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イベントレポート

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2016年4月10日(日)13:00~14:30

池口 徹、井川 隆成 /

親御さまと考えたい!!「数学(算数)を学ぶ重要性」について

子どもの教育について、悩みや疑問、不安を抱えている保護者は多い。今回のd-labo湘南セミナーは、東京理科大学の池口教授と、神奈川県内に展開する学習塾「中萬学院」の井川氏を講師に迎え、「数学(算数)を学ぶ重要性」についてお話しいただいた。子どもから一度は質問される「数学(算数)をなぜ勉強するの?」の答えを一緒に考えるセミナーとなった。

ネットショッピングの暗号化は高校生レベルの数学!?

数学(算数)に苦手意識を持つ人は多い。
「微分積分なんかわからなくても生活していけるから」「計算機があるから算数ができなくても大丈夫」などと言う人もいる。それならなぜ、数学(算数)を学校で勉強する必要があるのだろう。誰もが一度は思った(あるいは問われた)ことがあるに違いない、そんな素朴な疑問について考えようというのが、今回のセミナーのテーマだ。

第一部は、東京理科大学工学部情報工学科の教授である池口氏が、数学の大切さを語る。池口氏はまず、「数学は『学校を卒業したらもう使わない』と言われていますが、そうではありません。今日は、高校で習う程度の数学が、実際に社会のどんな場面で使われているのかということをご紹介します」と、ショッピングサイト「Amazon」のキャプチャ画面をプロジェクターに映し出した。

「インターネットでショッピングをするときには、個人情報をショップに送らなければなりません。情報が相手(店側)に届くまでには、プロバイダなどの通信路を介するわけですが、その途中で、悪意のある第三者に情報を盗み見されては困りますよね。安全な通信のためには、SSL/TSL通信、メッセージ認証コードなどさまざまな方法が用いられますが、今回は『秘密鍵(対称)暗号』と『公開鍵暗号』という方法について解説しながら、そこでどのように数学が使われているかをご紹介していきましょう」

AからBに情報を渡すとする。その際、Aが情報を暗号化するために使った鍵と同じものを、Bにも渡しておく。Bは、その鍵を使って暗号を解き、情報を手に入れる。この仕組みが、「秘密鍵暗号」だ。主に軍事で使用されていて、第二次世界大戦時にドイツが用いていた有名な暗号機「エニグマ」もこの「秘密鍵暗号」の仕組みを使っている。ドイツ海軍は解読されないよう、暗号の鍵を1か月ごとに物理的に交換していたという。

しかし、「秘密鍵暗号」では、秘密鍵そのものを盗まれてしまう危険性がある。そこで、1976年、まったく新しい暗号化の方法として考え出されたのが、「公開鍵暗号」だ。これは、情報を受け取る側のBが「公開鍵」を作り、それを公開する。情報を発信する側のAは、「公開鍵」を使って情報を暗号化し、Bに送る。Bは、「公開鍵」に対応する「秘密鍵」を持っていて、これを使って暗号を解き、情報を手に入れる。つまり、暗号化と複合化の鍵が別々で、なおかつ複合化の鍵はBしか持っていない、ということになり、AとB間の物理的な鍵のやりとりが必要でなくなったことで、安全性が高まったのである。

「そして、この公開鍵と秘密鍵を作るために用いられた数学の考え方が、素因数分解、最大公約数、最小公倍数、そして剰余演算。すべて高校までに習うものなのです」

実際の計算はもちろんとても複雑だが、簡単に言うと、「Aが数字を○乗する→Bはそれを×乗すると元に戻せる」というようなもの。さらに、その具体的な手順のなかでポイントとなるのが、素数という考え方なのだ。

「素数とは、素因数分解できない数字。つまり、3、5、7、11、13…といった、1と、その数字自身でしか割り切れない性質をもつ数字です。小学校で習いましたよね?昔はこの素数論は、数学の世界の中でも全然役に立たない考え方だと言われていたのですが、今では一番利用されています。このように、数学は、世の中のさまざまな場面で、実際に使われているんですね」

直感では思いつかない、最短距離で道路をとおす問題

池口氏は次に、「数学を使わないと損をする」をテーマに、「最適化問題」について解説。

「AとB、ふたつの工場の間に、最短距離で道路をとおすとします。どうとおしますか?直線で結びますね。では工場が3か所の場合は?三角形の中心からそれぞれに道をとおしますね。では工場が4か所、正方形の角の位置にあるとしたら、どう道をとおすのが最短でしょうか?」

「A→B→C→D→Aと、正方形の四辺にする(※図1)」と、一辺を1kmとした場合、道路の総距離は4kmとなる。「A→D、B→Cと、対角線にする(※図2)」と、道路の総距離は2√2=約2.8kmとなるので、こちらの方が短い。

「しかし、正解は…こういう形です(※図3)。こうすると、道路の総距離は1+√3=約2.7kmとなります。この考え方は、高速道路をつくる時などに使われます」

池口氏が提示した道路は意外な形で、参加者からは感心する声が上がった。

「直感だけで判断すると、対角線をとってしまいがちですが、数学を使えば、ちゃんと最短距離を導き出すことができる。道路をつくる場合などでは、コストが変わってしまいます。数学を知らないと損をする、というのは、こういうことなんです」

これから世界はどう変わる?求められる人材とは?

第二部は、学習塾「中萬学院」の井川氏が、数学をテーマに、「これからの時代がどう変わっていくか」について語る。

「ここ数年で、AI(人工知能)が急激に発達。車の自動運転の実用化や、囲碁でプロがAIに負けるといったことが起きています。5年前には35%だったAIの誤認率が、現在では5%。誤認率5%というのは、人間が間違う確率と同じくらいなんです。そういう時代に、人間に必要なものはなんだろう、ということを考えてみたいと思います」

井川氏はここで、2013年にオックスフォード大学の教授が発表した「未来の雇用」についての論文を紹介。

「AIが発達することで、10年後、20年後に、人間の仕事はどう変化していくか、ということが書いてあるのですが、ピックアップされた702の仕事のうち、50%以上が『なくなる』、つまりAIに取って代わられる、というのです。医療関係や教育関係などの多くがコンピュータでできるようになる、とされています。反対に残るのは、セラピスト、弁護士、コーディネーター、振り付け師などとなっています」

消える仕事と残る仕事を比べてみると、「論理的仕事は消え、非論理的な仕事は残る」と、井川氏は分析する。

「膨大なデータを正確に記憶し、処理できるAIに、人間は近い将来、かなわなくなるでしょう。これからの時代は、AIに負けない仕事に就かなければならない。そうすると、非論理の部分が大切になってくるのです。それは具体的にはどういうことか。私は、“課題解決能力”、つまり、答えがないものに答えを見つけ出していく力だと思うのです」

たとえば、富士山に登るとき。登頂までには、いろいろなルートがある。同じ地点から出発したとして、どのルートをとおって行けばよいかを考える、それが、課題解決能力。

「これまでインプットされた知識を使って問題を解いていく。これは、数学的なものの考え方です。ものごとの考え方を楽しみながら学び、頂上を目指してほしい」

学校教育も大きな変革を迎えようとしている。現在の中学2年生が大学受験をする2020年には「高大接続改革」が行なわれる。

「大学教育の入口ではなく、出口を重要視しようという改革です。2015年の世界大学ランキング調査では、アジアのトップはシンガポール国立大学で26位、日本のトップは東京大学で43位でした。真の学力とは何か、ということを、改めて考えなくてはならない時代なのです」

「知識や技能」「思考力、判断力、表現力」「主体性、多様性、恊働性」を高校で身につけること。そして、英語とAIを使いこなせる人材になること。それが、これからの時代に求められる能力なのである。

高校生、受験生の子どもをもつ参加者からは、「数学嫌いを直すには?」「文系、理系は生まれつき?」などといった質問があがった。池口氏は「何かのきっかけで数学への興味が変わる子もいる。大切なのは、基本的な教養の部分」。井川氏は「文系、理系というよりも、ものの考え方を、自ら気づいて深めていけるか、ということ。それが思考力の向上につながる」とアドバイス。参加者たちも考えさせられたようだった。

「数学を使えば、いろんな現象のカラクリがわかると信じている」と語る池口氏の夢は、数学の力で物事のルールを明らかにし、未来を予測すること。井口氏は「生物が生き残っていくのに必要なのは環境に適応できる力だ、とダーウィンは言っています。教育に改革をもたらして、そういう人材を育てていきたい」と夢を語った。

講師紹介

池口 徹、井川 隆成

池口 徹
東京理科大学 工学部 情報工学科 教授
学位:博士(工学)

井川 隆成
株式会社中萬学院 取締役 大学受験指導事業部長