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イベントレポート

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2016年3月5日(土)14:00~16:00

慶應義塾大学 井庭崇研究室 /

自分なりの自然な暮らし方
~身近な食から自然や社会との関わりを考える Natural Living Patterns ワークショップ~

食べるもの、着るもの、持つもの、使うもの...私たちがふれているものはどこかで誰かがつくったものだ。たとえば、今日着ている服はどこで誰がどんな風につくったものなのだろう?今日食べた食事は、どこからやってきた食材をどんなふうに調理したものなのか?そんなふうに自分の暮らしにあるものの背景に思いを巡らせたことはあるだろうか?
今回は「パターン・ランゲージ」という「考えるヒント」を使いながら、誰にとっても身近な「食」をテーマに食のルーツ図を描いてみた。大きな紙にそのルーツを描くことは、普段意識することのない、つくる人や自然とのつながりを考えることになる。「考えるヒント」を使いながら考えているうちに、身近なのに知らなかったことを発見したり、自分と自然のつながりを再認識したり...これからの暮らしのあり方を見つめなおすきっかけとなった。

「自然な暮らし」を「パターン・ランゲージ」で考える

慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの井庭崇研究室は、「パターン・ランゲージ」という手法を使って、「さまざまなテーマに対してよりよくする秘訣」を言語化し、共有する試みに取り組んでいる。d-labo湘南でもこれまでに、敬老の日のメッセージカードをつくった「伝える力を学ぼう!」、親子がそれぞれ自分自身について向き合った「Self Travel Cafe親子版」と、参加型のユニークなセミナーを開催し、好評を呼んでいる。

「パターン・ランゲージ」とは、よりよく実践する秘訣を「状況」「問題」「解決」のセットで記述することで、さまざまな行為をうまく実践する経験則を広く共有するためのツールのこと。今回のワークショップでは、井庭研究室で一緒にプロジェクト活動をしている李氏と大井氏がナビゲーターとなって、「自然な暮らし方」をテーマに、食のルーツについて考えていく。

「私たちは、人間が生活の中にどう自然を取り入れていけばよいのかということを、様々な人の話を聞いてまとめる研究をしています。まずは、参加者の皆さんに、今回のワークショップに参加した理由をお聞きしたいと思います」

「自然な暮らしに興味があったから」「なるべくエコな生活がしたいと思っているので」「自然のために自分が行動に移せることがあればと思った」など、参加者の発言からは、自然との関わりについて意識の高さが伺える。

李氏は、「私は、スウェーデンのストックホルムに留学したことから、環境のことについて考えるようになりました。北欧の人にとっては小さな頃から自然のこと、環境のことを思いながら生活することは当たりまえのことですが、日本、特に東京などの都市部では、その習慣があまりなく、考えるきっかけも少ないということに気づき、そこをなんとかしたい、と思ったことが、この研究を始めるきっかけとなったのです」と語った。

私たちが日々着ている服や、食べているものの材料、原料は、どこでどのように生まれ、どうやって製品になっているのか。都市生活が発達するにつれて、ものの本来の姿が見えにくくなっている中で、改めて“もののルーツ”を考えることによって、自然とのつながりを再認識していこうというのが、このワークショップの目的である。今回のテーマは「食」。

餃子、天丼、豚汁…さまざまな食材のルーツをたどる

「料理の方がイメージしやすいと思いますので、皆さんそれぞれ、料理のメニューをひとつ選んで、そこに使われている材料の名前、栽培地や生産地、栽培のしかたなどについて調べてみましょう。こちらに用意した図鑑や本を見ていただいてもいいですし、スマホなどを使っていただいてもかまいません」

たとえば「カレーライス」について考えるとする。そこにはお米、牛肉、ニンジン、タマネギ、じゃがいも、にんにく、福神漬けなどが入っているが、それらの材料について、きちんと調べてみよう、というわけである。参加者は、配られた模造紙を前に、「材料がたくさん入っているもののほうがいいかな」「好きなものについて考えてみたいね」などと話しながら、取り上げるメニューを考える。

「模造紙に書くときには、できるだけイラストでお願いします。文字だけでなく、絵でも描くことで、たくさんの気づきがあります。クレヨンやカラーペンも用意してありますので、色もつけてみてください」

麺類、丼もの、和食や中華など、それぞれが選んだメニューを、模造紙の中心に大きく描き、色を塗る。そこから材料を引っ張り出し線で書き出して、資料を使って調べていく。

約1時間後。力作が完成したタイミングで、その成果をシェアすることに。

いろいろと具材が入っていそうだから、という理由で「豚汁」を選んだ参加者は、材料のひとつ、ごぼうを調べていて、「戦時中に外国人の捕虜に供したら、『木の根を食べさせた』として、後で処罰された」というエピソードを発見し、文化の違いに驚いた、と発表。

「ガリガリ君リッチいちご大福」について調べた参加者は、着色料やいちごの産地について調べたほか、アイスの棒が、海外で伐採された木を使用していることも発見。

大好きな「餃子」について夫婦で調べた参加者は、ニンニクのルーツが3000年前のエジプトだったことに驚いた、と語った。その成分や栄養素についての補足では、他の参加者から「へえ~」という声も。

「天丼」を調べた参加者は、使われる「イカ」の種類では「モウンゴウイカ」が多く、15か国ほどから輸入されていること、インゲンは、最近品種改良されてスジがなくなってきていることを知ったと発表。

「ちらしずし」を選んだ参加者からは、ニンジン、レンコン、シイタケ、油揚げ、ごぼうなどについて、日本国内ではどこの産地のものが多いのかを調査した結果が発表された。

「国産だと思っていた野菜が外国由来のものだった」「意外なところが産地だった」「輸入食材が多い」など、たくさんの発見があったようだ。

「学生など、外食をする機会が多い人は、完成した“商品”としてものを食べているので、その一つひとつの食材について考えることがあまりありません。料理をする人にとっては当たりまえのようなことでも、意外に『知らなかった』ということがあったはずです」

5つの「パターン・ランゲージ」を日々実践しよう

今回行なったワークショップでは、食というテーマの中で、「ルーツをたどる」という「パターン・ランゲージ」を使った。

「日々食事をとり、たくさんの物に囲まれて暮らしている」という状況で、

「一つひとつの食材や物がどのようなプロセスをたどって自分のもとにやってくるのか考える機会がなく、そのありがたみを知らないままに暮らしている」という問題があり、

「食物や物のルーツを知ることで、自然の仕組みを知り、人間も自然の循環のなかにいることを再認識する」という解決策を見出したわけである。

「自然な暮らし方」に関する「パターン・ランゲージ」は他にもある。「自然とのつながり」では、「自然との関係性を意識することで、ともに心地よく過ごせるようなつながりをつくる」ために、「配慮をもって暮らし、日常の中で身近な自然を再発見する」アクションを提案。「身体をつくる食事」では、「食べるものが自分の身体をつくるということを意識して、自分の身体が必要としているものを味わいながら食事をする」ことを勧めている。

土付きの野菜など、本来の姿を考えて買うものを選ぼうという「自然な状態」、早さと便利さが何のためで、どのように実現できているのかを意識する「便利を疑う」も、「自然な暮らし方」を実践するためには必要な考え方である。

「さまざまなモノや情報と接しながら生きる私たちと自然が共存できる都市空間を実現できるようさまざまな角度からサポートしていきたい」と夢を語る李氏。最後は全員で記念撮影をし、「パターン・ランゲージ」を書いた5枚のカードは、参加者にプレゼントされた。多くの気づきを得ることのできた、充実したワークショップとなった。

講師紹介

慶應義塾大学 井庭崇研究室

創造社会をつくるチェンジ・メイカー」の集まり。
創造社会(Creative Society)とは、「人々が、自分たちで自分たちのモノや仕組みをつくる社会」のこと。井庭研究室では、その実現のために、創造・実践活動の秘訣を言語化する「パターン・ランゲージ」の作成と、それによる組織・社会変革の支援・実践に取り組む。トップダウン的に大きく仕組みを変えるのではなく、認識や思考、コミュニケーションのあり方が変わる「新しいメディア」をつくることで、社会や人びとに変化を引き起こすことを目指し、日々活動している。