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イベントレポート

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2016年9月4日(日)13:00~14:30

中村 京太(なかむら きょうた) / 横浜市立大学 医学部医学科 救急医学 准教授

「もしもの時」の正しい救急医療サービス利用法
~近年の救急医療の実態と、被災地での医療活動について~

家庭で、仕事場で、外出先で、「もしもの時」に出くわしたら、私たちはどんな行動をとればいいのだろうか。緊急時に、救急医療サービスの上手な使い方を知っていたら、家族や友人、大切な人たちを、守ることができるかもしれない。本セミナーでは、被災地で活動経験のある医師を講師にお迎えし、災害現場での実体験や、現在の救急医療の実態等を交えながら、家庭での救急医療サービスの上手な使い方についてうかがった。

心停止から命を救うAEDと心臓マッサージ

横浜市立大学附属市民総合医療センターで2010年から専門的に救急医療に携わっている中村氏。今回は、①救急医療現場の実態 ②災害医療~被災地での医療活動~ ③救急医療サービスの上手な使い方の3つのテーマについてお話しいただいた。

「まず救急医療の実態、つまり我々の日々の仕事について紹介させていただきます。ERという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃると思いますが、救急の医療現場は、テレビドラマなどでもよく取りあげられていますよね。でも、我々の職場には、残念ながら江口洋介も松嶋菜々子も、ジョージクルーニーもいません(笑)」

日本の救急医療体制は、「初期救急医療機関(すべての診療所・病院)」、「二次救急医療機関(救急告示病院・診療所。約4,800施設)」、「三次救急医療機関(救命救急センター。218施設)」の三段階になっている。中村氏が勤務する横浜市立大学附属市民総合医療センターも「三次救急医療機関」であるが、今回は、その“リアルな”24時間を取りあげる。

AM 7:00 当直勤務の医師と交替。入院患者の診察と回診準備。
AM 8:00 前日の救急症例をスタッフ全員で見直す「症例カンファレンス」。救急診療の後の義務となっており、若手医師にとっては教育の場でもある。
AM 8:45 「ICU他職種合同カンファレンス」。重症で集中治療室に入院している患者一人ひとりの治療方針を、医師・看護師・薬剤師・リハビリスタッフ・臨床工学技士全員で決定・確認。
AM 11:00 救命ホットラインが鳴り、各スタッフが病院内で常時携帯しているPHSと、館内一斉放送で、救急車の到着が知らされる。患者は70代男性で心停止の状態。

「心停止の人を救うためには“救命の連鎖”が必要です。大前提として、健康管理や周囲の気配りによる心停止の“予防”。次に、心停止の“早期認識と通報”。さらに心肺蘇生法やAEDの使用による“一次救命処置”。最後に、医療機関で行なう“二次救命処置”。この4つが連鎖して初めて、心停止の人を救うことができるのです」

ここで中村氏は、「心停止すると人はこうなります」と、動画を紹介。椅子に座っていた人が心停止し、床に倒れ込んだ直後、痙攣し始める。その後、痙攣がやみ、下あごだけで呼吸。この時、心臓はピクピクと痙攣を起こしている状態で、ここでAED(自動対外式除細動器)で電気ショックを与えることが、心拍再開には非常に有効だという。

「『息をしているから平気だろう』と思わず、速やかに対応してください。AEDの使用が1分遅れるごとに、生存率は7~10%下がっていきます」

まず119番通報とAEDの依頼。そして、AEDが到着するまでの時間稼ぎとして、胸骨圧迫、いわゆる心臓マッサージを、強く、早く、絶え間なく続ける。

「胸骨圧迫をすることで、生存率の低下を1分ごとに2~3%減少させることができます。AEDが届いたらすぐにスイッチを入れ、音声の指示に従ってください」

全国的にAEDの設置台数は増えているが、なかなか認知、活用されていない。中村氏は、「ちょっと馬鹿馬鹿しい部分もあるのですが」と前置きして、アメリカの心臓協会が一般向けに製作した心肺蘇生の啓発ビデオを上映。ノリノリで心肺蘇生する様子に参加者も思わず苦笑していたが、やるべきことがシンプルに説明されており、記憶に残った。

PM 1:00 大規模災害を想定した訓練を行なう。
PM 9:00 「唯一の楽しみ」である夕飯。

「さて、ここで皆さんに質問を。あなたが救命センターの当直医だとして、今日の夕飯には何を頼みますか? カツ丼、うどん、寿司、カレー、ピザから選んでください」

救急医療の現場では、いつ呼び出しがあるかわからない。そのため、うどんのような汁物はNG。寿司は研修医には高価だが「指導医がおごってくれるのならアリ(笑)」。さらに横浜市立大学附属市民総合医療センターには「夕飯にカレーを頼むと救急車がたくさん来る」という都市伝説があるそうで、「カレーを頼むと怒られます」。無難なのはカツ丼かピザ、ということに。

AM 3:00 ICUで重症症例の治療を継続。
AM 5:00 20代男性が交通外傷で運び込まれる。

「救急医療は時間との闘い。ブリーフィング、リーダーの明確化、情報確認、当面の診療計画、役割分担などを素早く確実に行ない、医師、看護師、救急隊らのチームワークで命を守ります」

緻密な観察・管理と、大胆な意思決定、繊細なチームマネジメントで、目の前の危うい命を助ける。それが救急医療の醍醐味だと、中村氏は語った。

災害医療現場を想定して“トリアージ”に挑戦!

次は災害医療について。日本では、阪神淡路大震災が起こった1995年に「日本集団災害医学会」が設立され、ようやく、災害医療というものが認識された。

「阪神淡路大震災の経験から、災害時の医療救護活動で中心的な役割を担う『災害拠点病院』が制定されました。神奈川県では33の病院が指定されています。さらに、被災地内外で情報を共有する『広域災害救急医療情報システム』がつくられ、これは東日本大震災のときにも活用されました」

がれきに埋もれた人が救出直後に突然心停止する「クラッシュ症候群」など、災害医療には専門知識も必要だ。そのため、2005年には、災害医療に特化した医療チーム「DMAT(ディーマット)」が誕生。東日本大震災や熊本地震などでも活躍した。

ここで、中村氏が、参加者に、あるロールプレイを提案。

「トリアージ、という言葉をご存知でしょうか?災害医療支援の第一段階として行なわれるもので、人、場所、物、時間が限られている災害現場において、できるだけ多くの傷病者に最善の治療を提供するために優先順位を決める作業です。今日は参加者の皆さんに2チームに分かれていただき、一方は災害医療派遣チーム、もう一方は傷病者になって、トリアージを体験するミッションに挑戦していただきます」

ひととおりトリアージについての説明を聞いた後、傷病者役の参加者は、d-labo内のあちこちに散らばって、座りこんだりウロウロしたり。そこに、医療チーム役の参加者が、トリアージタグ(本物)を手に歩み寄り、患者の状態を見極める質問をしていく。

「歩けますか?」「呼吸はありますか?」などと問いかける医療チーム。歩ける人には優先順位の低い緑のタグを、歩けない人にはその次の順位の黄色のタグを付けていく。患者役のなかには、中村氏からのアドバイス(?)により「私を先に診てくださいよ」「重症なんです!」「歩けるかどうかわかりません」などと医療チームを困らせてみる人も。ロールプレイを面白がりながら、実際のトリアージの難しさを垣間見ることができた。

中村氏が熊本地震でDMATとして派遣された時の体験談も紹介。身体的な治療だけでなく、精神医療、本部支援要員など、多方面からの支援で、災害医療は成り立っているのだということに、参加者は深く納得していた。

大切なのは医療者と患者との親密なコミュニケーション

最後のテーマは「救急医療サービスの上手な使い方」。いざという時、病院に行った方がいいのか、救急車を呼ぶか自車で行くか、明日の朝まで待ってもいいのか、何科を受診すればいいのかなど、判断に迷うことはたくさんある。

「総務省消防庁がホームページでも公開している『救急受診ガイド』には、さまざまなケースが書かれてあるので、参考になると思います。横浜市救急相談センターは、電話で相談できます」

実際に119番通報をした場合についてもレクチャー。最初に「火事ですか、救急ですか」、次に救急車を向かわせる住所、それから患者について質問される。電話をした側としてはつい病状を伝えたくなるが、救急車を出動させることが最優先。到着までの時間で、患者の情報を把握するという段取りになっていることを知っておきたい。

「ぜひ、患者さんの側から、医師や看護師をうまく使ってほしいのです。病院で不愉快な思いをしたことがある方も多いでしょうが、医師や看護師に、本当に悪い人はいないと思うんです。でも、我々も、医療者である前にひとりの人間。だからこそ、親しみをもってコミュニケーションをとれば、よりよい医療が実現できるはず」

中村氏は、医療チームとは、医療者だけで構成されるものではなく、「中心はあくまでも患者さん。その家族もメンバーに入っている」と語る。患者を中心として、チームメンバーの医療者がその力を引き出せるようにすること。患者は納得できるまで医師に聞くこと。医療も結局は、人と人とのコミュニケーションで成り立っているのだ。

セミナー終了後、中村氏に夢をうかがった。「少し時間が取れたら、家族で世界中旅行してまわりたい」。救急医療の最前線で日々闘っている医師ならではの、感謝の気持ちなくしては聞けないひと言である。

講師紹介

中村 京太(なかむら きょうた)
横浜市立大学 医学部医学科 救急医学 准教授