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イベントレポート

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2016年4月17日(日)13:30~15:00

稲垣 有里 / 染織ユトリ 主宰

自分の色を発見しよう!!
~織の基本がわかるコースター作り~

私たちは、この世に生まれると間もなく、あたたかい布に包まれる。そこから当たり前のように衣服を身にまとい、社会の中で生活していく。そもそも人類は、さまざまな繊維から糸を紡ぎ、糸から布を織って衣服を作ってきた歴史がある。"染織"と聞くと、普段の生活では接する機会が少ないと思いがちだが、本来は生活に根ざした身近な存在なのだ。
今日は染織家として国内外で活躍する稲垣友里氏をお迎えし、機織りを指導したアフリカ・ルワンダでの体験やコースター作り、染織の魅力について教えていただいた。

アフリカ・ルワンダでの機織り指導

あいにくの雨になってしまった日曜日の昼下がり。雨も上がりそうな笑顔で登場したのは、「染織ユトリ」を主宰する稲垣 有里氏。「私は、染織家(せんしょくか)です。染色家と同じ読み方ですが、染織家は、糸を染めて機織り機で織る専門家になります。」
今回は、たて糸とよこ糸に見立てた好きな色の布でコースターを作るワークショップもセミナーに含まれている。「普段は2時間かけてやる内容なので少し早足で進みますが、みなさん着いて来てくださいね!」と前置きをして、90分の講座がスタートした。
稲垣氏は、2015年の9月から約1か月に渡り、アフリカ・ルワンダで機織りを教えた経験がある。今回はワークショップに入る前に、スライドに当時の写真を映しながら、貴重な指導経験を話してくださった。
アフリカのルワンダとは、赤道の少し下あたりに位置する、四国と同じくらいの面積の小さな国。日本からルワンダに行くには、ドーハ(1994年の“ドーハの悲劇”でもお馴染みの都市)で飛行機を乗り継いで行くという。「滞在は1か月ですが、みっちり教えられた日は18日間。その間に、6名の現地の女性に機織りの技術を教えることが私の役目でした。もちろん仕事として、生計を立てられるくらいの技術を身につけさせなければなりません。彼女たちは生活がかかっているので、本当に必死になって取り組んでくれました。」
まずは、廃棄されていたバナナの幹から繊維をとり、糸にするところから指導を始めたという。
とはいえ、公用語はルワンダ語。もちろん日本語が通じるはずもないので、稲垣氏が英語で説明し、それを現地の通訳がルワンダ語で説明したという。それだけでも日本で教える何倍も労力が必要に思うのだが、2日目にはもう機織り機を使った指導を始め、日に日に技術が向上していった。
次に、課題になったのは数字。55まで数えられないと織ることができないのだが、それを教えるのが難しかったという。試行錯誤した末、紙にあらかじめ○を55個書いて、作業をしながら1つずつチェックを入れるという方法に辿り着いた。そうやって目の前の課題を1つ1つクリアし、無事18日間の指導を終えた頃には、日本や海外向けに販売できるレベルのマットを織ることができたのだとか。
言語も文化も違う人たちに織物を教えるということが、どれほど大変なことか。それでも稲垣氏の帰国後、機織りの知識が広まったということは、稲垣氏の精神力と、困難に立ち向かう前向きな姿勢のおかげだろう。

まずは自分の好きな色を知る

いよいよ手を動かしていくワークショップの時間。まずは、色の基本である色相環図をつくり、色を体系化して学ぶ。小さな正方形に切られた折り紙の中から青、赤、黄を取り出し、円が描いてある色相環図に貼っていく。青、赤、黄は原色で、そこから色を混ぜていろいろな色が作られる。たとえば赤と黄を混ぜるとオレンジに、赤と青を混ぜると紫に…というように。対角線状に向かい合った色は補色といい、お互いの色を目立たせる効果があるとのこと。また、隣り合った色は類似色となり、色同士が馴染みやすくまとまった印象になる。ファッションやインテリアコーディネートなどの日常生活にも活用できるセオリーなので、覚えておくと良いだろう。その色相環図を少し意識しながら、コースターに使う色を選んでいく。
大きなテーブルの上にずらりと並べられたのは、稲垣氏自身が顔料で染め、細長く切った帆布生地。驚いたのはその色の数。数えてみると、少しずつトーンの異なる色が130色以上も用意されている。その帆布生地を16本選び、縦と横に8本ずつ並べ、交互に組み合わせてコースターを作る。組み合わせによって色はさまざまな表情に変化していく。 「色選びに迷ったら、自分が好きだなぁと思う色を選んでくださいね。正解はありませんので、自分にとって気持ちいい色というのが大事になります。」

自分の好きな色を選んで、いざコースター作り

参加者は、台紙代わりの小さく切った英字新聞の上に、自分の好きな色をのせていく。選ぶ色は人それぞれ全く違うので、その様子を見ているだけでも面白い。同系色でトーンだけを変える人、原色を中心にカラフルな色を選ぶ人など、色もテイストも本当にさまざま。「季節によって、人気の色が違うのです。春は桜をイメージする方が多いので、今日もピンクを選ぶ人が多いですね。夏は涼しげなブルー系、冬は暖色系が人気です。」
8本の生地を縦に揃えて端をテープで貼ったあとは、残りの8本を縦の糸に並縫いのように挟んでいく。隙間なく組み合わせたら反対側の端もテープで留め、ミシンで四隅を縫い、テープと新聞を外せば完成。
約20人の参加者がいる中で、誰1人として同じ色のコースターがなく、色選びの理由をお互い聞き合って話に花を咲かせる方々も。じっくり色を選ぶことで、普段意識しない自分の内面を見つめ直す時間ができたようだった。
講座終了後、稲垣氏に織りと染めの魅力について伺ってみた。「織の魅力は、素材と色。どの素材で織るか、どの技法を選ぶかで、印象が全く変わってくるのが魅力です。染めの魅力は、色と形。どの色を使い、どの形にするかという色遊びが楽しいですね。染織は衣食住の“衣”の基本なので、どこの国でも織と染めの歴史があります。染織の歴史からその国を知るという方法も、面白いと思いますよ。」
日本伝統のバッグ“風呂敷”を現代風にアレンジした“FROSHIKY(フロシキー)”の発表や、デンマークでの個展ならびに静岡市芸術文化奨励賞の受賞などで脚光を浴びる稲垣氏。現在は、静岡の街中で「ユトリ・アート&クラフト」という、子どもから大人まで楽しめる教室の運営で、染織や手芸などの魅力を広めている。今後もご活躍に期待したい。

文・鴨西 玲佳

講師紹介

稲垣 有里
稲垣 有里
染織ユトリ 主宰
女子美術大学で染織の勉強を始め、卒業後、同校元名誉教授の寺村祐子氏の助手となり、植物染織を学ぶ。2012年~2015年11月まで静岡市クリエーター支援センターで活動。同年9月、アフリカ・ルワンダにて女性の就労支援のため、機織りを指導、支援し活躍中。