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イベントレポート

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2016年4月20日(水)10:15~11:45

柴田 秀夫 / フォトライター

はじめてのエッセイ教室

メールで連絡を取るのが当たり前の昨今、ふいに届いたハガキや手紙に感動することがある。その人らしい言い回しや気の利いたひとことがあると、後々まで印象に残っていたりするものだ。しかし、いざ返事を書こうと思った時、言葉が何も浮かんでこない...そんな歯がゆい経験をしたことはないだろうか。
この講座では、日常的に使える挨拶文から作品としてのエッセイの書き方まで、自分らしい言葉で表現できる方法を学んでいく。授業では、日本の名作を鑑賞したり、声に出して朗読したりというインプットの時間が中心となる。エッセイを書くアウトプットの時間は、自宅でゆっくりとした時間に行なってもらう。全6回が終わる頃、どんな変化が訪れるのか楽しみである。

一番大事なのは「1つのことに絞って書く」

今日の講師は、写真と文章という異なる表現方法を自在に操るフォトライター・柴田秀夫氏。少し深めにかぶった帽子から覗く、優しい眼差しが印象的だった。
簡単な挨拶の後、エッセイを書くうえで一番大切にしなければならないことを真っ先に話してくれた。

「一番大事なのは、とにかく1つのことに絞って書くということ。前置きはいらない。まずは書きたいことを書く、それを大切にして欲しいと思います。」

言葉の端々から伝わる熱い想いに、受講者の誰もが吸い込まれるように耳を傾けていた。続けて、なぜ伝えることを1つに絞らなければならないのか、わかりやすい例を挙げて話していただいた。

「私は会社に務めていたのですが、当時は朝礼で1分間スピーチをやっていました。ある日、スタッフの1人が“犬の話”をしてくれました。小さい頃から犬が大好きだったこと、でも飼うには運動会の徒競走で上位になるという条件があったこと、そして努力の末、ついに両親が犬を飼うことを許してくれたこと、今は飼い犬と充実した日々を過ごしていること…。話は犬を飼いたいという話題に絞られ、わかりやすくまとめられていました。聞き手に印象を残すには、1つの話題に絞ること。それが人の心を打つ秘訣です。」

反対に話題がバラバラと飛んでしまうスピーチは、結局何が言いたいのかわからなくなり、聞いている人の記憶に残らないという。たしかに結婚式でのスピーチで記憶に残っているものは、1つの話題を膨らませて話してくれたものばかりのように思う。
ではどうやって数ある話題の中から1つを選び、それをエッセイというカタチにしたらよいのか。そのメソッドを語る前に、柴田氏は前置きもなくこう切り出した。

「では今から、みなさんに自己紹介をしてもらいましょう。」

“喜・怒・哀・楽”のどれかを選んで自己紹介

まずは柴田氏が自著「トンビがくれた贈り物」を、自己紹介代わりに全員にプレゼントしてくださった。これは月刊誌に掲載されたエッセイをまとめたもので、読んで楽しいのはもちろん、エッセイを書くヒントがたくさんつまっている。
次は参加者の番。まずはテーマを“喜・怒・哀・楽”の中から1つ選び、それを選んだ理由とともに、自分の経験や気持ちを短くまとめて自己紹介をすることになった。受講者は少し戸惑いながらも、テーマが決まった人から話し始めた。ある女性は“喜”を選び、家族の絆について話してくれた。

「私は“喜”を選びました。実は今月の頭に姉が結婚式を挙げたのですが、当日は家族みんなが笑顔で過ごすことができました。姉が結婚したことで家族の絆が深くなり、以前よりも仲が良くなったと思います。私も大人になり、親に感謝できるようになりました。」

受講者は温かい拍手をおくり、その場の空気が和むのを感じた。他にも“楽”を選んだ男性は、自分の夢を話してくれた。

「僕の夢はイタリアに行くこと。そのために、数年前からイタリア語を勉強しています。最初は大変でしたが、理解できるようになってくると楽しくなってきて…。子どもの頃は勉強が嫌だったのに、大人になると勉強が楽しくなってくるんですね。」

もう1人の男性も“楽”を選び、毎日書いている日記のことを話してくれた。書き始めて4年経った今、1日1ページを埋め尽くすほど文章量が増え、日記をもっと上達させるためにこの講座を申し込んだという。そうして全員の自己紹介が終わった後、柴田氏からこの講座のモットーが伝えられた。

「“仲良く、楽しく、ゆったりと。感動を発見しながら自己研鑽に努めよう”というのが、この講座のモットーです。毎回テーマに沿った授業を行ないますが、それとは別に文学散歩をしながら楽しむ課外授業もできたらいいですね。」

名作といわれる詩や小説を、声に出して朗読してみる

学ぶことと同じくらい重要なことは、実際に声を出して朗読すること。そこで柴田氏が好きな作品の中から、いくつかの詩を選んで朗読していただいた。島崎藤村の「千曲川旅情のうた」、三好達治の「甃(いし)のうへ」、北原白秋の「からまつ」に続き、子どもが書いた詩も3編ほど選ばれていた。どれもお母さんとの会話をふくらめたもので、思わず微笑んでしまうような素直な作品だった。

「子どもの書いた詩が好きなんです。大人はついカッコつけて美しい言葉を選びがちですが、子どもたちは何気ない日常を表現できる、するどい目線を持っています。歌の世界も同じで、日常の何気ないことを歌にすると、聞いている人は親しみやすさを感じますね。たとえばさだまさしや20代の頃の井上陽水の歌が、それにあたると思います。」

最後は、森鴎外の「高瀬舟」という歴史小説を全員で朗読した。内容は安楽死という一見重たいテーマだが、淡々とした文章の中に強いメッセージが込められている。読み終えた後に何度も思い返してしまうほど、強烈なインパクトを与える小説だった。
最後に、月末までの間に、柴田氏に提出する課題が出された。今回のテーマは「自己紹介」。書きたいエピソードを1つに絞ったら、原稿用紙2枚以内にまとめて郵送で柴田氏に提出する。原稿は添削された後に郵送で戻されるので、その添削を参考にして次の講座までに書き直しておく。

「6回の講座が終わると、みなさんは作品を6つ仕上げたことになります。私がその中で一番いい作品を選び、文集としてまとめ、みなさんに配ろうと思っています。」

まさか大人になってから文集を作ってもらえるなんて、誰が想像していただろうか。受講者は少し気恥ずかしい表情をしながらも、作品を作ることに意欲的な様子だった。
そうしてお昼も間近な時間になり、今日の講座は終了となった。

「この後、お時間ある人は一緒にごはんを食べましょうか。」

そんな提案をしてくださるのも、柴田氏の気取らない優しさだろう。

文・鴨西 玲佳

講師紹介

柴田 秀夫
柴田 秀夫
フォトライター
静岡市生まれ。1979年国際児童年記写真コンクールで「厚生大臣賞」を受賞し、国際児童年ポスターとして採用される。その後、数々の写真展を各地で開催し、現在は写真教室「写友二水会」「写友三水会」などで講師を務める。
著作に、詩集「娘たちに」、写真と詩「続一枚の写真」、「平成24年度ベストエッセイ集」などがある。