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イベントレポート

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2016年10月29日(土)16:00~18:00

渡邉 淳一(わたなべ じゅんいち) / 古陶磁研究家

第二回 本物の古美術に触れてみよう!
「宋時代の焼き物たち」代表的な民窯から

宋時代の中国陶磁器は、今や世界中で大変な人気を博しており、資産的な価値もさることながら、持つ人のアイデンティティの証明にもなっている。前回に引き続き今回も、古陶磁研究家の渡邉淳一氏をお招きし、渡邉氏の所有する宋時代の焼き物とそのエピソ-ド、そしてサザビ-ズのオ-クションの話しまでを、実物に触れながらお話しいただいた。

日本は中国陶磁器の宝庫

2回目となった渡邊淳一氏の古美術品セミナー。前回の龍泉窯(りゅうせんよう)につづき、今回はそれ以外の宋時代の代表的民窯(みんよう)の特徴や作品について解説していただいた。

宋の時代とは10~13世紀(960~1279)、北宋の167年間、その後の南宋の152年間を足した319年間を指す。古美術愛好家の間では、長い歴史を持つ中国のなかでも、もっとも完成度の高い焼き物が作られた時代として知られている。その人気は世界的なもの。ヨーロッパの貴族の間では、古くから資産として、またアイデンティティの証明として好まれてきたし、最近では原産国である中国の富裕層がコレクションに熱をあげている。サザビーズなどのオークションに出品されれば億の値がつくことも珍しくはない。そして、実は日本はその宋時代のものを含む中国陶磁器の宝庫だという。

「この背景となったのが茶の文化です。日本の茶は、美濃焼きなどが流行る前は唐物を第一と考えていました。そのため中国から優れた焼き物がたくさんもたらされたのです」
将軍家や大名など時の権力者たち、茶人などの文化人たちはこぞって当時すでに骨董品であった宋の時代の焼き物を自分のものとした。国内の博物館などに展示されている国宝や重要文化財の焼き物はもちろん、まだまだ日本各地にはそうした名品、逸品が眠っている。なにかのはずみで骨董品店や骨董市などに流れた名品との出会いは愛好家にとっては「天国のようなひととき」だ。

280円で買った茶碗が2億円で落札

宋時代の窯は大きく分けると、皇帝御用達の官窯(かんよう)と、民間向けの民窯(みんよう)の2種類。今回紹介されたのは民窯(みんよう)でも評価の高い定窯(ていよう)の白磁(はくじ)、景徳鎮窯(けいとくちんよう)の青白磁(せいはくじ)、鈞窯(きんよう)の澱青釉(でんせいゆう)、建窯(けんよう)の天目茶碗、吉州窯(きっしゅうよう)の玳皮天目茶碗(たいひてんもくちゃわん)など。定窯(ていよう)の特徴は「象牙のように美しい白磁」。
「薄造り」で「厳しく端正な姿」をした鉢や皿が多く、器体にのびやかな蓮華唐草文(れんげからくさもん)や蓮弁文(れんべんもん)を彫りつけた作品や、龍文や花鳥文を印花で表現した作品が代表的とされている。象牙のような白さの秘密は「きわめて細かいカオリン質の土」。定窯のカオリン質の土には鉄分がまったく含まれていないため、白い焼き上がりとなる。
また粘りがあるため薄く造ることもできる。窯で焼く際の技法は「アーチ法を応用した伏せ焼き」。そのため口縁の釉薬(うわぐすり)が剥(は)いであるのが特徴となっている。釉薬(うわぐすり)が流れた跡が残っているのも味わいのひとつ。これは涙のように見えることから「涙痕(るいこん)」と呼ばれている。驚くべきはその価値。つい数年前には、ガレージセールで3ドル(280円)で購入されたというこの定窯(ていよう)の茶碗がサザビーズのオークションにかけられ、約2億円で落札されたというニュースが世界を駆け巡った。

「同じタイプの茶碗は大英博物館に一個あるだけ。この茶碗を見つけた人は相当な目利きですね。ただし知識がなければ見過ごしていた。古美術の世界では知識は財産なんです」
3ドルという値段を聞いた瞬間は、「きっとぞくっとしたはず」。渡邊氏自身も骨董市などで掘り出し物を見つけたときは同じような感覚になるという。

景徳鎮窯(けいとくちんよう)の青白磁はやはりカオリン土で作られた白磁の一種だが、釉薬(うわぐすり)に含まれているわずかな鉄分が青みを帯びて発色することから青白磁と言われる。文様の溝にたまった釉薬は「青影(いんちん)」。
定窯(ていよう)が石炭を用いていたのに対し、こちらは薪を使用。「龍窯(りゅうよう)」と呼ばれる登り窯で作られている。薄造りは定窯同様。渡邊氏もこの日展示してくれた青白磁輪花鉢(せいはくじりんかばち)を「生ビールを飲むのに使っている」という。

「口縁が薄いのでビールがおいしいんですね。古美術品は飾って愛でるだけではなく、こうやって自分で使うのも楽しみのひとつです」
鈞窯の澱青釉(でんせいゆう)は「ケイ酸とリンを多く含む成分を加えて乳濁させた不透明な青色の釉薬」。中国ではこの澱青釉の濃い色を「天藍釉(てんもくゆう)」、薄い色を「天青釉(てんせいゆう)」、それより淡い色のものは月の光になぞらえて「月白釉」と呼ぶ。さらにその釉の上に銅分を含んだ釉を流しかけると紫紅色の斑紋(はんもん)を生み出すことができる。スライドで見た紫紅斑紋(しこうはんもん)は「まるで宝石のような鮮やかさ」。一方、渡邊氏が昨年のサザビーズに出品したという月白釉の盤は「お手本のようなムーンホワイト」。この鈞窯の作品は優品が少ないため、世界中のコレクターの垂涎(すいえん)の的となっている。

古美術における知識とは「本物に触れること」

建窯(けんよう)で有名なのはなんといっても「天目茶碗」。使われる土は「鉄分の強い黒い土」。
そこへ漆黒の釉薬(うわぐすり)をかけて焼き上げる。窯の温度や釉薬のわずかな調合の違いから、さまざまな文様が生まれるのが特徴。その黒く光る特異な文様の茶碗は、とりわけ日本の貴族や大名、茶人たちに珍重されてきた。このうち「曜変天目茶碗(ようへんてんもくちゃわん)」は「日本に3つしかない」もの。ことに徳川家光から乳母の春日局に渡り、その子孫である稲葉家によって受け継がれてきた「稲葉天目」は「抜群の出来」だ。

「稲葉天目は漆黒の地に大小さまざまな結晶の斑紋(はんもん)が不規則に群れをなして浮かび、玉虫色の光彩が結晶を包みこむように流れています。これにはプリズム作用があって、見方によっては虹色の光彩を放つといいます。中国のすべての焼き物の頂点に立つものです」
吉州窯(きっしゅうよう)は鼈甲(べっこう)に似た釉調が個性的。内外ともにこの鼈甲(べっこう)風の釉(ゆう)がかかったものが「玳皮盞(たいひさん)」、見込に花鳥、木の葉、鳳凰、龍、文字などの文様の型紙を置き、その上に霜降りのナマコ釉をかけてから型紙をはずして焼成したものは「鼈盞(べっさん)」と呼ばれている。

会場の一角には渡邊氏のコレクションを陳列。参加者には実際に「本物」に触れてもらった。宋時代の焼き物は人気が高いだけに偽物も数多く出回っている。本物か偽物かを見極めるにはむろん細かい知識が必要だが、最後に決め手となるのは「手の感触」だという。
「知識とは本物に触れること。本物の特長を知り、本物に触れていれば自然と偽物との違いが見えてくる。だから知識は財産なんです」
古美術の世界では、その価値がわからない人々が名品を驚くほど安い値で骨董市に出してしまうことがよくある。「ですから、眠っているお宝はまだまだあります」という。

渡邊氏の「夢」は「うん億円になるくらいの貴重なお宝を見つけ出して、サザビーズの図録の表紙を飾ること」だ。
「みなさんも今日得た知識をもとに、ぜひ国内に眠っているお宝を見つけ出してください」

講師紹介

渡邉 淳一(わたなべ じゅんいち)
渡邉 淳一(わたなべ じゅんいち)
古陶磁研究家
1957年宮城県生まれ。古美術収集をしていた父の影響を受け、中学生頃から古美術品に触れはじめる。1990年からサザビ-ズオ-クションのカタログ購読を通じ、中国陶磁器の動向を研究、蒐集している。2015年12月香港で開催されたサザビ-ズオ-クション、インポ-タントチャイニ-ズア-トにおいて、宋時代のプライベ-トジャパニ-ズコレクションとして独自のコ-ナ-の出品が認められ世界デビュ-を果たす。しらうめ接骨院院長。白梅福祉推進会会長。