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イベントレポート

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2016年11月5日(土) 15:00~15:50

漆畑 孝亮、牧野 早央里、長山 航 /  

小さな音楽会 ~dコンサート グランシップ×d-labo静岡~

「芸術の秋」と呼ばれるこの季節、d-labo静岡では、小さな空間で小編成の「室内楽」を楽しむコンサートを企画。「静岡・室内楽フェスティバル」が市内各地で開催されている中、木管楽器の代表ともいえる、オーボエの温かな響きで演奏されるクラシックの小品(短い音楽作品)や、馴染みある名曲に耳を傾けた。
参加者は、心地よい調べに日々の喧騒を忘れ、安らぎのひと時を楽しんでいた。

レアな編成で楽しむ秋の演奏会

大道芸で賑わう静岡の街。そんな喧騒とは趣を異にして、グランシップとのご協力のもと、d-labo静岡にて小さな音楽会が開催された。
当日の楽器編成は、オーボエ2名とイングリッシュホルン1名。申込みが殺到し、当初20名の予定だった定員が50名にまで増員された。開始時間のかなり前から席が埋まり、参加者の期待の高さがうかがえた。

演奏は漆畑 孝亮氏(オーボエ)、牧野 早央里氏(イングリッシュホルン)、長山 航氏(オーボエ)の3名。揃いのシックでエレガントな衣装で登場し、まずはW.A.モーツァルト(1756年-1791年、作曲家・演奏家)作「ディヴェルティメント5番」より第1楽章が演奏された。軽やかで楽しい印象の曲だ。

ディヴェルティメントとは18世紀中ごろに現れた器楽組曲の総称。ハイドン(1732年-1809年、作曲家)やモーツァルトらによって多くの作品が書かれている。明るく軽妙で楽しい曲風が特徴で、貴族の晩餐会や娯楽、社交の場で演奏された娯楽性の高い音楽だ。上流階級向けの、今でいうBGMに近いため、楽器編成に指定はなく、三重奏、四重奏、管弦合奏および小規模のオーケストラなどさまざま。また、形式や楽章数ともに自由である。

「似たようなものにセレナーデがありますが、セレナーデは屋外の演奏用、ディヴェルティメントは室内の演奏用だとされています。」とオーボエの漆畑氏。

続いて、同作第3楽章のアダージョ。実はこの曲は、モーツァルト自身の作品ではなく、父のレオポルトがヨーゼフ・シュタルツアーとクリストフ・ヴィリバルト・グルックの舞曲を編曲したもの、との説もある。そんな真偽のほどはさておき、演奏が始まると会場が一気に当時のヨーロッパ貴族の瀟洒な晩餐会の雰囲気に包まれた。
これらの名曲を残したモーツァルトの生涯は、36年に満たない短いものであった。

「彼の人生の1/3、つまり10年以上を旅先で過ごしたと言います。旅は人生を豊かにするのだと父親に手紙を送ったとも。」と漆畑氏。

とりわけ、モーツァルトがザルツブルグに誕生してからの25年間は、多くの国を巡りさまざまな音楽や音楽家を知って、自分の中へ取り込んだと言われている。
モーツァルトのこのような考え方は、当時特に革新的だったわけではなく、18世紀後半のヨーロッパでは人の交流が活発だった。とりわけ音楽家たちはいろいろな貴族の館や宮殿を渡り歩いていたという。

オーボエとリードについて

さて、本日のメイン楽器「オーボエ」とはどんな楽器なのだろうか?
形状から言うと円錐管の楽器で、木管楽器の一種であり、ダブルリードで発音する。オーボエという名前は、フランス語で「高い音を出す木管楽器」より由来するとのこと。かつては弦楽器だけだったオーケストラに初めて入った管楽器だが、当時は、まだキーが2個から3個のみだった。
近年でも、オーボエの形状は顕著な進化を遂げているという。

「オーボエは楽器本体を3つに分解できます。僕と長山氏は、同じメーカーの楽器を使っていますが、僕の楽器が先端から少し下あたりではずすことができるのに対し、長山氏の新しいタイプは口元に近いところに分解部位があります。これは、オーボエ界においては、かなり画期的だと言えるのです。」と漆畑氏。

長山氏の「音色の違いにも注目してみて下さい。」との言葉に参加者たちの集中力が高まり、続いて演奏されたのは、P.M.デュボア(1930年-1995年、作曲家)作「プロヴァンス風舞曲より第4楽章」。南仏の明るい太陽を感じられる曲だ。

オーボエは、2枚の葦で作られたリードの間に息を吹き込み、音を出す。オーボエに限らず、クラリネットやサックスなど、リードを使用する木管楽器は多いが、このリード、フランスはプロヴァンス地方にあるヴァ―ル県の葦を使ったものが一級品として有名だ。理由は、葦が頑丈で、リードに加工するとたぐい稀な品質(=楽器を美しい音色で鳴らすことのできる振動)を持つためだという。

「一枚のリードの厚みは0.55ミリ~0.60ミリです。僕は厚めの0.60ミリ、漆畑氏は薄めが好みですね。」と、オーボエ演奏家であると同時にリード製作者でもある長山氏。

「中高生のコンクール前、6月から7月にかけて慌ただしくなりますね。演奏会がなければ1日に6~8時間、数にして20~30枚製作しています。ちなみに、僕のリードに使われている葦は、プロヴァンスのヴァール県とよく似た気候の、中国のとある地方のものです。」と長山氏は語る。

クラシック曲が多い中、続いて演奏されたのはG.ポーニング作「3つのジャズ練習曲」。イングリッシュホルンの低音がリズムを刻み、クラシックとはまた異なる魅力を堪能できた。

今回、イングリッシュホルンを担当しているのは、紅一点の牧野氏。では、イングリッシュホルンの特徴とは?

「まず、オーボエより大きい…というより、長くて下部が洋ナシのような形状をしています。オーボエと比べて難しい点は、オーボエが楽譜どおりドレミの音階で吹けるのに対し、イングリッシュホルンは記譜と実音に差があることでしょうか。もちろん、この点が魅力であるとも言えます。」

グスタフ・マーラー(1860年-1911年、作曲家・指揮者)などの大編成では、曲中でイングリッシュホルンのみを演奏することもあるが、そうでなければオーボエとの持ち替えが多いとのこと。どんな音色なのか演奏していただいた。

「NHKの小さな旅で使用されている“小さな旅~光と風の四季~”をお届けしました。オカリナで始まり、イングリッシュホルンのソロパートがあるのです。」

気軽にクラシック音楽を楽しもう!

イングリッシュホルンの穏やかで大らかな低音を堪能したら、いよいよラストのJ.S.バッハ(1685年-1750年、作曲家・音楽家)作曲「ゴルトベルク変奏曲」。この曲は、バッハに音楽の手ほどきを受けたゴットベルクが、不眠症に悩むカイザーリンク伯爵のために演奏したとの逸話を持つ。しかし、当時14才の少年だったゴルトベルクが演奏するには難易度が高く、この逸話については懐疑的な見方が多いそうだ。1956年には、グレン・グールド(1932年-1982年、ピアニスト・作曲家)がデビュー盤にこの曲を選択して世界的な大ヒットとなり、広く世に知られることとなった。

変奏曲としては長大で、しかも高度な対位法を用いて作られた難解なこの曲を、「一家に一枚このCDを持つべき!」というほどほれ込んでいる漆畑氏が、今回の音楽会のために編曲。熱い演奏に参加者一同が感動に沸いた。

d-laboとは夢を語る場所。最後に、それぞれの夢について伺った。

「クラシックには、依然、ハードルが高いというイメージがあるようです。でも、まったくそんなことはありません。身近に感じて、気軽に生の演奏を聞いてもらう機会が増えるよう活動してきたいです。」と長山氏。

続く牧野氏は、「今日は時間を割いてお越しいただきありがとうございます。日常とはちょっと違う時間を過ごしていただけたのではないでしょうか?この体験が、みなさんの普段の生活を豊かに彩ることができたのなら嬉しく思います。」

最後に漆畑氏。「軽井沢に別荘を持ちたいです。それか、大好きな東京タワーを眺めることが出来るマンションを手に入れたいです。俗っぽくてすみません!」との言葉。ノーブルな雰囲気を作り出していた、当の演奏者の思いもよらぬ夢に、自然と会場が笑い声に包まれた。クラシックを身近に感じてもらいたいという長山氏の夢は、さっそくひとつ叶いそうだ。

参加者からは鳴りやまない拍手に、アンコールはベートーヴェン作曲「2つのオーボエとイングリッシュホルンのための三重奏曲」より第3楽章が演奏された。名残惜しさを感じつつ、芸術の秋にふさわしい大満足の演奏会が終了した。 文・土屋 茉莉

講師紹介

漆畑 孝亮、牧野 早央里、長山 航
 
漆畑 孝亮(うるしばた こうすけ)
オーボエ
静岡東高校、武蔵野音楽大学卒業後、ベルン芸術大学大学院修了。
国内外のプロオーケストラに客演。
グランシップアウトリーチ登録アーティスト。

牧野 早央里(まきの さおり)
オーボエ / イングリッシュホルン
常葉学園短期大学音楽科卒業。第46回東京国際芸術協会主催新人オーディション合格。
すみやグッディ呉服町本店音楽教室オーボエ講師。グランシップアウトリーチ登録アーティスト。

長山 航(ながやま わたる)
オーボエ
横浜市立桜丘高校、武蔵野音楽大学卒業後渡独。
ハンブルク音楽院修了。
パシフィック・ミュージック・フェスティバル2013参加。