イベントレポート
2016年11月6日(日)13:30~14:15、15:00~16:00
バスンダリ、長谷川 亜美 /
バリ舞踊ショー 神々の島、捧げるバリ島の舞 / バリ舞踊レッスン 舞ってみようバリ舞踊
神々の島、バリ島の伝統舞踊は寺院での儀礼で踊られる。ガムランの調べに合わせ、目や指など全身をゆるやかに動かしながら踊るのである。2015年にはユネスコの無形文化遺産に登録された。
今回は、失われたバリ舞踊を復元した舞踊や最新の宮廷舞踊などきらびやかなバリ舞踊をショーで堪能した後、バリ舞踊のレッスンも行なった。肩甲骨を動かす、足の指を上げる、など普段は意識していない身体の部位を感じることができ、見ているよりも結構ハード。基本の動きにゆっくり挑戦し、最後はガムランに合わせて踊ってみた。
華やかな衣裳と魅惑的な踊りに観客も釘付け!

d-labo湘南では、「バリ島week Trip to BALI」と題して、インドネシア・バリ島の文化を紹介する展示やワークショップを開催。その最後のイベントとして、湘南地区を中心に活動するバリ舞踊グループ「バスンダリ」によるショーとレッスンが行なわれた。
観客の間から、しずしずと登場したふたりの踊り手。鮮やかな赤に金の刺しゅうを施した美しい衣裳に身を包み、手には花籠を持っている。インドネシアの伝統的な楽器、ガムランの神秘的な調べに合わせて、ゆったりとした踊りが始まった。
片方の足に重心を置き、腰を横に突き出して、両ひじを横に広げる独特の姿勢がなんとも優雅。つま先立ちで膝を曲げ、中腰のままの踊りが続く。手の動きも特徴的で、指をそろえて手の平を外に向け、人差し指だけを小刻みに動かすのも、不思議な雰囲気を醸し出している。
突然、音楽のテンポが早くなった。ふたりが向かい合って、互いの動きに呼応しあうように踊り始める。流し目のような目の動きと首の動きが連動し、踊りがだんだんと激しくなってくる。花籠から赤い花びらを手に取り、それを観客に見せるような動きをしながら、踊りは続く。そして最後には、たくさんの花びらを観客席に向かってヒラヒラとまき、退場。観客席にいた子どもたちは、嬉しそうに花びらを集めてまわっていた。
「今の踊りは、ガボールという歓迎の踊りです。お寺でも、家でも踊ります」と、スタッフからの説明が入る。「次は、ルジャンレンテンという、クルンクン県のペニダという小さな島で生まれた踊りを披露します。とても珍しい踊りで、バリ人である僕も、日本に来て初めて踊ったほどです」とバリ人スタッフ。
バリ島には、歴史的な舞踊芸術が数多くあるが、そのうちの9種類が、ユネスコの無形文化遺産に認定されている。ルジャンレンテンもそのひとつ。成熟した大人の女性が踊るものだという。
衣裳もがらりと変わり、白いレース柄のトップスに、孔雀の羽のような模様があしらわれたゴールドのスカート、そして大きな飾りが付いた冠をかぶった踊り手が登場。ゆったりとした音楽にのって、ふたりが同じ動きをしながら、ゆるやかに踊る。迫力のあるきらびやかな衣裳に、観客はもちろんのこと、通りすがりの人も足を止めて見惚れていた。
古典舞踊と最新の舞踊の違いも興味深い

今回のショーのテーマは「捧げる」。バリでは、舞踊の前に、必ず祈りを捧げるのだという。チャナン、と呼ばれる奉納に必要なヤシの葉の捧げ物も、基本は各家流で作るものだが、市場でも手に入るそうだ。そもそも、「バリ」という言葉自体が「捧げる」という意味だそうで、「どんなふうにお祈りをしているのか、実際にやってみましょう」と、バリ人スタッフが演目の合間に祈りの捧げ方を披露。線香の煙で体を清め、花を使ってお祈りをする。合掌を額の前でするのは神様のため、胸の前でするのは人のため…といった、動作の意味も解説していただいた。
次の演目「ガルーダ」では、インドネシアの国鳥である「ガルーダ(カラス)」と、ラッサム王との攻防戦のような、激しい踊りが繰り広げられた。ガルーダ役は、小さな女の子。両手に付けた羽を大きく動かしながら、真剣な表情で舞う姿は迫力いっぱいで、観客の目を惹き付けていた。
バリ人のパパをもつ少女は、踊りの後で、「ママに誘われてバリ舞踊を始めました。バリは、海がきれいで、おじいちゃんおばあちゃんもすごく優しくしてくれるし、おいしい食べ物もあるし、バイクにも乗せてもらえるので大好きです」とコメント。大きな拍手を受けた。
最後は、バリ舞踊のなかでも新しい踊りを披露。黒、白、赤のアンダーに金色の衣裳をまとった踊り手が、扇を持って踊る。音楽も振り付けもモダンな印象で、緩急のある洗練された動きは、どこか現代舞踊を思わせた。大きな拍手とともに、全4演目が終了。
バリ舞踊グループ「バスンダリ」を主宰する長谷川亜美氏は、インドネシア国立芸術大学の舞踊科に留学し、バリ舞踊を習得。バリ島芸術祭に何度も参加し、失われつつあるバリ舞踊の復刻にも尽力している。「今日は、古典から最新の宮廷舞踊まで、特徴の異なる4つの踊りをご覧いただきました。バリ舞踊は伝統芸能でありながら、進化をし続けてきた踊りなのだということがわかっていただけたかと思います」
会場には、「今ではつくり手がいなくなってしまった」という、40年ほど前の繊細で美しい布製の衣裳や小物類も展示され、来場者の興味を誘っていた。ショーで踊り手が身に付けていた大きな冠や、ガルーダの羽をつけて記念撮影をする子どもたちの姿も。バリ舞踊の知られざる、そして奥深い魅力を知ることができた貴重な機会となった。
優雅に見えて意外にハードなバリ舞踊に挑戦!

続いては、長谷川氏による舞踊レッスン。「ガルーダ」を踊ったショーの時の衣裳のままでレッスンしていただいた。
「バリ舞踊は、ヒンズー教の神様と交信するための踊りとして誕生しました。今も神への供物、奉納舞として踊られています。日本の神楽と同じですね。それが、観光客向けのショーにもなっています。私が今身に付けているのは、ショーのための衣裳です」
伝統的な奉納の踊りでは、ヤシの葉っぱで作った冠に生の花を挿して、それを頭に載せて踊る。今回のレッスンでは、そうした基本となる踊りに挑戦。
あぐらをかいて、骨盤を立てて座った状態で、レッスンスタート。まずは、手の動きを覚えていく。「バリでは、舞踊家の家に生まれた子どもは、生まれてすぐに手のストレッチをします」とのことで、手の動きがバリ舞踊でいかに重要視されているかがわかる。参加者たちも手首や指を入念にストレッチ。
手を開き、指先を天に向けた状態は、「神様と交信するため」の形。指を小刻みに動かしながら、手の動きを学ぶ。
手の平を内回りに回転させる「ウッカール」という動きを、両手を横に広げた状態、さらに片肘を曲げた状態で練習。肘が肩の高さになるように腕を上げているだけでも辛いのに、その肘が肩より後ろになるように肩甲骨をぐっと寄せ、さらに手首を回すとなると、余計な力が入ってしまうようで、参加者から思わず苦笑がもれる。「呼吸を止めないでやってくださいね(笑)。吸ってー、吐いてー」と長谷川氏。
次に、「アグム」という基本姿勢を学ぶ。片足に重心をおいて、腰を逆方向に突き出す中腰の姿勢だ。「右と左は必ず同じ形、鏡映しになります。これは、バランスが重要だということ。太陽と月、陰と陽など、バリでは、すべてのものに二極がある。人間の心の中にもありますよね」
さらに、「スルーデット」という流し目のような目の動き、「ノタッグ」という首から上だけを左右に水平に動かす動きを教えていただく。
立ち上がって、足の動きを加えていく。足踏みをしながら、首の動きをつけていき、さらに膝、腰の動きもプラスしていくうちに、バリ舞踊の雰囲気が出てきた。「アグム」で右から左へと姿勢を変える時には、「骨盤を平行にしたまま体重を移動させます」とのこと。ショーで見たあの優雅な踊りが、実はこんなにもハードだったとは驚きだ。
「普段使わない筋肉を使うので、痛みを感じたらストレッチしてくださいね」と長谷川氏もアドバイス。それぞれ腕や肩を回したり、手をブラブラさせたりしながら、レッスンは続く。
こうして、じっくり時間をかけて基本の動きの練習を重ね、最後はガムランに合わせて全員で踊ることに成功!ほとんどの参加者がバリ舞踊初心者にもかかわらず、神聖な雰囲気が漂うほどの完成度の高さだった。
「踊りだけでなく、料理や、お祈りなどの文化講座、楽器などについてもワークショップを行なっています。幅広い切り口から、バリの文化を伝えることができたら、と思っています」と長谷川氏。いつかバリに行ってみたい、そんな気持ちになるショーとレッスンだった。
講師紹介

- バスンダリ、長谷川 亜美
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バスンダリ
バリ舞踊グループ
湘南地区を中心に神奈川県内で精力的に活動するバリ舞踊グループ。バリ舞踊マエストロらと失われたバリ舞踊を復元し、次世代へつなげる活動に力を注いでいる。舞踊だけでなく、バリ文化も学びながら、幅広い視野で活動していることも特徴。バリ島芸術祭5回出演。夏恒例、江の島シーキャンドルでの「江の島バリSUNSET」にも毎年出演しています。CD「GONG GEDE(CD-95)」「Legong(CD-113)」いずれもバリレコードより発売中。2002年設立。
バスンダリホームページ:http://www.basundhari.com/
長谷川 亜美(はせがわあみ)
バスンダリ主宰
2000年から2年半インドネシア国立芸術大学デンパサール校舞踊科留学。2002年帰国後、バリ舞踊グループ「バスンダリ」を設立し、バリ舞踊の指導にあたる。バリ島より舞踊家を招聘し、バリ舞踊講座等の企画を実施。2015年より第2回伊豆急オモシロ駅長「バリ舞踊駅長」就任。
創作バリ舞踊作品「Legong Sakura」「伊豆急踊り」がある。