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イベントレポート

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2016年11月17日(木) 19:00~21:00

西 加南子、田代 恭崇 /  

女王とオリンピアンが裏話まで語る!
「自転車競技プロロードレーサーの実情」

数時間200kmを超える距離、標高2,000mの山岳越え、時速70km以上の高速ダウンヒル、ゴール前の大集団スプリント、刻々と変化する気象状況、過酷な競技として名高いサイクルロードレース。1年に地球1周ほどの距離を自転車の上で過ごすプロロードレーサーたちは、どんなトレーニングをしてどんな生活をしているのか、なかなか実情は見えないもの。現役プロロードレーサー女王の西加南子さん(LUMINARIA所属)とアテネオリンピック代表でヨーロッパプロロードレースで優勝した田代恭崇さん(リンケージサイクリング代表・サイクリングプランナー)に、プロロードレーサーの生活からレースの裏話まで実情を語っていただきました。

「プロロードレーサー」の定義とは?

6月につづいて西加南子氏と田代恭祟氏をお招きしてのトークイベントとなった今回のセミナー。この日は「現役」と「元」、そして「男子」と「女子」、2人のプロ自転車競技選手にロードレーサーの生活や仕事について隅々まで幅広く語っていただいた。

世界最高峰のツール・ド・フランスから国内のレースまで、世界中で行なわれている自転車競技。日本を見ると、プロレースとはいっても実際には「プロとアマチュアが混走している」という。では、プロとアマチュアとの違いとはいったいなんであろうか。

「女子の場合は、収入の半分以上をスポンサーからいただいている人ならばプロと言えます」と西氏。もう少し広げると「物品だけ支給してもらっている選手もプロに入れていいかもしれません」。男子もやはり「スポンサーと契約して報酬を受けているのがプロ」。これに加えて、とくに男子の場合はどこのチームに所属しているかによってプロとアマチュアとの境ができる、という。区分化すると、世界のトップと言えるのは「ワールドツアーチーム」。その下にあるのがプロコンチネンタルチーム。さらにその下にはコンチネンタルチームやアマチュアチームが存在する。

「コンチネンタルチームまではプロで、ここ最近までは最低年俸が決まっていました。ただ、世界を見るとアマチュアチームでも実力のある選手は給料をもらっていたりします(田代氏)」

気になる年俸はコンチネンタルチームの男子選手で日本円にすると400万円程度。(最低年棒が決まっていた時代)もちろん、それより上のチームの男子選手たちの中には1,000万、2,000万円といった報酬を得ている人間もいる。世界のトップ選手はもちろんもっとですが。収入の内訳は、契約金とチームごとに決められている報奨金、それに大会の賞金。契約は基本的に単年契約、トップ選手は複数年契約もありますが、収入は常に不安定。そういった面では自転車競技も他のプロスポーツと同じか、あるいはそれ以上に厳しい世界だということが窺える。

シーズン中は週単位のスケジュールで生活

年間のスケジュールは男女ともに11月から2月がオフ。このオフシーズンに取り組むのは「土台づくり」だ。春からのシーズンに備えて筋力トレーニングを行なったりしながら、毎日数十キロメートルから百数十キロメートル、ペダルを漕ぐ。

シーズン中は日曜日がレースのため、月曜日と火曜日は「休養日」。この月火で「アロマスポーツマッサージや鍼灸などで身体のメンテナンスを行なっています(西氏)」。週の半ばの水曜、木曜は「100キロメートルとか170キロメートルなど長い距離を走ります(田代氏)」。レースの近づいた金曜日は比較的軽めのトレーニング。土曜日は「移動日」。そして本番のレースに挑む。

千葉県在住の西氏は普段のトレーニングは「室内でローラーに乗るか、江戸川の土手を走るか。週に一回は筑波山に走りに行ったりもしています」。

田代氏が現役時代にいたヨーロッパでは「たいていはチームの拠点が遠いので選手はみんな地元で練習をします」。同じチームメイトでも全員が集合して顔合わせをするのは1月の合宿くらい。それ以外の時期は「家の近くに住んでいる他チームの選手が集まって一緒に走ります」。「ガチンコ勝負」で個人戦の色彩が強い女子のレースに比べ、チーム走がほとんどの男子の場合、このように普段から集団で練習するのが特徴。もちろん女子でもナショナルチームの合宿となれば集団での練習をすることになる。メンバーともなれば合宿に参加することになる。

プロ選手ともなれば、当然食事も気にかけなくてはならない。西氏が心がけているのは「いろいろな色(栄養素)のものをバランスよく食べること」。

「最近ハマっているのは玄米でつくった甘酒。これで腸内の環境をよくすると栄養吸収も良くなり筋肉も付き、免疫力も上がる。ビタミン系のサプリメントやアミノ酸もとっています」

現役時代の田代氏がよく食べていたのは「皮や脂のない鶏肉やニンジンにブロッコリー」。チームに所属している選手は食事も栄養士に管理されるため「すごいストレス。大好物のラーメンも食べられません」。パスタなどの炭水化物もオイルやソースではなく塩胡椒で味つけされていたという。

「食事で大切なのはレース後。ゴールして30分以内にたんぱく質と炭水化物、アミノ酸をとることで回復を早めるのが鉄則です」

プロ選手ともなれば、自転車やウェア、シューズなどもスポンサーやチームから支給される。ここで重要なのは「あまりこだわらないこと」だ。支給される物品は必ずしも自分とベストの相性とは限らない。もちろん自分に合うように調整はするが、あくまでも「仕事の道具」と考えた方がいいという。

どのレースに出るか。女子は自分で、男子はチームが決める

では、実際にレースに出るとしたとき、レース選びはどうしているのか。これは男子と女子とで大きく分かれる。

「女子は個人で出る人が多いので自分で決めます。私は6月の全日本選手権と10月のジャパンカップをコンディションのピークに持ってきているので、他のレースをその間に挟むといった感じです(西氏)」

対して男子はというと、選手に決定権はほとんどない。出場レースを決めるのはチームや監督。レース前には必ずミーティングが開かれる。出場するのは5人から9人。エース、サブエース、アシストと役割が決められ、本番ではそれぞれの仕事をする。選手には山岳の選手もいればスプリントが得意な選手もいる。アシストでも自分の仕事でしっかり結果を残す選手は「意外と需要があるので契約も長くつづいたりします(田代氏)」。

海外のレースともなると、つきものなのが長距離の移動だ。ヨーロッパではトップクラスの選手を除けば移動は「1500キロまでは車が基本」。西氏もナショナルチームでの遠征となると長時間、飛行機や車での移動を余儀なくされるという。これが実はこたえる。

「空港ではいつもぐったり。移動中はいかに疲れないか、それが重要ですね」

シーズンが終わると待っているのはスポンサーとの契約交渉。ここでものを言うのはむろんその年の実績だ。西氏も「38歳で全日本選手権で優勝したときからついてくれるスポンサーさんが増えました」という。

イベントでは他にもロードレーサーの裏話が盛りだくさん。最後の懇親会では、ワイングラスを片手に参加者にも二人との会話を楽しんでもらった。

講師紹介

西 加南子、田代 恭崇
西 加南子、田代 恭崇
 
西 加南子(にし かなこ)
静岡県掛川市出身。静岡県立掛川西高等学校卒業後、日本大学短期大学部入学。その後、二松学舎大学に編入。大学卒業後、本格的に自転車競技を開始し、初出場となる全日本自転車競技選手権大会では7位。
2009年全日本自転車競技選手権大会優勝。2010年ジャパンカップオープン女子優勝。 2011年ジャパンカップオープン女子優勝(2連覇)。2014年ジャパンカップオープン女子優勝。

西加南子さん 公式HP http://www.kanakonishi.com

田代 恭祟(たしろ やすたか)
1974年東京都出身。大学サイクリング部で自転車ロードレースを始め、卒業後プロに転身。10年間「チームブリヂストンアンカー」に所属、ヨーロッパプロレースや全日本選手権など多くの優勝を飾る。2004年アテネオリンピック代表。2007年現役を引退後、ブリヂストンサイクル株式会社に入社。2013年同社を退社し、2014年、サイクリングイベントやスクール、コーチを行なうリンケージサイクリングを設立し、現在に至る。

リンケージサイクリング 公式HP http://linkagecycling.com