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イベントレポート

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2016年7月14日(木) 13:30~15:00

森 千秋(もり ちあき) / 靴育士・フットケアトレーナー

正しい靴の選び方とフィッティング法
~外反母趾編 あなたの足 悲鳴をあげていませんか?~

誰もが一度は遭遇したことがあるであろう靴トラブル。お気に入りの靴に出会い、お店でしっかり試着をしたはずなのに、いざ履いてみると痛くてとても歩けない...。そんな苦い経験はないだろうか。ましてや外反母趾の方は、さまざまな失敗が身にしみているので、靴選びにはかなり慎重になっているはずである。

今回、講師を務めていただくのは、“靴育士”というあまり聞き慣れない仕事をされている森千秋氏。
足と靴の専門家資格「フットケアトレーナー」を取得後、1万人以上の足型計測を行ない、靴選びのアドバイスをしているプロフェッショナルだ。今回は、もはや国民病ともいえるほど患者数が増えている外反母趾に焦点を当て、正しい靴選びを教えていただくことになった。参加者は受付後に左右の足長(踵から一番長い足指の先端までの長さ)と足幅を計測し、普段履いている靴のサイズを申告してから講座がスタートした。

ほとんどの人が間違ったサイズの靴を履いているという事実

「さきほどの計測で、お1人以外はみなさん外反母趾でした。」

開口一番、森氏の口から出た言葉に、17名の参加者からは驚きと落胆が混ざったような声があがる。外反母趾とは、足の親指が15度以上小指の方に曲がっている状態のこと。

外反母趾と聞くと女性特有の症状のように考えがちだが、今回のセミナーに、男性が数人参加していることからもわかるように、実は女性だけの症状でないことは確かなようだ。参加者の数人に悩みを聞いたところ、「親指の付け根の出っ張った部分が靴に当たって痛い」 という意見が多数だった。

「外反母趾にもいろいろあるので、ひどい症状でも痛みを感じない場合があります。前半は、フットカウンセリングを行なって、外反母趾のメカニズムについて詳しく探っていきましょう。後半は、正しい靴の履き方、正しい立ち方、歩き方を実践したいと思います。」

外反母趾の話の前に、まず森氏が「靴育士」として活躍するきっかけについて話してくださった。
以前、持病の投薬によって体重が81kgにまで急激に増えてしまい、重さに耐えかねて左半月板が断裂。運動はおろか、歩くことさえろくにできない状態になってしまったという。その時に一足の靴に出合い、激しい運動や食事制限をせずに3ヶ月後には7kg減、3年後には25kgの減量に成功。その時の経験から、自分の足に合う靴を履く重要性に気付かされたという。

「さて、外反母趾というと、原因はハイヒールだと言う人がいますが、実はそうではありません。原因の1つとして、間違ったサイズの靴を履き続けることが挙げられます。そうすると、外反母趾はどんどん悪化していきます。今日もみなさんの足長に比べて、靴のサイズが大きい人がほとんどでした。」

実際、2サイズ以上大きい靴を履いている人も少なくなかった。
成人の骨は、206個あり、そのうち足の骨は左右合わせて56個。驚くべきことに、骨の1/4は足に集中しているという。

「足は、とても細かい骨でできているので、動きに柔軟に対応できる反面、とても変形しやすいのです。でも裏を返せば、修正しやすいとも言えます。だからこそ、早く気付いて治す努力をしていくことが大事です。」

そして、外反母趾の原因のもう1つは、圧倒的な歩行不足。恐ろしいことに成人男女ともに、歩行数は年々減り続けている。それは成人に限らず、子どもにも当てはまり、今では小学校低学年の子でも外反母趾になる子がいるという。

「靴は体の一部です。大きい靴を履き続けた子は、大人になってもその感覚を忘れられず、大きい靴を履き続けてしまいます。外反母趾は世界的に見ても、大きな社会問題になっているのです。」

“浮き趾”こそが外反母趾の真犯人

ここまでたった30分ほどの講義だったが、今まで誰も教えてくれなかった外反母趾のメカニズムがわかり、まさに“目からウロコ”状態。参加者は全員、森氏の言葉をひとつも聞き逃さないという、真剣な眼差しに変わっていた。

ここからは、実際に自分の足や参加者の足を観察しながら、さらに細かく外反母趾のメカニズムを紐解いていく。

正常な足は、弧を描くような横アーチができるが、外反母趾の人は“開張足”と言い、のっぺりとした平たい足をしている。その原因は、骨と骨の間を結ぶ横アーチ筋が緩んでいるから。緩んだことで親指の関節が外側に突き出て、バランスを取ろうと親指は内側に歪んでいく、この“ねじれ”で歩行重心はどんどんずれていき、本来力が加わらなければならない5本の指は浮いたままになってしまう。

これがいわゆる“浮き趾(うきゆび)”といわれる症状で、実は外反母趾の真犯人。さらに浮き趾は、体のゆがみを引き起こし、ひざ痛や肩こり、腰痛や頭痛などのトラブルも招きかねないという。
森氏は、参加者の1人に了承を得て、みんなの前で足を触りながら丁寧に解説をしてくれた。

「浮き趾は、すべての足トラブルの原因になってしまいます。正しい歩行をするには、歩いた時に5本の指でしっかり蹴り出せるようにしなければなりません。そのために、靴を正しく選ぶ、正しく履く、そして正しく立つ。この3つを習慣にすることで、正しい歩行に結びついていきます。」

そして今度は、各自が自分の履いている靴をチェックしてみることに。かかと部分が柔らかい靴や、手で曲げた時に真ん中でグニャリと曲がる靴は、正しい歩行ができないという。

「まず、調整できるヒモがないもの、中敷きが外れないものはNGだと思ってください。靴を選ぶ時は中敷きを取り出して、足に合わせてみましょう。1cm程度の余裕はいいですが、大きすぎるもの、横幅が広すぎるものも避けましょう。」

正しい靴ひもの結び方、正しい歩き方、正しい靴選びで足は変わる!

残り30分は、実際に手と体を動かす実技の時間。まず、正しい靴ひもの結び方を教えていただいた。

まず、靴ひもをほどいた状態で足を入れたら、足先を上にしてトントンと地面を叩いてかかとをフィットさせる。靴ひもは、足首に向かうほど強く締め上げていき、隙間をもたせないように固定していく。最後は、ヒモを2回くぐらせてちょうちょ結びをしたら完成。

正しく靴ひもを結んで足踏みをした参加者からは、「足が軽くなった!」「しっかり足が固定されて気持ちいい」「足が安定した」という声があがった。

次は、全員立って、正しい歩き方を実践してみることに。
まず、背筋をのばして脇を締めて立ち、首を長くするようなイメージで頭の位置を正し、目線は15m先を見るように意識する。最後にお尻に力を入れて体の真ん中を意識すると、見違えるほど美しい立ち姿に。

歩く時は、腕をしっかり振って、かかとから着地することを心がけ、跳ねるようにしてリズミカルに歩く。日頃から正しい姿勢と正しい歩き方を意識すると、5本の足指をしっかり使うことになるので、外反母趾の改善につながってくるという。

参加者は、森氏の指示とおりに何度か歩くうちに、初めの時とはまるで別人のようなピンとした姿勢になり、はつらつとした歩き方に変わっていた。次第に笑顔も増えていき、終わる頃には会場がプラスのエネルギーで満ちあふれているのを実感した。

講座の最後に、森氏の今後の夢について語っていただいた。

「私の夢は、学校の身体測定に“足長”という欄を設けることです。みなさんにお話ししてきたように、足長は身長や体重と同じくらい大切なものなのです。小さい頃から靴教育を受けることの重要さを、まずは静岡から発信していきたいと思っています。」

そしてもう1つ、足長を測るフットゲージを一家に一台普及させたいという夢も語ってくださった。90分で靴教育の大切さを痛感した参加者たちは、森氏の熱い言葉に惜しみない拍手を送り続けた。

文・しずおかオンライン

講師紹介

森 千秋(もり ちあき)
森 千秋(もり ちあき)
靴育士・フットケアトレーナー
足型計測による足の数値化と科学的根拠に基き、靴教育のあり方を研究。各学会にて発表、傍ら小中学校での講演など精力的に活動中。通常は株式会社ヤマナミスポーツに勤務。

<学会・表彰実績>
2014年 第10回日本整形靴技術協会学術大会
2014年 第13回SOHOしずおかビジネスコンテスト奨励賞
2015年 第11回新潟医療福祉学会
2015年 第29回日本靴医学会学術集会
2016年 第11回日本整形靴技術協会学術大会