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イベントレポート

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2016年4月16日(土)16:00~18:00

渡邉 淳一(わたなべ じゅんいち) / 古美術愛好家

~本物の古美術品に触れよう!~
「龍泉窯青磁」の時代ごとの呼称と特徴

日本人にとって古くから、中国伝来の青磁は憧れであり、ステイタスシンボルとして、貴族、大名、茶人、文化人等、持つ人々の心を綿々と魅了してきた。その中でも、中国浙江省南西部の龍泉窯で焼かれた青磁は、時代ごとに「砧青磁」、「天龍寺青磁」、「七官青磁」と呼ばれ、日本人に最も愛された青磁といえる。今回は、古美術愛好家の渡邉氏をお招きし、コレクションの一部を実際に触れていただきながら、龍泉窯青磁の時代ごとの特徴についてお話しいただいた。

日本人の憧れだった「龍泉窯青磁」

普段は柔道整復師として接骨院を経営している渡邉淳一氏。この日のセミナーでは古美術愛好家として中国陶磁器、なかでも評価の高い華南の龍泉窯で焼かれた青磁について解説していただいた。
「日本人にとって中国伝来の青磁は古くから憧れであり、貴族や大名など時の権力者だけが手にとれる成功の証でした」

その代表格である龍泉窯青磁は、大きく分けると、南宋から元の初期(1127年~1279年)に作られた「砧青磁」と、元の時代から明の初期(1279年~1368年)に焼かれた「天龍寺青磁」、そして明からその後の清王朝初期(1368年~1644年)にかけて生産された「七官青磁」の3種類。「青磁」と呼ばれているのは、文字どおり色が青いためである。

それまで茶褐色が当たり前だった焼物を「青磁」に変えたのは北宋8代目の皇帝である徽宗皇帝。芸術的感性に秀でた徽宗皇帝は、あるとき雨上がりの空を指し示し「あの空のような焼物を作れ」と命じた。陶工たちは釉薬に宝石を混ぜるなど工夫を凝らし、青磁を開発。北宋の後を継いだ南宋の龍泉窯を中心に多くの青磁が生産された。今回のセミナーではその代表的名品を画像で紹介。ほかにも渡邉氏のコレクションを展示し、実際に手で触れられる機会も設けていただいた。

まず見てみたのは「砧青磁」の「青磁鳳凰耳瓶」の名品である「万声」。左右に鳳凰を象った『和泉市久保惣記念美術館』所蔵のこの瓶は「古来第一の品」。つづいて平清盛が所有していたという「青磁輪花椀」の「馬蝗絆」、文様が菊の花に見える「青磁蓮弁文皿」、吉祥を表わす図案である双魚をあしらった「青磁双魚文盤」などを鑑賞。「砧青磁」の特徴は「見るからに堂々とした風格のある作品が多い」ところ。色は澄んだ粉青色(青緑色)で光沢の発色は穏やか。胎土は「ねっとりとした、きめの細かい、うすい灰色」。無釉の高台畳付は赤褐色に発色している。

次の時代の「天龍寺青磁」も、やはり胎土は同質の「ねっとりとした」もの。「砧青磁」との違いのひとつはより大作主義になった点。そのため作品には重量のある大皿や花瓶が目立つ。「天龍寺」の名称は室町時代の貿易船である「天龍寺船」で中国から日本に伝来したことに由来するという。作品が大きいため、花瓶などは「首やボディ、高台などパーツごとに分けて作っている」。高台裏に赤褐色に発色している蛇の目があるところ、また陰刻や陽刻の文様を施した作品が多いのも「天龍寺青磁」ならではの特徴といえる。

完成度の高い宋時代の焼物

日本には「七官」と呼ばれる明人が持ち込んだことからそう呼ばれるようになった「七官青磁」は、「釉薬に透明度があり、光沢が強く色は灰色がかった青緑色」で、「貫入」という「ひび」が入ったものが多い。なによりもの特徴は香炉などに見られる「コミカルな表現」だ。
「通常、香炉といえば格調高いものなのですが、明時代の龍泉窯の香炉は獅子や雁、アヒルなど、コミカルな形に仕立て直しています」

見るからに微笑ましい動物の香炉は、自然の姿を的確に表現してもいる。貫入は「右上から左下に入る」のが本物の証。中国の焼物は轆轤(ろくろ)の回転が日本とは逆なので、この点が「偽物を見分けるポイント」のひとつとなる。
セミナーは「龍泉窯」について、ひととおり学んだところで休憩。参加者にはテーブルに並んだ作品に実際に触れていただいた。「龍泉窯青磁」に共通しているのは「手に持つとずっしりくる」ところ。その重量に参加者の多くが驚くこととなった。

後半は「宋時代のその他の青磁」。宋時代は「中国の歴史のなかでも、最も完成度の高い焼物が焼かれた時代」。汝官窯や南宋官窯の青磁、景徳鎮窯の青白磁、建窯や吉州窯の天目茶碗など、「国宝、重要文化財になるような焼物のほとんどがこの時代に作られました」。ここで見たのは龍泉窯に並ぶ名窯として知られている「耀州窯」の「青磁刻花牡丹唐草文瓶」。北宋屈指の名作である花瓶は「片切彫り」という技法によって浮き上がった文様と、オリーブグリーンの釉色とそのグラデーションが美しい。これは「美の猟犬」と呼ばれた安宅栄一氏の「安宅コレクション」のひとつ。

次に紹介された汝官窯の「青磁水仙盆」も「安宅コレクション」。『大阪市立東洋陶磁美術館』に所蔵されているこの水仙盆は「とんでもなく素晴らしい皿」。4年前に世界最高峰であるサザビーズのオークションにおいて、24億6,000万円という最高記録をつけた同じ汝官窯の皿と比較しても「格が高い」。
「オークションに出せば100億でも買えない。それだけ素晴らしいものを安宅さんは日本に残してくれたんですね」

いいものをそばに置いて使う、それが生活を豊かにしてくれる

ちなみに汝官窯や南宋官窯は、北宋宮廷や南宋の王朝によって開設された「官窯」。汝官窯は長らくその場所が不明だったが、近年になって河南省の清涼寺の床下にそれがあると判明した。このセミナーでは渡邉氏にそこから出土した貴重な陶片も持参していただいた。

このほかにも南宋官窯の郊壇下官窯で作られた「青磁輪花鉢」や意図的に酸化焼成した米色青磁の「青磁杯」、修内司官窯の「青磁瓶」、村田珠光が好んだという同安窯の「珠光青磁椀」を鑑賞。

最後は焼物を選ぶ際の注意点となる「発色」や「形の歪み」、「肌のあれ」、窯の熱などが原因の「窯傷」、完成後についた「後から傷」、「直し(修復)」などのコンディションについて説明。焼物は「必ずしもコンディションが良くなくても味わいのある作品もある」という。
「完璧でないところを景色として捉え、自分の心が美と感じればそれは大切な古美術品になるはずです」
中国には古来から「美意延年(びいえんねん)」という言葉がある。これは「美しいものを愛でる心は人生を豊かにし、その人の寿命を延ばしてくれる」といったもの。
「ひとついいものを見つけたらそれを自分のそばに置いてどんどん使う。お茶の世界で言う一品三様。小皿なら醤油皿や珍味入れ、盃など、道具として使って日々の生活を豊かにしてください」

渡邉氏の「夢」は自身のコレクションがサザビーズの図録の表紙を飾ること。
「愛好家としては最高の栄誉。奇跡に近いことですが、もし選ばれたら美術愛好家冥利に尽きますね」

講師紹介

渡邉 淳一(わたなべ じゅんいち)
渡邉 淳一(わたなべ じゅんいち)
古美術愛好家
1957年宮城県生まれ。古美術収集をしていた父の影響を受け、中学生頃から古美術品に触れはじめる。1990年からサザビ-ズオ-クションのカタログ購読を通じ、中国陶磁器の動向を研究、蒐集している。2015年12月香港で開催されたサザビ-ズオ-クション、インポ-タントチャイニ-ズア-トにおいて、宋時代のプライベ-トジャパニ-ズコレクションとして独自のコ-ナ-の出品が認められ世界デビュ-を果たす。しらうめ接骨院院長。白梅福祉推進会会長。