものはない。「直感的に作った」という映像は6人の投資家の心を動かした。
「この6人は今でも『Rapha』の大切なオーナー。今では自転車に相当ハマっている人もいます」

サイクリングというマーケットの中で「リーダー」になる

「Rapha」がウェアからスタートした理由は「サイモンが、自分が着たいウェアがなかったから」。自転車のウェアというとロゴがたくさん入ったごちゃごちゃしたものばかり。それに対しモットラム氏が望んだのは1960年代頃のシンプルなデザインのウェアだった。そこで生まれたのが今も人気商品のクラシックジャージとクラブキャップだ。黒地に白のストライプが1本だけというシンプルなウェアや帽子は「50メートル先でも『Rapha』だとわかるもの」。矢野氏もライドイベントなどでは「必ず一式持って行く」という「Rapha」のシンボル的商品だ。
当初はネットでの直販からスタートした「Rapha」だが、現在は直営店である「Rapha Cycle Club」を世界に展開している。日本には東京と大阪の2ヶ所。「ショップ」ではなく「サイクルクラブ」としたのは、サイクリストにとっての「ハブ」としての機能を持たせるためだ。千駄ヶ谷の場合は、目に見える部分はカフェとして、自転車好きはもちろん、そうでない人も気軽に出入りできる空間としている。『ツール・ド・フランス』などのロードレースも生中継で観ることができる。ここに来れば同じ自転車好きの仲間にも会えるし、海外の雑誌やライドイベント、「Rapha」の企画する自転車旅行の情報なども得られる。
「『Rapha』が売ろうとしているのはウェアなどの商品だけではなくサイクリングそのもの。サイクリングウェアブランドではなくサイクリングブランドと称している理由もそこにあります」
企業として目指すのは「サイクリングというマーケットの中でリーダーになること」だ。そのためには常に「In the pink(ベストコンディション)」であること。“In the pink”の「ピンク」とは、サイモン氏を筆頭に矢野氏たちにとってのヒーローであるイタリアの名選手マルコ・パンター二が『ジロ・デ・イタリア』で着たピンク色のウェアを指す。このレースではリーダーはピンク色のジャージを着る。世界でもっとも大きな自転車の企業になるのではなく、世界でいちばん過酷なレースと呼ばれる『ジロ・デ・イタリア』のリーダーのように影響力を持ち、自転車の世界を牽引していく存在。それが「Rapha」の目指す場所だ。

日本での自転車の認知度を向上させたい

不可欠なのは「PASSION(情熱)」、「WHY?(動機)」、「CULTURE(文化)」、「STORIES(物語)」、「EMPORIUM(サイクリング中心地としての機能)」、「DIFFERENT(独立した考え方)」といった6つのポイント。「情熱」はスポーツには絶対に必要なものであり、それをビジネスの原動力にする。そこには「ロードサイクリングを世界でもっともポピュラーなスポーツにする」という「動機」がある。そのためにはロードサイクリングという「文化」を伝えつづけていかねばならない。そこで生きるのが「物語」だ。ロードサイクリングの世界にはレースにしても選手にしても語られるべきストーリーが無数に存在する。「Rapha」ではそれを最高のクオリティで映像や写真、文章にして表現している。各地のサイクルクラブはサイクリストたちの集う「中心地」。そして、それを仕事とするスタッフに求められるのは、常識を判断基準としない「考え方」だ。
「僕たちがやっているのはサイクリングというマーケットをつくるという、今までにないことです。そのためには常識は忘れなきゃいけない。それも意識せずに自然に違うことを考えていかなければなりません」
「『Rapha』はまだ世界を変えるところには至っていませんが、影響力は持っていると信じています」と矢野氏。個人としての「夢」は先進国の中では遅れていると言われている日本での自転車の認知度を向上させることだ。
「実は日本が世界のサイクリストに誇れるのは道路です。世界でもこんなに峠の密度が濃い国はそうはありません」
5年後、10年後、その日本の道路や都市がもっと自転車で快適に走れるようなものへと進化していくように発信をつづけていく。
「30年ぶりに海外から東京に来た人が、なんてすごい町になったんだ、と驚くような、そんな東京が見られたらすごく嬉しいですね」

講師紹介

矢野 大介(やの だいすけ)
矢野 大介(やの だいすけ)
Rapha Japan代表
中学時代よりアメリカで育ち、大学院生の時にアメリカのサイクリングカルチャーに影響される。帰国後半導体エンジニアとして働く傍ら、自転車への想いを強めていく。八ヶ岳の東麓、標高1,350mの長野県野辺山にて八ヶ岳バイシクルスタジオを主宰する。2007年サイモン・モットラムとの出会いをきっかけに、Raphaの哲学に共感し独立。Rapha Japan代表として日本にブランドの想いを伝えている。ロードサイクリングでは常に新たなルートを開拓しつつ、シクロクロス競技ではトップカテゴリーで走るレーサーでもある。